2000年5月


「囚人同盟」 ☆
- The Getbacks of Mother Superior - Dennis Lehman
デニス・リーマン 光文社文庫

 「'99このミス」の第10位だったので読んだのだが…これは傑作。
 まずは著者自身のプロフィールが凄い。武装強盗3件他で刑期53年、現在服役中の作家である。
 ストーリも刑務所の中。ワシントン州のマクニール刑務所、3J5房にやってきた新入りマザーは、腕力も知力も抜群の謎の男。彼を中心に3J5房は秘密の計画をはじめる…。

 刑務所という最悪の環境の中にいても、いかに人間らしく生きるか事が大切か、それは刑務所の中に限らない、つまりは正しく生きるという事は何かを問い詰めている。ちょうど、「刑務所のリタ・ヘイワースの」(映画「ショーシャンクの空に」)みたいな印象を受けた。3J5房の人間が生まれ変わっていく様が楽しく、展開も痛快、ニューマニズムにあふれている。素晴らしい。


「ベトナムで見つけた」
杉浦さやか 詳伝社黄金文庫

 高円寺の「WC'WD」という雑貨屋の買い付けと休暇を兼ねたベトナム旅行の話。ハノイ、ホイアン、ニャチャン、ホーチミン、カントーを訪れる。当然、雑貨関係の話題は豊富で、ベトナムでの買い物ポイントも多く紹介されているので参考になる。ちょうど、オリエンタルな物を買いにベトナムへ行きたいと思っていたのでタイムリーな本だった。
 観光名所情報はほとんど無し、泊まる所は中級のホテル、食べ物に関してはあんまり詳しくないかも。視点は女の子っぽくて(当たり前だけど)、著者自身の絵がかわいい。


「フランス映画旅行」
池波正太郎 新潮文庫

 池波正太郎と言えば、本業の時代小説以外のエッセイでは、フランス映画と食べ物ばかり。これはフランスの地を訪れて、フランス映画について語る形式。特にジャン・ギャバンの話が多い。モンマルトルでギャバンの青春時代を思い、ギャバンが好きで彼の牧場もあるノルマンディを訪れる。古いフランス映画が多いのでは半分はあまりピンと来なかったけど、池波正太郎の美意識というのが判って面白い。


「アンドリューNDR114」
アイザック・アシモフ&ロバート・シルヴァーバーグ 創元SF文庫
- The Positronic Man - Isac Asimov & Robert Silverberg

 アシモフの中編「バンセンテニアル・マン」(「聖者の行進」に収録)の長篇版。
 マーティン家にやってきた家政ロボットNDR114、アンドリューは偶然から芸術の才能を持っていた。ロボットの中に偶然生まれた、この様な人間性はアシモフの中で繰り返されるテーマだけど、この物語ではロボットが人間として生きる事がストーリの中心となる。中編版では、次女リトル・ミスとの交流が心に残ってるのだけど、長編になって冗長になっただけという印象が強い。

「アンドリューNDR114」映画感想


「イスタンブール」☆
陳舜臣 文春文庫

 面白かった。トルコに旅行に行って、イスタンブールには13日間いたが、その間に読めばもっと面白かったと思うと残念。リアリティを持って読めたと思う。
 1600年の長い歴史の中で、ある時代の人に焦点を当てていると、イスタンブールの街に昔の息づかいを感じるようで、より臨場感を持って見る事が出来る。コンスタンティノープル陥落のメフメット二世(Fatif)や、トルコ共和国の父アタチュルクまで幅広い。
 ブルーモスク、トプカプ、ハレム、スレイマニエ・ジャーミーと観光ガイドにある所も、非常に詳しくその背景を説明している。特に、カーリエ博物館なんかは、イスタンブールでも外れの方なので、名所の割には日本のガイドブックに扱いが小さいが、詳しく出ていて参考になった。


「ハンニバル」上
トマス・ハリス 高見浩訳 新潮文庫
- Hannibal - Thomas Harris

 舞台は「羊たちの沈黙」より7年後、ハンニバル・レクターに復讐の罠をかけようと狙う富豪マイスン・ヴァージャー、その魔手はフィレンツェのレクターまで伸びてくる、その対決に巻き込まれていくクラリス。

 世間では賛否両論という噂だったけど…それは理解出来る。前評判があまりよくなかったから、思ったよりは面白かったので安心。スティーブン・キングは「レッド・ドラゴン」「羊たちの沈黙」を凌駕していると書いていたそうだけど、まあ、単純に判りやすいので前作の方が好き。
 そもそもトマス・ハリスが描く世界に、読者はついて行けないんじゃないだろうか。主役はスターリングでは無く、あくまでもハンニバル。ハンニバルの世界を描きたかったのだろうけど、読者はそこまで行けなかった。善悪を超越した存在と価値観までの壁は高すぎる。
 それでもハンニバルの美意識の描き方がいい。特にフィレンツェの重厚感ある描き方は素晴らしい。中世の時代を感じさせる街並み、石の冷たさや湿り気までも感じさせる様な臨場感ある文章に引き込まれた。
 飛行機の機内食のシーンなど、ちょっとした遊びも面白かった。(実際、このシーンは飛行機の中で読んでいたので(^^;))

映画「ハンニバル」感想
FBI's ten most wanted fugitives - レクターが入っていたFBIの指名手配ベスト10


「ハンニバル」下
トマス・ハリス 高見浩訳 新潮文庫
- Hannibal - Thomas Harris


「ナスレッディン・ホジャ」
アルパイ・カバジャル NET-BOOKS

 トルコの首都アンカラにも銅像があったが、ホジャはトルコで有名な人らしい。暴君ティムールの時代の思想家(?)の小話集。ガイドは「トルコの一休さん」と言っていたけど、この本を読むと、トンチというよりは、結構間抜けな部分も多い。


「ハゲハゲライフ」
文)相馬公平、絵)湯村輝彦

 ハゲ暦25年の著者による明るいハゲライフの絵本(?)。立ち読みでも5分で読める。


「李歐」
高村薫 講談社文庫

 1992年3月に刊行された「我が手に拳銃を」を下書きにした書き下ろし。
 バイト先のナイトクラブで美貌の殺し屋「李歐」に出会った吉田一彰、そこから変わる人生…というストーリなんだけど、どうもその出会いとか二人の関係とか、好きになれない。吉田一彰の過去と微妙に絡んでくるが、町工場のエピソードや、中国への希望と夢みたいな部分は好きなんだけど。
 同性愛的な感情の描き方が、なんとも薄っぺらくて面白くない。流れている15年の歳月に、重みがまるで感じられなかった。


「コンスタンティノープルの陥落」
塩野七生 新潮文庫

 1452年、東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルを攻撃するオスマン・トルコ皇帝マホメッド二世。キリスト教世界とイスラム世界との覇権争い、そして歴史の大きなターニングポイントとなった戦いをリアルに描く。

 これもトルコへの旅行に行く前に読めばよかったのだけど、帰ってきてから読んだ。イスタンブールの地を訪れる前に読んでいれば、より歴史を感じられたと思うと残念。
 臨場感がある書き方でなかなか面白い。ガラタ塔の裏を船が山越えし金角湾にオスマントルコ軍の船が浮かぶのが見えるような気がし、城壁を破る大砲の音が聞こえるようである。
 これを読んでからならば、イスタンブールの軍事博物館ももっと面白く見られたかと思うと残念。

 塩野七生はエッセイ「イタリアからの手紙」しか読んだ事が無くて、あんまり好きじゃなかったけど、戦記物はもうちょっと読んでみたいと思った。


「来て見てトルコ」
凱風社 小林けい

 一月のトルコの自由旅行の経験をまとめた本。トルコに行ってみて感じたけど、自由旅行では一ヶ月でも回るのがやっと。やはり、著者もハードだったと書いている。
 結構うまくまとまっているし、絵が多いので読みやすい。あんまり、たいへんな経験はしてないので、トホホな旅行記を期待してはいけないし、感動の物語でもない。文章は軽く、あんまり上手くない。


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