シャレード ★★★
(Charade)

1963 US
監督:スタンリー・ドーネン
出演:ケーリー・グラント、オードリー・ヘップバーン、ウォルター・マッソー、ジェームズ・コバーン

左:ケーリー・グラント、右:オードリー・ヘプバーン

スーパースターのケーリー・グラントと、モンロー亡きあとの人気ナンバーワン女優オードリー・ヘップバーンが共演するとどのような作品になるかという問いに対する回答がこの作品です。ウイリアム・ワイラーの「ローマの休日」(1953)は、もともとケーリー・グラントが出演する予定であったそうなので、実現していれば早々と回答が出されていたはずですが、ご存知のようにケーリー・グラントは内容があまりにもケーリー・グラント的であることを理由に「ローマの休日」への出演を辞退し、ピンチヒッターとしてグレゴリー・ペックが出演することになった為、回答は10年持ち越された次第です。しかしながら、ケーリー・グラント最晩年の出演作の中で最も人口に膾炙した「シャレード」でも、ケーリー・グラントはやはりケーリー・グラントでした。オーディエンスがケーリー・グラントという役者に求めているのは、まさにケーリー・グラントであってそれ以外の何ものでもない、ましてや新奇なキャラクターなどでは決してないことに、彼自身も気が付いたのでしょう。殊に50年代以後の彼は、いわば偉大なるマンネリ俳優であったと見なしても大きな間違いはないはずです。その点、「シャレード」の監督スタンリー・ドーネンは、ケーリー・グラントのケーリー・グラント性を引き出すにはうってつけの監督でした。というのも、彼の監督作は、良い意味において常に鋭角的なところがなく、ケーリー・グラントのキャラクターにピタリとマッチするからです。数年後に監督した「アラベスク」(1966)同様、「シャレード」は、題材はミステリースリラーであるにも関わらず、あらゆる「角」が削ぎ落とされており、緊張感よりも都会的な洒落たセンスでストーリーが繰り広げられます。確かに、たとえば冒頭汽車から死体が転げ落ちたり、ジョージ・ケネディがバスタブで溺死させられたり、ジェームズ・コバーンが頭にビニール袋を被せられて窒息死させられたり、ネッド・グラスが血まみれになって殺されたりと、考えてみればかなり残虐なシーンがミステリースリラーらしくかなり存在するのは前述の「アラベスク」と同様です。しかし、このような「角」は、主演二人によって完全に骨抜きにされており、むしろそれを示す為にわざわざ残虐なシーンが挿入されているのではないかとすら思われるほどです。つまり、ケーリー・グラントとオードリー・ヘップバーンの存在によって、残虐性が手際よく料理されるプロセスがこの作品では提示されているのであり、まさにそこにオーディエンスは快感を覚えるのだと言っても言い過ぎではありません。或る意味で、このような特質は同じくケーリー・グラントが主演したヒッチコックの傑作「北北西に進路を取れ」(1959)にも共通して見出せるように思われます。要するに、「シャレード」はムードミステリースリラーであり、アクセントはミステリースリラーの方ではなくムードの方にあります。そのような作品であるだけに、ケーリー・グラントのムードメーカーとしてのパーソナリティが見事に活かされていると言えるのです。何かの本に、「シャレード」は主人公のアイデンティティがコロコロ変わるいわゆる変身がテーマの映画だと書かれていましたが、個人的には、この作品はアイデンティティが一貫してケーリー・グラントであるような映画であると考えています。いずれにせよ、エンターテインメント性抜群の作品である上に時代性が滲み出ていて、60年代の作品の中では最もお薦めできるものの1つです。


2002/01/12 by 雷小僧
(2008/10/21 revised by Hiroshi Iruma)
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