地球の頂上の島 ★☆☆
(The Island at the Top of the World)

1974 US
監督:ロバート・スティーブンスン
出演:デビッド・ハートマン、ドナルド・シンデン、ジャック・マラン、アグネタ・エクミア

左:デビッド・ハートマン、中:ジャック・マラン、右:ドナルド・シンデン

実を言えば、小生が生まれて初めて劇場で見た映画であることもあり(「ジャガーノート」(1974)と二本立でした)、個人的には特別な意味のある作品です。「地球の頂上の島」は、ディズニーが製作したファンタジー冒険映画であり、監督がロバート・スティーブンスンであるところからも、どのような作品であるか、おおよその見当がつくのではないでしょうか。冒険映画であるにも関わらず、最後まで探検隊一行の誰一人として死んだりしないと言えば、だいたいの内容が予測できるはずです。思わせぶりはそれくらいにして実際のところを述べると、「地球の頂上の島」は、ジュール・ヴェルヌが原作ではありませんが、極めてジュール・ヴェルヌエスクな色彩の濃い冒険物語であり、たとえば「地底探検」(1959)のようなジュール・ヴェルヌが原作である作品と非常に似た雰囲気を持っています。ファンタジー映画といえば、80年代以後ほとんどこれといった作品が公開されなくなりますが、21世紀に入ると「ハリー・ポッター」シリーズや「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズにより大々的な復活を遂げます。しかしながら、「地球の頂上の島」や「地底探検」などのファンタジー映画が、21世紀の大作ファンタジー映画と異なるのは、前者がジュール・ヴェルヌエスクな空想科学ファンタジーであるのに対し、後者は空想ファンタジーではあっても科学ファンタジーではないという点にあります。従って、いかに突飛なシチュエーションが生じたとしても、前者では原因の説明や、或いはそのような状況を脱出する手段が、魔術や魔法に帰されることは決してないのに対し、後者では因果関係の説明や困難な状況から脱出する手段のかなり多くが魔術や魔法に帰されます。かくして、ジュール・ヴェルヌ冒険小説の大きな特徴の1つはまさに科学が擬態されている点にあり、彼の描くストーリーには突拍子のないものが多いとはいえ、実は因果関係に関しては必ず科学的な説明が与えられています。たとえば、「月世界旅行」という冒険ファンタジー小説では、3人の科学者が砲弾の形状をした乗り物に乗って月世界探検をするという突拍子もないストーリーが繰り広げられますが、道中発生するありとあらゆる事件や事象に対して、いちいち細かい科学的説明が加えられています。ジュール・ヴェルヌの冒険小説の面白さの1つは、シチュエーションの突拍子のなさに比べ、ストーリーの細部に至るまで常に科学的なパースペクティブが貫かれている点にあり、その間のギャップの大きさが1つの大きな魅力なのです。ジュール・ヴェルヌの映画化ではないとはいえ、「地球の頂上の島」にも同様な傾向があり、飛行船に乗って北極探検をするという相当に突拍子のないシチュエーションが描かれているにもかかわらず、たとえば主人公達が北極圏で遭遇する楽園は、火山熱によって北極の氷が融解され緑が生い茂った地にバイキングの末裔達が住みついて発展したというような説明が与えられているなど、決して舞台が魔法の世界として描かれているのではありません。また、確かに飛行船による極地探検が現実世界でも皆無でないことは「赤いテント」(1971)のような作品を見ていても分かりますが、ジュール・ヴェルヌエスクな作品の1つの特徴として、科学者や貴族のような凡そ冒険とは縁のない連中が、これから危険な冒険にチャレンジするようにはとても思えない出で立ちで冒険するという1つのパターンが存在することが挙げられ、「地球の頂上の島」でもこのパターンがしっかりと踏襲されています。小生は意地が悪いので、安手の魔法ファンタジーもの映画で、「機械仕掛けの神」のごとく魔術や魔法によって因果関係が説明され、主人公達の苦難が解決されると、作者が楽をしようとしているのではないかと疑いたくなります。但し、「ハリー・ポッター」シリーズや「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで感心する点の1つは、キャラクターの成長に焦点が置かれていることもあってか、魔法の世界が描かれているとはいえども主人公が遭遇した困難な状況の解決は何でも魔法に頼るということがなく、魔法世界が描かれているにも関わらず、敢えて魔法で全てを解決しないことによりキャラクターの成長を描く仕方において、魔法世界という背景が巧みに逆利用されているところにあります。少し話が本筋から逸れましたが、いずれにしてもジュール・ヴェルヌエスクな作品には、ジュール・ヴェルヌエスクな作品の特徴があり、ジュール・ヴェルヌが原作ではないといえ、そのような特徴が見事に活かされているのが「地球の頂上の島」なのです。但し残念なのは、出演俳優がマイナー過ぎることです。船長役を演じているフランスの俳優ジャック・マランのみはどこかで見たと思う人も多いはずですが、彼は「シャレード」(1963)、「大列車作戦」(1964)、「おしゃれ泥棒」(1966)などのメジャーなアメリカ映画に性格俳優として脇役で出演し異彩を放っており、実は小生が最初に劇場で「地球の頂上の島」を見た時、登場人物の中で最も印象に残ったのがこのジャック・マラン演ずる船長でした。いずれにせよ、出演俳優がマイナー過ぎると、90分という短い上映時間の中では、一度見ただけではキャラクターに感情移入することがはなはだ難しく、殊に当作品のようなファンタジー映画にあっては、どうしてもその点が減点対象にならざるを得ません。最初に当作品を見た時に、脇役であるはずの船長に最も大きな印象を受けたのも、演じているジャック・マランが、出演者の中で最も馴染みのある俳優さんであったことと無関係ではないはずです。


2004/10/03 by 雷小僧
(2008/11/25 revised by Hiroshi Iruma)
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