ワンダとダイヤと優しい奴ら ★★☆
(A Fish Called Wanda)

1988 UK
監督:チャールズ・クライトン
出演:ジョン・クリース、ケビン・クライン、ジェイミー・リー・カーティス、マイケル・パリン


<一口プロット解説>
オットー(ケビン・クライン)ら4人は、まんまと銀行強盗に成功するが、やがて奪った現金を巡って仲間割れが始まる。
<雷小僧のコメント>
この映画は、英国のモンティ・パイソンのコメディが元になっているそうですが、私目はモンティ・パイソンの何たるかを知らないのでその関連のことはよく分かりません。けれども、一度この映画を見たら他のドタバタコメディとはちょっと違うなということがよく分かります。たとえば、ケビン・クラインが盗んだ金を隠した金庫のかぎのありかをどもりのマイケル・パリンから吐かせる為に、パリンが飼っている金魚のワンダを尻尾だけ外に出したまま口の中に入れて食べようとするシーン(実際食べてしまう)や、銀行強盗の後で老婆に逃走するところを見られた為、パリンがこの老婆を殺そうとするのですが、いつも失敗して代わりに老婆が飼っているチャウチャウか何かの犬が一匹ずつぺちゃんこになっていくというような、考えようによっては随分残虐なジョークがあちらこちらに散りばめられています。これには、どうもアメリカ的なスラップスティックドタバタとはまた違った妙な味がありますね。しかし、どうやらイギリス人というのは、この手のブラックジョークが好きなようで、時々こういうイギリス人にしか分からないような妙なジョークが乱れ飛ぶ映画があります。一言で言うと、かなり冷めた目で見るということを前提にしていないと、かなり残虐であったり、途轍もなくくだらなく見えるようなジョークを平気で彼らは飛ばすようです。たとえば我々日本人でも、あまりにも下らないギャグであるということが自分でも分かっていて、しかも自分がそれが下らないということを知っているということを相手も知っているということを前提として、わざと下らないギャグを飛ばしてギャグそのものの面白さではなくそういうメタレベルでのギャップを利用して笑いを取ろうとすることがあるように思いますが、そういう一筋縄ではいかないようなジョークなのですね。まあ、この辺りがイギリス人がかなり屈折していると言われる所以かもしれません。
それから、それとは対照的なケビン・クラインの非常にストレートなお馬鹿ぶりがあります。けれども、この映画で一番可笑しいのは、わけのわからない目茶苦茶なオットーを演じてアカデミー助演男優賞をかっさらったケビン・クライン(ああいう役でかつてオスカーを取った人はいるのでしょうか?)よりもやはりジョン・クリースでしょう。どうも、英国人というのは大仰だということが相場になっているようで、クリースもその大仰さで笑いを取っているわけですが、そもそもアーチー・リーチという役名そのものがケーリー・グラントの本名からきているようです。ケーリー・グラントは、アメリカ映画にも多く出演していますが英国人であり、他のところでレビューした映画「芝生は緑」(1960)では彼自身も大仰な英国人を演じています。それにしても、クラインに窓から逆さに吊られても未だ大仰なしゃべり方をしていたり、法廷で思わずワンダ(この場合はジェイミー・リー・カーチス)と叫んでしまい、奥さんの視線を感じるや否やI wonder、I wonderと言ってごまかそうとするシーンはなかなか傑作です(日本語ではどう置き換えられていたのでしょうか?)。
いずれにしても、ストレートお馬鹿のオットーを演じるアメリカ的なケビン・クライン(勿論実際アメリカ人です)と、大仰さを逆に笑いにしようとするジョン・クリーズと更に最初に述べたような乾いた残虐性を持つブラック・ジョークが三つ巴になってちょっと他にはないような奇妙なコメディに仕上がっているのではないでしょうか。でも、犬好きは見ない方がいいかもしれませんね。

1999/04/10 by 雷小僧
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