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 映画 日記              池田 博明 


これまでの映画日記で扱った作品データベース  映画日記 前月の分  



2013年10月1日以降、2014年1月31日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2014年1月10日~



DVD
タイム・トンネル



ABC・TV
1966年9月9日~1967年4月7日
(NHK 1967年4月8日~10月22日)
各50分
 NHKで毎週土曜の夜10時10分から放送された人気番組がDVD・BOXで発売された(BOX1は2014年1月発売、BOX2は3月)。20世紀フォックスの映画からの引用をふんだんに盛り込んだカラー放送だったんですね。当時はフィルム撮影。全30話。
 不完全なタイム・トンネルで過去に転送されてしまった二人の科学者(トニー役ジェームズ・ダーレン、ダグ役ロバート・コルバート)が毎回、歴史上の大事件に遭遇するというエピソードが続く。タイム・パラドックスものの約束で、過去を変えてはいけないという原則が貫かれている。
 第1話「過去との出会い(タイタニック号の最期)」、第2話「月への一方通行」、第3話「世界の終わり」(ハレー彗星の接近)、第4話「真珠湾攻撃の前夜」[日本未放映]、第5話「最後のパトロール」(米英戦争)、第6話「火山の島」(クラカタウ島の噴火)、第7話「トロイの神々」、第8話「カスター将軍の最後」(インディアンを好戦的として描いていない。むしろカスター将軍を好戦的な軍人として描いている)、第9話「悪魔島」(ドレフュス事件)、第10話「恐怖政治」(ジャコバン党の政治)、第11話「秘密兵器A-13」、第12話「リンカーン暗殺計画」、第13話「アラモの砦」、第14話「土民の奇襲」(アフガン戦争)、第15話「Dデー二日前」(ノルマンディー上陸作戦)。以上がBOX1に収録。放送時の吹き替えで、カット部分は字幕となっている。高校生時代にときどき見ていた記憶はあるが、具体的な挿話は憶えていなかった。
 監督で演出回数が多いのはソベイ・マーティン(3・5・7・10・11・13・15)、次はウィリアム・ホール(4・6・12)。脚本ではボブ・ダンカンとワンダ・ダンカン(5・9・13・15)、ウィリアム・ウェルチ(2・3・6・10・14)。
 日本では放映されなかった「真珠湾前夜」で、トニーは幼い頃の自分と遭遇、さらに任務を果たしたものの爆撃で亡くなった父親に逢う。出演者のダーレンがもっとも印象深い回だったとふり返っていた。
 BOX1の特典には2006年リメイク版『タイム・トンネル』のパイロット・フィルム(2002年)が収録されている。1941年のヨーロッパ戦線に科学者集団を転送し、誤って転送された16世紀の人物(修道士)を探すという物語。修道士は疫病(ペスト)に感染していて、接触した兵士(アメリカ兵だけでなく、ドイツ兵にも感染してしまう)には過去の歴史を改変しないため敵にも解毒処置を施すことになってしまう。ダグには家族がいるが、現在も実は改変された世界であって、改変前の世界では家族はいない。その以前の記憶を持っているのはトニー(女性)と友人だけだった。パラレル・ワールドを加味した作品になっている。試写で分かりにくいという意見などからシリーズ化が見送られてしまった。
2013年10月27日



WOWOW
録画
マリリン 七日間の恋



英国
2011年
 モンローが英国で『王子と踊り子』を撮影したとき、第三助監督だったコリン・クラークの本を基に描かれたサイモン・カーティス監督の映画。
 モンロー(ミッシェル・ウィリアムズ)は劇作家アーサー・ミラーと結婚したばかりだったが、情緒不安定だった。女優として演技力に自信はないし、慣れない英国での撮影にもおびえ、遅刻やキャンセルが続く撮影現場。監督も兼務するオリヴィエ(ケネス・ブラナー)はイライラしっ放し。そんな彼女を助監督のコリン(エディ・レッドメイン)が見守ることが不安を払拭するきっかけになる。七歳年下のコリンの正直な憧れのまなざしと打算のないつき合いが、彼女を立ち直らせる。
 アクターズ・スタジオなみのメソッドではなく、天性の魅力がモンローを輝かせることに次第にみんなが気づいていく。大女優役にジュディ・デンチ、モンローのボディガード役にデレク・ジャコビ、モンローの演技指導役ポーラにゾーイ・ワナメィカー、コリンの恋人・衣装係のルーシーにエマ・ワトソン、オリヴィエの妻ヴィヴィアン・リー役にジュリア・オーモンドといった英国の著名俳優が共演している。コリンは最初あらたまって「ミス・モンロー」と呼んでいるが、親しくなると「マリリンと呼んで」と言われる。
  
2013年10月22日


DVD
ミステリー・ゾーン


MGM
1959年
25分

 隔週刊のDVDコレクション The Twilight Zone 第1回は「死神につかれた男 One For The Angels」「運という名の男 Mr.Denton on Doomsday」「スクリーンの中に消えた女 The Sixteen-Millimeter Shrine」の三作を収録。脚本は三作ともロッド・サーリング(CBSとの契約でプロデューサー兼務のサーリングは脚本の80%を書くことになった。その見返りにサーリングは利益の50%を受け取り、オリジナルネガの所有権を得た)、撮影はジョージ・T・クレメンス、監督はロバート・パリッシュ、アラン・ライスナー、ミッチェル・ライゼンと続く。撮影・演出・編集はオーソドックスで、TVドラマだがフィルム撮影。
 「死神~」は露店商人ルー・ブックマン(エド・ウィン)の前にスーツを着た死神(マーレィ・ハミルトン)が出現、ルーの死に時は明日の晩12時だという。控訴理由としてやり残したことがあると主張して露店商として天使への売り口上をしたいと述べるルー。控訴が聞き届けられたルーは今後売り口上をしなければ死なないと安堵したものの、身代わりが必要だという死神はルーの客の少女マギー(ダナ・ディラウェイ)を選んだ。トラックにはねられたマギーの生命は12時に迎えに来る死神の手に握られている。ルーは一世一代の決心をする。売り口上で死神を引き留めるのだ。はたして計画はうまくいくだろうか。
 「運~」は、酔いどれのアル・デントン(ダン・デュリエ)が酒場からたたき出される。行商人のヘンリー・フェイトは倒れた彼の側に銃を出現させる。昔の早撃ちアルを思い出させる優しい酒場女リズ(ジーン・クーパー)。執拗に彼をいじめるダン・ホタリング(マーティン・ランドー)がアルの銃を見て決闘を申し込む。断るアルだったが、暴発した銃がダンの銃を飛ばし、さらに撃ち落としたランプが銃をたたき落とす。アルはひげをそって自分に決闘を挑むガンマンの登場に備える。フェイトは10秒間効果のある早撃ちドリンクをくれた。決闘を申し込んできたピート・グラント(ダグ・マクルーア)が来た。街じゅうの人が見つめるなか、アルが早撃ちドリンクを飲むと、ピートも同じドリンクを飲んでいた。そして銃が火を放つ。
 「スクリーン~」では部屋にこもり、自分が主演した映画を見て暮らしているバーバラ・ジーン・トレントン(アイダ・ルピノ)に、新しい役柄を持ってきたのは親友のダニエル・ワイス(マーティン・バルサム)だった。しかし、高慢なバーバラは母親役や端役はお断わりと製作者と決裂。召使サリー(アリス・フロスト)が心配するなか、ひきこもり傾向は強くなってしまう。ある日、昔の相手役が尋ねてくるというので、めかしこんだバーバラだったが、尋ねてきたのはスーパーの経営者の老人だった。年を取ったという現実を受け入れられないバーバラはとうとうスクリーンの中に・・・・。 


2013年10月1日以降、2014年1月31日までに見た 日 本 映 画 (邦画)

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2014年1月30日


NHK総合
東大紛争秘録


NHK
2014年
25分
 「クローズアップ現代」の一篇。いまから45年前の1969年1月18日、東大安田講堂を封鎖するバリケードに機動隊が導入され、バリケードは解除された。その後、入試が中止となった経緯を直後に当時の東大側の責任者が振り返った会議録が発見された。会議の参加者のひとり、植村泰忠教授(物理学)の書庫からだった。関係者が存命中は公開できないと言っていたという。会議の出席者は植村のほか、加藤一郎総長代行、大内力、坂本義和など。大学側は機動隊導入に難色を示していたが、入試実施を見据えて導入に踏み切ったという。南原繁ら名誉教授たちは連日早く機動隊を導入せよとの電話攻勢をかけていた。しかし、機動隊導入直後に与党の圧力もあり、文部省(文部大臣は坂田道太)が入試中止を決定した。大学側は政府に押し切られた形となった。この事態によって、大学の自治は変節した。反省会議の席上、坂本は政府の要請に反対し入試を実施する道があったのではないかと意見しているという。入試を実施する権限は大学側にあったのだから。
2014年1月27日



WOWOW
1月19日
新仁義なき戦い 組長最後の日


東映
1976年
91分
 文太主演の比重が大きくなってきた「新仁義なき戦い」シリーズの第3作。深作監督で、脚本は高田宏治。
 岩木組長(多々良純)に世話になっていた野崎(菅原文太)は、北九州へ侵攻しようと目論む坂本組(小沢栄太郎、成田三樹夫)の刺客に組長を殺されたため、和解に応じようとする九州勢(名和広、織本順吉、林彰太郎、汐路章)の意向を無視して、坂本組傘下の実行部隊・米元組長(藤岡琢也)を狙い、それに失敗すると次には坂本組長を狙う。組織にとっては迷惑な存在となったヒットマンを描く。
 米元組の若衆・中道(和田浩治)の妻・麻美(松原智恵子)は、野崎の妹。野崎が米元の床下に潜ませる韓国人の殺し屋に郷瑛治。米元の二号・初江に衣笠恵子。初江に色事を仕掛ける若衆が成瀬正。野崎に忠義する岩木組員(地井武男、梅津栄、尾藤イサオ)や、ヒロポン中毒のみ鈴(横山リエ)を情婦にする坂本組のチンピラ・西本(桜木健一)が主筋に絡む。
 津島利章の音楽は『仁義なき戦い』のテーマに戻った。撮影は『組長の首』同様、中島徹。坂本組の車と岩木組のダンプカーの激しいカーチェイスがある。
 私は公開当時に見ていなかった。
2014年1月26日


WOWOW
1月19日
新仁義なき戦い 組長の首


東映
1975年
94分
 深作監督。北九州・福岡市、関門海峡を通る船舶の利権をめぐって大和田組と共栄会の二大勢力が覇権争いをしていた。流れ者の黒田修次(菅原文太)は大和田(西村晃)の娘・美沙子(梶芽衣子)をもらった楠(山崎努)の代りに共栄会会長を殺しに行って、懲役七年の実刑を受けた。出所の際に迎えにきたのは務所で知り合った志村(小林稔侍)とその知り合いの小林旭(三上寛)だった。楠を頼ってみると彼はすっかりヒロポン中毒となっていて、組の跡目を嗣げるような状態ではなかった。大和田の縄張りを仕切るのは相原(成田三樹夫)だった。みどころはヤクチュウの山崎努と、組織を仕切る成田三樹夫。三上寛は「ギターを抱いた渡り鳥」を情感たっぷりに歌って聴かせる。
 黒田は刑期分の報酬五百万円を要求するが、楠に出せる力はないし、大和田は渋った。楠は大和田と二号(中原早苗)を拉致し、墓穴を掘らせる恐喝をして報酬を約束させる。組の台所を預かる相原は現金の代りにヒロポンを渡した。黒田は赤松(室田日出男)にポンの買取を頼むが赤松に(小売価格なみの)五十万では高価いと断られる。その夜、ポンを売りさばこうとした黒田の子分たちは赤松組にヤキを入れられる。ポンを取り上げられた旭は赤松の仕切る料亭に押し入り、赤松を刺殺してしまう。黒田は旭を身内と認め、警察に預かられる。赤松組では黒田を殺して親分の仇を討とうとしているが、相原は警察の思うツボだと諌める。幹部会で、相原は黒田に赤松を殺させたのは自分だ、分派行動を取ろうとする者をそのままにしておけば示しがつかないと見栄を切る。大和田もこれに納得して黒田を組内に迎え入れることにする。旭の遺体を引き取りに来た母親から彼の本名は笹木茂だと聞く。
 相原の実力を警戒する大和田は跡目を穏健派の井関(織本順吉)に譲ることを宣言。黒田と井関を兄弟盃せよと告げる。相原はヒロポン中毒の楠を薬で追い詰め、黒田が美沙子をものにしようとしていると吹き込み、大和田と黒田を撃てと拳銃を渡す。楠の行状に疲れた美沙子が実家帰りをしている最中に楠が乗り込み、黒田に「美沙子を買え」と告げ、大和田を撃つ。
 葬儀の席上、大和田の兄貴分の野崎組長(内田朝雄)が幹部を召集、井関をを問い詰めて跡目を辞退させ、相原を二代目に据える。相原は黒田の始末を要求する。井関は黒田をところ払いに減刑してもらう。しかし、ところ払いの条件を飲まない黒田は、井関にもはや相原を取るしかないと宣告する。方法は任せてくれと言った黒田は相原の情婦・綾(ひし美ゆり子)の室で待ち伏せする。だが、大阪への挨拶回りの計画で相原は綾のもとへ立ち寄れなかった。黒田は相原組の襲撃に遭う。井関の若衆・須川(渡瀬恒彦)が助けに入った。相原を狙うには大阪への襲名披露の機会しかない。黒田たちは襲撃の計画を練り始めた。・・・・

【参考文献】『別冊映画秘宝 実録やくざ映画大全』(洋泉社,2013年)。撮影は吉田貞次が定年になってしまったので、助手だった中島徹が撮った。カーチェイス・シーンは第二班監督の関本郁夫。当時、映画ファンの間で話題になったのは、ひし美ゆり子。関係した男がみんな死ぬという下がりボンボの女という役どころ(脚本を書いた田中陽造の筆になるという)。私は公開当時に見ていなくて今回、初めて見ました。
2014年1月25日


WOWOW
1月19日
新仁義なき戦い


東映
1975年
98分
 昭和25年9月、傷痍軍人に変装した三好万亀夫(菅原文太)は浅田組長(鈴木康弘)を狙撃したが、彼は死んでいなかった。指示した山守組長(金子信雄)は取り直しを示唆する。しかし、三好は実刑を受け、八年後に仮出所することになった。社会はすっかり変わり、山守組では若頭・青木(若山富三郎)の勢力が大きくなって、山守は三好を扇動して青木を取らせようと画策していた。青木は別行動を取りそうな難波(中谷一郎)を暗殺したが、難波組の系列(室田日出男)で、三好とムショ仲間の関(松方弘樹)はその遺恨を抱えていた。組を拡大し、山守を引退に追い込むつもりの青木は邪魔者となる関の暗殺も試みた(重傷を負わせたが失敗)。山守と坂上(田中邦衛)は青木を取る相談を三好に持ちかけてくる。青木が兄弟盃をした梅津組(安藤昇)に筋を通すために三好は小指を落とし、呉で何が起こっても出張らないように依頼する。三好は四国へ進出するため緒方組(名和弘)と兄弟盃をするので、兄弟が重なるのもおかしいからと、青木との兄弟盃をチャラにする。こうして坂上が青木を襲う下準備は整った。
 三好のもとへ寄る鉄砲玉・北見役は眉を落とした渡瀬恒彦、三好が呉の青木のもとへ行くときに弾除けとして連れて行く女・恵子に池玲子。文太が池玲子にナイフで顔を切られた直後に若山が言うセリフが一部飛んでいる。たぶん「(朝鮮ピーは)気が強いさかいな」。山守の妻役は「仁義なき戦い」では木村俊恵だったが、中原早苗になっている。

【参考文献】深作欣二・山根貞男『映画監督 深作欣二』(ワイズ出版)。若山演ずる青木の活躍が大きい。三好は出所した為、突破者として恐れられているが狂言回し的な役割しか果たしていない。
2014年1月24日


DVD
博徒斬り込み隊


東映
1971年
97分
 鶴田浩二主演の現代やくざもの。脚本は石松愛弘、監督・脚本は佐藤純彌。鹿島茂が『昭和怪優伝』で絶賛している渡瀬恒彦が死神の竜次という鉄砲玉を演じた傑作。「仁義なき戦い」以前にも暴力団抗争を描いた映画があったのだが、この映画でもっとも悪辣な組織は警察である。
 頂上作戦で暴力団を粛清した警察は、手つかずで残ってしまった大日本菊名会の会頭・二階堂(河津清三郎)や菊名会を殲滅しようと機会を伺っている。一方、七年の刑期を終えて出所したもと新宿淡野組組員・相羽(鶴田)を出迎える組員はいなかった。新宿で陣野組と相羽の喧嘩に巻き込まれてもと淡野組の三下・三郎(小林稔侍)は死亡する。
 三郎の故郷を訪ねた相羽は福島の飯坂温泉で三郎の身寄りを捜し、姉(工藤明子)を見つける。飯坂には東北進出を狙う陣野組の鉄砲玉・死神の竜次(渡瀬)が送り込まれて来ていた。竜次の挑発を収めた相羽は地元の浅川組(山本麟一、近藤宏、室田日出男、今井健二、地井武男)に世話になるが、竜次の葬儀をきっかけに菊名会傘下の陣野組(渡辺文雄、八名信夫)が乗り込んでくる。もと暴力団関係の警部補(若山富三郎)が相羽を理解している。北洋会(諸角啓二朗)は菊名会に対抗する勢力の結集を図り、浅川組と兄弟盃を取り交わそうとする。相羽は北洋会の挑発に乗らないように進言するが、浅川組長は流れ者の進言に耳を貸すことはなかった。相羽の読み通り北洋会との手打ちに出席しようと出かけた浅川組長は陣野組に拉致され、菊名会との盃を強要され、帰りの汽車内で暗殺された。浅川組長葬儀を取り仕切ろうとする陣野組と北洋会。なんとか地元の浅川組を保たせて抗争を回避しようとする相羽に対して、抗争を起こして一挙に暴力団を逮捕しようと図る警察(丹波哲郎)の駆け引き。その結果は、途方もなく大きな抗争事件に発展していく。
2015年1月28日


DVD
レンタル
実録三億円事件・時効成立


東映
1975年
 石井輝男監督、小野竜之介脚本。原作は清水一行『時効成立』。三億円事件の真犯人を競馬狂の畜犬業者の西原房夫(岡田裕介)と設定。共犯者は愛人・孝子(小川真由美)。警察官の息子は遺留品がオジン臭いからと葛木刑事(金子)は反対する。モンタージュ写真が当てにならなかったということは事件の6年半後だった。時効が近くなって、西原に迫ってきたのは柏木刑事だった。
 西原は盗んだ金を種馬ペガサスに出資したが、表面上の株主は社長夫人(絵沢萌子)たち。競馬評論家(田中邦衛)が取引の仲介に入る。しかし、2億8000万を投資したペガサスは伝染性貧血で死亡してしまった。別件で連行した西原は葛木の強引な取り調べにもかかわらず、最後まで自供することなく時効が成立した。
2014年1月18日



テレビ朝日
21:00
三億円事件


テレビ朝日
21:00から23:15
2014年
115分
 松本清張ドラマ・シリーズの一本、藤田朋二演出。田村正和がアメリカの保険会社の査定調査員役で来日し、刑事事件としては時効が成立した三億円事件の真相を探るという設定。調査に協力する日本の会社の調査員が段田安則と余貴美子。暴走族の一員で重要参考人だったが自殺した青年の犯行だったが、叔父のもと警察官僚の示唆で実姉が毒殺したという展開になっていた。実際の事件でも青年が自殺に使った青酸カリの入手先に不審な点がある。ドラマは青年が姉と二人暮らしだったとしているが、実際の青年は両親と暮らしていて、父親が警察官だった。事件当日に青年とホテルにいたというアリバイの証言者が、ドラマではホモの青年ということになっていたが、実際には先輩格の青年で事件後には外国にマンションを購入、最近死亡したそうである。
 ドラマとしては田村正和の滑舌がはっきりせず、展開が遅かった。この<展開がもったいぶっていて遅い>という欠点は翌日の松本清張ドラマ・スペシャル、ビートたけしが藤沢六郎警部補を演じた『黒い福音』(石橋冠演出)も同様であった。二時間ドラマにするために、例えば「三億円事件」なら事件の再現映像の同じ場面が何度も繰り返される、「黒い福音」なら張り込みや聞き込みに入る導入場面が多くて、展開を遅くしたという趣きであった。
2014年1月19日



WOWOW
1月13日放送
仁義なき戦い
 完結篇



東映
1974年
 笠原和夫の脚本は『頂上作戦』で完結していたため、プロデューサーのたっての要請で高田宏治が脚本を執筆。興行的には最も当った。この後、新・仁義なき戦いシリーズや傑作『仁義の墓場』『北陸代理戦争』が製作されるが,それらは作品の出来とは関係なく、興行的にはさほど成功していない。私は急性肝炎のため倒れて実家で静養しており、1974年には、ほとんど映画を見ることが出来なかった。そして、この一年で映画状況も急転回したのであった。札幌の映画ファンたちも変化してしまっていた。
 武田は政治結社・天政会を組織したが、杉原殺人事件による手入れで自らの逮捕を予想し、会長代行を理事長の松村保(北大路欣也)に譲った。これを不満とする副会長の大友勝利(宍戸錠)や早川(織本順吉)との間で内部分裂の抗争が起こる。天政会分裂に乗じて勢力を伸ばそうと画策する今岡組(松方弘樹)の暗躍もあり、天政会の屋台骨は不安定になる。出所した武田は会長に返り咲いたものの組員の若者の間にくすぶった不満は新たな抗争の火種となった。出所した広能に武田は引退をもちかける。
 第4作までの笠原和夫脚本と比べられて低く評価されることが多いが、前作までの人間喜劇的な醍醐味を引き続き継続させて起承転結を付けた高田脚本の工夫も見所。『代理戦争』にも似た敵味方の駆け引きの世界もちゃんとあり、前作までがあったから納得できる展開になっている。
2014年1月17日




WOWOW
1月13日放送
仁義なき戦い 頂上作戦



東映
1974年
101分
 笠原和夫脚本、深作欣二監督の「仁義なき戦い」シリーズ第4弾。キネマ旬報「読者の映画評」に載った拙評があります。
 ******
 なんとまあ,『血桜三兄弟』のやつらが復活した。結核を病む松方弘樹,小倉一郎,黒沢年男ら。それに策師・小林旭(武田)だって,病み上りの身なのだ。ラストで,文太(広能)と, 吹雪のふいてくる刑務所の廊下で,寒さにかじかみながらポツポツ話す姿を見ていると「死んでしまうな」と心配になる。そんな人間の生理をとらえることに,深作さんは,またも成功した。
 『代理戦争』は唯一,ラストの握りしめられた骨の熱さを納得させるための映画であった。 『広島死闘篇』の真黒に日焼けした千葉真一は,身体で考え,身体でぶつかっていく『人斬り与太』と同じ人間であり,まさしく,あの狂犬の子であり,その行動の風をきるような快感を 味わえばよかったのである。『人斬り与太』で,菅原文太が「いてえ!」と叫んだ時の痛みを, ついに観客でしかない僕らも存分に感じとることができたし,またその痛みを感じとることが,皮膚感覚で行動するヒーローの映画には,ふさわしかったはずである。
 『頂上作戦』で最も鮮烈な印象を残す小倉一郎のひ弱さと,ケロイドを持つ母親のいる家庭のみじめさ。それに,加藤武(打本),金子信雄(山守)のあざとさ,卑屈さ。すべて,うちふるえるように,みごとに生理的にとらえられている。ここに人間たちがいるのだ。人間喜劇があるのだ。
 東京オリンピックの歌さえガタつくテレビしかない家。繁栄の陰のこの状態をみよ,とする意見は,暴力団を否定していないから,『仁義なき戦い』は不足だなどというバカげた意見と 五十歩百歩である。市民たちが,ほとんどスチールでしか描かれないように,深作さんは,市民の倫理のたしかさなど信じていないのである。
 生理を描いて,生理にうったえる映画,それが『仁義なき戦い』なのだ。生理に仁義なぞない。
                   (キネマ旬報1974年3月上旬号〔626〕)
 ********
 『頂上作戦』は『代理戦争』の続篇である。呉市を拠点とする広能組(菅原文太、八名信夫、黒沢年男)は槇原組(田中邦衛)と対立していた。衝突が予想される状況で、広能と岩井(梅宮辰夫)は実力者・岡島(小池朝雄)を味方に抱き込む。一方、武田(小林旭)を若頭とする山守側(金子信雄、田中邦衛、山城新伍、室田日出男)と、明石組(斬り込み隊長は梅宮)をバックにした打本側(加藤武、三上慎一郎、松方弘樹)の対立は若者を中心とした広島抗争戦争となった。川田組(三上)の組員・野崎(小倉一郎)は川田から強硬派・藤田(松方)を取って(殺して)男をあげよと示唆される。広島抗争戦争での死者は17人、負傷者は26人、逮捕者は1500人と総括され、『仁義なき戦い』4部作は抗争で犠牲となった若者への鎮魂でしめくくられる。なお、頂上作戦とは警察の組長レベルの逮捕を伴う暴力団撲滅作戦のこと。

【参考文献】笠原和夫・荒井晴彦・桂秀美『昭和の劇』(太田出版,2002年)、深作欣二・山根貞男『映画監督 深作欣二』(ワイズ出版,2003年)
2014年1月16日




WOWOW
1月13日放送
仁義なき戦い 代理戦争



東映
1973年
102分
 笠原和夫脚本、深作欣二監督の「仁義なき戦い」シリーズ第3弾。公開当時見ましたが、敵味方の関係が頻繁に変わるため、完全には理解できなかった記憶があります。シリーズ中もっとも評価が高い作品なので、観るまえからあっちへついたりこっちへついたりする話だという予備知識を前提に、そのつもりで注意して観ていると、なんとか理解できる展開になっています。
 どうしても菅原文太演ずる広能昌三中心に見てしまいます。広能組は呉市を縄張りにしていますが、広島を仕切る村岡組組長の後継と目された舎弟・杉原(鈴木康弘)が射殺され、その決着を打本(加藤武)が果たさなかったことから、山守義雄(金子信雄)が進出、打本は神戸の大組織・明石組(丹波哲郎、遠藤辰雄、山本麟一、梅宮辰夫)にすり寄り、山守傘下に入った組(田中邦衛、成田三樹夫、山城新伍)は打本に盃を返したり、仲直りしたりと対応に苦慮する。広能も山守を親分に祭ることには疑問を持っており、つかず離れずの関係を保っているが、打本には嫌われ、槇原(田中)には警戒され、山守組若頭に抜擢された武田(小林旭)には信用されない。
 広能と倉元猛(渡瀬恒彦)の中学の教員(汐路章)が突破者の倉元をやくざに弟子入りさせる。情婦(池玲子)にテレビを買ってやりたいとスクラップ20万円分を横流しして怒られた組員・西條(川谷拓三)はわびを入れるために、手首から先を切り落とす。西條は道具が持てないと、倉元に槇原の襲撃を頼む。槇原を取りに行った倉元は失敗。さらに後ほど一人で襲撃に行くも、情婦の愛情を倉元に盗られた西條に密告され、待ち伏せを受けて射殺される。倉元の葬祭場で襲撃を受けた広能は粉々に壊れた骨壷の熱い骨を握り締める。

【参考文献】『別冊映画秘宝 実録やくざ映画大全』(洋泉社,2013年)より、飯島洋一談「『代理戦争』はストーリーが実は見事にないんだよね。笠原和夫はすごいな。それで飽きさせないんだもん。すごい人がいたもんだねえ」「小林旭は『代理戦争』に出たときが一番かっこよかったんじゃない? 殴るわけでも何するわけでもないんだけど、あんなかっこいい人見たことない。いまだに憧れますね」
 鹿島茂『昭和怪優伝』(2013年、中公文庫)には、成田三樹夫と渡瀬恒彦について熱く語られている。
2014年1月10日


NHK総合
19:30
遺族




NHK
1960年
 川口市にあるNHKアーカイブスで、1本の古いフィルム(1960年放送)が見つかった。高木俊輔原作、野村芳太郎・山田洋次脚本の『遺族』である。「特報首都圏」では『発見、幻のドラマ 山田洋次が語る戦争』として一部を放送(1月10日19:30、1月11日10:50再放送)、全篇は2月20日にBSで放送される。
 『遺族』は特攻隊員から母への手紙を託された青年・高田(北村和夫)が遺族を探し、届ける物語である。まるで有馬頼義『遺書配達人』を映画化した『ああ声なき友』(渥美プロ、今井正監督)の前身のようである。
 「特報首都圏」では山田監督の最新作『小さいおうち』(中島京子原作、1月公開)と重ね合わせながら『遺族』に込められたメセージを紹介していた。戦争を語れる世代の最後に当たる山田監督(82歳)は若者に「賢くあって欲しい」と願ったという。『遺族』製作当時は朝鮮戦争が終わり、神武景気で都会の若者に「特攻隊って知ってますか」と聞いてみると、「知らない」と答える場合もあるような時代だった。そんな危機感が『遺族』製作の動機だったのではないかと山田洋次は語っていた。現代も事情は似ている。17歳という都会の女性は昔の若者同様に「(特攻隊なんて)知らない」と言っていた。そんな若者ばかりではないと思うが。
 私は特攻隊の知識は、常識だと思う。『きけわだつみの声』は必読では。
2014年1月5日

NHKEテレ
20:00~20:45
日曜美術館
藤城清治


NHKエデュケーショナル
2013年
45分
 初放送は2013年8月25日。89歳の藤城清治は宮沢賢治の『風の又三郎』に取り組んでいた。片刃のカミソリで大胆に台紙を切っていく。紙を重ね貼りしてグラデーションを創り出したり、色トレースの表面を削ったりする技法は彼ならではの技法。那須市に美術館が建てられた。
 80歳のとき広島の原爆ドームの姿に打たれた清治は、東日本大震災後のスケッチから、「陸前高田の奇跡の一本松」「福島原発ススキの里」「気仙沼 陸に上がった船」などを産み出す。
 宮沢賢治の世界を汚しを入れたり、直線を手書きしたりして深みを表現する。複数の技術が組み合わされて、霧のかかった種山ケ原の印象が描き出された。
 『風の又三郎』はアニメートされても良い作品だと思うが、残念ながら実現していない。
2014年1月3日


フジテレビ
21:00~
鍵のかかった部屋SP



フジテレビ
2013年
120分
21:00~23:28
 貴志祐介原作、相沢友子脚本、松山博昭演出のテレビドラマ。5月にDVDも発売されるそうである。大野智の一見、無表情が興味深い。
 証券会社の藤林社長が撲殺され家全体が密室になっていた。発見者の弁護士・芹沢(佐藤浩市)は藤林が姪の郁子(黒木瞳)に予定していた亡き妻の所蔵絵画の寄贈を止めると連絡してきたと聞いて驚く。いまさら寄贈を止めることはできない。芹沢は階段から誰かに突き落とされてケガをした。行方不明だった榎本(大野智)が現れて防犯ショップを開き、アパートの連続掃除魔事件や密室活人事件、ひいては藤林社長殺人事件の謎を解く。芹沢の秘書・青砥(戸田恵理香)が資料集めなどに働く。
 寄贈を受ける予定の美術館の館長・平松(佐野史郎)が遺書を遺して自殺した。榎本は遺書が偽物であると指摘する。他殺だとすると、犯人が館長室にどうやって侵入したかが分からない。平松が才能を発見した企画展を準備していたアーティスト、稲葉(藤木直人)が怪しい。監視カメラに写っている稲葉の行動からは一見怪しいところはないだ。しかし、榎本は錯視と偏光を利用したトンネル造りの謎を暴く。
 裏金を作って不正な蓄財をしていた平松だったが、稲葉を最終的に犯行に踏み切らせたのは、平松の心無い仕打ちと言葉だった。
2014年1月3日


テレビ朝日
15:30
相棒



東映
90分
15:30~17:30
 シーズン10の第10話 「ピエロ」。脚本は太田愛、監督は和泉聖治。
 右京(水谷豊)の相棒は神部尊(及川光博)。オペラ鑑賞の間に子供たちを預かるはずのバスがテロリストに引率の教師(比企理恵)と子供ごとバスジャックされた。主犯は外人部隊帰りの草壁彰浩(吉田栄作)と判明する。冒頭、警官の脳幹を撃ち抜き、非情な殺しをやってのけた男である。清掃会社へ派遣されていた平野亮太(遠藤雄弥)も、バスを怪しいと感じて乗り込んだ神部もテロリストたちに捕まってしまう。神部は誘拐された子供たちのなかの島村加奈(大橋のぞみ)の機転に助けられる。テロリストたちは世の中の人々の目を覚まさせるのが目的で人質を殺すつもりはない、事が成就したら自死するという。しかし、いざ決行のとき、主犯の草壁が毒殺される。代わって、速水智也(斎藤工)がリーダーになる。人質を閉じ込めた屋敷の扉を開くと爆発する爆弾を仕掛けて、彼らは身代金を受け取りに出かける。警察は金の受け取りを指定された場所にSWATを置いて待ち構えていたが、犯人たちの目的は実は別にあった。右京は犯人の計画を見破り、罠を仕掛ける。

 初放送は2012年1月1日。
2014年1月2日



TBS
21:00~23:30
眠りの森




TBS
2014年
120分
 阿部寛が刑事・加賀恭一郎を演ずる東野圭吾原作「新参者」シリーズの長編『眠りの森』のテレビドラマ化。熊川バレエ団の協力によるバレエ場面の特撮映像を交えて描かれた。脚本は櫻井武晴・真野勝成、演出は土井裕泰。
 高柳バレエ団の一員・葉瑠子(木南晴夏)が男を撲殺した。男の身元は不明。葉瑠子も知らない男だと言う。強盗に襲撃されて正当防衛の線が強かった事件だが、捜査に当った所轄の刑事・太田(柄本明)は腑に落ちないものを感じ、聞き込みを続ける。捜査一課の刑事・加賀も事件のひと月前に「白鳥の湖」公演を見ていた関係で聞き込みに同行する。加賀は山田(仲間由紀恵。特別出演の趣き。山田という役名は「トリック」と同じで笑)と見合い中だったが、演目の途中で居眠りをしてしまって断られる。加賀は黒鳥の踊りに惹きつけられる。バレエ団はきびしい演出家・梶田(平岳大)の指導のもと、プリマの亜希子(音月桂)を中心に運営されていた。
 葉瑠子と部屋をシエアしている浅丘未緒(石原さとみ)が黒鳥を踊った団員だった。葉瑠子は『白鳥の湖』の主役を予定されていたが、自ら運転する車で交通事故を起こして膝を傷め、三か月ほどブランクがあった。同乗していた未緒には幸い怪我は無かった。葉瑠子はバレエ団の柳生と恋仲だったが、バレエ団員は梶田の方針もあり、恋愛禁止が原則のようである。生活すべてがバレエのためになるきびしい世界である。亜希子は「自分は空っぽの人形だ」、演出家にどのようにでも動かされると告白する。
 殺された男の恋人、宮本清美(映美くらら)が現れて男の身元が判明する。男は風間利之(内田朝陽)、ニューヨーク帰りの画家だった。バレエ団でも二年に一度ニューヨーク研修を行っていたことから、男とのつながりが予想された。派遣されたのは亜希子と森井靖子(大谷英子)。靖子は無理なダイエットで調子を崩していた。風間の交友関係のなかから、ニューヨーク在住の画家、青木一弘(加藤虎ノ介)の名前が挙がってくる。親類を訪ねると彼は三日前に病死していた。
 『眠りの森の美女』公演のゲネプロのとき、梶田がブルゾンに仕込まれた注射器のニコチンで毒殺された。容疑者はバレエ団全員。注射器はサンド・アート用の注射器だった。亜希子のたっての依頼で、公演は中止されず、指導は演出助手だった中野妙子(堀内敬子)が務めた。その後、森井靖子がニコチンで自殺して梶田殺害の犯人は靖子と特定された。梶田の殺人と風間の殺人は無関係なのだろうか。
 ニューヨークでの聞き込みの徹底を主張する加賀に幹部は渋い顔だったが、太田が強く足で聞きこむ捜査の大切さを主張して実現する。ニューヨークで加賀は青木が娼婦に刺された事件を知る。その事件では梶田が渡米していた。青木の恋人はヤスコだったという。
 青木が描いたダンサーの絵を見た加賀は、その絵の中のある特徴に気が付く。事件の謎がそこからほぐれていくのだった。
2013年12月22日


DVD
二等兵物語




松竹
1955年
95分
 テレビがなく、ラジオや映画が娯楽の中心だった時代、『二等兵物語』は大ヒットした(シリーズ化され十作製作された)。西川きよし少年は、映画を見て感激し、伴淳に弟子入り志願したという。喜劇俳優出演といいながら、演出も演技もほとんど喜劇らしくない。原作は梁取三義。脚本は『兵隊やくざ』の舟橋和郎。監督は福田晴一。
 発明家・古川凡作(伴淳)やクツ修繕業・柳田一平(アチャコ)にも昭和二十年六月頃になると召集令状が来た。
 古川は急な神経痛の発作で乳母車に乗って入営する。新聞は「不髄の身が乳母車で入営」と報道、これを読んだたみ(伊藤和子)が感激のあまり慰問、同行した姪の悦子(宮城野由美子)は軍神扱いを批判する古川に好意を持つが、たみは軍人のつら汚しと批判する。軍隊生活は<セミ鳴き>や<架空自転車>を強要する苛酷さ。こっそり悦子と逢った凡作は捨てた煙草の吸殻で火事を起こすが、駈けつけた隊長の若林(山路義人)は火消しの殊勲甲と激賞し、従卒に抜擢した。
 隊長は妾の清水マリ(関千恵子)と会っていた。隊長の妻・静江(幾野道子)は父親が将校のコチコチの軍人妻。悦子に求婚する古川を捕まえて夫の隠れ場所に案内させる。あわてたマリは咄嗟に古川の妻と偽る。内縁関係で籍を入れていないというマリに静江は入籍を薦め、媒酌人を引き受けると宣言。様子を目撃した悦子は古川に裏切られたと怒る。
 古川は柳田が息子・三太(松井晴志)の身を案じているのに義侠心を発揮、隊長に柳田の招集解除を交換条件にして、マリと偽装結婚で式をあげた。隊長がなかなか約束を果たさないうちに、悦子に預けられた三太は、たみから芋泥棒よばわりされて愛犬コロと一緒に家を出る。三太を心配した柳田は部隊から脱走。グラマンの銃撃でコロを失った三太をトイレに匿った古川は、仲間に見つかり、リンチを受ける。捕まった柳田は重営倉に入れられ、放逐された三太は悦子に助けられる。
 やがて終戦。若林隊は大混乱に陥り、隊長以下古参兵たちが物資を奪い合うのを見るや、怒りに燃えた古川は銃で脅かして彼らに反省を求めた。
 軍隊を出た柳田と古川は悦子と三太に再会。三太に「これから何の発明をするの」と訊かれた古川は 「いつまでも平和がつづく機械を作るのだ」と答えた。砂浜に捨てられた兵隊帽は? 「もういいんだ」と古川、柳田も帽子をもはや無用と投げ捨てる。

 関千恵子さん(1930年生)は、『喜劇・女売り出します』(1972)にも、キャバレーのマダムあけみ役で出演しています(日本映画データベースではこれが映画最後の出演。『二等兵物語』は准主役なのに、データベースから落ちています)。本作は山田洋次監督の喜劇50本に選出され、 ウェブ上に渡辺支配人のおしゃべりシネマ館があります。

 『二等兵物語』シリーズに関するきちんとした論考は小倉史『二等兵たちの戦後 1959年における喜劇映画の世代交代をめぐって』(愛知淑徳大学メディアプロデュース学部論集第1号,53-65)にある。ウェブ上で読むことができる。
2013年12月17日



レンタル
舟を編む


松竹
アスミック
2013年
133分
 三浦しをん原作の小説を、石井裕也監督が映画化。脚本は渡辺謙作。
 玄武書房の辞書編集部では松本主幹(加藤剛)を中心に新語も取り入れた「大渡海」という中型の辞典を編纂しようとしていた。妻の介護で退職せざるを得なくなった編集部員・荒木(小林薫)は、代わりの編集部員を見つけないといけなくなる。西岡(オダギリジョー)と協力して社内で探した結果、大学で言語学を専攻したという営業部のダメ職員・馬締光也(松田龍平)をスカウトする。水を得た魚のように辞書作りのための用例採集などに励む馬締だったが、下宿のタケ(渡辺美佐子)の孫で手伝いに来た林かぐや(宮崎あおい)に一目惚れ。恋文を送る決心をする。
 西岡の恋人・三好に池脇千鶴、辞書編集部の契約社員・佐々木に伊佐山ひろ子、松本の妻に八千草薫、新人編集部員・岸辺に黒木華。
 ヨコハマ映画祭で『凶悪』と1位を争った作品。淡々と話が進む。『舟に編む』はNHK『あまちゃん』前の撮影だったが、松田龍平は、「あまちゃん」のミズタクを連想させる役柄だった。板前修業に励む宮崎あおいが出色。脇に回った池脇千鶴も良い。前半が終わって一挙に12年後に飛ぶ構成に驚きました。馬締夫婦に子供がいないのが気がかり。
2013年12月16日



TBS
21:00~23:09




TBS
ホリプロ
2013年
100分
 原作は小池真理子の直木賞受賞作、脚本・監督は源孝志。テレビドラマ。
 1972(昭和47)年2月28日、軽井沢で起こった連合赤軍浅間山荘事件の裏でもう一つの殺人事件が起きた。事件の真相を探ろうとルポライター(渡辺篤郎)は十五年の刑期を終えた犯人・矢野布美子(原田美枝子)に接触するが、取材を断られる。しかし、三年後、真相を語ると布美子のほうから申し出て来た。子宮がんで余命いくばくもないと言う。
 英文科の女子大生、布美子(石原さとみ)は大学の助教授・片瀬信太郎(井浦新)の『Rose Salon』翻訳のアルバイトに雇われる。口述筆記である。信太郎には妻・雛子(田中麗奈)がいたが、信太郎は妻が教え子の男子学生と関係を持っても気にしない様子だ。雛子も信太郎が布美子に言い寄っても、それを許している。奇妙な関係が次第に理想的に思えてきたのだった。
 やがて、地元の信濃電機のアルバイト青年・大久保勝也(斎藤工)に雛子は惹かれていく。なぜか信太郎は荒れる。駆け落ちしたときに宿泊したという箱根の旅館で、布美子は慎太郎から思わぬ告白を聞く。
 奇妙な関係の恋愛模様の描写が前半かなり長く、子爵令嬢だった雛子と私生児で貧しく育った信太郎の過去の経緯の説明や、レストランのオーナーの副島が雛子のセックス開眼の男性だったという挿話や、軽井沢の別荘のセレブぶりが食傷である。ちなみに、浅間山荘事件自体は展開に無関係。
2013年12月14日


テレビ朝日
21:00~23:18
北のカナリアたち




東映
2012年
130分

 吉永小百合主演の大作で、原案は湊かなえ、脚本・那須真知子、撮影・木村大作、監督・阪本順治。
 司書を退職した川島ハル(吉永)のところに警官(石橋蓮司)が訪ねてくる。礼文島の分校での教え子・ノブトがトビ職の社長を殺害した重要参考人で探しているという。草津温泉にでも静養に行こうとしていたハルは20年前に離れた島に向い、教え子たちに会ってノブトの消息を聞く。
 まなみ(満島ひかり)はフィールドワーカー。20年前に合唱大会に向けて練習していたとき、ソロに予定されていたユカが声が出なくなって、自分にソロが回って来たことを自慢げにユカに告げたことで、海岸でバーベキューをした日に、ユカが自殺を図ったと思いつめていた。海に落ちたユカは助かったものの、救助に飛び込んだハルの夫(柴田恭兵)が溺死したのだった。事故をきっかけにハルは教師を辞めて島を離れた。
 ユカを責める言葉を吐いたことで、ナオ(勝地涼)も苦しんでいた。ナオの父親は飲んだくれでユカの母の飲み屋に入り浸っていた。それをユカのせいにして責めたことでユカの声が出なくなった、事故のあった日にナオはユカに謝ろうとしていたのだが・・・。
 保母になったユカ(宮崎あおい)は自分の母親が事故のあった日にハルが生徒を放りっぱなしで刑事だった男(仲村トオル)と会っていたと中傷していたと思っていた。ハルは自分の夫は脳腫瘍で余命半年と宣告され、苦しんでいたと告げる。夫の死は子供たちのせいではないのだ。
 溶接工のナナエ(小池栄子)はハルの逢引を目撃して、村人に言ったのは自分だと告白する。親友ユリの夫と不倫しているのがバレて、子連れのユリに殴られる。
 吃音のノブトをなにかといじめていたイサムは警官になっていた。イサム(松田龍平)が廃屋を訪ねてみると、ノブト(森山未来)が隠れていた。逃げて煙突に登ったノブトは古い煙突のハシゴが腐っていて落下する。意識不明になったノブト。

 泣き虫だったノブトの泣き声を「カリンカ」の歌声に転化させたのがハルだった。子供たちは「この広い野原いっぱい」や「ひとりきりのクリスマス」「夢の中へ」など、歌うことの楽しさに目覚めた。撮影・木村大作の冬のきびしさを捉えた背景のなかで、演技派の若手で重厚な人間ドラマを作った阪本順治監督の剛腕を感じた。ただし、展開が単調であることと、廃校になった教室に六人が集結して「かなりあ」を合唱するラストには無理がある。ノブトにハルが「歌を忘れたカナリアの気持ちを宿題にした。その宿題を果たそう」と提案したというのは不自然な理由で作り物過ぎる。「かなりあ」という童謡にそれほどの象徴的意味を背負わせることが可能だろうか。
 
2013年12月13日


DVD
大塚康生の動かす喜び


スタジオジブリ
テレビマンユニオン
2004年
107分
 『ルパン三世』などの作画監督を務めた大塚康生さんのアニメーション講義。演出・浦谷年良。
 少年時代に蒸気機関車に魅せられた大塚さんは構造を正しく画くには動作のしくみを理解する必要があることに思い至った。絵を動かすことの魅力を伝えたいという大塚さんの思いが、作画監督としての仕事だけでなく、アニメーター養成機関での講師としての仕事にもよく出ている。
 高畑勲や宮崎駿といった監督たちとの共同作業に関しても、多くの作品について具体的に触れていて、たいへん興味深い番組となっていた。『太陽の王子ホルスの大冒険』について、大塚さんや宮崎さんはヒルダの表現にこそ、高畑監督の思いがあったことが作業中はわからず、試写で愕然としたというエピソードが面白い。ヒルダの表現は森康二に任されていたという。東映動画からAプロダクションに移った大塚さんはテレビアニメ『ムーミン』を大隅正秋さんと手がけることになる。大隅さんはずっと人形劇の演出をしていた人で、池田家の子供たちもよく大隅演出の人形劇を見に行った。大塚さんの仕事ぶりが宮崎や高畑をAプロに結集させることになり、テレビアニメ『ルパン三世』を結実させる。
 
2013年12月8日


NHK総合
21:00
日米開戦への道
知られざる国際情報戦



NHK
2013年
50分
 NHKスペシャルの一篇。昨日、特定秘密保護法が国会で成立したが、それを批判するかのように、各国で公開された戦争中の機密情報によって明かされた日米開戦の際の情報戦の内幕のドキュメント。
 1941年7月、日本軍は南部仏印へ侵攻、これに対して米国は日本への石油輸出禁止など経済制裁を実施、日米開戦は引き返し不能点を超えてしまった。この前後、国際的な情報戦はどのように機能したのかを探る。1941年当時、日本海軍は米国西海岸ロサンジェルスに海軍のスパイ、コードネーム「新川」を送りこみ、米国海軍の軍艦増産状況などを知らせていた。新川の正体はフレデリック・ラットランド、もと英国の航空パイロットだった。
 1941年7月2日の御前会議で日本軍は仏印への南部進駐を決定したが、これは極秘事項だった。しかし、英国は数学者など最高の頭脳を集めて暗号解読機を開発、ナチスの猛攻を事前に察知する体勢を備えていた。日本がドイツ大使館へ送った電文を7月4日に解読し、チャーチルは戦争に消極的な米国世論に配慮し、日本の仏印進駐を7月5日にニューヨーク・タイムズにリークした。
 新聞で読んで知ったことにして、英国の駐日大使ロバート・クレイギーに日本外務省に抗議させている。日本の外務省次官は機密事項が洩れたことに、衝撃を覚えた。動揺した日本軍は仏印進駐を5日間延期した。この間に、英国は米国を戦争に引き出そうと画策した。海軍武官・横山一郎は「米は両用作戦ノ力アリ」と認識しており(両用作戦とは欧州と日本の双方と戦うことを意味する)、米国との戦争は避けるべきだと考えていた。当時の日本軍は、大東亜共栄圏ができればアメリカは戦争を仕掛けて来ないと主張していたが、横山はそんな考えはおかしいと進言していた。しかし、日本の情報中枢だった武官室を閉鎖せざるを得なくなってしまった。横山の米国駐在の部下が、いわれのないスピード違反やスパイ容疑で逮捕されるといったトラブルに会う事態が頻発したからである。
 日本の強硬姿勢が米国に伝えられると、米国国務省は経済制裁を決定、石油は日本の輸入の9割を米国が占めていた。それでもなお、ルーズベルト大統領は制裁を躊躇していた。その大統領のもとへ日本軍の拡大路線が伝えられる。この路線は政府の方針ではなく、中国にいる軍人の見通しを伝えるものだったが、そのことは注記されなかった。
 11月26日に「ハル・ノート」が示された。仏印や満州から日本軍のすべての兵を引き上げることと指示されており、東條内閣はこれを最後通牒と受け取り、日米開戦を決意した。しかし、実は「ハル・ノート」提示以前に戦争回避の努力がされていた。駐米大使・野村吉三郎とルーズベルトは同じ海軍出身ということもあり、三十年来の知己だった。11月22日、連合艦隊がエトロフ島へ集結したころ、野村とルーズベルトは会談しており、お互い戦争回避に努めること、「ハル・ノート」と共に、日本が兵隊を引き上げたなら経済制裁を撤回、援助資金の提供を行うという「暫定協定案」を準備した。だが、この「暫定協定案」には、中国の蒋介石が反発した。チャーチルも苦言を呈した。11月26日に、陸軍長官スチムソンはルーズベルトに「日本軍が上海に準備した軍艦は30~50隻」と報じ、日本は撤退するどころか兵力を増強する様子を伝えた。日本軍に対してルーズベルトは烈火のごとく怒った。実際には上海の軍艦は16隻であり、アメリカ陸軍情報部も「10~30隻、通常の移動」と報じていたのに、スチムソンには戦線拡大の予断があったのだろう。その結果、結局、暫定協定案は日本側には示されなかった。ハル・ノートのみの提示は日本大使館に衝撃を与えた。当時、横山は「交渉断絶、情勢は絶望」と記している。翌27日、再び野村=ルーズベルト会談が行われたが、ルーズベルトの態度は冷ややかなものだった。
 12月8日に真珠湾攻撃。日米開戦の火蓋は切って落とされた。
 ラットランドは日本と米国の二重スパイだったと告白しているという。終戦の二ヶ月後、自殺している。「ハル・ノート」の基をつくったハリー・ホワイトは、ソ連のKGBの秘密資料を写し取ったワシリエフ文書に「ユーリスト」というコードネームで登場する。1941年6月22日からナチスと戦っていたソ連にとっては、満州国を占領する関東軍は南の脅威だった。満州から日本軍は引き上げて欲しかったのである。ハリーは1950年代の赤狩りによって謎の死を遂げている。
 
2013年11月26日



NHKオンデマンド
母と息子
3000日の介護記録


NHK
2013年
73分
 もとNHKディレクター相田洋氏が1998年から2011年まで認知症の母を介護した記録。母はソウル大学看護科卒業の看護婦だった。戦後、引き揚げて帰国。戦地から生還した夫と三人の息子を育てたが、夫は1976年に死亡。
 1998年2月に認知症を発症。初めは相田夫婦が週一回訪問、その後はテレビ電話による監視、2003年から弟と交代で付き添い、2005年に93歳の母親と同居を始める。母親は2007年に帯状疱疹で苦しむ。2008年、排便が困難になる。排便後、大便をいじるため、始末が大変だが、当時は医師やケアマネージャーからの排便の助言は無かったという。2010年に食物を食べられなくなる。2011年3月誤嚥性肺炎で緊急入院、8月11日、99歳で死亡。天寿をまっとうした人生ではあったが。
 国は在宅介護とそれを支えるシステムの充実を課題に掲げているが、山形県天童市で老人ホーム「あこがれ」を運営する大島医師は介護施設は規模が大きくないと、運営・経営はスタッフ不足に陥り、成り立たないと主張している。家族が老人の面倒を見る介護政策はそれに逆行する方策だと批判している。

 番組のコメンテーターは在宅医療を指導する立場の人々だけだった。在宅医の全国組織委員、初期集中支援システムの介護士、訪問看護士、小規模多機能型居宅介護の介護士などである。自宅で介護される老人への細かい支援体制が組まれるものの、多くのスタッフが必要になる。その費用をまかないきることはどう考えても無理そうであった。
 なお、介護保険による支援が開始されたのは2000年である。
2013年11月23日



録画
恍惚の人



東宝・芸苑社
1973年
100分
 原作は有吉佐和子のベストセラー小説。監督は豊田四郎、脚本は松山善三、撮影は岡崎宏三の白黒、音楽は佐藤勝。
 ある日、夕暮れの雨の街なかで、昭子(高峰秀子)は義父(森繁)を発見する。傘もささずに濡れている義父・立花茂造(最後まで名前は呼ばれない。「おじいちゃん」と呼ばれている)を自宅の別宅へ送り届けたのだが、夕飯どきに茂造は隣の明子の台所に顔を出し、ばあさんが起きてこない」と訴える。煮ている途中の鍋に手をつっこんで熱いままのイモをほおばる様子はただ事ではない。昭子が行ってみると義母は倒れて死んでいた。
 その日をきっかけに、家族は茂造の様子がおかしいのに気がつく。息子(田村高廣)や娘・京子(乙羽信子)が識別できなくなってしまっているのだ。孫の敏(市川泉)はなんとかわかるらしい。いままで優しい言葉のひとつもかけてもらったことはなかったという嫁の「昭子さん」だけをたよりにする毎日になってしまう。夜中に小便だの、息子を暴漢や物盗りだの見間違えてと起こされて、昭子はすっかり疲れきってしまう。
 老人グループのケアに連れていくものの、もともとなんの趣味もない義父はほかのひとと打ち解けない様子である。親しげに声をかけてくる門谷のおばあさん(浦辺粂子)に対しても、「おばあさんは臭いから、きらいですよ」と断る始末。
 足がじょうぶなだけに突然、徘徊を始めたり、飛び出して行ったりしてしまう。夫は医師から老人性痴呆という診断を聞き、睡眠薬を処方してもらったという。飲ませてみると幸いぐっすり眠ってくれた。しかし、茂造は尿をもらしてしまっていた。賊が水をかけていったと言うのだ。おむつを買いに行った昭子は自分の目が悪くなったのに気づく。老眼である。
 夜中に起きた茂造は死んだ母親の骨を食べようとしていた。睡眠薬もきかなくなってきているようだ。
 老人福祉指導委員の及川(野村昭子)が様子を見にやってくる。昭子は特別養護老人ホームについて尋ねると、及川はそこは寝たきりの老人か、排泄物を壁に塗りつけるような老人を引き取るところで、老人性痴呆は精神病の一種だから精神病院しか入れるところはないという。
 近所の主婦から門谷のおばあさんは腰がぬけて寝たきりになった、嫁はいい気味だ、若い時にいじめられたからと言っているという話を聞く。
 雨の日。茂造は「あすから敬老会へはいきませんよ。あそこはジジババばっかりで面白くないです」と発言。途中で雨の中、白いボケの花に見とれる茂造。
 夏。下宿人をおくことにしたようだ。隣室に若い大学生の恋人同志(篠ヒロコ、伊藤高)が入居してくる。昭子は茂造をお風呂に入れていた。下宿人の万札を崩している間に、茂造は風呂で溺れてしまう。肺炎にかかって医師は「あと三日ともたないだろう」と診断。姉の京子もやってくる。生死の境をさまよっている茂造はウンチをもらした。しかし、その直後に意識を回復した。
 回復した茂造は「もしもし」としか言わなくなってしまう。若夫婦は昼間は茂造の面倒をみてくれる。走ったあと、抱き合う二人をじっと見ている茂造。小鳥屋でホオジロに興味を示す。
 ある日、昭子がエミに呼ばれる。トイレに入った茂造が出て来ないのだという。トイレットペーパーを引き出し、小便器のアサガオを力任せに外してしまっていた。医者にもその理由はわからないという。
 そしてある夜、障子に便を塗りつけている。風呂場で茂造の体を洗う昭子。家じゅうウンチ臭くて・・・医師は「衰弱している」と診断。
 ある日、魚を買いに出た昭子。家に残された茂造は電話の音に驚き、雨の降る外へ迷い出た。彷徨する茂造はどこへ行ったかわからない。必死に探す昭子。茂造は公園の木の陰にいた。「おかあさん・・・おかあさん」とつぶやいていた。ネッカチーフで顔をぬぐう昭子は泣いていた。フォーカスアウトして。
 葬儀が終わったあとである。敏が「もうちょっと生かしておいてもよかったね」。京子が「くさいわね」というと敏が「くさいのがいいんだよ、おじいちゃんいるみたいでサ」という。茂造が飼っていた小鳥に「もしもし」と話しかける明子。目に涙が浮かんでいた。

 『恍惚の人』では義父・茂造の人生の過去はいっさい描かれない。介護保険での介護支援システムが導入されたのは2000年になってから。山田洋次は本作を日本の喜劇映画50選に選んでいる。

【参考文献】有吉佐和子『恍惚の人』(新潮社純文学書き下ろし作品)では昭子がボケる前の茂造にされた意地悪がかなり書かれているが、映画ではほとんど削除されている。原作では昭子は介護にかかわらない夫に対して不満をもらしているが、映画では一場面だけ。脚本が高峰秀子の夫である松山善三なので、映画の昭子は不満をほとんど口にせず、ひたすら忍の一字で耐える。その結果、映画は説明的にならずに、かえって功を奏している。隣室に寄宿して茂造の世話もすることになる若夫婦のことは原作には詳しく書き込まれているが、映画では説明的なセリフはない。
 
2013年12月16日




神奈川新聞
ヨコハマ映画祭

ベストテン


表彰式の
様子
2月13日

映画ファンが手作り
で運営している日本
映画の祭典「第35回
ヨコハマ映画祭」の
表彰式と受賞作の
上映が2日、横浜市
中区の関内ホールで
開かれた。主演女優
賞の真木よう子さんや
主演男優賞の福山
雅治さんら、旬の顔
ぶれがそろった。

(柏尾安希子)


神奈川新聞
2014年2月3日
22面
2013年11月16日


渋谷ユーロスペース

ペコロスの母に会いに行く




ペコロスの母製作委員会
2013年
約100分
 森崎東監督の新作。森崎さんは「現役最高齢の監督」とPRされている。既に8月に長崎では公開されているが全国公開は11月。
 認知症の母みつえ役は赤木春恵さん。赤木さんは『喜劇・女売り出します』の連れ込み旅館の女将役でも森崎映画に出演されていますが、ご自分では仰っていません。ま、端役の悪役なので仕方がありません。
 原作ではみつえさんが亡くなった夫や娘や友人たちとまるで生きていたときのように対話をしています。現実と幻想が往還する話です。『ロケーション』の森崎節が感じられそうな物語です(と予想しました)。公開記念としてオーディトリウム渋谷で「森崎東と十人の女たち」旧作品上映がありました。
 2013年11月16日(土)の公開初日、渋谷のユーロスペースに見に行きました。11時10分からの上映のあとに初日舞台挨拶で、森崎監督、原作者の岡野さん、出演者の赤木さん、岩松さん、松本さん、大和田さんの挨拶がありました。舞台挨拶には取材陣が大勢詰めかけていましたが、観客は50名くらいだったでしょう。

 作品は原作の精神「ボケることもわるかことばかりではない」を活かした作りになっていた。ボケ老母のみつえ役は赤木さんで正解だった。倍賞美津子さんでは見てくれが若すぎます。物語に、長崎に落とされた原爆がからんできます。
 原作には登場しない「早春賦」が効果的に使われている。
 「早春賦」は吉丸一昌が明治の暗雲をふり切ろうという思いをこめて、大正元年に作詞した傑作である。そのことが冒頭部分で語られる。昭和十八年、女学校の生徒(演ずるのは活水女学院の学生たち)が「早春賦」を合唱している。指揮をしている教師(宇崎竜童)が歌を押しとどめて話す。「時にあらずと声も立てず」という歌詞だが、この歌は希望を表すので、ここは大きな声で歌いなさい、と。この指摘は歌の精神を表す大切な内容である。
 それとともに、この映画の主題と重なる大事なテーマを示してもいる。介護が必要になったり、認知症になったりするのも新たな再生と希望であるというメッセージである。「早春賦」は女学生の歌をちえこと一緒に外からのぞいていたみつえが口ずさむ歌として繰り返し思い出される。そしてラストシーンでも口ずさまれる。

 認知症の老人をテーマにした映画には、有吉佐和子原作『恍惚の人』(1973年)がある。『恍惚の人』は義理の父親(森繁久彌)を介護する嫁(高峰秀子)の話だったが、ペコロスは母親を介護する息子の話で、しかも老母は介護施設に入居する。『恍惚の人』は時代の関係もあり、自宅介護だった。母親と息子の関係だと、どうしてもファンタジーにならざるを得ない。父親と嫁では悲劇にしかなりようがない。『恍惚の人』も見なおしてみようと思った。

 『恍惚の人』との比較で印象深いことは、認知症になった老人の過去の描き方である。『恍惚の人』では義父の過去はいっさい描かれない。それに対して『ペコロス』ではみつえの過去が描かれる。みつえの過去にあるもの、それは戦争であり、貧乏であり、原爆である。つまり、森崎さんがみつえを通して描きたかったものがそこにあるのだ。

 ETV特集「記憶は愛である  森崎東・忘却と闘う映画監督」(12月21日23:00から60分)で、自らも血管性認知症と診断された森崎さんが映画を完成させるまでの日々が記録されていた。森崎さんがこだわった場面がどこにあったかが理解できた。『早春賦』を「もっと大きな声で」と歌わせる場面や、学徒出陣の歌をみつえが口ずさみ「この歌好かん」という場面、長崎の赤線の場面、原爆が落ちた場面、みつえが自ら『早春賦』を完全に思い出し過去の人々と交感する場面。森崎さんの兄、湊の自決の意味を『キネマ旬報』の山根貞男との対談では特攻に対する批判と捉えていた。

 2014年7月2日、DVDやBDが発売された。特典ディスクには私が見に出かけたユーロスペース舞台挨拶やヨコハマ映画祭授賞式の模様が収録されていた。メイキング(76分)も収録されている。オリジナル・フォトカード(左参照)が付録として付いていた。ブックレットに脚本の阿久根さんが書いている。「森崎監督は脚本家に本を書かせながら、自分も書いていて、それを合わせて本を整えてゆくのですね。僕はそんなこと全く知らなかったので、驚きました。でも、面喰らいながら読ませてもらった森崎本は、書きかけながら、凄く面白かったんです。難解だけど、森崎ワールドが炸裂していて、名文。しかし、ほとんど原作をイメージできないほど、世界観が変わっていました。そこで、いろいろ考えました。今、僕が目にしているこの手書きの森崎本は、森崎ファンが期待している嬉しい楽しい破綻が詰まった物語であり、ファンからしたら正倉院にでも入れたいほどのお宝であることは間違いない。しかし、この難解さは、興行的なことを考えている製作委員会にとっては、狙いが外れているものだろう。だから、こうした森崎東の天才的破綻を調整する役割で僕は脚本を任されている・・・と。結局、阿久根本は、未完成の森崎本をサポートする本にしようと決めたんです」と。阿久根本が森崎本の意図をある程度汲んで書かれるようになったある日、森崎さんは脳がダメなんだ、ホンは一任すると告白したという。『ロケーション』や『喜劇・特出しヒモ天国』などはそんな森崎本に添って創られた傑作だったんだと、私は思った。

【参考文献】岡野雄一『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞社、2012年) 
 2014年1月9日に「キネマ旬報ベストテン」が発表され、『ペコロスの母に会いに行く』がベストワンになった。(2)舟を編む、(3)凶悪、(4)かぐや姫の物語。森崎さんの映画がキネ旬ベストワンになったのは初めて。おめでとう、森崎さん!
2013年11月16日



オーディトリウム渋谷
喜劇・女売り出します



松竹
1972年
88分
 森崎東脚本・監督の傑作。松竹の「女生きてます」シリーズ(と呼びたい)の第3弾。オーディトリウム渋谷で「森崎東と十人の女たち」旧作品上映で5回上映された。私は女シリーズをオールナイトで再見。
 プリント状態はまずまずだったが、暴力売春宿で夏純子が火炎瓶を構えて投げるシーンがトンでいた。ラストの岡本茉莉のアップで終わるショットもトンでいた。色おちしていたのは残念である。「浅草の唄」が流れるシーンはトンでいなかったのは幸い。
 公開以来、20回以上は見ていると思う。森崎ワールド全開の傑作。1972年当時は、「最後に寝たものが勝ち」というセックス倫理がずいぶん突出したものに思えて、たじたじとしたものだったが、アダルト・ビデオ全盛の今日、その倫理はすんなり受け入れやすくなっているように思えた。
 もっとも、植田峻演ずるすし職人がセックスはさわることとしか理解していないという設定は、いまの時代ならアダルト・ビデオを見ていないことになって、非現実的に感じられるかもしれないが、この設定は1972年当時も非現実的ではあった。
 リンク:森崎東アーカイブズより、『喜劇・女売り出します

 第4弾「女生きてます・盛り場渡り鳥」のプリント状態は良好だった。上映回数が少なかったんだろうなあ。題名から「喜劇」という文字が無くなってしまっただけではなく、この映画にはお座敷ストリップ場面は皆無。新宿芸能社の場面も少なく、初子(川崎あかね)の暮らす貧民ドヤ街や尊臣(なべおさみ)の親が経営する連れ込みホテルが主な舞台になっている。医者(財津一郎)に「色きちがいの母親」で初子の男アレルギー(蕁麻疹)の原因と指摘される春川ますみの怪演が印象的だが、撮影時に春川ますみは自分であの厚化粧メーキャップをして現れたそうである。すさまじい女優根性。藤原審爾の原作『わが国おんな三割安』からは「いただき初子」しか採られていない、ほとんどオリジナル作品。脚本家の高橋洋氏は、『離婚・恐婚・連婚』上映後のトークショーで「ほとんど破壊されちゃった」、でも「いちばんイケてる」作品と評価。公開当時、白井佳夫氏はこれぞ底辺の民衆といった教条主義的な描き方は疑問と評価していたが、森崎さんはむしろ<極端化>した表現を狙っていた、春川ますみで言えば<性欲モンスター>のような表現を面白がっていたのではないだろうか。
 リンク:森崎東アーカイブズより、『女生きてます・盛り場渡り鳥

 一見、“貧しい”、“暗い”、“汚い”、“底辺の”、“”世界を描いて、人間の“豊かな”、“明るい”、“美しい”、“高貴な”、精神世界をあぶり出すという、森崎ワールドの全面展開が、ここにはあります。
 それにしてもよくぞこれほど“過激で”“非商業的な”映画が作れましたね。1970年代当時の商業映画の懐の深さが感じられます。1972年の森崎映画は『喜劇・女売り出します』『生まれかわった為五郎』『女生きてます・盛り場渡り鳥』と豊作でした。
 
2013年11月16日



オーディトリウム渋谷
生まれかわった為五郎




松竹
1972年
95分
 森崎東脚本・監督の怪作でソフト(ビデオやDVD)がなく、ほとんど見ることのできなかった作品(日本映画専門チャンネルで一度放映されたことがある)。今期、オーディトリウム渋谷で「森崎東と十人の女たち」旧作品上映があり、何度か上映された。プリント状態も良好でほとんど上映されなかったんだなあと感慨深いものがあった。私は公開以来の再見。森崎ワールド全開の傑作で、キイワードを<赤字>で示そう。
 主役はハナ肇演ずる為五郎というよりも、ダメ・サラリーマン犬丸三平を演じている財津一郎と、故郷の寒村を守ろうとしているシカ子を演ずる緑魔子。
 ハナ肇は森崎脚本・山田洋次監督『喜劇・一発大必勝』の御大(おんたい)同様、傍若無人、迷惑千万で観客の共感を得にくいキャラクターになっている。それよりも女房や子供に頭が上がらず、セールス・トークも下手で売り上げの上がらぬダメ・セールスマン、気が弱く為五郎の勢いに乗せられて蒸発しかけ、キャバレーで女を買ってみたものの、身の上話を聞いてすっかりその気をなくす<弱者>に観客の共感がある。三平はシカ子の父親(殿山泰司)に頼まれるとカタギになる交渉に同伴してしまう<小心者>で、シカ子が歩道橋から身投げしようとする(勘違いだが)と脱兎のごとく走って止める<善人>、特攻隊の隊員が砂浜に埋めた拳銃でヤクザと戦おうと息巻くものの酔いつぶれてしまうのである。
 一方、為五郎は花田組組長の前で刃傷沙汰を起こすも狂言とバレて盃を受けようとする。組長(三木のり平)はジョッキ一杯の小便を出すと、それを飲み干して組員になる。しかし、為五郎にとって組員は世をしのぶ仮の姿、最初からヤクザ稼業に精を出すつもりなどさらさらない。つまり<ニセモノ>である。その実、村民からションベン飲んで組員になったニセモノ・ヤクザと蔑まれると、あれはションベンに見せかけたビールだったと<虚勢>を張る。花田組に捕まり、簀巻きにされて海に投げ込まれて、瀕死になった為五郎を救ったのは、祖母(北林谷栄)から口伝で焼酎を飲んで裸で温めれば死んだ男も生還すると聞いていたシカ子だった。シカ子に好意を持っていた三平は、裸で肌を合わせる二人を見て、絶望する。シカ子は為五郎を愛していたわけではないのだが。一方、為五郎はシカ子に愛されているのかもしれないと一瞬、勘違いする。
 大組織が漁民を立ち退かせ、コンビナートを建設する。しかし、それは<虚飾の繁栄>だ。『街の灯』の遠景や、『生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言』にも描かれていた、非人間的な人工の街が、ちっぽけな人間を呑み込む悲劇。

 リンク:森崎東アーカイブズより『生まれかわった為五郎』
 
2013年11月13日



東京12
亜愛一郎の迷宮推理



東京12
2013年
95分
 原作は泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズ。原作では亜探偵はアマチュアの植物学者だが、本作ではカメラマンに設定されていた。脚本は真柴あずき、演出は中前勇児。テレビドラマ。
 宝飾デザイナーの鳳陽司(東幹久)主催の発表会でネックレスの光り方と客の反応からイミテーションを見抜いた亜(市川猿之助)は、なにかと週刊誌エブリの新人編集者・小西茜(佐藤江梨子)と一緒に仕事をすることになる。イミテーションをつけさせられたモデル・柚月ルカは数日後の朝に刺殺された。ルカとトラブルとなっていた鳳は容疑者となる。柚月は粥谷東巨(竜雷太)の撮影でヌード写真集を出す予定だった。粥谷には事件当時のアリバイがあった。しかし、いつも一緒に散歩しているチーフ・アシスタント黒瀬美也子(有森也実)にはアリバイがなかった。黒瀬が遺書を残して自殺し、粥谷の若いアシスタント、永井詩織(朝倉あき)は遺書の筆跡を美也子の筆跡と断定する。亜探偵は粥谷の写真集がカラーから白黒に変わったことに疑問を抱く。粥谷の写真集『枠の外の真実』とはいったい何なのか。
 粥谷にはなにか秘密があるらしい。柚月ルカの事務所の倉本(迫田高志)も、粥谷の秘密に気づいたようである。真相はいったいどこにあるのか。週刊エブリの編集長に草刈正雄、亜の下宿の大家に平幹二朗。
 カメラマンの視点で写真を見る、例えば対象との距離感が使用するレンズに表現される、プロの写真家は同じ構図で毎日写真を撮るといったことが謎解きのヒントになっていた。
2014年1月18日




CS日本映画専門
2012年5月
スチャラカ社員



松竹
1966年
80分
 日本映画専門チャンネルで「ハイビジョンで甦る陽の当らない名画」のひとつとして放映された。沢田隆治が「てなもんや三度笠」と同時期に手がけていた昼の関西喜劇人総出演の喜劇テレビドラマの映画版。監督は前田陽一。
 脚本にも前田陽一さんが協力しているので面白さに期待したが、まったくのハズレだった。都田物産の女社長ミヤコ蝶々が金策に走り廻るので、社員たち(長門勇、中田ダイマル・ラケット、ルーキー新一、新藤恵美)とまるで接点がないのである。ミヤコ蝶々を書き割り相手にひとり芝居させて、いったいどう思しろくしようというのか、見当違いも甚だしい。
 ギャグも当時の一時的な流行に頼った言葉尻程度のものなので、いま現代ではなんの力もない。中田ダイマル・ラケットの掛け合いも微温的で、シャレにもなっておらず、まったくキレがない。ルーキー新一の狂騒的な騒ぎっぷりは、ただうるさいだけでギャグにもなっていない酷いもの。1966年はテレビ版の終盤のころなので、藤純子が事務員で出演しているかと思ったが、映画版は新藤恵美に代わっていた。新藤恵美はギャグを打つわけでもなく健闘してはいるが、つぶれそうな鍋釜を扱う会社を古道具の物品リース業で再建を図るという設定がチープで、勝負にならない。前田陽一らしいところのない凡作。都はるみが特別出演。はるみショーのそっくりさんのつもりでスカウトしてきたがホンモノだったという設定なのだが、口パクのショーの設定でテープが切れたのに歌手はちゃんと歌ってホンモノと気づくという趣向は有り得ない。カラオケのない時代、テープが切れたら伴奏のオケが無くなるはずではないか。あまりにもいい加減な作りであった。石上三登志さんが放映に当たってミヤコ蝶々の貫禄を賞める推薦文を書いているが、当たっていません。これほど不出来な作品を賞めてはいけません。
2013年12月11日



DVD
ビデオ
てなもんや三度笠
(テレビ版)




大阪朝日放送
1967年~1968年

各30分

 澤田隆治がオープンリールの家庭用ビデオテープに保存していた終盤のテレビ録画作品約50本から10本をDVDに起こした貴重な資料が「爆笑傑作集」となっている。香川登志緒作。澤田隆治演出。最終回は309話。
 第268話「月の鰍沢」(1967年6月18日放送)。鰍沢で山賊を営む熊吉(平凡太郎)には娘(西尾三枝子。歌不詳)がいた。折しも取り掛かった時次郎と珍念は山賊に身ぐるみはがされ、胴巻きの百両を取られようとするが、潮の三次(三田明、「カリブの花(美しいエルヴィラ)」「また逢う日まで」を歌う)に助けられる。時次郎に恨みをもつ河内山宗俊ら(三波伸介、戸塚睦夫、伊東四朗)、山賊の子分(横山やすし、西川きよし。漫才コンビで「てなもんや」初出演)、山賊に身ぐるみはがされるスリ夫婦(京唄子、鳳啓助)。
 第275話「府中の親切」(1967年8月6日放送)。府中の寺で癪を病む老婆(堺駿二)がいた、鼠小僧(南利明)は取り合わないが、実は老婆は老舗の茶問屋の隠居で娘(仲宗根美樹。歌「恋しくて」)の婿探し。金銭目的でない親切な若者を探していた。通りかかった時次郎と珍念、老婆に声をかける。あまりの貧相にくじけそうになるが背負って医者へ連れて行こうとしたとき、飴屋に変装した鼠小僧から偽物と聞かされ怒る。女中(桜京美)に真相を聞かされ、娘にモーションをかけるが後の祭り。写真家(財津一郎)も振られるが、女中に求婚される始末。財津が歌を披露する。最後に財津が水桶に落ちるギャグがある。
 澤田隆治のマル秘ウラ話1「放送時刻が18:00からだったので天気の良い日は視聴率が下がった。裏番組は茶川一郎の「一心茶助」」。
 第278話「藤枝の汁粉屋」(1967年8月27日放送)。武士が汁粉屋に身を落としている。汁粉屋の主人は若殿様(平井昌一)で、店員は漫画トリオ(横山ノック・フック・パンチ)。店員のひとりと恋仲の質屋の娘がジュディ・オング(歌は「たそがれの赤い月」)。ラストで写真屋の桜(財津一郎)は記念写真を依頼される。
 第279話「島田の刀工」(1967年9月3日放送)。刀鍛冶の三助(平参平)の息子(花紀京)は父親に隠れて百姓(横山やすし、西川きよし)の包丁や鎌を研いでいた。三助は五十両の刀を一両で時次郎に売るものの、息子の手前、五十両で売ったことにしてくれと頼む。やくざ(ちゃんばらトリオ)と用心棒(玉川良一)が三助から買った刀が出入りの時に折れたために親分が討たれた、親分の仇と三助を斬りに来る。応戦する時次郎の刀も途中で折れる。唐辛子売りで森進一がゲスト出演(歌は「女の岬」。話にはからまない)。
 澤田隆治のマル秘ウラ話2「稽古が白木みのるの吉本の舞台が終わってからだったので午後10時から(午前2時まで)。続いて午前8時からゲストが入ってリハーサル、収録。時間のない緊張感が集中力を生み出した。藤田・白木コンビに途中からコンビを壊すキャラクターとして加わってもらった(もと相撲取りという設定の)香山武彦、そして(前半は丹下左膳のパロディ、後半はもと浪人の写真家という)財津一郎の役割は貴重」。
 第286話「舞阪の助太刀」(1967年10月22日放送)。渡し舟に泊まるしかない河内山(てんぷくトリオ)に対して、時次郎たちトリオは宿(大江将夫、大坪みと史)へ泊まろうとするが、二人分の宿賃しかない。先に宿泊していた鼠小僧が金を工面。泊まれることになる。三月前までは目明しだった鉄五郎(由利徹)も登場。父の仇を討とうとするお春(都はるみ。歌は「恋と涙の渡り鳥」)に加勢しようとする時次郎だったが・・・・。放送禁止用語処理が一箇所<大江将夫が大坪とみ史の容貌を悪く云う言葉>が伏せられている。たぶん「おかちめんこ」とかその類。
 第291話「藤川の水車小屋」(1967年11月19日放送)。えんまの吉兵衛(上田吉二郎)に金を借りた次郎八(上方柳次)。期限が来たと借金を取りに来た子分たち(海野かつを、ちゃんばらトリオ)は十両の返金を求める。借金は一両のはず。借金のかたという娘のおきみ(恵とも子)を渡すまいとする女房(上方柳太)に助太刀する時次郎たち。いったんは追い払ったものの大勢を引き連れて仕返しにきた吉兵衛一家に負けそうになる。そこへ助っとに現れたのが佐久の鯉太郎(橋幸夫。歌は「佐久の鯉太郎」「若者の子守唄」)。吉兵衛一家に草鞋を脱いだ浪人(有島一郎)も証文の偽造を見破って鯉太郎に加勢する。
 澤田隆治のマル秘ウラ話3「東映と東宝で映画化された。家庭用ビデオテープが1本1万円、40本を録画」。
 第293話「鳴海の別離」(1967年12月10日放送)。鳴海のしぼりを作る染物屋の雁金屋文左衛門(芦屋雁之助)は昔盗賊だった。その一の子分小助(芦屋小雁)もいまは染物屋。娘お京(桂京子。歌は「田舎育ち」)に過去を隠していた。職人には広次(久保浩。歌は「無情のギター」)とちび太(芦屋雁平)がいる。文左衛門の過去に気づいた河内山たち(てんぷくトリオ)は口止め料を要求する。時次郎たちは間にはいって右往左往。
 第294話「熱田の絵師」(1967年12月17日。この日からカラー放送。ただしビデオ収録は白黒で行われている)。彦作(島和彦。歌は「君よ泣かないで」)は写生に夢中の若者。姉のおせん(小桜京子)と恋人のお糸(伊東ゆかり。歌は「あなたの足音」)は彦作にまともな職業について欲しいと思っている。そこで、桜富士夫(財津一郎)を有名な絵師に仕立てて、彦作の絵にダメ出しをしてもらおうと計画。首尾よくいきそうになったところが、二世安藤広重(南都雄二)が出現、彦作の絵の才能を認めて東京へ連れていき弟子入りさせることとなる。やくざ(若井はんじ・けんじ)が使うことばが放送禁止用語でひとつトンでいる。
 澤田隆治のマル秘ウラ話4「マーチャンダイズという考え方がなかった時代である。前田製菓のおまけとして双六やスピードくじ、「てなもんやクッキー」などの新商品が作られたが、儲かったという話は聞いていない。日の丸文庫での漫画化(山根赤鬼画)、マンガ雑誌でのマンガ化(水島新司画)、ソノシート、めんこなどが番組の宣伝として作られたが、多角的な商品化で儲けるという考え方が当時はなかった」。 
 第297話「二見の乙女」(1968年1月7日放送)。夫婦岩のそばの神社の神主(益田喜頓)を記念撮影しようとしたところへ、見世物師の娘・おこま(山本リンダ。歌は「ボーイ・フレンド」)と付き人(横山やすし、西川きよし)が登場。鯨を捕獲した後に亡くなった父親の遺志を受け継いで熊野へ鯨を取りに行く、祈祷を依頼される。意気に感じて写真師・桜は彼らの後を追う。珍念が見世物師が置き忘れた<びっくり箱になにかいう言葉>がカットされている。
 第300話「風流おうむ石」(1968年1月28日放送)。小屋での話が岩を通して聞こえるおうむ岩。おこま(山本リンダ。歌は「ミニミニ・デート」)たちと桜が前半、後半は劇の女座長(島倉千代子。歌は「大阪夜曲」)と時次郎・珍念のドタバタ。
 澤田隆治のマル秘ウラ話5「ゲスト出演者として第1回には関西喜劇人協会の会長・伴淳三郎に出演してもらった。初めのころは関西喜劇人はあまり出演していないが、次の番組も裏番組も関西喜劇人出演番組だったのでカケモチ出演できなかったため。後半では新人歌手の登竜門として定着した。例えば西郷輝彦が鬘をつけて着物を着てデビュー曲「星のフラメンコ」を歌うというようなショーは初期のてなもんやファンには不評だったが、若い相には受けて視聴率を押し上げた。デビュー当時の歌手たちの演技は緊張のため生硬だが、当時のテレビ出演の状況を反映している」。
 1987年~88年にかけて澤田隆治の録画した「テレビ版」がビデオになっている。このなかで「爆笑傑作集」に収録されていない回が8話あり、中古ビデオを購入できた。最初はどれも画像が映らず、見ることができなかったが、VHSレコーダーのヘッドクリーニングを繰り返したところ、再生できた。
 コミナミ(株)ビデオ・コレクション「てなもんや三度笠 永久保存版」Vol.1は三話、DVDの「爆笑傑作集」に収録されている回ではなく、澤田隆治が録画していた第218話・252話・253話が収録されているというテープです。
 第218話「奥入瀬の襲撃」(1966年7月3日放送)は青森の奥入瀬で山賊たちが登場、歌を歌って登場の孫太郎虫売り(北原謙二)に無心する始末。山賊は時次郎と珍念を恐喝する。山賊に小判を与えて二人を救ったまゆみ(野川由美子)は山賊たちにさらに大砲を運ぶ幕府方の役人たち(天野新士、関敬六、三角八郎)を斬ることを依頼する。初登場の蛇口一角(財津一郎)は山賊と一緒に登場するものの、金で人斬りには加勢しないという。大砲を運んでいた坊主でく(田中淳一。森川信の付き人)はまゆみの仲間だった。山賊に襲われた役人たちは大江新三郎(天野進士)の活躍でなんとか大砲を護った。怪力のでくがいなくなったので重い大砲を運ぶのに難儀する。
 第252話「柳橋の乱戦」(1967年2月26日放送)舞台は柳橋。料亭に女将(正司歌江)や芸妓(照江・花江)として働くかしまし娘は、鼠小僧(南利明)や時次郎たち、山岡鉄太郎(里見浩太朗)を座敷に上げる。彰義隊隊長・天野八郎(芦屋雁之助)、加山(芦屋雁平)らがやって来て争いとなる。危うく斬られそうになった一角をまゆみ(野川由美子)が拳銃を構えて自分に始末をつけさせてくれと頼む。柴田家復興を目論むまゆみ姫は一角が邪魔をしていると誤解していたのだった。そこへ柴田家再興のお達しが到着。一同は和解する。
 第253話「本願寺門前」。浅草本願寺前の彰義隊の屯所前。隊士・加山(芦屋雁平)が見張りをしているところへ時次郎ら登場。続いて一角と篭に乗ったまゆみ姫も登場。篭かき役は金田銀八と千葉信男。姫は隊長に面会に来たというものの、あいにく隊長(芦屋雁之助)は留守。手土産の酒を置いていく。薩摩の益充(玉川良一)が屯所へ放火に来る。時次郎らがそれを止める。山岡鉄舟も西郷へのとりなしを頼む。争った挙句、益充は山岡の頼みを聞く。彰義隊隊士が帰って来て乱闘が続く。
 252話・253話には幕末の争乱が織り込まれている。Vol.2には「上野の戦争」が収録されているはず。 
 Vol.2は、DVDに未収録の三話が入っている。第255話「上野の戦争」(1967年3月19日放送)、官軍と幕臣・彰義隊の戦い。幕府軍には彰義隊のほか、大砲奉行。林(丸井太郎)や隊員・尾花久助(関敬六)、大江新三郎(天野新士)らが加勢するものの、大砲を撃つとお返しに官軍の爆弾が飛んで来てあちらこちらに爆弾が落ちる。山岡鉄太郎の制止も効を奏さず、とうとう両軍は全面戦争となる。一角やまゆみは怪我人の救護に駆けつける。いまや柴田家の再興も無い。敵の官軍(殺陣師の的場達雄)に攻められ、幕府軍はみな斬られていく。一角が一矢を報いるが・・・時次郎と珍念は赤十字に変装、逃走を図る。珍念は「戦争反対」を唱えている。てなもんや東北編の最終篇。
 第258話「日野の悪玉」(1967年4月9日放送)。てんぷくトリオが登場。彰義隊の回向金として身延山へ奉納する金子百両をことづかった時次郎と珍念。時次郎の懐の百両を狙うてんぷくトリオ。目明し役は獅子てんや・瀬戸わんや。歌手は水原弘(歌は「君こそわが命」)が浪人・片岡直次郎として登場。てんぷくトリオに取られかけた百両を直次郎が取り返す。骨折り賃として自分が金を取ると言った直次郎だったが、彰義隊の回向金と聞いて、直次郎は時次郎に金を返す。
 時次郎と珍念、登場の歌、“すっとんトロリコ、すちゃらかチャンチャン、(すちゃらかチャンチャン)。ひとつ、東に朝日が昇りゃ、(昇りゃ)、パットはね起き、ふとんをたたみ、顔を洗って、(マグサ食う)。ふたつ、二人は仲良しこよし、(こよし)、あにいうれしや、わしが転べば、(ふんでいく)。てなてなもんや、てなもんや、親馬鹿チョイチョイ、てなもんや”
 第277話「岡部の傍杖」(1967年8月20日)。目明しの目玉の茶助(茶川一郎)と子分(横山アウト)に女スリお銀(京唄子)と千太(鳳啓助)が捕まってしまう。通りかかった時次郎たちが正体をばらしてしまったからだった。財津一郎が桜富士夫という写真師でてなもんやトリオに参加。お銀は腹いせに時次郎をお尋ねものの蹄の馬吉だと主張する。逮捕されそうになるが、なんとか逃げる時次郎たち。ちょうど若侍(阿木譲。歌は「白樺の恋」?)が通りかかるので、縛られているお銀は顔の長いやくざに金取られたと訴え、縛られた縄を外してくれるように頼むが、侍は財布を取り戻すと宣言して行ってしまう。時次郎は鼠小僧に自分の正体を証明してもらおうと依頼するが、根が泥棒の鼠小僧は役人とは会いたがらない。証明を頼んだお銀たちの縄をとくと体よく逃げられてしまう。三人が捕り方に囲まれたとき、桜富士夫は催眠術で捕り方を眠らせてしまう。ただし、催眠術の解き方を知らないそうで、捕り方は眠ったまま。時次郎はてんぷくトリオに二分を渡し、正体の証明を頼む。眠りから醒めた捕り方は三人組と勘違いしててんぷくトリオを捕えようとする。しかし、若侍が戻ってきて時次郎を盗人と勘違いする。
 Vo.3は、第278話「藤枝の汁粉屋」、第279話「島田の刀工」、第280話「大井川の義憤」。第278話・第279話はDVDに収録済み。
 第280話「大井川の義憤」(1967年9月10日放送)は渡し料の値上げを企む悪代官に挑む時次郎。「タクシー代値上げ反対」という世相を反映。渡し人足たち(桑原和男、秋山たか志、岡八郎ら)をたばねるヒゲ虎(笑福亭松之助)は増水につき渡し賃倍増の立札を立てる。日照り続きなのに増水とはといぶかしむ人足たちに、ヒゲ虎は役人に話がしてあるからと言い含める。時次郎は道中の途中で出会った鳥追いのおけい(松山恵子。歌は「惚れちゃっちゃ、愛しちゃっちゃ」?)と一緒に登場。おけいは立札の文句に怒る。時次郎も調子を合わせる。やや遅れて到着した珍念と桜も値上げは理不尽とヒゲ虎に意見するが、ヒゲ虎はひるむ様子がない。役人・赤井(芦屋雁平)は倍額の百文を支払って肩車されて渡ってしまう。おけいが具申した役人(沢村宗之助)は下役の五十嵐(人見きよし)がしたことだと目をつぶる。幕府の監察官が見回りに来るという情報が入り、あわてて立札は回収されるが、尾張のシャチ彦と名乗る監察官はニセモノの鼠小僧(南利明)だった。正体を時次郎に暴かれてしまう。万事窮す。そこへ、人足たちが大挙して現れ、理不尽なヒゲ虎や役人たちに反旗を翻す。
 コミナミ(株)ビデオ・コレクション「てなもんや三度笠 永久保存版」Vo.4は、第284話「見附の歌くらべ」と第293話「鳴海の別離」の二話を収録。第293話はDVDに収録済み。
 第284話「見附の歌くらべ」(1967年10月8日放送)は、通りをはさんで何かといがみ合う「うどんや」。「かにや」の女主人おちょき(森川信)に誘われて店に入ろうとしたてなもんやトリオだったが、女装した「さるや」の主人(牧伸二)の引き込みにつられて時次郎と桜はさるやへ。珍念はかにやの婆さんのために八木節で即席のCMソングを披露。ザ・ピーナッツ(歌は「恋のフーガ」)をかにやに誘うことに成功する。話を聞いた時次郎、桜(歌は「恋はやさし」)、鼠小僧(歌は都々逸)は歌を披露するものの、ザ・ピーナッツの二人をさるやに惹きつけることはできない。娘ふたりはうどんやの和解を提案、いったんは仲直りしそうだったが、看板の上下や社長職をめぐって再び争う二人。トリオも鼠小僧もうどん粉のかけあいに巻き込まれる。
 
【参考文献】沢田隆治『決定版 上方芸能列伝』『決定版 私説コメディアン史』(ちくま文庫)、『笑いをつくる』(NHKライブラリー)
 てなもんや三度笠研究所によると、東海道篇・中仙道篇・山陽九州四国篇・北陸東北篇・東北大砲シリーズ・甲州篇・再び東海道篇・再び東海道鯨篇と続く。1962年5月6日が第1話放送。映像資料が残され販売されたのは東北大砲シリーズの途中の第218話(1966年7月3日)から。大映の傑作選ビデオや東阪企画の決定版ビデオには今回見ることのできなかった話が含まれているが、中古ビデオ・テープの取り扱いがない。
2013年12月11日



DVD
続・てなもんや三度笠


東映
1963年
76分
 東映の劇場版映画第2作。脚本は。監督は一作目と同じ内出好吉。脚本は沢田隆治・鈴木則文、撮影は羽田辰治。白黒作品。1963年10月公開。第1作よりはテンポよく、ややましな出来。
 伊豆は下田をしきる東屋と西屋は仲が悪い。一触即発のにらみ合いも沖に停泊する黒船の爆弾の試し撃ちで中止。東屋(大宮敏光)の娘・お雪(西崎みち子)と、西屋(清川虹子)の息子・新太郎(坂口祐三郎.新人)は恋仲だった。時次郎と珍念は,大飯食らいで相撲部屋を破門された駒下駄の茂兵衛(香山武彦.美空ひばりの弟,当時20歳.39歳で芸能界を引退,42歳で心不全で逝去)を仲間に引き入れ、東屋に草鞋を脱ぐ。しかし、飯もろくに食わせず働かされる東屋に愛想を尽かして、西屋に鞍替えする。けれども、待遇にたいして変わりはない。
 東屋の用心棒・平手三十郎(吉田義夫)は黒船の艦長フラッシュ(E・H・エリック)がお雪に惚れているのをエサに副艦長ストレート(ジョージ・ルイカー)と共謀、爆弾を手に入れて、町の権力を握ろうと画策していた。お雪が三十郎にさらわれたと知った二人は、新太郎と黒船に乗り込む。丸い爆弾を時次郎と珍念がなんだか分からずにボーリングの球のようにゴロゴロとあちらこちらに転がし、船員があっちでもこっちでも恐れおののくギャグがある(長すぎる。結局、爆発しない)。
 銃殺刑寸前に時次郎たちを助ける領事ハウスに花菱アチャコ(映画『二等兵物語』などで関西喜劇人協会の重鎮だが、この頃はもはや老齢のため勢いがない)、三十郎の手下のウェイターにトニー谷、茂兵衛の兄弟子・浴衣山に大村崑、歌手・鶯姉妹に双生児の歌手の佐々木姉妹。
 
2013年12月10日




DVD
てなもんや三度笠


東映
1963年
81分
 「てなもんや三度笠」のテレビ初放送は1962年5月。それからほどなくして東映で製作された劇場版映画第一作。原作は香川登志緒、脚本は野上龍雄、監督は内出好吉。撮影は羽田辰治、照明は上田耕太郎。白黒映画。
 珍念が寝小便たれの小僧扱いされているので、あまり面白くない。テレビでは大阪から出発して東海道を東進していく。映画は男をあげようと清水次郎長を斬ろうとするやくざものが清水港を目指すという設定になっている。次郎長役が老齢の花菱アチャコで、これまた勢いがない。あんかけの時次郎が剣術の達人に祭り上げられてしまうのも現実感がない。脚本が散漫な出来になっている。
 次郎長違いの娘おみつ(西崎みち子)には本気で惚れられる時次郎。宿場町のヤクザの組長がトニー谷、それを上回る女組長が若水ヤエ子、大阪の奉行(大泉晃)から十手捕縄を預かる三平(平三平)、黒手一角(堺駿二)、次郎長の子分・岩松(香山武彦)、芸妓(茶川一郎)。本作のプロデューサー俊藤浩滋の娘・藤純子を澤田隆治が「スチャラカ社員」にスカウトした。
2013年12月7日




DVD
てなもんや幽霊道中



東宝
1967年
90分
 東宝劇場版映画第三作は第一作の松林宗恵監督。脚本は笠原良三・澤田隆治。「昭和の爆笑喜劇」(講談社)のNo.15。加賀美藩の藩主・正家(谷啓)が亡くなり、家老筆頭の大杉源蔵(遠藤辰雄)は自分の息子を藩主にしようと画策、18年前に正家が腰元に産ませ、遠くにやったたまゆみ姫が出没すると具合が悪い。雪江(野川由美子)の父はまゆみ姫を探しに出かけたが、家老は刺客を放つ。陰謀を立ち聞きした雪江は父親の後を追う。途中に時次郎と珍念に会い、通行手形のないところを「勧進帳」を基に助けてもらう。しかし、刺客に追いつかれて、父親は斬られ、雪江は谷底に落ちてしまった。
 宿場の二人の前に現れたのは雪江の幽霊、ではなかった命拾いした雪江だった。訳を聞いた二人は雪江と一緒にまゆみ姫を探す旅に同行。藩の若者、近藤清之助(田村亮)が追いついて、雪江とは相思相愛の仲らしい。雪江に執心だった時次郎は面白くない。二人の前に現れたのは旅芸人の一座。座長(久保奈穂子)と看板女優・小春(恵とも子)を中心とする一座だが、興行に因縁をつける勘兵衛一家(横山ノックほか)。時次郎と珍念は助けに入る。そこへ見回り同心・武十郎(財津一郎)が登場、喧嘩を止める。勘兵衛一家から賄賂をせしめて、お咎めなし。娘歌舞伎を見物、舞台に入れ込んだ武十郎は芝居であることを忘れて熱中してしまう。芝居に熱中した観客の懐を狙ったのは大泥棒の鼠小僧(南利明)。時次郎が鼠を追いかけると、鼠は盗んだ財布を全部返して来た。贋金を検める仕事をしているのだという。幕府隠密の森山(玉川良一)からの密命による仕事だった。
 二人は一座から感謝のもてなしを受ける。その後、一座と別れた二人、雪江たちと会って小春こそが藩主のご落胤・まゆみ姫であることを教えられる。一座に追いついてみると、女たちは蛇ケ谷権現に潜む悪者どもにさらわれ、男たちは殺されていた。蛇ケ谷権現に向かう四人。さらに隠密と鼠も贋金作りのアジトを探っていた。地下に本拠地を発見、大立ち回りの末に女たちを救出。加賀美藩に戻って、まゆみ姫をたてて、家老・大杉の野望を砕く最後の作戦が始まる。
 松林監督の視点はバストショットからロングショットで、喜劇の立ち位置がブレることのない安定したもの。殺陣は派手な立ち回りで見せ場が多い。雪江も振袖姿で小太刀を奮う。
 ザ・ドリフターズは安宅の関所の役人たちに扮する。
 
2013年11月10日

DVD
幕末てなもんや大騒動

東宝
1967年
 東宝劇場版映画第二作は古沢憲吾監督。脚本は笠原良三・澤田隆治。「昭和の爆笑喜劇」(講談社)のNo.13。京都の証城寺を訪れた時次郎と珍念は、勤王の志士・坂本龍馬(財津一郎)と出会う。しかし実は龍馬のニセ者。時次郎から門弟料をもらうと遁走した。
 二人は長州藩のおゆき(磯村みどり)から預かった密書を龍馬に届けるために尾張へ向かう。龍馬は西郷(谷啓)と薩長連合の会談を持つ予定だというのである。尾張に渡る船で、龍馬と西郷に出会うものの、彼らはニセ者だった。ニセ者の二人は、駆けつけた新選組の近藤勇(芦屋雁之助)と隊士(ザ・ドリフターズ)に捕まった。その隙に本物の龍馬と西郷は会談を終わらせていた。
 龍馬の周辺を見張る芸妓・駒菊に野川由美子。桑名の村田屋一家の娘・お桂に伊東ゆかり、その恋人・源助に人見明。
 「てなもんや」シリーズは、藤田まことと白木みのるの掛け合いが絶妙!
2013年11月7日




DVD
てなもんや東海道


東宝
1966年
 テレビの人気番組「てなもんや三度笠」の東宝劇場版映画第一作。渡辺プロと共同企画。監督は松林宗恵。脚本は長瀬喜伴・新井一・澤田隆治。「昭和の爆笑喜劇」(講談社)のNo.11。あんかけの時次郎(藤田まこと)と珍念(白木みのる)の掛け合いが絶妙。河原で出会ったお染(梓みちよ)は檀家総代の父親がふらふら教の教祖(上田吉二郎)に嫁がせられそうになっていた。教祖と用心棒の丹下完膳(田中春男)のインチキを暴いた二人は村人に感謝され、珍念は五里巌寺の住職へと祭り上げられる。時次郎は早川の佐太郎(谷啓)・おみつ(野川由美子)と再会するが、二人はひどい貧乏。そこへ清水の次郎長(ハナ肇)が子分たち(藤木悠・なべおさみ・長沢純)わらじをぬぐ。時次郎と佐太郎は次郎長の着物を質に入れて博打で草鞋銭を稼ごうとするが失敗。やっこの小万(浜美枝)は時次郎を借金のかたにとっていた。街道筋の親分・安濃徳(伴淳三郎)の助けを求めようと時次郎。途中で安濃徳の義妹お袖(沢井桂子)を浪人から助ける。時次郎は歓待されるが、神戸の長吉(石橋エータロー)への縄張り譲渡をめぐって、荒神山の争いが始まっていた。吉良の仁吉(犬塚弘)は安濃徳の娘で恋女房のおきく(中真千子)を離縁して実家へ返していた。喧嘩を止めようと珍念は荒神山大福寺の使僧に扮して調停を謀ったが、最後に時次郎が現れて珍念の正体をばらしてしまい、失敗。安濃徳も本心は争いたくない。そこを見越して時次郎は和平の使いに出る。途中で小万に会い、騒ぎに乗じて縄張りを手に入れようとする角井門之助(阿部九州男)の策略を聞く。時次郎と小万は争いを止めようと荒神山へ急ぐが、とき遅く喧嘩は始まってしまった。
2013年10月26日



You tube
裁きの重み


東海TV
2006年
50分
 副題に「名張毒ブドウ酒事件の半世紀」とあるドキュメンタリー。プロデューサーは大脇三千代。再審決定がなされた直後に制作されたドキュメンタリーだが、その後上級審で再審の判断が取り消された。裁判員裁判制度が始まる3年前の作品である。
 自白による証拠で死刑囚とされた奥西勝被告はブドウ酒に混入した農薬をニッカリンTと自供していた。しかし、鑑定ではペークロで分析されたニッカリンTとブドウ酒の結果が異なっていた。そのことに気付いた弁護士は鑑定をやり直そうとしたが、あいにくニッカリンTは20年前に製造中止になっていた。若い弁護士がインターネット上で農薬の探索を呼びかけたところ、農協で古い農薬を回収していることが分かった。調べていくうちに回収品から未使用のニッカリンTが発見された。これを分析したところ、毒ブドウ酒の農薬はニッカリンTではない、別の農薬であることが分かった。凶器とされた証拠が違っていたのである。再審開始への重要な新証拠であった。しかし、三重県名張の人々は奥西が犯人だと断定する。彼が真犯人でないとすると、真犯人は別の人間だからだ。冤罪で死刑判決を受け、再審で無罪を勝ち取った斎藤幸夫氏も釈放後、宮城県で生活保護で暮らす様子が記録されていた(彼は取材途中に75歳で死亡した)。
 名張毒ぶどう酒事件に関しては江川紹子のルポがある(岩波現代文庫)。
2013年10月25日




DVD
愛のむきだし



ファントム・フィルム
2009年
237分
 園子温監督の原案・脚本・監督の映画。盗撮青年が妹を新興宗教から救った点が実話である。ただし、映画は99%がフィクション。谷川創平撮影。

 「CHAPTER1 ユウ」、亡き母(中村麻美)と「マリアさまみたいなお嫁さんをもらう」と約束したユウ(西島隆弘)は、牧師になった父親(渡辺篤郎)が強引な女性カオリ(渡辺真起子)との生活の破綻の後で、毎日懺悔室に呼ばれ「(お前の)今日の罪は?」と問われるようになったのに答えようと、せっせと罪作りに励む。不良たちとの交際の挙句、エロ関係の新興宗教団体の教祖ロイドマスター(大口広司。元テンプターズのドラマー、撮影中に死去)から盗撮のテクニックを教わる。腕をあげたユウは弟子入りを希望した友人たち(清水優、尾上寛之、永岡佑)と盗撮を繰り返すが、やがてカオリの元夫の娘ヨウコ(満島ひかり)に出会う。彼女こそマリア様だ!。

 「CHAPTER2 コイケ」(この章は苗字になっている)、盗撮をするユウを許したコイケ・アヤ(安藤サクラ)は新興宗教ゼロ教会の勧誘員だが、父(板尾創路)から強姦され虐待され、男を憎んでいる。脳障害で倒れた父親のペニスを折り、切断した。恋を告白した男を斬って少年院に入った。コイケは17の職業を持つ。コイケはユウの父親をゼロ教会に抱き込んで一挙に信徒を増やそうともくろむ。

 「CHAPTER3 ヨウコ」、父親からレイプされかかった過去をもつ少女ヨウコは、世の中の男を信用していないし、家族はまっぴらごめんと拒否している。見えない弾丸が飛びかっている世の中で、この弾丸に当らないでいることが難しいと感じている。ヨウコは、コイケが差し向けた不良たちを一緒に倒してくれたサソリに恋してしまう。サソリとは伊藤俊也監督『女囚さそり』の梶芽衣子のファッションである。アコーハットは梶芽衣子の『野良猫ロック・セックスハンター』の扮装でもある。サソリの正体は実は女装したユウなのだが。ユウはヨウコに会って初めて勃起した。

 「CHATER4 サソリ」、ユウの高校にヨウコが転校してくる。平穏な空気を取り戻していた牧師の父親のもとにカオリが戻って来る。父親はカオリの誘惑に抵抗するが、車でぶつかってくる激しい求愛にとうとう折れてしまう。(休憩が入る)
 サオリに恋するヨウコ。父親テツは、牧師を辞めてカオリと結婚しようとするが、簡単には教会も辞職させてくれない。ユウは電話ではサソリになったり、ヨウコの兄になったりと苦悩の日々だった。突然、コイケが転校生としてクラスにやって来る。コイケは教団で雇ったチンピラを教室に乱入させ、極真会の空手で撃退、ヨウコに自分がサソリだと思わせてしまう。次第にユウの家族に取り入るコイケ。ユウの盗撮写真を教室にバラまくコイケ。ユウは退学になる。ユウの家族は消えてしまった。ゼロ教会に取り込まれてしまったのだ。
 ゼロ教会のコイケの助手たちはAV界の雄BUKKAKE社への就職を薦める。そこで仕事をすればヨウコに合わせるというのだ。DVD「盗撮王子 本田ユウの冒険」はベストセラーになる。社長(岩松了)はユウにセックスものへの転身を薦めるが、ユウは拒否。BUKKAKE社主催のヘンタイさん集合イベントにも出演、ヘンタイ者の懺悔を許す神父役を演じていた。そんななか、仲間がヨウコをゼロ教会前の割腹事件のTVルポで見、その後路上を歩いているヨウコを目撃。ユウはヨウコを仲間とともに拉致し、海辺の廃バスに監禁する。仲間が食糧などを運び入れてくれたが、ヨウコは食べようとしない。ヨウコは縄をほどかれると、ユウが油断した隙に逃亡を図った。追いついて、ねじ伏せようとするユウに、ヨウコは「コリント書」第13章の一節を述べる。もっとも崇高な愛についての一節である。いったんはヨウコを連れ戻せたが、廃バスにゼロ教会の追手がかかる。
 ユウは教会に入信し、ヨウコに会っても勃起しないように修行することを命ぜられる。コイケはユウをいたづらに誘惑する挙動を示す。ケーヴからアクターへ、アクターからプロンプターへと修行の段階を経るにつれ、洗脳が進むため、脱会は困難になる。合宿で心の悩みを吐き清めると、信者はアクターになるのだった。ユウは敬虔な信徒を演じていたが、ヘンタイさんのなかの爆弾魔と連絡を取り、爆弾を入手、仲間から刀を入手して、教団ビルの6階でプロンプターになっているヨウコを取り戻しに行く。幹部のミヤニシ(古屋兎丸)を刺殺、両親の前を素通りしてコイケとくつろぐヨウコを奪還しようとする。しかしボディガードに阻まれた。仕掛けた爆弾を爆発させるユウ。わたしと同じように「壊れてしまえ」とユウに言いながら自刃するコイケ。混乱のなか、警官隊が突入してくる。

 「Chapter 最終章」、その後両親は教団被害者の開放施設で暮らし、ヨウコは親戚に預けられた。ユウは精神病院でサソリとして暮らしている。ヨウコは親戚の娘(松岡芙優)から恋愛感情の告白と血の涙を流す真情のことを聞いたとき、ユウが血の涙を流していたことに思い至る。そして、「なんでも知っていたと思っていたが、なんにも知らなかった自分」に気付く。ヨウコは精神病院のユウに会いにいき、「心の底から愛してる!」と叫ぶ。記憶を封印してしまっていたユウだったが、突然マリアの記憶が甦った。ヨウコが連行されたパトカーを追いかけるユウ。ユウはヨウコと再会できるのだろうか。
 
 特典に収録された渋谷ユーロスペースでの上映前の舞台挨拶で、満島ひかりは「ギリギリの状態で、ただただ一生懸命やっていた」と発言。メイキングで、園監督は最初、「映画的だと思えない」「毎日苦痛。現場が楽しくない」と生みの苦しみを語っていたが、クランクアップが近づくにつれ、手ごたえを感じていたようだった。主役たちの突出した行動が衝撃的。

【参考文献】園子温『愛のむきだし』(小学館文庫、2012年。単行本は2008年12月発刊)。
2013年10月20日~12月8日



NHKオンデマンド
ハードナッツ


BS2
2013年
45分
 一見「ガリレオ」風のTVドラマだが、主人公は東都大学の数学科の女学生・橋本愛。「ハードナッツ」とは難問のほか、変わり者という意味がある。常識をわきまえていないために、危険や冒険に平気で足を踏み入れてしまう天才数学女子を橋本愛が、わざとらしく、かつ気持ちようさそうに演じている。第1回は刑務所に無期懲役で収監されている爆弾魔・井沢(嶋田久作)が、共犯者にメッセージを送った方法を解くが、その答えは脱獄のための罠だった。暗い過去をもつ病気もちの刑事・友田に高良健吾、捜査部長に勝村政信。
 第2回は連続爆弾魔の後篇。共犯者を特定したものの、彼は殺されてしまった。井沢に拉致された愛は井沢の15年前の論文の数学的誤りを指摘する。愛は伴田を携帯で呼ぶが、倉庫にも爆弾が仕掛けられていた。井沢の次の爆破場所はいったいどこか。統計表の数値から愛は素数を利用した暗号を解読する。
 制作・脚本は『トリック』の蒔田光治。演出は河合勇人。

 第3回「ダイイング・メロディーの哀しき解法」、第4回「ラブレターと企業恐喝テロ」は未見。
 第5回「ワインと殺意の方程式」(演出・河合勇人)。ワイン評論家の夏目がワインセラーで階段から落ち、死んでいた。第一発見者は妻の里佳子。自殺か他殺か。くるみ(橋本愛)はビンの破片がランダムな割れ方の数式に合っていないことから仕組まれた殺人と推理する。数学でレシピ本を書いた里中舞は夏目氏と家族ぐるみの交際だったというが。
 第6回「対決!未来を読む男」(演出・橋本光二郎)。犯罪予測システム(CPS)を導入しようとする木崎がホット・スポットと予測したエリアで犯罪が起こる。窃盗犯グループの春日が裏で動いているらしい。CPS導入予定期間中に15の予測スポットで14件の犯罪が起こる。その的中率は4.67%。5%より低い。くるみは、この的中率は不自然であると結論する。
 第7回「恐怖のウィルスとくるみの秘密(前篇)」・第8回「同(後篇)」。大学の研究所で培養していたウィルスが凶悪化、研究者の西尾教授(正名僕蔵)がテロリストに誘拐された。ほどなく殺人ウィルスに感染した人が出始めた。大学付近でスズムシの鳴き声が増えたことに注目していたくるみは感染者の共通点を探し、アジトを発見する。警察に包囲されたテロリストたちは自爆して、事件は解決したように見えたが、それは新たな脅威の始まりだった。
 郵便小包で送りつけられたウィルスによって公安部長(梶原善)の妻と警視庁の女性刑事が犠牲になった。全国経営者会議が開催される東京ウェリントンホテルのグランドホールで天井からウィルスを撒くことを予想した伴田とくるみ。西尾を伴ってホールに調査に来る。風船に仕掛けたエアロゾルでウィルスが撒かれてホール内に閉じ込められた人々。なかなか救急隊が来ない。くるみは外にいる誰かが真犯人だと推理する。くるみの父は大企業の社長・大出に騙されて自殺した過去があった。大出はウィルスによる吐血に苦しんでいた。くるみは大出が苦しみながら死ねばいいと一瞬考えた。一方、伴田も黒い過去を持っていた。
2013年10月16日


DVD
らしゃめんお万
雨のオランダ坂


日活
1972年
71分
 金髪の女壺振り師という奇抜な設定が功を奏した日活ロマンポルノ初期の快作ということだが・・・・。脚本は西田一夫、監督は曽根中生。大和屋竺が主人公の育ての父親を殺す殺し屋を演じている。
 上海生まれの混血児・万玲(サリー・メイ)は特務機関員と自称する竜二(武藤周作)と愛し合っていた。日本人の母親を求め、帰国する竜二と一緒に日本に来る。来日の障害だった育ての親(久松洪介)は竜二が雇った殺し屋・政吉(大和屋)に殺されてしまった。会社員を装った竜二は実はヤクザ。お万を女郎屋へ売り飛ばしてしまう。竜二はなじみのお秋(林美樹)も捨てる。政吉がお万を身請けし、殺しを告白するが、政吉は賭場から盗んだ金のため組員に刺殺されてしまう。竜二への復讐の思いから、お秋に壺振りを教わったお万は苦節三年、流れ者の女壺振り師として竜二を探す旅に出る。やがて長崎で竜二と再会したお万は実の母親の娘・お菊(山科ゆり)と駆け落ちしようとする竜二を刺殺し、警官に引かれていくのだった。
 サリー・メイはじめ、出演者の演技は拙いし(アイパッチを付けた大和屋さんも素人っぽい拙さである)、曽根監督のからみの場面はおずおずしたものだし、展開は荒唐無稽というほどではないし、急に照明が赤くなったり青くなったりするのは中途半端で、ケレンというほどではない。脚本と演出に見るべきものがないと思う。「らしゃめんお万」第2作「彼岸花は散った」はDVDもビデオも出ていない。
2013年10月17日


DVD
翔べ!必殺うらごろし



テレビ朝日
1978年12月~1979年5月
各50分
 超常現象を扱った異色篇。透視のため念ずる修行中の先生を中村敦夫、殺し屋の過去を持つが記憶喪失のおばさんを市原悦子、男として生きてきた若を和田アキ子、殺しのマネージャーを火野正平、お札売りの巫女おねむを鮎川いづみ。和田アキ子はアクション演技は苦手だったそうで、まるで冴えない。おねむは殺しには一切関わらない。この必殺人不足の必殺グループでよく23話も話ができたものだと感心する。
 第1話と第2話の演出は森崎東で、森崎さんらしいところがあるとはいえないがソツなく出来ていた。第1話「仏像の眼から血の涙が出た」(野上龍雄=森崎東)。必殺人たちの出会いが描かれると同時に、「おばさん」の過去や仏像の血の涙の理由を念力で探る「先生」。過去に川に流した子供が女郎屋から逃亡してきたことを知って村に受け入れたお鶴を非道にも殺してしまうやくざを山本麟一が演じている。
 第2話「突如奥方と芸者の人格が入れ替った」(野上龍雄=森崎東)、奥方・小山明子と女中・左時枝がお互いに憑依する物語。
 第3話「突然肌に母の顔が浮かび出た」(石川孝人=松野宏軌)は、母親(弓恵子)を法師・弁角(藤岡重慶)に奪われた息子の仇討のため、母親の顔を投影させる。
 第4話「生きてる娘が死んだ自分を見た!」(吉田剛=工藤栄一)。百舌屋の娘うめ(泉じゅん)は病気で医者の宗丹(近藤宏)から薬を処方されていた。転地療養を薦められ、乳母のたつ(三戸部スエ)の田舎へ行く途中、先生一行に遭う。先生はうめに不吉な影を見る。後妻のくに(中島葵)は経営の才があり、宗丹と結託して邪魔な夫を少しずつ毒を盛って殺し、今度は娘を殺そうとしていた。番頭の紋兵ヱ(北見唯一)も荷担していた。うめは自分の死んだ分身に会って苦しんでいた。療養地から逃亡したうめを匿った一行だったが、止めるのも聞かずうめは店に戻ってしまう。工藤栄一の画面作りが光る一篇。
 第5話「母を呼んで寺の鐘は泣いた」(保利吉紀=松野宏軌)。女郎屋から脱走したおそで(白川和子)をおばさんが助ける。娘お千代の声を聞いて、娘あいたさに脱走したおそでだったが、松葉屋の連中に連れ戻される。寺に奉納された鐘がひとりでに鳴った。寺では鐘匠に鐘を返却。河内屋の若旦那・卯之助(柳川昌和)に強姦されたお千代はその後邪魔にされ鐘を溶かす炉で燃やされたことが分かった。鳴る鐘を娘と恋するおそでも惨殺された。
 第6話「男にかけた情念で少女は女郎に化身した」(石川孝人=原田雄一)。戸倉屋で働く少女・毬(久永智子)は若旦那(風戸佑介)に恋していた。しかし、若旦那は女郎のお葉(大関優子)にぞっこん。戸倉屋では跡継ぎと女郎の結婚は許されない。番頭の与八(有川博)が手引きして若旦那とお葉を駆け落ちさせたが、実は女郎屋の勘造(八名信夫)としめしあわせた策略だった。心中にみせかけて二人を殺してしまったのだ。しかし、毬はお葉に同化する。
 第7話「赤い雪を降らせる怨みの泣き声」(吉田剛=原田雄一)。お狩場に赤い雪がふると、山番の仁助(山谷初男)の5歳の娘ゆきはいつも泣くのだった。藩では陶夢斉の陶器を独占しようとして断られると一家を惨殺し、偽の陶夢斉(梅津栄)を仕立てて儲けていた。ゆきは一家の生き残りで川に流された子を仁助の妻(佐野アツ子)が拾ったのだった。事の発覚を恐れた家老(御木本伸介)たちは仁助一家の抹殺を図る。
 どの話においても、野外を必殺人たちが全力で走る場面が多い。
  
2013年10月15日


DVD
必殺仕業人


テレビ朝日
1976年
各50分
 冒頭は「港のヨーコ ヨコハマ ヨコスカ」がヒットした宇崎竜童の語り、“あんた、この世をどう思う。どうってことねえか。あんた、それでも生きてんの。この世の川を見てごらんな。石が流れて木の葉が沈む、いけねえな。面白いかい。あんた、死んだふりはよそうぜ。やっぱり木の葉はピラピラ流れて欲しいんだよ、石はジョコンと沈んでもらいてえんだよ。おい、あんた、聞いてんの? 聞いてんのかよ。あら、もう死んでやがら。はあ、菜っ葉ばかり食ってやがったからな”
 第1話「あんたこの世をどう思う」(安倍徹郎=工藤栄一)、撮影は中村富哉。中村主水(藤田まこと)が沼木藩のお尋ね者・赤井剣之助(中村敦夫)と出会う。剣之助は女芸人のお歌(中尾ミエ)と旅をしているが、元は沼木藩のお未乃(安田道代)の許婚者・真野森之助だった。藩主の奥方となったお未乃は自分の欲望のため人を殺すのをなんとも思わない女だった。主水は、仕置の前に必ず占いをする灸(やいと)屋(大出俊)や女郎の着物の洗濯屋・捨三(渡辺篤史)と共に未乃と老女(絵沢萌子)らを成敗する。指輪で髷を切って髪の毛で絞め殺すというのが剣之助の殺し技。 
 第2話「あんたこの仕業をどう思う」(田上雄=松本明)、撮影は石原興。油問屋・伝兵衛(津川雅彦)を狙って投げられた手裏剣が、狙いを外れて女房のお松に刺さった。お松の死を嘆く伝兵衛は世間の同情を買ったが、実はそれも伝兵衛の謀りごとだった。下手人の喜久三は、自分は死罪にはならないとうそぶく。伝兵衛は同業の油問屋の義父に不利な証言をしたおりう(本阿弥周子)と祝言をあげ、喜久三を死罪にした南町吟味方与力・大村(今井健二)に礼金を渡す。喜久三の女房はからくりを訴えようとしていたが・・・・。
 第3話「あんたあの娘をどう思う」(野上龍雄=工藤栄一)。主水は四両で身を売ろうとする娘いち(テレサ野田)のことが気になった。秩父の山津波で家族を失った娘は江戸で心を許せるものを見つけた。それは狆だった。方向先の女将(ロミ山田)がパトロンの東十郎(宍戸錠)から貰った犬だった。娘は犬をいちと名づけて可愛がっていた。娘は旗本の戸崎に抱かれ、4両で犬を買ったものの、戸崎に娘の話を聞いた東十郎は娘を強姦、犬を殴り殺す。泣きながら犬を埋葬する娘は主水に金を投げつける・・・・
 第4話「あんたこの親子をどう思う」(安倍徹郎=蔵原惟繕)。主水に女を抱かせようというのは金貸し叶屋平蔵(森塚敏)の計画だった。文治を一晩出所させてくれという。文治は藤屋の女将おゆう(小山明子)を狙っているようだ。その晩は女将が息子の丈太郎(藤間文彦)と同衾してしまったため殺しは果たせなかった。丈太郎は知り合いになった女お菊(横山リエ)に金を使っていたが、お菊も叶屋の回し者だった。叶屋は丈太郎に母親の生命を担保に三百両という金を貸していたのだ。「死一倍」という証文は担保が死ぬと借金が倍になるという契約。文治を使ってのおゆう殺しが始まる。
 照明とズームレンズを効果的に使う演出は工藤栄一や蔵原惟繕の得意中の得意。見事な画面構成で飽きさせない。主水は牢屋見回り同心という冴えない役柄に格下げになっている。赤井剣之助とお歌は今日の飯にも困る大道芸で暮らしを立てていて、うらぶれ感が漂う。
 第5話「あんたこの身代りどう思う」(中村勝行=大熊邦也)。女郎の死体があがった。女の爪には抵抗した後があり、犯人には傷が遺っているはず。犯人は両替商・和泉屋の息子・清太郎(佐々木剛)だったが、和泉屋(梅津栄)は口入れ屋の益田屋に相談、益田屋は江戸のアンタッチャブルなレジーム、隠れ里に住む伸吉(小坂一也)に罪をなすりつける。伸吉は主水にお登勢(赤座美代子)への金を託す。清太郎は次の女を求めていた。益田屋は隠れ里で次の女を探す。標的になったのはお登勢だった。主水に金をもらったお登勢は伸吉が死罪になったことを聞いて金を投げつけ井戸へ身を投げた。隠れ里に身を潜めていた剣之助とお歌は伸吉とお登勢の恨みを晴らそうとする。軽罪でムショ暮らしのほうが楽だとしょっちゅうムショに戻ってくる出戻りの銀次(鶴田忍)が和泉屋の下働きに出る。
 第6話「あんたこの裏切りどう思う」(保利吉紀=松野宏軌)、撮影は石原興。主水と同業の老人・島(美川陽一郎)は赦免明けの船で帰ってきた甚八(大木実)を待った。ある事件で薬問屋の若旦那の身代わりになった甚八は幼い勘太を預けて島送りになったのだが、薬問屋はとうにつぶれ、勘太は行き方知れず。飴屋をやりながら勘太を探す日々だった。益田屋をつぶし、地域をとりしきる親分のところ(南原宏治)に甚八は乗り込むが、はずみで刺してしまった若衆が勘太だった。打ち首になる寸前に主水に金を渡して仕置を依頼する。主水の家では、離れに住んでいたお妾さんのお澄(二本柳俊衣)が旦那(沢村宗之助)と会ったのち、運勢占いもあって家を出ることになる。
 第7話「あんたこの仇討どう思う」(国弘威雄=工藤栄一)、撮影は石原興。お歌たちは、盲目の侍・次郎左衛門(村井国夫)を案内する6才の娘(花紀芽美)と出会った。侍は役者の生駒屋清三郎を探していた。妻のおはまが清三郎と家を出たのだ。しかし、おはまは女衒により女郎屋へ売られていた。清三郎は政五郎(深江章喜)と組んで、自分に惚れた女を売り飛ばしていたのである。
 第8話「あんたこの五百両どう思う」(中村勝行=大熊邦也)、撮影は石原興。沼木藩の隣の上州国家老・牧野十郎左衛門(織本順吉)が、同藩の江戸家老・坂部将監(戸浦六宏)と用人の赤松刑部を殺してくれと依頼してくる。家督相続の揉め事をきっかけに権力を掌握、悪政で人々は苦しんでいると訴える。報酬は五百両、ただし後払いだという。大金のため仕業人たちはそれぞれ金の使い道を夢想する。お歌は下働きとして屋敷内へ潜り込む。捨三は家老の寝室に細工をする。やいと屋は立石藩の奥女中の楓(三原葉子)を針で騙して門鍵を開けさせる。主水は咎人の死罪での試し斬りを引き受け、立石藩の名刀を預かりに赴く。仕置人たちの夢想がコミカルに描かれるほか、三原葉子が灸屋の誘惑にちっともなびかず、遂に「中年に興味はないの」と発言、面くらった灸屋が針で直した足を再び痛める場面が可笑しい。
 第9話「あんたこの仕組をどう思う」(猪又憲吾=松野宏軌)、撮影は石原興。おたか(中原早苗)は針稽古を看板にするものの、裏では隠し売女の元締め。しかし、旗本直参の秋葉(早川保)から女たちからもっと搾り取るように無理難題を言われていた。堅気になったおよう(柴田美保子)を売女に戻そうと秋葉らは彼女を誘拐し売春を強要する。
 第10話「あんたこの宿命をどう思う」(村尾昭=蔵原惟繕)、撮影は石原興。牢屋の外で父親を呼ぶ少年がいた。島送りになる伊平は親分・弥蔵(大滝秀治)の妾を殺した罪だったが、奇妙なことに弥蔵は伊平の女房と息子の面倒をみる約束をしていた。調べて真相が明らかになる前に伊平は牢屋内で殺された。女房は座敷牢に綴じ込められていた。灸屋又右衛門の弥蔵を刺す手が止まった。弥蔵は又右衛門の育ての親だったのだ。
 第11話「あんたこの根性をどう思う」(中村勝行=大熊邦也)、撮影は石原興。女郎屋・銀猫のおさと(吉田日出子)は何人もの客を取り稼ぎまくっていた。百五十両を貯めて女郎屋の主人・惣五郎(桑山正一)から店を買い取ろうというのだ。やっと百五十両を貯めたおさとだったが、手代に金を奪われ逆に放り出されてしまった。一方、お歌(中尾ミエ)が夫婦喧嘩の挙句、外で拉致されて女郎屋へ入れられてしまう。
 第12話「あんたこの役者をどう思う」(松田司=松野宏軌)。突然、仕業人たちに接触を求め、男五人を殺して欲しいと依頼するお染(浅利香津代)。庄屋の娘だったお染から話を聞くと犬村猿十郎一座の看板役者・菊蔵(嵐圭史)に惚れたものの、一座の正体は盗賊。菊蔵に手引きさせて庄屋を襲う手口だった。復讐を誓ったお染は川に投げ込まれたが生還。仕業人たちは旅に出て舞台上で役者を仕掛ける。
2013年10月12日


DVD
日本一のホラ吹き男


東宝
1964年
 植木等主演、古沢憲吾監督、笠井良三脚本の東京オリンピック開催年の東宝ヒット作。
 大学生で三段跳びの選手・植木等(当時34歳)が「東京五輪音頭」を歌いながら登場する場面は絶好調。アキレス腱を切ったうえに捻挫で五輪出場をあきらめた初等(はじめ・ひとし)が、掘り出された先祖の初等之助の一代記を読み、発奮して、一流企業の増益電器に入社。ホラを吹きつつ出世していく様子を描いている。挫折をものともせず、社長にも意見しながら、プラス思考で切り抜けていくサラリーマンを描く。突然、植木等が歌を歌い始める場面が何度かある。型破りの展開が演出の真骨頂。「昭和の爆笑喜劇No.2」で浜美枝が古沢憲吾演出に関して証言、「コンテをしっかり書いてこられるんですが、その通りにやると矛盾することが山ほどある(笑)。私もあまり深く考えずに言われた通りに演じていましたが。でも実はそれが監督流の演出であり、計算だったのかもしれません。・・・坪島孝監督は、古澤監督とはぜんぜん違うタイプの穏やかな方でした。演出も丁寧で堅実でしたし、落ち着いてできましたよ、坪島さんのほうが(笑)」。 
 秋本鉄次氏が文春文庫の『日本映画150』(1989)「マイ・ベスト10」の第6位に推していた。
2013年10月5日



BD
Wの悲劇

角川映画・東映
1984年
110分
 既に何度か見ています。「Wの悲劇」は沢井信一郎監督の代表作。三度目の鑑賞ともなると、主演女優・三田佳子のパトロンの死や身代わりのテーマが後退して、薬師丸ひろ子と世良公則の交際の部分が大きくなってくる。
 憧れの男優と寝たことで処女を喪失した二十歳の女性が、自分に惚れた役者くずれの不動産会社の社員と交際。オーディションで落ちて端役しかもらえないこともあって、いくらか押し切られるような形で、役者をあきらめかけていたその時、好機到来、一世一代の演技(老実業家に愛され、腹上死させた若い女性)をすることになる。
 ところで、主役を降ろされてしまった菊池かおり(高木美保)に、真相を教えたのはいったい誰なのだろうか。映画では、その前に直接の関係者以外で、その真実を三田佳子から聞く人は三田村邦彦しかいないのだが。
 
2013年10月3日


海老名
東宝シネマズ
風立ちぬ



スタジオジブリ
2013年
132分
 宮崎駿監督の最新アニメーションを劇場で見ました。海老名市の東宝シネマズ8番スクリーン、14:10からの回はお客さんが12人ほどでした(全170席くらい)。堀越二郎を思わせる青年が主人公なのが驚き。というのは、これまでの宮崎作品は少年少女や子供が主人公で、青年が主人公だったことはないからです。ちゃんとした洋服を着た青年の全身の姿というのはまるで絵にならない。しかし、そのひとが主役です。二郎青年が憧れる飛行機の設計者カプローネ氏が二郎の夢のなかで何度も登場します。氏が製作するという二郎の夢のなかの飛行機が窓からひとが溢れこぼれるようなマンガの世界で描かれて生き生きしています。
 ゼロ戦の前の九試の技術の優秀な点(たとえば頭の平たい枕頭鋲、いわゆるリベット)が丁寧に描かれていて、宮崎駿の主張はそういった技術者の奮闘努力やかけた夢にこそあることが理解できました。アニメーションもそうですが、新技術の意義はたいへん大きいものです。
 関東大震災の際の東京炎上が描かれています。菜穂子との出会いの場面の強風や強雨、身一つで結婚を決意する二人の姿、仲人を務める黒川夫妻の姿勢など、凛とした人々の生き様が心地よい映画でした。
 
2013年10月2日


フジテレビ
疑惑


フジテレビ
2012年
100分
 松本清張原作の映画化。フジテレビの昨年の企画により制作された作品の再放送(初回は2012年11月9日21時〜)。既に映画化もテレビ化もされている。この作品の見どころは容疑者と弁護士のキャスティング。今回のキャストは尾野真千子と常磐貴子。同世代ともみえる二人の共演は成功していた。悪女を演ずる尾野真千子も悪くないが、まったく色気のない弁護士を演ずる常磐貴子も良かった。
 映画とは異なり、缶ジュースの缶ではなく、スパナと革靴。花火の打ち上げ代金とメッセージで白河社長(柄本明)の意図を推測させる、孫へ誕生日の贈り物を前倒しで渡した時のメッセージで証拠をダメ押しする脚本(吉本昌弘)は見事だったし、さらに球磨子が社長の意図を知っていて、いちかばちかの賭けに出たという推理を匂わせておきながら、最後に球磨子が事故現場にたむけた花束に付けた一万円の指環を映し出して、余韻と再逆転の推理に結びつけるところも「うまいなあ」と思わされた。演出は国本雅広。
 
2013年10月5日




録画
(2008年11月30日)

雪の断章-情熱-


東宝
1985年
100分

 相米慎二監督作品。公開当時に見ていますが、変な話だと思った記憶があります。相米作品のなかでも、あまり評価は高くありません(1986年度ヨコハマ映画祭では第4位と高く評価されています)。
 再見したところ、画面から目が離せませんでした。どんどんひき込まれていきました。傑作でした。ヒロイン斉藤由貴を追い詰めていく状況が非現実的ではあるものの、半端ではありません。彼女の抱えている悩みがあまりにも大きくて、表情を見ているのがつらいのですが、観客は過剰な思い入れをしながら物語を追っていくことができるのです。脚本は田中陽造。
 原作者・佐々木丸美が映画化されたこの作品を認めないまま亡くなってしまったため、DVD化もされないということですが、原作から隔たった話になっているとはいえ、愚かな措置だと思います。上映されない映画の原作など何の価値もありません。改変されたりパロディにされるのは原作の名誉だと考えるべきです。川内康範が森進一の「おふくろさん」に作者として異議を唱えた事件も馬鹿馬鹿しいものでした。自分の作品をなんだと思っているのでしょうか。作者の思い上がりも甚だしい。原作なんて変形されてナンボという程度のものでしょう。名作なればこそ「いじり」回されるのです。シェイクスピアを思い出して欲しいものです。
 映画『雪の断章』は2008年に日本映画専門チャンネルで相米慎二特集をしたときに放映されました(2008年11月30日20:00)。中古ビデオはありますが、高価です。
 石田美紀は論文「二つの『雪の断章』 映画と少女文化の接触地帯」で小説『雪の断章』と比べて映画『雪の断章』を論じています。幼女期から大人の語り口を示す小説の少女は七十年代の少女文化の成熟を反映したものであった。しかし、映画は主人公の意識や私語りの表出には適していない。映画は役者の身体しか映し出さないからである。少女文化との葛藤の結果、『雪の断章』の演出には「破天荒さと古風さが不調和ともよべる窮屈さで同居している」(石田による)。その<とんがった>表現が映画本来の魅力なのです。

 北海道の冬の夜、ある家族が暖かな宴を営んでいる。その邸宅の外、缶ジュースを飲み、雪の積もった塀の上を歩く七歳の女の子(中里真美)がいた。通りかかった会社員の雄一(榎木孝明)は女の子に声をかける。女の子は伊織。孤児で那波(なば)家の養女にされたが、メイドとしていいように使われていた。次女の佐智子のジュースを飲んだため、代わりを買って来いと命ぜられて死に場所を求めていたのだ。雄一は那波家の仕打ちを憤り、伊織を保護し、自分が育てると宣言する。雄一には細野恵子(藤本恭子)という婚約者がいたが、伊織を育てるのに十年間は夢中だった。家政婦のカネ(河内桃子)は雄一の身をなにかと心配するのだった。
 十年後、高校生になった伊織(斉藤由貴)は佐智子(矢代朝子)とは同級生だ。雄一やその友人の大介(世良公則)の住むアパートへ引っ越して来た裕子(岡本舞)は引越し祝いのパーティに伊織らを招待する。イサドラ・ダンカン風の踊りを披露した後、部屋で休んでいた裕子に伊織はコーヒーを運んだ。那波家に憎しみを持っていた伊織だったが、裕子の踊りには圧倒されていた。裕子がいつまでも休んだままなのに不審を抱く男たち。「あたし見てきます」と言って部屋を出た伊織は戻ってくると言葉を失っていた。
 裕子は青酸で毒殺されていたのだ。コーヒーカップに青酸が残っていた。伊織は殺人を疑われる立場になる。裕子の葬儀場で佐智子は伊織を「人殺し」と非難するのだった。雄一やカネは伊織の苦しい立場を知らないままだった。
 東京に出張した優一は恵子と会っていた。カネの言葉で伊織は自分のなかの女性を意識させられる。シャワーを浴びた伊織は雄一に電話する。「いま裸です」と。帰ってきた雄一を千歳空港で出迎えた伊織は同行した恵子の姿を見て動揺する。川の中を歩きながら「仲直りするつもりが喧嘩をしてしまった」と反省する伊織。帰宅すると恵子が伊織のもとを訪ねてきていた。恵子は雄一を自分に返してくれと頼む。伊織は拒否する。ゼラニウムが水のなかの異物で枯れてしまっていると恵子が言ったのを聞いて、伊織は裕子殺害の方法に思い当たった。青酸は水差しに仕込んであったのだ。翌日、大介の誕生祝いにと花を贈った伊織だったが、留守の彼の部屋で裕子の水差しと同じ水差しと枯れた花を発見、毒を仕込んだ犯人が大介ではないかと疑う。家を飛び出した伊織。伊織の部屋に入る雄一(机の上にはエンデの『モモ』が置いてあった)。
 伊織は原野を彷徨。駅でピエロを見る。笠置シズ子の「買い物ブギ」をバックに伊織が千歳川を泳ぐ場面がある。川で溺れかけた鳩を助ける伊織は漁師に救助され、警察に保護される。迎えに来た雄一は、加代が辞めたことを伝える。雄一は伊織を「手放しはしない。お前が北大に受かるまで育てるのが俺の責任だ」と宣告するが、伊織は「責任?わたしは雄一さんのお人形じゃありません」と答える。
 大介は伊織を誘って函館へ赴く。都落ちした雄一が伊織を拾ってから北海道に足をつけて仕事をするようになった、もし俺が伊織を拾っていたらと考える、俺も中学2年から親なしっ子だ、お前はひとりじゃないヨと話す。突堤で姿を消す大介。伊織は大介に「死んではダメ。一緒に生きよう」と声をかける。
 伊織は北大に合格した。祝いの屋台で大介は九州に左遷されることを告げ、伊織はついていくと約束する。三人でキャッチボールをしているときに刑事(レオナルド熊)が容疑者が九州へ逃亡することについて嫌味を言いに来る。「伊織ちゃんの将来を台無しにして犯人はなにを得るんですかね」と問いかける。
 引越しの準備のさなか、警察から電話が入る。大介が自殺したというのだ。遺書には大介が殺人犯であること、計画的な殺人であること、動機は大介の父親の自殺の原因が那波社長にあったこと、伊織が容疑者となって苦しんでいたことなどが綴られていた。遺書の最後には「雄一をたよって生きていけ」とあった。
 家から出て行くことを決意した伊織。七歳の自分をくるんでくれた黒いセーターを取り出し、雄一に返す。雄一はそのセーターをはさみで切り裂く。「自分の気持ちに素直になれ」「育ててくれた雄一さんを愛してはいけないと思っていました」。伊織は雄一に「キスして」と言い、目をつぶる。カメラは二人に寄っていき、そのまま窓の外のピエロの人形を映し出す。冒頭のタイトルにも映し出されていたピエロの人形。川には少女時代の伊織がいる。

【参考文献】『甦る相米慎二』(インスクリプト、2011年) 
  
2013年10月

台風クラブ

東宝
1985年
115分

  第7回「ヨコハマ映画祭」パンフレット(1986年)に寄稿した「台風クラブ」論です。
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     監督賞 相米慎二 『台風クラブ』論 「現在=存在」の映画

 実は、『台風クラブ』をまだ一度しか見ていない。相米作品は2度目の方がずっと面白い。
 『ションベン・ライダー』がそうだった。封切り館に見に行ったはいいが、帰るみちみち、すっかり考えこんでしまったのだ。考える間もなく、次々に思わぬシーンが展開していくので、話についていくのがやっとなのである。翌日また見に出かけて、今度はほんとうに感動したのである。だから、『台風クラブ』についても2度目を見るのが楽しみだ。なんだか理解できない、それでいて印象深いところがたくさんあるのである。
 たとえば、理恵が起きると、母親が不在というシーンがある。理恵が「母親探し」をするのと一緒に、どうしていないのだろうと不思議に思っていると、理恵は突然、母親の床の毛布の下へもぐり込んでうごめく。鮮烈な印象だったのだが、いったい、あれは、何だったのだろう。そもそも母親の床だったのだろうか。
 またたとえば、健が美智子を追いつめていくシーンがある。健が美智子に触れないだけに、いっそう暴力的である。ドアをくりかえし蹴るシーンは、すさまじい。職員室の机の下に逃げ込んだ美智子を見つけて、下着を破った途端、背中の火傷の跡を見て、それ以上、手を出せなくなってしまう。自分のした暴力に対する罪の意識が健をおしとどめたと解釈すれば、つじつまが合いそうだが、どうもそんなものではないらしい。そもそも健は何を追いつめていたのだろうか。
 恭一が、ひとつひとつ机を積んでいく。そして、みんなが生きるためにも「厳粛な死」を死んでみせる。恭一にとって、台風の中での乱舞は生の証しではなかったのだ。恭一は何を見つけたのだろうか。
 「台風、来ないかなあ」。非日常へのあこがれ。しかし、台風が来て、学校へ閉じこめられた生徒たちは、変わっただろうか。泰子や由美やみどりにとっては、逸脱した日常の続きのようだ。理恵も一日の冒険で変わったように思えない。「父親」にも「母親」にも会えない世界(梅宮先生は大きくなったガキのようだ)の中で、少年少女たちはぶつかり合い、きしみ合っている。過去・現在・未来とつづく時間の流れの中で、ひとが経験によって変わるというドラマを相米さんは作らないようだ。
 現在形しかない。その中で原初的な生の衝動が画面に現れてくる。おそれ、怒り、期待、不安、苛立ち、欲望。それら抽象的な感情が交錯する。『翔んだカップル』もそうだった。最初の方のクラス写真の中では、圭と勇介だけが笑っていたのに、ラスト・シーンの中では二人だけが笑っていなかった。円環は閉じられた。終わりと始めはつながって、少年少女たちは成長せずに、ただ「存在」する。『台風クラブ』もまた、そんな映画である。
 ラスト・シーンの理恵と明はまるで核戦争の終わった後の風景の中の新人類のようだった。
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2013年10月7日



録画
(2008年11月28日)
ションベン・ライダー



キティフィルム
1983年
118分
 相米慎二の監督作品第三作。同時上映だったアニメ『うる星やつら オンリー・ユー』の監督・押井守が『ションベン・ライダー』は「自由にやっていて、衝撃を受けた」と証言。この東宝2本立ては変な組み合わせでした。『うる星』ファンは『ションベン』を見るような観客ではなかったし、だいいち、たしかミュージカルとPRされた『ションベン』目当ての観客なんていなかったと思います。さすがの私も公開時に映画館で一度見た限りでは、「感想は?」と尋ねられても、たぶん困った。面白いと言えるような映画ではないのです。中学生とヤクザという取合せがなんとも珍妙。といって、つまらないわけでもない。元は四時間半あったという。それを二時間に縮めた(話の間をまるで無声映画のような字幕でつなぐ)のだから、なおさらわけがわからなくなってしまったのだ。翌日見直して感動したのだった。
 相米監督は自作映画についての解説で、「映画がなぜ映画でなければいけないかということに対する事を試みただけの」「とてつもないバカな映画」、「映画を勉強しようとするならこの映画を観てくれると、多分面白い」と話しています。

 中学校のプールサイドでガキ大将のデブナガ(鈴木吉和)が泳ぎの下手な生徒をいじめています。いじめられたジョジョ(永瀬正敏)と辞書(坂上忍)や止めに入った「僕は男だ」というブルース(河合美智子)が、デブナガに仕返しをしようと水着を着替えている間に、デブナガは車で侵入してきた男達に誘拐されてしまいます。女の子が水着なのに男だと主張する倒錯があり、三人がデブナガを救出しようとしますが、それはデブナガに仕返しをするためだという倒錯があります。さらに教師アラレ(原日出子)は校庭に乱入してきたバイク野郎たちを追い払うことに成功しないのに自分の車に乗って帰ってしまいます。
 一方、誘拐犯は誘拐する子供を取り違えてしまったようです。薬屋の息子で同名の別人を誘拐してしまったようです。誘拐犯の木村(寺田農)と妻(宮内志麻)は処刑されて川に棄てられてしまいました。
 三人は極龍会に当たりをつけ、旅と言っても近くの「横浜」から探します。名無しの権兵衛を探している、それは父親だと横浜西口交番の田中巡査(伊武雅刀)に聞くと、「厳兵なら(釣りをして)埠頭にいる」と案内してくれました。厳兵(藤竜也)が銭湯に入ると、三人とも後をつけて(ブルースも男湯に入る!)、厳兵の背中を流す三下(庄司三郎)との会話から、政と山の誘拐犯たちは熱海にいる、厳兵は犯人の始末を依頼されたことを探り出す。厳兵の寝泊りしているポンポン船を訪れ、熱海まで同行しようとするが、厳兵に拳銃を示されてロシアンルーレットで自分を撃てと言われて、ジョジョとブルースの二人は身をすくめる。辞書は拳銃を撃つものの(弾は出ない)、昏倒する。厳兵は「相手をしっかり見て撃たなきゃ。腹にあたっちまったじゃないか。すぐに死ねないから苦しい」と三人を暴行する。厳兵が三人が去った後で、拳銃を確認すると次の弾が発砲だった。
 外の道路沿いで寝ていた三人は、家族からの捜索願いで探していた田中巡査ら警官たちによって、保護されるものの、トイレに行きたいとダダをこねて、ブルースがパトカーを降り、公衆便所の窓から脱出して、通りがかったポンポン船に逃げ込む。
 ホテルの一室で覚醒剤を自分に打つ厳兵。突然字幕が出て、「デブナガは熱海におらず名古屋行き」・・・熱海の物語は全削除されたらしい。窓から花火が輝く部屋で、厳兵は乱れる。字幕「ゴンベイひとり笑いけるかも・・・字あまり」。厳兵は梨にかぶりついたり、ブルースの口に押し付けたり、刀を振り回してジョジョに斬りつけたりします。
 翌朝、ブルースが海岸で初潮を迎えて戸惑う場面がある。辞書とブルースは英教研関東ブロック研究会に出ていたアラレ先生に協力を依頼、デブナガ救出計画を話すものの、アラレは警察に届けることを提案。アラレは運転する車内で「雨降りお月さん」を歌う。
 一方、ジョジョは厳兵を追いかけ、自転車から車の荷台に飛び移ったりする(スタントなしの撮影!)。ジョジョは(厳兵に)「お元気ですか。オレ、アンタのこと、そんなに悪い人じゃないって、みんなに言ったんだ。でも、連中、耳を貸さないんだ」、厳兵「耳貸す方がどうかしてるぜ」。
 悪い人じゃないどころか、厳兵は山(桑名将大)の姉が妊婦なのに暴行して、隠れ家から逃げ出す山を追跡、貯木場の倉庫でデブナガたちを見つける。厳兵は親分に見捨てられたもの同志の協力をもちかけるのだが、二人は耳を貸そうとしない。ジョジョは拳銃を構えて撃ち合いになり、貯木場の不安定な追跡場面から、川を越えてトロッコで逃げる政(木之元亮)たち。拳銃を発砲したりしながらのワンカットの追跡場面は現実的なものというよりも、<祝祭>的。
 川に落ちて濡れてしまった三人とアラレ、ケガをした厳兵は病院で治療していた。そこへ極龍会の金太(村上弘明)の案内で厳兵の女・郁子(倍賞美津子)が挨拶に来ます。「(厳兵に)あんたの死に水を取れるかどうか、わかんない」と言って去っていきます。
 極龍会会長(財津一郎)は屋根にドラゴンを載せた車がトンネルを通れないので子分たちに八つ当たり。辞書は「車の空気を抜いてトンネルを通す」ことを提案します。会長は宴席を設けます。金太からデブナガの居所を聞き出したアラレ。ブルースとジョジョが座敷で歌い踊っている間に、辞書とアラレ、金太は政たちの潜む部屋に行きますが、政は金太をどう処置しても構わないと親分から言付かっていると答えて相手にしようとしません。金太は撃ち殺されてしまいます。新聞には「極龍会解散か?どうなる信長君」の文字。
 翌日、厳兵は現場に乗り込みますが部屋は既にもぬけのカラ。金太の死体だけが転がっています。アラレは連れ去られたようです。隣室でなぜかハミガキしている辞書は「何もできなかった」と茫然としている。遊園地のゴンドラのなか、ブルースは「アラレの歌、歌います」と「雨降りお月さん」を歌う。ゴンドラの外は雨。厳兵と三人はフェイス・ペインティングをしている。ゴンドラを降りると白装束の厳兵は三人に別れをつげる、「達者で暮らせ」とシャッターを閉じるしぐさの厳兵。ブルースは空に向かって拳銃を撃つ。
 字幕「9月1日、水曜日。みんな髪を切る。みんな服を変える。横浜へもどった」。横断歩道のメロディーが<赤い靴>だ。
 誘拐犯の政と山が自暴自棄になりかけているようだ。アラレとデブナガも縛られている。山「親父を殺る。カッコのつけようがないやろ」、政は冷蔵庫いっぱいのヘロインを示し、これを組織が見過ごすわけがない、ボスたちをおびきだそうと話す。それまでは、アラレたちを「シャブづけにでもしとけや」。
 横浜の海沿いの道。チンピラが足を刺された。警官が駆けつける。そこへ三人も来る。ブルースはジョジョの着物、ジョジョは辞書の、辞書はブルースの着物に変えている。三人は田中に政と山の居所を聞く。田中は暴力団とのつながりを咎められ、降格になった模様。船中に入った田中は拳銃をはずし、「ヤクザもオカマもこの町で育ったやつは大好きだよ」とつぶやく。なんだか様子がおかしい。辞書は政たちの居所を尋ねる。船に火を放った田中は「出てけ!」と叫ぶ。田中は「(政たちは)この先の幼稚園にいる」と言い捨てた。黒い煙をあげ燃え上がる宝昭丸。川に落ちるブルース。
 幼稚園に侵入しようとする三人。パトカーのサイレンが聞こえる。しかし行き過ぎてしまった。別の事件のようだ。字幕「田中サン、何も見なかったヨ、何も聞かなかったヨ」。ベッドに拘束されているアラレを救出。棚に入れられたデブナガを救出。縛られたロープをほどいてやれと言われたブルースはいったん「いやだよ」と断る。ロープをほどく前にデブナガに確認、「助けて欲しい?僕たちが助けてやったこと、忘れないな! 二度と偉そうな口、たたかないな?」と問う。アラレはシャブを打たれて笑っている。アラレ「ここにいる。行ったら笑われちゃうから」。
 幼稚園の外。俯瞰ショット。アラレはクレーン車の運転台で寝ている。デブナガはブルースを肩車しているが、すぐにへたりこんでしまう。デブナガ「腹へったよ、死にそうだヨ」。
 一方、山は弱音を吐いている。「アニキ、わしらもうあきまへんで」と。政「山、よく見ろ。あのオヤジがさ、こんだけのブツを見捨てると思うか」。<聖アンナ幼稚園>から出てくるアラレ。子供達となにか相談しているが言葉は聞こえない。ときどきデブナガの声だけがインサートされる。デブナガ「せっかく助かったのに、またつかまりにいくの?」。
 幼稚園の窓からブルースが侵入。山は酒とヘロインでぼろぼろ、「アニキ、見捨てられたわし、どないしたらいいねん」。ブルースも粉を口にふくんでみる。すきをみて、山の足にロープの環を通す。外ではデブナガが電柱につかまっている。飛び降りる予定だったが、すっかり怖がっている。アラレが電柱にのぼり、デブナガを励ます。二人が飛び降りると、つながれたロープは山を吊り出す(スタントなしの荒業!)。
 政が出てくる。フェイス・ペインテイングをした厳兵が政に話をつける。昨年、てめえのバースデー・パーティでこんな顔してよ、(祝ったっけな)」。政「アニキ、手をくもうってお話、お受けしますよ」。厳兵「(生憎)年取ってから、融通が利かねえんでヨ」。
 政は厳兵を撃つ。胸を撃たれたが、厳兵は倒れず、撃ち返す。三、四発。唖然と見つめるみんな。
 厳兵「どうだ、今日の俺の手順は?笑ったらどうだ。・・・終わったんだ」。冷蔵庫の粉を撒き散らす三人。「フラレテ、バンザイ」を歌いだす三人。パトカーがかけつけ幼稚園を包囲する。投降を呼びかける声が聞こえる。出ていこうとする厳兵。止める三人。厳兵「終わりにしてえんだよ」。
 放水が始まった。上から水が浴びせかけられる。ロシアン・ルーレットで自分の胸を撃つ厳兵。カチッ。今回も弾は出なかった。厳兵「残念でした」。外へ出て囚われる厳兵だが、左胸を撃たれている。デブナガは警官に「手柄を立てたなんて思うなよ」と言い捨てる。「アラレ、消えちゃった」と声がする。「終」の文字の代りに「、」が出る。『セーラー服と機関銃』は「。」だった。
 エンドタイトルにかぶさって、河合美智子の歌「わたし、多感な頃」が流れる。
2013年10月4日



DVD
翔んだカップル
オリジナル版



東宝・キティフィルム
1980年
122分

 相米慎二の初監督作品。オリジナル版は1982年公開。最初の劇場公開版を見ている。『キネマ旬報』<読者の映画評>に投稿したものの、ボツになった批評が下記。33年ぶりに見直した。
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 この映画を見る直前に鈴木清順監督の『悪太郎』『けんかえれじい』を見て、直後に『悪太郎伝・悪い星の下でも』を見た。『翔んだカップル』も含めればどれも青春映画とくくられるだろう。
 ところが、決定的にちがうところがある。清順さんの3本は教養小説の体をなしている。少年はいろんな経験を契機に成長する。性欲も含めて持っているエネルギーを昇華する。
 石川淳をその文体ゆえに愛する清順さんのことである。単なる成長物語で終わってはいない。しかし、成長という軸がなくてはこの3本は語れないであろう。
 『翔んだカップル』はどうか。圭と勇介は成長しただろうか。僕は巻頭を再度見て、彼らがちっとも変わらなかったことに気がついた。ふたりも含めて、映画の中の高校生が「成長しない」のである。否定的な意味でいうのではない。彼らはある程度完成されて登場するのである。誤解をおそれずに言うならば、不完全な完成品といっていいかもしれない。
 過剰な自意識、照れ、レトリック、男と女という人間関係のあやうさの自覚、分別。はじめからいろんな矛盾をその世界の中に持って登場する。
 一見、成長の契機となりそうな事件がないわけではない。圭が見る大学生・星田と志津の<おとな>の世界。しかし。これは発展しないのである。ひとつの季節の中の出来事にすぎない。
 最初のシーンでみんなが笑っていないのに笑っていた圭と勇介が、ラストシーンでみんなが笑っているのに笑っていないからといって、ふたりが成長したことにはなるまい。ただ、ひとつの季節が終わっただけである。そして、季節というのはめぐるものだ。「また、明日」になれば、ふたりはきっと笑っているだろう。
 過去・現在・未来とつづく時間ではなく、ただ「現在」という時間の円環を映画はとらえた。
 したがって、『翔んだカップル』は、「なにをなすべきか=当為」の映画ではなく、「なにがここにあるのか=存在」の映画となる。(1980年10月記)
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【参考文献】『甦る相米慎二』(インスクリプト、2011年) 
 
2013年10月1日





DVD
セーラー服と機関銃
完璧版


角川映画・キティフィルム
1982年
132分

 相米慎二監督の大ヒット作、『セーラー服と機関銃』を見直す。
 1981年12月、東映配給で『燃える勇者』と共に公開された当時の劇場で見ているものの、任侠映画に通常の盛り上がりというものがまったくない淡々とした作品で拍子抜けした記憶がある。

 「完璧版」は当初カットされた19分ぶんを復活させた作品で1982年6月公開。ただし、「完璧版」は<薬師丸ひろ子限定プレミアム・ボックス>(他の収録作品は森田芳光監督『メイン・テーマ』と相米慎二監督『翔んだカップル』と特典)にしか収録されておらず、完璧版を見るためにそのメモリアル・ボックスを購入することになった(日本映画専門チャンネルでも完璧版が放映されていた)。完璧版にしか存在しないシーンは、(1)黒木刑事(柄本明)から星泉(薬師丸)が麻薬を密輸入する途上で父親が殺されたという推測を聞かされる場面、(2)浜口組長に招待されてそのまま襲われる泉をマユミ(風祭ゆき)が助ける場面のふたつ。

 無条件に映画の世界に入っていけて、酔わされるような作品ではない。だいいち女子高校生が関東目高組という由緒あるやくざの組長になる(本来、跡目は泉の父親だったが、交通事故で急死したため、直系の泉に回ってきたもの)という荒唐無稽な設定だし、四名の組員たちがその組長に従うのも、お伽話的で有り得ない状況である。目高組と対立する組の反撃も既に『仁義なき戦い』の<取る-取られる>戦いを見てしまった観客からすると、現実感がない。争い続ける三大寺組(組長役は三國連太郎)や浜口組(組長役は北村和夫)、松ノ木組(組長役は佐藤充)などの、暗闘の目当てが多量のヘロインとはいえ、組員の生命というコストが大きすぎる。両脚の膝から下が無くアルミの松葉杖をついて歩く三大寺組長もマンガの登場人物である。泉と組員ヒコがバイクで親しく話した翌朝、事務所にヒコの死体が届けられても組員みんながあまり驚かないし、組員メイは泉に「お袋の匂い」を感じて抱きついた後、萩原(寺田農)に突然撃たれて死んでしまうものの、車に連れ込まれた泉の涙は続く展開の間に乾いてしまう。何から何まで非現実的である。

 『甦る相米慎二』という本の第一部<相米慎二と映画>に寄せられた六人の論客の評論は勉強するためのテクストとして相米映画を語るものになっていて、映画ファンの視点になっていない。なるほど<ごもっとも>という指摘がされるものの、<勉強してみました>という他人行儀な姿勢が際立っている。本来、『セーラー服と機関銃』にふさわしい語り方は、ジャッキー・チェンの映画を語る語り口だと思う。ブルース・リーの映画の語り口でもよい。

 この映画のみどころは、非現実的な空間で動く薬師丸ひろ子の身体性にあると思う。ブリッジをして登場する薬師丸の身体性があらゆる場面で、いかんなく発揮されている。セーラー服で棒立ちのまま運ばれて自動車に連れ込まれたり、パジャマ姿ででんぐり返しをしたり、クレーンで吊られてセメント液に漬け込まれたり、不安定な地雷の上に立たされたり。よくぞここまでヒロインをいたぶったものだと驚くほど・・・。当時の薬師丸ファンも驚いて、映画館から出て話題にし、さらに観客がその活動(アクション)を見ようと映画館に出かけたことが理解できる。このようなスタントなしのヒロインの意外な活躍は、薬師丸に限らず、相米映画では『ションベン・ライダー』の河合美智子、『雪の断章-情熱-』の斉藤由貴、『台風クラブ』の工藤夕貴なども同様だった。  
 相米映画の製作をよく手がけた伊地智啓さんが、「ワンカットで起承転結までいってしまうので、カットが割れない」と証言しているが、本作でも驚異的な長回し(寺の境内から暴走するバイクに相乗り、疾走し、ヒコと星泉が語る場面)が見られる。
 一作目の『翔んだカップル』では遠慮がちだった相米組の特徴も、この二作目『セーラー服と機関銃』からは、はっきり出てきたという。それらは、続く三作目の『ションベン・ライダー』で徹底的に展開することになる。
 相米自身は、「テレビで与えられるものは情報だけ。人間の中に新しいエモーショナルなものをつくろうとするメディアが映画」と語っている。

【参考文献】『甦る相米慎二』(インスクリプト、2011年) 



シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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