ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2004・報告
-ファンタ・グランプリはコミカルな韓国映画-

市民会館

  第15回ゆうばり国際映画祭は、映画祭の生みの親であり育ての親でもあった中田鉄治前夕張市長が亡くなって初めての催しであるとともに、一方では例年以上に笑いに満ちていた。ちゃめっ気を忘れなかった中田さんらしい雰囲気にあふれていた。小松沢陽一チーフプロデューサーは、上映前のトークでさまざまな人たちの応援と地元の温かいもてなしに触れ「中田さんは天国でニコニコしていると思う」と話していた。

 ヤング・ファンタスティック・コンペティション部門グランプリは、コミカルな韓国映画である「マッポ・ギャングスターズ・パラダイス」(キム・ジフン監督)が受賞した。永井豪審査委員長は「視点の面白さ、新しさを評価したい。ほぼ一致だった」と説明した。審査員特別賞はグレッグ・パク監督「ロボットストーリーズ」、南俊子賞にはスー・ジャオビン監督の「愛情霊薬B.T.S.」が選ばれた。
 ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門のグランプリは、真利子哲也監督「極東のマンション」。審査員特別賞は、木村卓史監督の「打つ娘サユリ」。審査委員長を務めた哀川翔は、サービス満点に講評し、最後には哀川賞として本間由人監督「ヤンキーエレジー」を選び「ゼブラーマン」のチケットを渡していた。観客が選ぶ「ゆうばりファンタランド大賞」は、人物部門賞が松坂慶子、イベント部門賞は長山洋子、哀川翔ファミリー、そしてワハハ本舗に贈られた。

 ことしの収穫は、「チルソクの夏」と「あゝ! 一軒家プロレス」。両作品は、全く性格が違うが、ともに映画の魅力にあふれていた。
 「チルソクの夏」「チルソクの夏」(佐々部清監督)は、日韓スポーツ交流をテーマにした青春映画。チルソクは韓国語で七夕の意味。印象的で美しいシーンがたくさんある。映像が、みずみずしさをたたえている。日本と韓国の重い歴史をはらみながらも、さわやかさが残る秀作だ。
 スポーツでむすびついている水谷妃里、上野樹里、桂亜沙美、三村恭代の4人が、とても初々しい。監督が歌謡曲ファンなので、1977年のヒット曲がたくさん登場する。4人が「横須賀ストーリー」「カルメン’77」「なごり雪」を合唱する場面が心に残る。特に「なごり雪」は、とても重要な役割を担っている。 実際に走り高跳びをやっていた水谷妃里の伸びやかな笑顔が、映画を輝かせている。

 「あゝ! 一軒家プロレス」(久保直樹監督)は、アダルトビデオ業界の最大手製作会社ソフト・オン・デマンド提供。原案・総合演出はテリー伊藤。企画・製作は高橋がなり。相当な問題作になるとは思っていたが、ここまでやってくれるとは思わなかった。お金をかけて、楽しませることに徹しきったとんでもないハイテンション映画だ。
 最初の新築披露パーティでレスラーたちのけんかが始まり、家がめちゃくちゃになる。何者かが仕掛けた爆弾によって、文字通りバラバラになる。最初にクライマックス級の見せ場を持ってくる大胆さ。しかし、この映画は、さらにすごいステージへと駆け上っていく。悪徳TVディレクターの佐野史郎の演技は度を超している。素晴らしい。ソニンのアクションシーンは、予想を上回る迫力。やるなあ。血みどろの乱闘の末、カラッと明るく終わるセンスも良い。

「地球で最後のふたり」 「地球で最後のふたり」は、とてもスタイリッシュな映画だ。タイ映画界の新生・ペンエーグ・ラッタナルアーン監督、個性的なカメラマン・クリストファー・ドイル、そして俳優・浅野忠信が結集した。新しいアジア映画といえるだろう。夕張国際映画祭にゲスト出演した浅野忠信は、激しく個性がぶつかったことを明らかにした。
 浅野忠信は、タイの日本文化センターで働く潔癖性で自殺願望を持つケンジ役。奔放なタイの女性との交流を描く。正反対の個性が引き合う不思議。こういう刺激的な作品にも、浅野忠信はピッタリはまっている。三池崇史監督が、やくざ役で出演。独特の雰囲気を漂わせる。

 「犬と歩けば チロリとタムラ」(篠崎誠監督)。「犬も歩けば」ではなく「犬と歩けば」である。病人や高齢者、障害者をいやすセラピー・ドッグをテーマにしている。登場する犬も人も、大半は実際のセラピー・ドッグ、セラピストが参加している。地味ながらリアリティーがある。
 機をてらったところがない編集、映像。このごろは、テンポの速い作品が多いが、この作品は青年の迷いや犬との関係の変化を、じっくりと描いていく。それが、後半の展開を自然なものにしている。やがて気持ちの良いさわやかな風がふき始める。そしてラストを、見事に決めた。

 「星砂の島、私の島」は、喜多一郎監督の初作品。原作と脚本も手掛けている。沖縄・竹富島の美しい自然とゆったりと流れる時間と、素朴な島民たちと接することで、生き甲斐を見い出していく主人公。全編に愛情があふれている。しょうもないギャグや星砂をイメージした安っぽいCGさえなければ、もっと良かった。
 映画初主演の大多月乃(おおた・つきの)は、その端正な容姿と現代的な解放さが、とても魅力的。高校時代に器械体操をやっていただけに、体操の先生役はバッチリ。そして、次第に自分の生きる道を見つけていく姿が、説得力を持って伝わってくる。もしかして代表作になるかもしれない。
 「モーニング娘。」の亀井絵里、道重さゆみ、田中れいなもも初出演。それぞれが、とても重要な役を演じている。その3人が映画祭にやって来たので、会場には長い列ができていた。それでも、満員になるほどではなかった。3人が登場し、「映画って、もっと簡単に撮っているものだと思っていました」と言ったり、ロケの感想を「カキ氷が美味しかった」と話したり、一緒に撮影現場にいたにもかかわらず主人公役の大多月乃に「本当に体操していたんですか」と質問したり。ぼけた会話も、なかなか楽しかった。

 「マッハ!」は、エムタイ100%のアクション映画。「CG処理なし」「ワイヤーなし」「スタントマンなし」「早回しなし」で、生身の人間が肉体だけを駆使している。撮影では、おそらくけが人続出だっただろうが、最高の娯楽作である。プラッチャヤー・ピンゲーオ監督は、ミュージック・ビデオ出身だけに、編集に切れがある。飽きさせない配慮も効いている。主人公役のトニー・ジャーは、この1作で映画史に名前が刻まれた。とにかく「すごい」「すごい」と驚いているうちに、映画が終わってしまった。タイ映画、恐るべし!

 「スパニッシュ・アパートメント」「スパニッシュ・アパートメント」は、「猫が行方不明」」「パリの確率」のセドリック・クラピッシュ監督最新作。パリからバルセロナに留学した25歳の大学生グザヴィエが、さまざまな国の出身者と一つアパートで暮らす中で成長していく姿を描いた青春映画。複数のアイデンティティの、つまりは多様性を楽しむ物語だ。グザヴィエの恋人役に「アメリ」のオドレイ・トトゥが出演している。
 オープニングタイトルからなかなかユニーク。映画のテーマとマッチしている。最初はせわしない映像が気になったものの、小気味良いリズムに乗せられた。私の敬愛するガウディのグエル公園やサグラダ・ファミリア大聖堂が登場する。そして初代iMACも。さまざまな個性が小さな衝突を繰り返しながら刺激しあい、共存する。気に触るイギリス人の弟が、じつはイイ奴だったりする。後半の鉢合わせエピソードも面白く、皆で手を叩いて笑い転げる楽しさを味わった。
 主人公は、EUの官僚の職をけって、ライターになる。自分の中のさまざまな個性に気づき「ヨーロッパのように混乱している」と楽し気に話す。画一化ではなく、「1000のヨーロッパ」を大切にしようという監督の熱いメッセージを感じた。

 ゆうばり国際映画祭のクロージング上映は、「ブラザー・ベア」(アーロン・ブレイズ、ボブ・ウォーカー監督)。ウォルト・ディズニー・ピクチャーズのアニメ作品。人間が自然の中で動物の精霊たちに守られて暮らしていた時代が舞台。兄弟愛、人間と動物の霊的な交流を描いている。
 テーマ自体は悪くはない。しかし紋切り型の展開、図式的な表現で、想像力を遊ばせる飛躍がない。オーロラが人間と動物の霊の集合体というアイデアも生かし切れていない。オーロラの美しさに頼りすぎている。肝心のキャラクターの魅力が乏しく、命が吹き込まれていない。無難なテーマで無難につくっただけ。楽しめない。

 「デリバリー・ヘルス」は、ヤング・ファンタスティック・コンペティション部門入選作。現代日本を浮かび上がらせる妄想系の作品。家永浩輔監督は、1990年の第1回ゆうばり国際映画祭オフシアター部門に出品した『GIG』で審査員特別賞を受賞している。トークでは、もの静かな印象を受けたが、頭の中には妄想、ギャグが詰まっていそうだった。この作品もアイデアを詰め込みすぎたきらいがある。
 ひねった下ネタが面白い。特に冒頭の下品きわまりない「飛び込み自殺」防止装置で、一気に独自の世界に引き込む。ニックスミスのタイトルビデオグラフィックがスタイリッシュで、冒頭シーンとミスマッチ。ここだけでなく、作品全体がぎくしゃくしている。これを、どう評価するかだろう。ラストは、もっと小気味よく終わってほしかった。

 ことしのゆうばり国際映画祭は、楽しい内容だったが、2つ残念な点があった。映画を愛する一般の観客と映画関係者が一堂に会して立食する「さよならパーティ」がなかったことと、表彰式が機能的すぎたことだ。「さよならパーティ」の温かく和やかな雰囲気は、夕張映画祭の貴重な財産だと思う。感激した監督や俳優の数々の思い出に残るスピーチを聞くことができた。それは、けっして社交辞令ではなかった。
 例年午後9時前後に終わっていた表彰式・閉会式が、ことしは午後5時45分に終わった。開始が2時間早くなったものの、1時間30分から2時間の式が45分で終了した。これまでは、国際映画祭ということで、通訳に時間がかかった。しかし、苦痛ではなかった。国際映画祭らしかった。今回は、スピーチ内容が大画面に英語と日本語で同時通訳で表示されるシステムが登場。通訳の時間はゼロになった。確かに便利だ。しかし遠くの人は読めない。受賞者のスピーチくらいは、通訳で聞きたかったと思う。


映画祭スナップ写真


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Visitorssince2004.02.25