Kind Hearts and Coronets ★★★

1949 UK
監督:ロバート・ハマー
出演:デニス・プライス、アレック・ギネス、ジョーン・グリーンウッド、バレリー・ホブソン

左:アレック・ギネス、右:デニス・プライス

40年代、50年代にその名を轟かせたイギリスはイーリング・スタジオの代表作の1つ「マダムと泥棒」(1955)のリメイク「レディ・キラーズ」を昨日見たこともあり、今回はイーリング・スタジオが製作したイーリング・コメディの代表作と見なされている2作を取り上げました。もう1本は「The Lavender Hill Mob」(1953)です。イーリング・コメディについては「The Man in the White Suit」(1951)のレビューで若干触れましたが、ここでもう少し詳しく述べましょう。30年代始めに最初にイーリング・スタジオが創設された当時は、2つのサウンドステージのみから構成される小さな小さなスタジオであり、作品一本一本毎にそれが独立プロダクションにリースされる形態を取っていたそうです。それが、イーリング・スタジオという独自のプロダクション会社として運営されるようになったのは、マイケル・バルコンという人が責任者になった30年代後半になってからのことです。イーリング・スタジオ産のコメディすなわちイーリング・コメディが全盛期を迎えるのは、40年代の終盤から50年代の中盤にかけてであり、時に自己蔑視的で、時に不遜な側面が突出する典型的にイギリス的なブラックユーモアによって当時世界的な名声を馳せていました。脚本家としてはウイリアム・ローズ、T.E.B.クラークなどが、監督としてはアレクサンダー・マッケンドリック、ロバート・ハマー、チャールズ・クライトン、ヘンリー・コーネリアスなどがイーリング・コメディの名と共に知られており、また代表的なスターとして「Kind Heart and Coronets」にも出演しているアレック・ギネスの名前が挙げられます。イーリング・スタジオの代表作としては、アレクサンダー・マッケンドリックの「Whisky Galore」(1949)、「The Man in the White Suit」(1951)、「マダムと泥棒」(1955)、ロバート・ハマーの「Kind Heart and Coronets」(1949)、チャールズ・クライトンの「The Lavender Hill Mob」(1953)、「The Titfield Tunderbolt」(1953)、ヘンリー・コーネリアスの「Passport to Pimlico」(1949)が挙げられます。個人的に現在のところ、最後の2本以外は、ビデオ又はDVDを所有していますが、いずれも簡素且つ独特のブラックユーモアに満ちた作品であると評せます。イーリング・スタジオについてはこのくらいにして、イギリスの名優アレック・ギネスの名を高からしめた「Kind Heart and Coronets」について次に述べましょう。「博士の異常な愛情」(1964)でのピーター・セラーズは一人三役、「ラオ博士の7つの顔」(1964)でのトニー・ランダールは一人七役を演じていますが、「Kind Heart and Coronets」でアレック・ギネスは、なななななんと!一人八役を演じ、八役の中には女性まで含まれています。なんでも彼は本国イギリスでは8つの顔を持つ男などと称されていたそうですが、まさにその言は、イーリング・コメディとは対極の位置にある「スターウォーズ」シリーズのような作品にすら出演している彼の芸域の広さを物語っています。しかも、「Kind Heart and Coronets」では、アレック・ギネスが扮する8人の人物は全て、主演のデニス・プライスが演ずる主人公に殺されてしまいます。もう少し詳しく説明すると、主人公が侯爵の称号を継承するには、彼よりも上位の継承権を持つ8人の候補者を亡き者にしなければなりませんが、かくして亡き者にされる8人の候補者全てをアレック・ギネス一人が演じているのです。面白いのは、そのようなゴシックホラー的な題材がコメディで味付けされているところで、そもそも殺される8人全てを同一人物が演じている事実そのものがコメディ的です。或る批評家が、「この映画は無情(heartless)である。そしてその無情さがこの映画の優雅さ(elegance)の秘密である」と述べていますが、このコメントは的確に作品の本質を捉えています。要するに、まさにイギリスのブラックコメディここにありと手放しで賞賛できる作品であり、モンティ・パイソンや、日本で良く知られている映画でいえば、たとえば「ワンダとダイヤと優しい奴ら」(1988)などのイギリス映画に見られるブラックジョークの原点をここに見出せます。オチも洒落ていてイーリング・コメディの代表作の1つと称するに相応しい作品であるとはいえ、このタイプの映画が現代の日本で受けるかどうかはまた別の問題かもしれません。チャーミングなジョーン・グリーンウッドが、珍しく我侭で狡猾な人物を演じていますが、やはり彼女の独特な声は一級品であることを最後に付け加えておきましょう。


2004/05/23 by 雷小僧
(2008/12/20 revised by Hiroshi Iruma)
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