創造性と無秩序

人間の持つ創造性は直接的に何かの役に立つ場合とそうでない場合があります。役に立つというのは何らかの秩序の維持に貢献することなので、役に立つ創造とは予め存在する秩序を前提とした活動です。しかし、秩序を維持することよりも新たな秩序を生み出すことの方がより創造的です。芸術やスポーツから経済的な活動まで、どんな分野においても、ある形式の中での表現や課題の解決よりも、新たな形式や課題を発見することの方が創造的であると考えられます。

新たな秩序の発見というのは既存の秩序にとらわれない活動なので、既存の秩序から見れば無秩序な活動でもあります。既存の秩序に基かない活動を自発的行動と呼ぶとすれば、自発的行動は既存の秩序から見ると制御することのできない活動であり無秩序に見えることになります。その無秩序の中から新たな秩序を発見するのが創造の過程です。つまり、自発的行動における無秩序とは「まだ知られていない秩序」を含むのだと考えられます。

創造性には自発的行動に伴う無秩序が必要です。個人としての満足のためにはそれで十分ですが、ある人の創造性が社会的に価値のあるものとなるためには無秩序の中から新たな秩序を発見しなくてはなりません。しかし、最初から秩序を求めていたのでは自発性が失われてしまい創造に必要な無秩序が得られません。そこには逆説がありますが、「無秩序を含む自発的行動」と「表現のための秩序の追求」を分けて行うことが創造性につながると考えられます。

何かの秩序を意識して行動するのが意識的行動ですが、自発的行動は既存の秩序に基かないのだから意識的行動ではないことになります。自発的行動は無意識的行動であり、そこに含まれる「まだ知られていない秩序」は小脳のシミュレーションによって得られる無意識的情報のことだと思われます。無秩序に見える無意識的情報の中から新たな秩序を生み出すことは一種の技能を要するので、意識にとっては魔術的にも見えます。したがって、芸術やスポーツなどの分野で特に創造的な表現に成功した人は神格化されたりもします。それは現代における宗教性の現れとも言えるでしょう。