Born Yesterday ★★☆

1950 US
監督:ジョージ・キューカー
出演:ジュディ・ホリデイ、ウイリアム・ホールデン、ブロデリック・クロフォード

左より:ウイリアム・ホールデン、ジュディ・ホリデイ、ハワード・セント・ジョン、
ブロデリック・クロフォード


漁夫の利を得たとも見なせるかなりラッキーな側面があったとはいえ、ジュディ・ホリデイが見事にアカデミー主演女優賞に輝いた作品です。一般にこの作品はコメディであると考えられているようですが、個人的にはかなりシリアスな作品であると捉えています。というのも、後述するように「啓蒙とは何か」という問いが根底に横たわっている作品だからです。粗野な億万長者ハリー(ブロデリック・クロフォード)のガールフレンドで、「blond air head」ともいうべき教養度ゼロの娘ビリー(ジュディ・ホリデイ)が、若いジャーナリストのポール(ウイリアム・ホールデン)の感化を受け徐々に啓蒙されるにつれ、次第に専制君主のような億万長者ハリーの実体を知って、彼の思い通りに動かなくなり、喧嘩して袂を分かつというストーリーが繰り広げられます。要するに、無知でお気楽であった頃の彼女は、ハリーの為すがままに操られていたのであり、しかも操られている事実にすら気が付かなかったわけです。ジャーナリストのポールによって啓蒙されつつある彼女が、ハリーに向かって「でぶのファシスト!」とののしりますが、ファシズムのメカニズムの1つは、まさに被抑圧者の意識を抑圧構造に従がわせることであり、すなわち抑圧のメカニズムを被抑圧者の意識に埋め込むことにあったのです。これにより、被抑圧者は抑圧構造を自然であると見なす認識パターンを植え付けられ、その事実に疑問を抱くことなど全くなくなってしまうのです。これが、ポールと出会う以前のビリーの状態だったのです。そのような彼女の目を覚ますのが世間を広く知るジャーナリストであり、それは啓蒙を通じて行われるのです。つまり、自分がそれまで自然であると見なしていた自己の隷属状況に対して、自分の考えによってノンを言えるようになること、これが啓蒙の最大の意味の1つであることが「Born Yesterday」を見ているとよく分かります。また、このことは単に個人の意識の問題のみに関係するのではなく、人類の歴史そのものにもそのまま当て嵌まり、様々な抑圧を通して維持されていた隷属状態を払いのけ、人類が覚醒していくプロセスが人類の啓蒙の歴史なのです。ポールがビリーに独立宣言やら人権宣言やらについて語る時、まさにこの人類の啓蒙の歴史が語られているのです。かくして、冒頭でかなりシリアスな作品であると述べたわけですが、勿論一般に言われているようにコメディ的な要素も数多くあることに間違いはありません。殊にオスカーを受賞したジュディ・ホリデイのいかにもコメディエンヌ的な奇矯に富んだ所作や話し方には笑えます。また、前半の彼女は前作「アダム氏とマダム」(1949)で演じた人はよいけれども無教養なハウスワイフという役柄の延長であるかのように見えるとはいえ、いくらラッキーであっても勿論それだけでオスカーを受賞できるはずはなく、やはり「Born Yesterday」にはシリアスな側面が多分に含まれていると見るべきであり、彼女のパフォーマンスもそれに大幅に寄与していると捉えた方が妥当です。いずれにしても、小生のように彼女のファンであることを自認する人にはこたえられない一本ではないでしょうか。


2001/09/29 by 雷小僧
(2008/12/20 revised by Hiroshi Iruma)
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