赤いテント ★★★
(The Red Tent)

1971 IT
監督:ミハイル・K・カラトーゾフ
出演:ピーター・フィンチ、ショーン・コネリー、クラウディア・カルディナーレ



<一口プロット解説>
イタリアのヌービル将軍率いる極致探検飛行船が極寒の北氷洋で遭難した1928年の事件に基いた実話。
<入間洋のコメント>
 小生は、1950年代から1970年代の映画や女優を扱うホームページを5年以上立ち上げているが、最もメイルによる便りが多かった映画は何かというと、意外に思われるかもしれないがこの「赤いテント」である。以前は英語サイトの更新もしっかりと行っていたので、様々な国籍のビジター達がこの映画に関する感想や質問を送ってきたものだが、その事実からも世界中にこの映画のファンがいることが推察される。「赤いテント」は、イタリアのノビレ将軍率いる飛行船イタリア号による1928年の極地探検遭難事故を描いた実話に基づく作品であるが、この事件は有名な極地探検家アムンゼンが生存者捜索中に二次遭難したことによってもまた知られる。ノビレ将軍はイギリスの名優ピーター・フィンチが、アムンゼンはミスター・ジェームズ・ボンドのショーン・コネリーが演じているが、クラウディア・カルディナーレ、ハーディ・クリューガー、マッシモ・ジロッティ等英独伊露の国際スターが出演し、イタリア及びソビエトの資本で制作され、監督はロシア人というようにハリウッド映画とは全く異なるヨーロッパオールスター映画とでも言うべき異色の作品である。後述するようにキャスト、スタッフの国際性は、極地探検が盛んであった頃の南極という土地の国際性ともよくマッチしており、この作品がもしハリウッドの手によりハリウッドスターのみで製作されていたならば、ハリウッド色に染まった単なるアクション映画或いはパニック映画に終わっていたかもしれないことを考慮すると、題材とプロダクションの見事なまでの調和が、この作品に大きなプラス要素をもたらしていると考えられる。

 ところで、この作品には2バージョンすなわちインターナショナル版とロシア語版が存在する。殊にこの作品の印象的な音楽に関して言えば、前者ではイタリアのエンニオ・モリコーネが担当し、後者ではロシアの作曲家が担当しているという違いがある。何故わざわざそのような細かいことを述べるかと言うと、この作品の特に音楽に関する質問をメイルで何度も貰ったことがあるからであり、少なからず混乱があるように思われるからである。実を言えば個人的にはロシア語版に関しては全く見たことがない為これらの質問に対して適切に回答する資格はないが、双方見た人の話ではどちらの音楽も素晴らしいそうである。エンニオ・モリコーネの音楽は非常に単純なものであるが極めて効果的であり、あるアメリカの1ファンからのメイルには、この映画には「haunting」なクオリティがあると書かれていたが、人の心に取り憑いて離れないこの映画の独特な雰囲気の一端は彼の音楽に由来すると言っても過言ではなかろう。しかし勿論、この作品は音楽が全てであるわけではない。全く月並みな言い方になるが、極地の風景が実に見事にカメラに収められており、冒頭の飛行船からの眺望は殊に素晴らしい。残念ながら個人的には劇場でこの作品を見たことはないが、これらのシーンを見ていると、この映画は一度で構わないので劇場で是非見てみたいものである。会話を重視する聴覚派の小生は、映画はすべからく劇場で見るべきだとは思っていないが、この作品に限って言えば絶対に劇場の大スクリーンで見るべきだろう。

 加えて、この映画の国際性には是非注目したい。制作スタッフや俳優に関する国際性に関しては既に触れたが、この映画で描かれている出来事自体が極めて国際的である。インターネットが普及した現在では、国際性など大した話ではないかもしれないが、1928年当時、世界中の国々から極地に人々が集まり、どの国の誰が一番先に極点に達するかというしのぎの削りあいをしていたわけである。この意味では極地とは言ってみればフロンティアであったことになる。アメリカ開拓史を思い出してみれば分かるように、フロンティアには種々雑多な出自或いは国籍を持つ人々が自然と集まってくる。また、ひとたび遭難事故が発生すれば各国の探検家達が単独或いは共同で救助活動を行うというように、様々な国籍の人々が互いにライバルでありながらも一種の特殊な共同体を形成していたことをこの映画からもまざまざと読み取ることが出来る。すなわち、当時の極地には「ハタリ!」(1962)でも述べたような多国籍メンバーによる一種独特なコミュニティが極地地域で成立していたことが良く分かる。確かにこの作品は事実に基づいているとはいえドキュメンタリーではないので、その辺りの描写には誇張があるかもしれないが、少なくともイタリア人で構成される消息不明になった極地探検隊の捜索にノルウェー人のアムンゼンが参加し自ら遭難したことは歴史的な事実である。遭難/サバイバルがテーマになっている点において同類項の映画である「飛べ!フェニックス」(1965)等に比べると確かにドラマとしてはややもの足りなさはあるが、作品内容の国際性が、製作スタッフとキャストの国際性によって見事に補完され、エンターテインメント性が極めて高い作品であることには間違いがなく、世界中に多くのファンがいることにも納得が出来る。

※当レビューは、「ITエンジニアの目で見た映画文化史」として一旦書籍化された内容により再更新した為、他の多くのレビューとは異なり「だ、である」調で書かれています。

2000/06/05 by 雷小僧
(2008/10/17 revised by Hiroshi Iruma)
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