帝国ホテルの設計などで日本でもあまねく知られている建築家フランク・ロイド・ライトの孫娘だそうです。いかにも小生意気そうに見えるところが彼女の魅力の一つであり、エネルギッシュな活発さが彼女の所作全体を通して感じられます。また、外見はカワイ子ちゃんタイプであるにも関わらず、声がやや低目であり、ハスキーとまでは言えないとしても独自の魅力があります。小生意気そうに見えるのは、多分に「イヴの総て」(1950)で演じたイヴの印象が強烈であったからかもしれませんが、「剃刀の刃」(1946)でのアカデミー助演女優賞受賞など既に40年代にかなりの実績を積んでいたとはいえ、この役で彼女のビッグスターとしての地位は揺るぎないものになったと見なせるでしょう。レストランでセレステ・ホルムと会話するシーンでの、睨みをギラリと効かせながら突如として哀願調から強迫に転ずる彼女の姿にはゾクゾクしますね。当時全盛を誇っていたフィルムノワールに登場する本能的で退廃的な悪女の姿とはまた一味違った、女マキャベリにもたとえられる計算高い彼女の悪女像は、当時としては極めて新鮮であったかもしれません。同作品によってアカデミー主演女優賞にノミネートされながら、ベティ・デービスもまったく同じ作品で同じ賞にノミネートされ、「イヴの総て」を高く評価していた審査員の票が割れた結果、「Born Yesterday」(1950)のジュディ・ホリデイが漁夫の利を得たのは有名な話です。個人的にはジュディ・ホリデイの大ファンですが、彼女は基本的にコメディエンヌであり、コメディエンヌのアカデミー主演女優賞受賞が空前絶後(だと思います)である点を考えると、この年のアカデミー主演女優賞の結果がいかに予期せぬものであったかが分かるでしょう。一説によれば、バクスターは、作品中で演じたイヴさながらにマキャベリ的な技巧を駆使して、助演女優賞ではなく主演女優賞に自分がノミネートされるよう工作したということだそうです。真偽のほどはともかくとして、今となっては、それはそれで面白い話ではあります。なお、作品中で彼女が受賞する「The
Sarah Siddons Award」は、作品公開時は架空の賞でしたが(Sarah Siddons自体は、19世紀の実在の女優の名前です)、同作品の影響で数年後に実際にその名の賞が設けられます。Wikipedia(英語版)を参照すると、不思議なことにブライアン・デネヒーなどの男優も受賞しているようであり、また、たとえばクローデット・コルベールが1980年の受賞など、栄誉賞的な意味合いがあるようです。アン・バクスターも、1973年に受賞しているようであり、ということは架空の賞と実在の賞を、作品中と現実世界で二度受賞したことになります。因みに、2008年は、日本ではとんと見かけなくなったキャスリン・ターナーが受賞しているようです。 |
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1942
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偉大なるアンバーソン家の人々
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1950
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イヴの総て
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1943
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潜航決戦隊
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1953
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私は告白する
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1943
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熱砂の秘密
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1956
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十戒
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1946
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悪魔と天使
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1957
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三人のあらくれ者
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1946
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剃刀の刃 |
1958
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生きていた男
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1948
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帰郷
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1960
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シマロン
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1948
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幸福の森
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1962
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荒野を歩け
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1949
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廃虚の群盗
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1967
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Busy Body
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1950
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彼女は二丁拳銃
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1971
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Fool's Parade
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