おしゃれ泥棒 ★★★
(How to Steal a Million)

1966 US
監督:ウイリアム・ワイラー
出演:オードリー・ヘップバーン、ピーター・オトウール、ヒュー・グリフィス、イーライ・ウォラック
左:ピーター・オトウール、右:オードリー・ヘップバーン

今回は、60年代の美術品泥棒を扱った作品を2本取り上げました。もう1本は「泥棒貴族」(1966)です。美術品泥棒を題材とした60年代の映画といえば何と言っても「トプカピ」(1964)が挙げられますが、この作品についてはレビュー済みなのでそちらを御覧下さい。さて「おしゃれ泥棒」ですが、実は個人的にはごく最近まで「おしゃれ泥棒」に注目したことは一度もありませんでした。というよりも、むしろ見るのが疲れる作品であるとすら思っていました。ところが、現在では非常に気に入っています。それでは、いつ頃からこの作品が気に入るようになったかというと、去年(2003)の暮れにDVDバージョンが発売され、それを見てからです。因みに、「おしゃれ泥棒」のDVDバージョンは海外よりも先に国内で発売されましたが、このことは日本におけるオードリー・ヘップバーンの人気を如実に物語っているように思われます。ではなぜ、DVDバージョンを見ていきなり評価が変わったかというと、そのコンテンツのゴージャスさに驚嘆したからであり、それによってワイラーが何を意図していたかが僅かながらも理解できたからです。つまり、「おしゃれ泥棒」は泥棒映画というよりは、ゴージャスなゴージャスなロマンティックコメディであることに遅まきながら気付いたのです。え!「今頃そんなことに気が付ついたか」などと笑わないで下さい。DVDバージョンを買うまでは、ワイドスクリーン画像(上掲画像参照)の両端がものの見事に切り取られたTV放映や擦り切れたVHSテープでしか見たことがなかったので、貴族的な雰囲気漂う「おしゃれ泥棒」のエッセンスに全く気が付かなかったのです。ということで、この2か月間のみで、既に5回も見てしまいました。かくのごとく、DVDバージョンで見ることによって印象が最近大きく変った作品がいくつかありますが、「おしゃれ泥棒」はまさにその典型例です。これ程ゴージャスなロマンティック・コメディはそうざらにあるものではなく、考えてみればワイラー程の御仁がありきたりの平板なロマコメなど製作するわけがないことに改めて気付かされました。他のレビューでも述べているように、60年代のロマコメは衣装やインテリアなどのゴージャスな色彩がウリである作品が多かったとはいえ、ゴージャスさにおいてもストーリー展開においても「おしゃれ泥棒」はそれら全ての作品を圧倒的に凌駕しています。60年代ロマコメの理想形態ここにありと云えば、言い過ぎでしょうか。ところで、泥棒映画というよりはロマコメであるとはいえども、「おしゃれ泥棒」のクライマックスはやはり泥棒シーケンスに置かれています。しかしながら、泥棒シーケンスに強烈な緊張感を与え、そこに強調点が置かれていた「トプカピ」とは異なり、「おしゃれ泥棒」では、泥棒シーケンスにすら緊張感以上に遊び心がふんだんに盛り込まれ、貴族的ともいえる優雅さが常に維持されています。そもそも、泥棒の依頼主が盗みの対象となる美術品の持ち主であるという設定から、「トプカピ」のようなサスペンス溢れる泥棒シーンは有り得ないことが容易に予想されます。要するに、「おしゃれ泥棒」は全てが貴族的なファッション感覚に満ちていて、そもそも第一に美術品強盗とは、少なくとも映画というフィクションの中においては、銀行強盗とはわけが違うのです。銀行強盗にはカネに対するむき出しの欲望しか見出されないのに対し(但し、そのような図式を見事に逆転させた「華麗なる賭け」(1968)のような素晴らしき例外はあります)、美術品強盗には必ずどこかに貴族的な審美価値の賞賛というコノテーションが含まれているのです。それだけに、「おしゃれ泥棒」には、美術品泥棒にソフィスティケートされた審美価値を見出し、それによってロマンティック・コメディを盛り上げようとする意図が存在することがよく理解できるのです。その意味では、カネに対する欲望丸出しの原題「How to Steal a Million」より、邦題の「おしゃれ泥棒」の方が遥かにこの作品の本質をついているのです。原題よりも邦題の方が適切である稀有な例がここにあります。愚かにもDVDバージョンを買う迄は、そのような点に全く気が付かなかったのです。さすがは、ウイリアム・ワイラーというところでしょう。1つだけ細かいことを指摘すると、イーライ・ウォラックの美術品愛好家とはどうにも信じ難いところがあり、メキシコの盗賊の方が、彼には遥かに似合っています。


2004/01/31 by 雷小僧
(2008/10/31 revised by Hiroshi Iruma)
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