ゆうばり国際ファンタスティック
映画祭2001・報告

 21世紀初めてのゆうばり国際ファンタスティック映画祭が、2月15-19日にひらかれた。ことしは、釜山フィルムコミッションのメンバーを招いてのシンポジウムを開催。映画撮影をスムーズに運ぶために行政が全面的に協力した経験を紹介するとともに「周りの市民の協力がなければ撮影はうまく行かない」と、市民の意識が最も大切だと報告された。ホウ・シャオシェン監督が映画祭を舞台にロケしたことも大きなニュースだった。なぜ夕張で撮影するのかと聞かれた監督は「世界中の映画祭に参加したが、夕張映画祭は他の映画祭と全く違う。心を静めてくれる。そして夢を観続ける力を与えてくれる」と答えたという。多くの国際映画祭がビジネス主導に傾く中で、夕張は映画を愛する人達の交流の場であり続けている。参加した監督たちも同じような発言をしていた。そして、ことしもさまざまな友情の輪が広がった。


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千葉真一田口浩正藤村志保

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2月16日の報告-完成度高い「ポエトリー,セックス」-

「BLACKBOARDS」の画像です「ブラックボード - 背負う人 -」(2000年/クルド語/85分)は、昨年のカンヌ国際映画祭にカンヌ史上最年少(20歳)の監督作品としてコンペティション部門に出品、審査員特別賞を受賞。1998年の「りんご」で注目されたサミラ・マフマルバフ(SAMIRA・MAKNMALBAF)監督の長編第2作。イランを代表する監督モフセン・マフマルバフの長女。この作品は、イラン=イラク戦争末期、子供たちに勉強を教えるために、黒板を背負って国境を越える教師の姿を描く。流れ者としての教育者。それがイランの現実なのだ。監督が、棄民化した老人や危険な運び屋として生きざるをえない子供達を見つめる視線は、地をはうように低い。鋭く、しかも優しいまなざしには、老成すら感じる。

 「夢の旅路(ANIMALS)」(マイケル・ディ・ジャコモ監督)は、作家性を全面に押し出した、リアリティすれすれのほとんど妄想に近いラブ・ファンタジー。「VERSUS」の画像ですティム・ロスが、見方によってはかなり青臭い作品で主演しているのがうれしい。制作は監督とのコラボレーションだったそう。同じ大人の寓話「海の上のピアニスト」(ジュゼッペ・トルナトーレ監督)と、完成度は比べようもないが、別の屈折した個性は感じる。特にシーツをつかったラブシーンは、女性の影の変化が抜群に美しくて心ときめいた。

 「VERSUS」(北村龍平監督)は、2時間全てがクライマックスと言えるほどのハイテンション・ムービー。コミック・アクション・ホラーの常で内容はないが、力は充満している。「ポエトリー,セックス」の画像です4,000カットというのも尋常ではない。アクションは多彩を極め、荒削りながら、この分野の古典となる可能性を持つ怪作。きれいにまとまったラストを打ちこわして、さらに高い水準に引き上げる徹底ぶりに、立ち上がって拍手を送った。

 「ポエトリー,セックス」は、「女と女と井戸の中」のサマンサ・ラング監督の新作。ヤング・ファンタスティック・クランプリ部門エントリー作品としては、完成されすぎていると思われるほど、堂々とした監督の個性が全編を貫いている。賞獲得では、若さという点では不利かもしれない。レズビアン関係とサスペンスを巧みに絡ませながら、人間の欲望と孤独に迫る監督の姿勢は前作と変わらないが、洗練度は格段に上がった。ケリー・マクギリスをこういう形でよみがえらせた点も高く評価できる。


2月18日の報告-熟達の技が光る魅力的な「マレーナ」-

 「マレーナ」の画像です招待作品、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「マレーナ」は、熟達の技が光る実に魅力的な作品。ことしのベスト5になりそう。年上の美貌の未亡人への、13歳の少年の恋と、ファシズム支配の下で戦争になだれこんでいくイタリアの世相をていねいに重ね合わせ見ごたえのある仕上がり。民衆の残酷さと寛容さの両面をきっちりと描いている。名画へのオマージュに満ちた少年の妄想シーンも嬉しい。

 「ドーベルマン」(ヤン・クーネン監督)が記憶に新しいモニカ・ベルッチは、羨望の未亡人が娼婦になり、戦後リンチを受けて髪を切られ血みどろになる役を演じた。美しいだけでは終わらない、骨のある姿勢は健在だ。苛酷な物語ではあるが、なつかしい気持ちに変えて終わらせるトルナトーレ流が心地よい。

 「サイアム・サンセット」 (ジョン・ポールソン監督)は、結構深刻なテーマをコミカルに描いた佳作。おんぼろバスによるトラブル続きのツアーが笑いを誘う。次々と不幸に襲われる主人公・ペリーを、ライナス・ローチが軽妙に演じている。色をつくり出す仕事というユニークな設定が、とても良く生かされている。サイアム・サンセットは、タイの夕陽の色の意味。ここでは平和を象徴している。

 「ニュー・イヤーズ・ディ 約束の日」の画像です「ニュー・イヤーズ・ディ 約束の日」は、ロンドン在住のインド人監督スリ・クリシュナーマ (Suri Krishnamma)による長編第2作。スキー旅行で雪崩事故に遭い、多くの友人が死に二人だけ生き残ったジェイクとスティーブン。彼等は死んだ友人たちが最後のビデオの中に残した、それぞれの夢を実行してから死のうと約束する。思春期の青年の痛苦な心の揺れを描いた力強い作品だ。とにかく勢いがある。

  クロージング作品は「102」(ケビン・リマ監督/102分)。「101」の続編。超マイナーな自主製作作品から、こういった話題作まで上映してしまうのがゆうばり映画祭の特質といえるだろう。毛皮愛好者への批判はあるものの、基調はいたってラブリィ。他愛のないストーリーを無邪気に楽しむのも、映画鑑賞の一つの姿勢だ。グレン・クローズとジェラール・ドパルデューという名俳優が、ドタバタ喜劇を演じている。

  ヤング・ファンタスティック・クランプリには、スリ・クリシュナーマ監督の「ニュー・イヤーズ・デイ」が選ばれた。若々しさに溢れ、この賞にふさわしい内容だ。審査員特別賞は「夢の旅路/ANIMALS」(マイケル・ディ・ジャコモ監督)。南俊子賞は「サイアムサンセット」 (ジョン・ポールソン監督)。話題になった「VERSUS」(北村龍平監督)には、千葉真一賞が贈られた。

  ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門グランプリは「東京ハレンチ天国 さよならのブルース」(本田隆一監督)。審査員特別賞は「L'llya〜イリヤ〜」(佐藤智也 監督)。劇場未公開のファンタスティック・ビデオ・フェスティバル部門グランプリは「ダディ&ミー」が受賞した。


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Visitorssince2001.02.18