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 映画 日記              池田 博明 


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2013年2月1日以降、2013年9月31日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2013年8月9日



DVD
レ・ミゼラブル



2012年
ユニバーサル
158分
 日本では『あゝ無情』と訳出されて親しまれて来た作品のミュージカルを映画化。歌も本職の歌手ではなく役者が歌っている。相当の訓練をしたらしく、情感のこもった歌声になっている。とはいえ、声量は本職の歌手には比ぶべくもない。メロディラインの美しい歌が主役級にはひとつずつふられているが、役者の声はまるで出ていない。映画版ではなく歌手が歌っている舞台公演版を見なければミュージカル作品としての本作の評価はまったく不可能だろう。
 ジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)は妹の子供のためにパンひとつを盗んで五年の懲役刑、しかし脱獄をくり返したため結局19年も牢獄につながれることになった。仮釈放にはなったものの、身分証明書の凶悪犯罪人のレッテルが響いて社会からつまはじき。ようやく拾ってくれた教会から銀食器を盗むが、捕らえられたジャンに司祭は「あなたにあげたのに、(燭台を)忘れなさった」と罪を見逃してくれた。生まれ変わったジャンは献身的に働き、マドレーヌ市長となった。仮釈放証書を棄て出頭命令に従わなかったジャンを長年追ってきたジャベール警部(ラッセル・クロウ)に会ったジャンは咄嗟に工場での女どうしの揉め事を工場長に任してしまう。不実な工場長は無実のファンテーヌ(アン・ハサウェイ、アカデミー助演女優賞)に不利な裁定を下し、彼女を工場から追放してしまう。ファンテーヌは娘コゼットのために髪の毛を売り、奥歯を売り、娼婦に身を落とす。客に工場長が来たとき、ファンテーヌは客の顔をひっかく。警官が来る。市長が来る。ファンテーヌは市長を不実な男となじる。市長は女に見覚えがあった。彼女の娘を思う気持ちに打たれ、コゼットを守る約束をする。やがてファンテーヌは病死してしまう。
 ジャベールは市長が重い柱をひとりで持ち上げて下敷きの男を救う現場を見て、力持ちのジャンではないかと疑う。しかし、彼が警察本部に照会すると、ジャン・バルジャンは既に捕縛され、裁判を受けているという。警部は市長を疑ったことを告白し、自分を罰してくれと申し出る。市長は警部は職務を果たしてまでのことだと許すが、一方、無実の男が自分と誤認され裁かれようとしていることを知って激しく悩む。そして結局、裁判所に出頭し、自分の身の上を告白する。
 コゼットは預けられた宿屋の夫婦テナルディエ(サッシャ・バロン・コーエン、ヘレナ・ボナム・カーター)の許で極貧の暮らしをしていた。ジャンは言い値でコゼットの借金を帳消しにして引き取る。しかし、ジャベールが追って来た。二人は逃げる。ちょうど逃げこんだ修道院で庭師をしていた男は市長が助けた男だった。
 月日は流れた。コゼット(アマンダ・セイフライド)は美しい娘に成長したが、屋敷からほとんど出ない生活だった。パリには再び革命の気運が盛り上がっていた。学生たちは武器を準備し、革命を目指していた。そんななかに学生・マリウス(エディ・レッドメイン)もいた。マリウスは街で見かけた美人に心を奪われていた。コゼットであった。マリウスは知り合いのエポニーヌ(サマンサ・バークス)に娘の家を探してくれと依頼する。エポニーヌは宿屋の女将の娘でコゼットとは小さい頃の顔見知りだった。エポニーヌのはからいでコゼットとマリウスは垣根越しに出会い、恋に落ちる。
 警察の捜索の手がこの隠れ屋敷にも伸びてきた。ジャンは外国への逃亡を考える。コゼットはマリウスに別れの恋文を書き、門にはさむ。マリウスは恋を取るか革命を取るかを悩む。そして、少年ガヴローシュ(ダニエル・ハットルストーン)に託してコゼットに手紙を届ける。革命に賭ける身だ。ジャンはコゼットのためにもこの青年を救出しなければならないとバリケード内に出かけてゆく。バリケード内には潜行していたジャベールが捕らえられていた。志願兵に化けたジャンはジャベールの処刑を一任してくれと申し出て許される。ジャンはジャベールの捕縛縄を切って逃がす。「自分は悪者ではない。無実なのだ」と。
 政府軍の力が圧倒的に大きい。学生たちのバリケードは総崩れで全滅。ジャベールは死体を検分してジャンを探す。少年ガヴローシュの死体の胸にジャベールは自分の胸の勲章を剥ぎ取って付ける。一方、怪我をしたマリウスをジャンは下水道に引きずり込んで助ける。脱出孔近くで死体からの泥棒稼業に励む宿屋の主人に出会う。出口付近にジャベールが待っていた。「一時間だけでいい。時間をくれ」というジャンに「動いたら撃つぞ」というジャベール。しかし、マリウスを背負ったジャンをジャベールは撃てなかった。自分の負けを認めたジャベールは激流に身を投げる。
 数年後、コゼットとマリウスの結婚式。ジャンはコゼットに黙って去って行っていた。前科者が父親では将来に関わるからだ。しかし、金をせびりにきた宿屋の亭主テナルディエからマリウスは気を失った自分を助けてくれたのがジャンであること、いまは修道院に潜んでいることを聞き出す。二人が駆けつけたとき、ジャンは死の床にあった。ファンテーヌの霊がジャンを迎えにきていた。

【参考文献】ユーゴー『レ・ミゼラブル』岩波文庫、四巻、約600頁/巻
 2010年10月3日に、ロンドンのOアリーナにて25周年記念コンサートが行われた。そのコンサート形式の公演の模様がBDで発売されている。舞台版ミュージカルの歌手が歌っているので、歌は声が通り見事なものだった。
 特にジャン・バルジャン(アルフィー・ボー)、ジャベール(ノーム・ルイス)、フィリピン系のファンテーヌ(リア・サロンガ)は安定していた。マリウス(ニック・ジョナス)はやや線が細い。学生リーダーのアンジョルラス(ラミン・カリムルー)、コゼット(ケイティ・ホール)、映画と同じ役のエポニーヌ(サマンサ・バークス)。テナルディエ夫妻(マット・ルーカス、ジェニー・キャロウェイ)は登場場面から拍手喝采。ビショップ(アール・カーペンター)。
2013年6月5日



BD
大アマゾンの半魚人

1954年
ユニバーサル
79分
 2007年月に見ています。「大アマゾンの半魚人」。科学的アプローチが行われて半魚人を探す設定です。
 半魚人と共に沼で泳ぐ美人研究者の姿に魅せられます。その際のハラハラドキドキ感がすべてといっても良い映画です。もちろんこれはほめ言葉です。
2013年5月31日




DVD
オペラ座の怪人


1925年
76分
 監督ルパート・ジュリアン、主演ロン・チェイニーのサイレント映画だが、1929年にセリフとBGMを加えたトーキー版が公開され市販されている(『究極の名作映画大全集』に収録)。原作はガストン・ルルー。キャストは歌手クリスティーン(メアリー・フィルビン)、その恋人ラウール(ノーマン・ケリー)、警官ルドー(アーサー・エドマンド・カレウィ)、サイモン(ギブソン・ゴウランド)、 フィリップ(ジョン・セインポリス)、フローリン(スニッツ・エドワーズ)、歌手カルロッタ(メアリー・ファビアン)、カルロッタの母(ヴァージニア・ピアソン)。登場人物を必要最低限に減らし、結末が原作と異なる。オペラ座の地下に住むエリックが音楽と奇術に明るい、脱獄した精神異常者に設定されている。エリックを密かに捜査する警官ルドーとラウールは協力して地下に潜入するが、エリックの仕掛けで危うく一命を落としそうになる。クリスティーヌがなんでもいうことを聞くからと懇願して二人は助かるが、エリックは馬車でクリスティーヌを連れて逃亡。途中で彼女は馬車から落ちて群衆に救出される。ファントムは群衆に暴行され、川に沈む。
2013年5月24日



BD
オペラの怪人


1943年
ユニバーサル
93分
 監督アーサー・ルービンのテクニカラー映画。オペラ座では歌劇『マルタ』の上演中。コーラス・ガールのひとり、クリスティーヌ(スザンヌ・フォスター)に曵かれているのは巡査だけではなかった。バリトン歌手のアナトール・ガロ(ネルソン・エディ)も彼女に惚れていた。
 そして、指揮者から解雇を言い渡されてしまったバイオリン奏者のエリック・クローダン(クロード・レインズ)も彼女に惚れているひとりだった。クローダンは自らが作曲した協奏曲を、楽譜出版業の社長のもとへ持ち込むが、社長は無名の者の作品など出版するつもりはなかった。彼の曲を高く評価するリストが隣室で弾くのを聞いて、クローダンは曲が盗まれたと誤解し、社長を絞殺してしまう。秘書がかけた酸で顔を焼かれてしまった。オペラ座に逃げ込んだクローダンはマスター・キーを盗み、複雑なオペラ座内部に隠れる。
 一方、クリスティーヌは歌のレッスンを続けていたが、そのレッスン料は密かにクローダンが工面したものだった。彼女が歌う機会は主役のソプラノが君臨する限り、来そうもなかった。ある日、その主役が途中で突然気分を悪くして倒れる事態が起こった。クリスティーヌが代役で見事にその任を果たす。しかし、毒を盛られたと主役は抗議、犯人はクリスティーヌに恋する歌手ガロだと非難した。非難を取り下げることを約束した主役はその代わり、オペラ座の公演再開にクリスティーヌを出演させない条件を呑ませる。しかし、怪人が出現し、そんな仕打ちをした主役とメイドを絞殺した。公演は再び中止となった。
 クローダンをおびき寄せるため、巡査が考えた計画はクリスティーヌをわざと出演させない公演を打つことだった。歌手が考えた計画はクローダンの作曲したピアノ協奏曲を演奏することだった。いよいよオペラの公演が始まる。果たして隠れているクローダンは現れるのだろうか。

 カラーが素晴らしい。オペラの音も悪くない。1925年のサイレント映画が怪奇映画の名作なので、1943年のリメイクはメロドラマ風の味付けが酷評されている(例えば双葉十三郎の点数表)。しかし、このリメイクは十分に面白い。
2013年5月13日



You Tube
黒い土の少女


韓国
2007年
87分
 原題名は「With a girl of black soil 」(黒土少女とともに)。監督・脚本:チョン・スイル。まるでブレッソンの映画。こびない映画に久しぶりに出会った。グレート・フィルムのひとつである。藤田真男氏が高く評価していた。英語字幕付。
 家の隅に9歳の少女が立っている。少女を呼ぶ声がする。少女(ユ・ヨンミ)は知恵おくれの兄(パク・ヒョヌ)と一緒の部屋にいる。夢か? 冒頭の少女は最後のバス停でじっと立っている少女と対を成す。
 炭鉱では男たちが削岩機で石炭を切り出している。仕事を終えた後でシャワーで体を洗う男たちがまぶしい。少女の父親ヘゴン(チョ・ヨンジン)も炭鉱夫。バス停で兄妹トングとヨンリムは父を待つ。青黒い服の女が現れる。不気味な死神のような印象だが、この女は養護施設の職員である。トングを施設に入れるように勧誘に来たのだ。女と話す父親の姿だけしか映されず、リバースショットもないため、二人の会話であることがはっきりしない。しかし、最後の方で少女ヨンリムが兄トングを養護施設に置き去りにしようとバスに乗ったとき、途中でバスに乗ってきたこの女と一緒になる。ヨンリムは女に気づいて、自分の企みに気づかれるのではないかと、どきどきするが、女は近くの席に座っている二人には、ほとんど関心を示さない。忘れているのだ。ヨンリムは「無視されて安心する」。この無視されて安心という状況は本作の重要なテーマである。
 父親はじん肺症と診断される。労働災害である。組合に頼んだものの、病状が軽いため補償金を出してもらえない。運送屋から借りた車で配達の魚屋を始める。 炭鉱再開発で家から退去命令が来る。家の壁にも、取り壊し予定と書かれる。父親の車は停車中に同乗していたトングがサイドブレーキをはずしたため、坂道を下り追突事故を起こすが保険に入っていなかったため賠償金も払えない。会社の事務所で殴り合いをして後、酒びたりになった父親。翌日、トングが行方不明になる。二人は村の下の方を探す。やがて、山の半鐘が鳴る。トングだ。山の上に行っていたのだ。父は心配をかけさせたトングをぶつが、ヨンリムは自分の体を盾にして兄をかばう。雪がまだらに融けた山を三人が下ってくる。次の日、ボタ山に力なく座っている父親。ボタ山の上からずるずるとくずれ落ちていく。少女は店で酒とラーメンを盗む。店の人に追われた少女が逃げ込んだ建物はピアノ教室だった。眠ってしまった少女はピアノの音で起きた。まるで別世界から聴こえてくる音楽である。
 少女は決意をする。兄を施設に置き去りにし、酒びたりの父にラーメンを作る。病気が重くないと補償金が出ないのだ。ラーメンに隣の老人からもらった猫イラズを入れる。父親がラーメンを食べるのを見た少女はひとりでバス停へ行く。バスが来て、去る。しかし、少女は乗っていかなかった。バスに乗る金も無いのだ。少女はただじっと前を見つめている。

 韓国でDVDが発売されている。リージョン・フリーらしい。Amazon.comでも扱っていたが現在は在庫切れ・入荷不全で扱っていない。どうやっても入手できない状態である。
2013年4月22日


BD
狼男


1941年
ユニバーサル
75分
 ジョージ・ワグナー監督。父親のジョン・タルボット卿(クロード・レインズ)と疎遠になっていたラリー・タルボット(ロン・チェイニーJr)は、相続人の兄の死をきっかけに故郷へ戻って来た。二階に設置した天体望遠鏡で偶然街を見たラリーは視野のなかに骨董店で働く美女を見る。さっそく街へ出て美女をデートに誘った。美女は友人の女子を誘って三人で出かけることになった。ジェシーがジプシーに占ってもらっている間に、二人はいい雰囲気になりそうだったが、ジェシーが狼に襲撃され、助けようとしたラリーも咬まれてしまった。美女には婚約者がいたのでラリーは煩悶する。しかし、やがてラリーの身体に異変が現れて来た。他のキャストはロイド先生(ウォーレン・ウィリアム)、ジプシーの男性占い師で実は狼男モントフォード(ラルフ・ベラミー)。変身特撮場面は毛のない足が毛むくじゃらになることを中心に見せる。
2013年4月21日


BD
フランケンシュタインの花嫁


1935年
ユニバーサル
75分
 レムリ製作、ジェームズ・ホエール監督、ボリス・カーロフ主演、『透明人間』と同じピーター・フルトン特撮。
 嵐の夜、バイロン卿とシェリー、メアリーが話し合っている。メアリー(エルザ・ランチェスター)は自分の小説には続編があると話し出す。
 前作『フランケンシュタイン』で焼け落ちた風車小屋で死んだと思われたモンスターは水に落ちて生きていた。焼けた現場び残っていた前作で湖に投げ込まれた少女マリアの両親がまず犠牲になった。エリザベス(ヴァレリー・ホブソン)のメイド、ミニー(『透明人間』で宿屋の女将を演じたウナ・オコーナー)がモンスターに出会い、生還を皆に伝える。嫌がるヘンリー(コリン・クライヴ)を再度実験に誘うのは同じように人間を創造したというプレトリウス博士(アーネスト・セシガー)。博士はミニサイズの人間(女王、王、大司教、悪魔)を見せて、ヘンリーを説得しようとする。少女の遺体を手に入れ、モンスターを手なづけて、エリザベスを誘拐し、ヘンリーを協力させる。
 死体から蘇ったフランケンシュタインの花嫁(エルザ・ランチェスター)はモンスターを拒否、絶望したモンスターはヘンリーとエリザベスを逃がし、要塞を爆破する。以前に見ています。「フランケンシュタインの花嫁」2006年3月。
2013年4月19日


BD
透明人間


ユニバーサル
1933年
70分
 レムリJr製作,『フランケンシュタイン』の監督ジェームズ・ホエールが手がけた作品で、マッド・サイエンティストと彼を気づかう美女、美女に言い寄る友人、科学者の父親という人間関係が同じである。H.G.ウェルズ原作。
 吹雪の夜、小さな村の酒場に顔を包帯でぐるぐる巻きにした男がやって来た。男は宿を望む。あいにく冬は客がいないので宿は営業していないのだが、空いている二階の居間を貸すことにした。男は部屋に鍵をかけ、世話を断る。包帯を取ると男の顔は透明だった。男の正体は科学者ジャック・グリフィン。恋人フローラ(グロリア・シュチュワート)はジャックが急に行方不明になったので心配していた。フローラの父の科学者はジャックの使った薬品のなかに劇薬があり、動物を凶暴にする性質があるため、不安を覚える。
 体が透明になる薬を調合したジャックは元に戻る薬を開発しようと研究に専念できる場所を求めていたのだが、村の安宿は決して居心地のいい場所ではなかった。宿賃を払わないジャックは迷惑な存在になっていた。うるさく責められてジャックは怒り、正体を明かすのでみんなは大騒ぎ。しかし警察本部では透明人間など信じなかった。ジャックは恋敵のケンプをパートナーにして、宿に忘れたノートを取り戻す。自分の力を見せつけるため警官を絞殺してみせた。世界を征服できると野望を語るジャック。ケンプのもとに潜んだジャックに会いに来たフローラにジャックは大量殺戮計画を打ち明ける。警官隊が透明人間を捕縛しようとするが、見えない彼を捕まえることはできなかった。
 捜索隊員を岩場から突き落とす、列車のポイントを切り替えて脱線させるといった犯罪を続ける。ちょうど雪が降って来た。納屋に隠れていたジャックを警官隊が包囲する。・・・
2013年4月18日


BD
ミイラ再生



ユニバーサル
1932年
73分
 カール・レムリ製作,ボリス・カーロフ主演の怪奇作品第二弾,原題は「The Mummy」。監督はカール・フロンド。
 大映博物館の1921年の調査隊が発掘したミイラと一緒に埋葬されていた「トトの書」を収めた箱を開いた発掘助手はミイラが再生したのを目撃して気がふれてしまった。それから十年後、たいした成果もなく修了しかけていた発掘隊にアンケセナーメン王女の墓所の場所を教えてくれた男(ボリス・カーロフ)は、王女の血を引くヘレン(ジタ・ジョハン)の身体に王女の魂を再生しようとミイラ復活を企んでいた。ヘレンの美しさの虜になったフランク(ディヴィッド・マナーズ)は父の友人でオカルトに詳しいミュラー博士(エドワード・ヴァン・スローン)の助言を受け,ヘレンの動向を見張る。
 三千年以上も前にイムホテップは亡くなった王女を生還させようとトトの書を盗み,生還の儀式を行ったが,途中で発覚,罪により生き埋めにされミイラとなった人物であった。再生した彼は永遠の愛を得るためにミイラ用の新しい身体を探していた。
 ヘレン役のZITA JOHANNが艶っぽいエキゾチックな美人で,いかにも王女の魂を受けとるエジプトの血を引く女性に思える。
2013年4月12日


BD
フランケンシュタイン



ユニバーサル
1931年
70分
 メアリー・シェリーの原作、ペギー・ウェブリングの舞台を映画化(脚色はジョン・L・ボールダーストン)。ジェームズ・ホエール監督作品。葬儀直後に墓場の死体を掘り返して盗む場面から始まる。絞首刑になった人間の死体も回収したが、脳が使えないため、助手のフリッツ(ドワイト・フライ)は医科大学の講義室から標本の脳を盗む。その際に正常な人間の脳を持ち出すのに失敗、犯罪者の脳を持ち出してしまう。遺体をツギハギして造った人造人間に電磁波を通じることで生気を蘇らせたヘンリー・フランケンシュタイン(コリン・クライブ)は野卑なフリッツが煽って凶暴になったモンスター(ボリス・カーロフ)を見限り、婚約者のエリザベス(メイ・クラーク)と結婚式を挙げることにする。一方、モンスターを任された博士(エドワード・ヴァン・スローン)は目覚めた怪物に絞め殺されてしまった。村の結婚式に出現した怪物は花をくれた少女マリアを花と同様に河に投げ込んでしまった。村人たちは怪物退治に立ち上がる。ヘンリーも率先して怪物を探す。風車小屋で最期の戦いがあった。 
 犯罪者の脳は正常者の脳と異なる(前頭葉の一部)という学説が展開されている。
2013年4月4日




DVD
死霊伝説



TV
1979年
183分
 三夜放送のTVムービーだったが、好評で劇場公開された作品のノーカット版。原作はスティーブン・キングの『呪われた町 Salem's Lot』、脚本は60年代にTV「アンタッチャブル」「アスファルト・ジャングル」の脚本家ポール・モナシュ、監督はトビー・フーパー。
 メーン州ニューイングランドの町セイラムズ・ロット。作家のベン・ミアーズ(デビッド・ソウル)は町はずれの家を見つめていた。持ち主が家族を殺し、自殺したいわくつきのマーステン館である。少年の頃、空き家だった屋敷に入り込み、自殺した主が目を向いたのを見て以来、ベンはこの屋敷のことが気になっていた。次の小説に書こうと故郷の町へ帰ってきたのだ。しかし、館はちょうど骨董商ストレーカー(ジェイムズ・メーソン)に買われていた。ベンは自分の小説を読みかけている美術教師スーザン(ボニー・ベデリア)と知り合いになる。スーザンの過去の交際相手ネッド(バーニィ・マックファーデン)はベンの登場を快く思わない。警官(ケネス・マクミラン)もよそものを胡散臭く思っている。
 ストレーカーは何でも屋のクロケット(フレッド・ウィラード)に英国からの荷物の受け取りと運搬を依頼する。クロケットは運送業者カーリー(ジョージ・ヅンツァ)に仕事を頼むが、カーリーは引き受けたふりをしてその実、友人のネッドと墓守マイク(ジョフリー・ルイス)に仕事を任せた。カーリーの妻ボニー(ジュリー・コッブ)の不倫現場を押さえようというのだ。
 ネッドとマイクは食器棚という荷物を怪しむ。この荷物、どんどん冷えていくし、動くのである(ストレーカーの共同経営者バーロウ、実は吸血鬼が入っていたことが後でわかる)。地下室に収納したものの、薄気味悪さに錠をかけるのを怠ったまま、二人は逃げ出す。ストレーカーが館へ帰ると箱は壊れ、なかの何か(怪物)は出た後だった。
 ベンは学校時代の恩師バーク(ルー・アイレス)と会う。劇作の練習をしていたマーク(ランス・カーウィン)は魔術好きの少年だった。マークの家で劇の練習をしていたダニーとラルフの兄弟のうち弟ラルフは帰途、森のなかで何者かに誘拐される(誘拐犯はストレーカー。御主人さまであるバーロウへの生贄である)。ボニーとの不倫を見つかったクロケットはカーリーに銃で脅され外へ出たところを襲われる。吸血鬼となったラルフは兄のもとを訪ねて襲う。スーザンの父ビル(エド・フランダース)は医師、急死する人々がみな悪性貧血だと診断する。ただならぬ事態を察知したベンはマーステン館にその秘密が隠されていると考える。ダニーの葬儀の後、墓守マイクも吸血鬼ダニーに襲われて犠牲となった。ダニーの母親のマージョリー(クラリッサ・ケイ・メィソン)もダニーの歯牙に倒れた。これらの人々は吸血鬼となって仲間を増やしていく。神父(ジェイムズ・ギャラリー)が死霊のダニーを十字架で追い払ったマークに話を聞いていると、死霊バーロウが突然飛び込み、マークの両親を殺し、神父を倒した。マークは復讐を誓う。
 町の人々が危険にさらされる。ベンはスーザンを町の外へ逃がそうと話す。医師ビルと協力してマーステン館の死霊退治におもむく。一方、館にいち早く着いたスーザンは復讐のため地下室に忍び込むマークを目撃した。
 バンパイア・ハンターは功を奏すだろうか。
 
2013年4月3日




DVD
スパイダー


キャピトル
2002年
98分
 「スパイダー」と付いていればなんでも見てみようということで、クローネンバーグ監督作品を見る。原題も「spider」で、日本の副題には「少年は蜘蛛にキスをする」とある。スパイダーは少年のニック・ネーム。手足の長い少年のイメージであり、虚偽の網をかきわけて真実に至る物語の本質の暗喩だという。パトリック・マグラアの原作は少年スパイダーの一人称小説。脚本もマグラア自身が書いた。
 英国のロンドンのある街の駅。列車から降りる乗客たちに混ざって、ひとりの不器用そうな男クレッグ(レイフ・ファインズ)が降りてくる。統合失調症を患い、心療施設を退院した男はウィルキンソン夫人宅を訪問する。夫人(リン・レッドグレイヴ)は二階の一室に男を案内する。外界との接触をして治療する試みの一環である。先輩格の老人テレンス(ジョン・ネヴィル)が親しげに声をかけてくる。男はときどき小さな手帳に鉛筆で文字を書き込んでいる。書いているのは、子供の頃の記憶だ。少年デニス(ブラッドリー・ホール)は母親(ミランダ・リチャードソン)から愛されて育ったものの、配管工の父親ビル(ガブリエル・バーン)からは疎まれている。パブの尻軽女イヴォンヌ(ミランダの二役。二役と思えないほど全く異なる役柄である)と父親は情事を楽しんでいる。本来、そんな現場に不在のはずの大人になったクレッグが目撃者として常に存在する。父親はパブでイヴォンヌを荘園に誘い、小屋でセックスに耽っているところを、後を追いかけてきた妻に目撃され、シャベルで打ち殺してしまう。死体は小屋の前に穴を掘って埋めた。その日からイヴォンヌが母親となったが、少年は両親を「人殺し」と非難する。父親は息子がなぜそんなことを言うのかと戸惑っている。
 ある日、クレッグの眼にはウィルキンソン夫人がイヴォンヌに見えてしまう。クレッグはヒモを仕掛けてガス漏れを起こさせた過去を思い出す。同時に夫人を消してしまおうと鍵束を盗み、金づちとドライバーを眠っている夫人に打込もうと忍び寄る。

 クレッグの妄想癖は遺伝的なものだと監督は解説していた。レイフ・ファインズの言葉にならない独り言と暗い表情を最初から最後まで観なければならない観客の我慢会のような作品である。
2013年4月2日




DVD
アメリカ万才




ワーナー
1984年
95分
 ゴルディー・ホーン主演のコメディ。ホーンは製作総指揮も兼務。監督はハーバート・ロス。ホーン演ずるサニー・ディビスは35歳で場末のクラブのウェイトレス。店のウェイトレスはヒョウの衣装やエミューの衣装を着させられて客の相手をする。ある日、晩餐会を終えて出て来た中東のオタール国のマジッド殿下に対して、群衆にまぎれて銃を構えた男を見つけたサニーは無我夢中で男の腕にかみついた。結果的に殿下を暗殺から救ったサニーはたちまち国民的ヒーローになる。お尻を撃たれたが、怪我はたいしたことがなかった。記者会見で率直な受け答えをするサニーに注目したのはオタール国に戦略的に重要な基地を設置しようとしている政府高官だった。殿下がサニーとの結婚を望んでいることを伏せたまま、高官たちはサニーを国務省儀典局(protocol)へ招聘する。年俸3万5千ドル、これまで200ドルの借金のあてもなかったサニーにとっては大出世である。しかし、サニーは自分がそんな大役を果たすからにはなにか別のウラがあるに違いないと感ずる。サニーとの交渉役を主に担当するマイケル(クリス・サランドン)はサニーの率直さに魅かれていく。サニーは、殿下がサニーに贈ったロールス・ロイスをお礼の言葉の後に「公務員は贈り物を受け取れませんから」と断る欲の無さ。以前に働いていたルーニーの店が経営不振になり、仲間たちが失職しそうになっているのを聞くと、非公式に訪問してきた殿下たちを店に連れていってドンチャン騒ぎをさせる。これも「殿下にいい思いをさせるように」との指令だったからだ。
 バーでの騒ぎの責任を取る意味もあってサニーはオタール国へ派遣される。手厚いもてなしに戸惑うサニー。実は殿下と結婚させられるとわかってカンカン、殿下に抗議しようとしたときにオタール国ではクーデターが起こり、殿下とサニーは専用ヘリで脱出。アメリカでサニーは知っていて玉の輿にのろうとしたのかどうかの、公聴会が開かれる。公聴会でも持前の率直さで経緯を語り、うかつだった自分の責任とする潔い告白は万座の拍手を浴びる。彼女を国会議員に推すひともあって選挙が行われ、マイケルを夫かつ参謀にしてラストでは当選してしまうのだった。
 主役に都合の良すぎる展開の映画だった。撮影は名手ウィリアム・フレーカー。
2013年3月30日



DVD
もうひとりのシェイクスピア





コロンビア
2011年
129分
 シェイクスピア別人説に基づき、脚本が書かれ、映画化された作品。脚本ジョン・オローフ、監督ローランド・エメリッヒ。
 現代のニューヨークで舞台に立った英国の名優デレク・ジャコビが前口上を務めます。物語は一気に17世紀に飛びます。
 劇作家ベンジャミン・ジョンソン(セバスチャン・アルメスト)が兵士たちに追い詰められ、逃げ込んだ劇場で逮捕される場面で始まるので、シェイクスピアの正体はベン・ジョンソンという解釈かと思ったら、彼は単なる使者として利用されただけで、真の作者はオックスフォード伯エドワード・ヴィア(リス・エヴァンス)だった・・・といっても作者探索のミステリー仕立てではありません。脚本のオローフは『恋するシェイクスピア』の出現で1990年代に書いた脚本を封印してしまったそうで、映画に描かれる時代や背景は似ていますが、こちらはラブ・コメデイーではありません。「Anonymus (無名氏、匿名)」という原題が示すように戯曲執筆を秘匿せざるを得ない事情と並行して、英国王室の王位継承をめぐる策謀が描かれます。
 演劇の方の人間関係は理解しやすい。言葉の力を信じながらも高貴な身分が災いして戯曲の執筆を秘密にせざるをえなかったヴィア伯、戯曲執筆を快く思わない伯爵の妻(アンチジェ・スイエール)、ヴィアに作品を託され自分の名前で発表するように言われたにもかかわらず、役者のウィル(レイフ・スポール)に作者に対する称賛を横取りされ欲求不満を抱えるベン・ジョンソン、字が書けないにもかかわらず作者に名乗りを上げ挙句の果てには秘密の作者ヴィアを恐喝して劇場開設資金を巻き上げる小ずるい俳優シェイクスピアといった人々。
 一方、英国王室の方の人間関係は分かりにくい。人心を惑乱する演劇を敵視するせむしの宰相ウィリアム・セシル(デビッド・シューリス)、演劇好きなエリザベス1世(バネッサ・レッドグレーヴ。恋多き女で私生児もいて王位継承の騒動の原因となる)は分かったのですが、エセックス伯(セバスチャン・リード)やサウサンプトン伯(ゼイビア・サミュエル)などの位置関係は一度見たくらいではよく分かりませんでした。エリザベス1世からもヴィア拍は戯曲の作者として名乗ることを禁じられるのですが、それほど隠された史実を戯曲が暴いているということでしょうか。
 
 観客がシェイクスピア作品を熟知していることを前提にして作られています。例えば『リチャード3世』をヴィア伯が書き、上演を見た観客がリチャード3世を「セシルだ」と理解することなど。また役者のウィルは作品名を『ジュリエットとロメオ』と間違って言ってしまい、ヴィア伯の失笑をかったりしています。
2013年1月3日



BD
魔人ドラキュラ



ユニバーサル
1931年
70分
 ユニバーサルの怪奇映画ボックスの1本。トッド・ブラウニング監督の古典。舞台での大ヒットを受けて映画化され、ドラキュラものの定番となった作品だが、奇妙な点が多い。
 「なぜドラキュラ伯爵はトランシルヴァニアから英国へ渡ったのだろうか」。それに、村人たちは皆、吸血鬼伝説を恐れているのに弁護士のレンフィールド(ドワイト・フライ)だけが疑いもなく峠へ行き、御者がコウモリに変わっても気にせず、城へ入っていき、ワインまで飲んで(その結果昏倒してしまう)血を吸われてしまう。「城の女吸血鬼三人はどうなったのだろうか。その後登場しないのだが・・・」。
 英国でドラキュラ伯(ベラ・ルゴシ)に紹介される療養院の経営者セワード博士(ハーバート・バンストン)、娘のミーナ(ヘレン・チャンドラー)、その婚約者ジョナサン・ハーカー(デビッド・マナーズ)、ミナの友人ルーシー・ウェストン(フランセス・デイド)などが、ヴァン・ヘルシンク教授(エドワード・ヴァン・スローン)の助言にもかかわらず、油断し放題なのが奇妙である。特にハーカーはミーナが恋人なのに状況を理解した後も彼女をひとりで放置したままで、その結果、伯爵に吸血され放題なのだから・・・。
 ドラキュラ伯爵はミーナを連れて隠れ家へ。しかし、ヘルシング教授に追跡されている。日が昇るとドラキュラ伯は棺桶のなかで寝ているだけで無抵抗。これでは胸に杭を打ち込まれて最期をとげるのは当然である。吸血鬼も油断しすぎ。
2013年2月25日



DVD
四つ数えろ


ユニバーサル

89分
 カール・ライナー監督、カール・ライナー、ジョージ・ガイプ&スティーブ・マーティン脚本。暇な探偵レアドン(マーティン)のもとに事故死した科学者フォレスト博士の娘ジュエリエット(レィチェル・ウォード)が捜査を依頼に訪れる。前金をもらいさっそく捜査を始めたレアドンだったが、突然の闖入者に撃たれたりの災難続き。ジュリエットは口で銃弾を抜き取る。レアドンには幼児期に父親が家政婦と家を出た経験があり、「家政婦cleaning woman」という言葉を聞くと凶暴になる性質がある。レアドンが捜査を進めていくと事件の関係者として過去の犯罪映画の名優たちが共演者として登場してくる。他の映画の一場面なのだが、本作の物語のなかに織り込んでいるのである。コメディなので、無理やりつなげた挿話もあって物語はテキトー。
 過去の作品から出ているスター。『殺し屋』のアラン・ラッド、『This Gun for Hire=拳銃貸します』(1942) のエバ・ガードナー、『私は殺される』(1948)のバーバラ・スタンウィック、『失われた週末』(1945)のレイ・ミランド、『殺人者』(1946)のバート・ランカスター、『三つ数えろ』(1946)『孤独な場所で』(1950)『潜行者』(1947)のハンフリー・ボガート、『断崖』のケイリー・グラント、『汚名』(1946)のイングリッド・バーグマン、『愛憎の曲』(1946)のベティ・デイビス、『Johnny Eager』(1942)『『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1946)のラナ・ターナー、『Johnny Eager』 のエドワード・アーノルド、『I Walk Alone=暗黒街の復讐』(1947)のカーク・ダグラス、『深夜の告白』(1944)のフレッド・マクマレー『白熱』(1949)のジェームズ・キャグニー、『ユーモレスク』(1946)のジョーン・クロフォード、『賄賂』(1946)のチャールズ・ロートン、『賄賂』のエバ・ガードナー、ビンセント・プライス。
2013年2月15日



DVD
名探偵再登場

コロムビア
1978年
88分
 ニール・サイモン脚本、ロバート・ムーア監督の二本目の作品だが、内容「The Cheap Detective」は前作とは無関係。ピーター・フォーク主演は同じだが。1939年、サンフランシスコを舞台に『マルタの鷹』と『カサブランカ』を合わせたパロディ映画が展開する。 私立探偵のマークルがホテルで撃たれて死亡、彼の妻ジョージア(マーシャ・メイソン)と不倫関係にあった探偵ルー(ピーター・フォーク)が警察に疑われる。パリ陥落の日にレジスタンスに参加しているデシャール夫妻(フェルナンド・ラマス、ルイーズ・フレッチャー)がドイツ将校(ニコール・ウィリアムソンら)から奪われた書類を取り戻そうとするルー。酒場の歌手ベティ(アイリーン・ブレナン)や秘書ベス(ストッカード・チャニング)、調査依頼者(マデリーン・カーン)などルーを取り巻く女性は多い。ゴールデン・ゲイトの持ち主だという富豪(シド・シーザー)の妻(アン・マーグレット)も加わる。
2013年2月14日



DVD
名探偵登場



コロムビア
1976年
94分
 ニール・サイモン脚本の「Murder by Death」をロバート・ムーアが監督。音楽はデーヴ・グルーシン。
 晩餐と殺人という招待状で集まって来たのは、サム・スペードならぬサム・ダイヤモンド(ピーター・フォーク。ハンフリー・ボガートの真似である)、チャーリー・チャンならぬワン警部(ピーター・セラーズ)、マープルならぬマーブル(エルザ・ランチェスター)、ポアロならぬペリエ(ジェームズ・ココ)、『影なき男』ならぬチャールストン夫妻(ディヴィッド・ニーヴン、マギー・スミス)、探偵にはそれぞれ連れがいる。サムには酒場女のテス(アイリーン・ブレナン)、ワンには養子の日本人ウィリー(リチャード・ナリタ)、ペリエには運転手マーセル(ウィリアム・クロムウェル)、マーブルズには車いすの看護婦(エステル・ウィンウッド)などなど。出迎えるのは盲目の執事ベンソンマム(アレック・ギネス)とつんぼでオシのメイド(ナンシー・ウォーカー)。晩餐の主催者はライオネル・トウェイン(トルーマン・カポーティ)。名探偵自身がトウェインとなんらかの繋がりがある(なかには探偵自身の嘘もあることが後で分かる)ことが矢継ぎ早に判明する場面や真犯人の正体を名探偵が賞金をものにしようと暴き立てる度に異なる場面などはミステリーというよりも牽強付会に近いし、モデルとされた名探偵の気質と相容れないため、なんだか不愉快である。例えば、マープルが賞金を欲しがるとは思えないのだ(映画の登場人物はマーブルですが)。
 探偵小説に不満をもつ男が仕掛けた名探偵との勝負。ニール・サイモンはチャン役にオーソン・ウェルズを希望していたが、スケジュールが合わなかったという。ニール・サイモンの舞台劇にも出演していたピーター・フォークの起用にはこだわったという。アレック・ギネスやディヴィッド・ニーヴンが出演してくれるとは予想していなかった由。
2013年2月16日




DVD
リッピング・ヤーン




英国
BBC
1976年~1979年
各30分
 モンティ・パイソンのスピン・オフ作品。RIPPINGは古い言葉で「すてきな」、YARNは「ほら話」の意味。マイケル・ペイリン&テリー・ジョーンズ脚本,シーズン1の監督はテリー・ヒューズ(第1・4・5話)またはジム・フランクリン(第2・3・6話)。シーズン2の監督はアラン・J・W・ベル(第1・2話)またはジム・フランクリン(第3話)。主演はどの挿話もマイケル・ペイリン。字幕翻訳は牧野琴子・関美冬・森泉佳代子・伊原奈津子。
 シーズン1 
 第1話「トムキンソンの学校生活」(1976年1月7日)。グレイブリッジ校でいじめに遭い、何度も脱走に失敗したトムキンソンだったが、ケンケン大会で優勝。イートン校に引き抜かれた番長に代わって番長に任命される。歓迎の式で彼は・・・
 第2話「エリック・オールスウェイトの試練」(1977年9月27日)。1934年ヨークシャー、雨の土地。突然エリックの家族が家出した。原因はエリックの退屈さにあるという。銀行強盗のアーサーに人質にされて話すうちにエリックは意気投合、ギャング団を結成、たちまち人気者になる。雨ばかりの退屈な町を話題にしたことで、とうとう市長にまで推薦されてしまう。
 第3話「112B捕虜収容所最後の大脱走」(1977年10月4日)。フィップス少佐は何度も脱走を試みる。112B捕虜収容所に収容されたが仲間は誰も彼の計画に賛同しなかった。脱走委員会があってその審議を経て決定するという。トイレットペーパーの芯でグライダーをひそかに組み立てていたが、ある日彼以外の捕虜は脱走した。ドイツ軍の監視兵も脱走し、彼は収容所内で自由に脱走計画を練ることができるようになったが、戦争が終わってしまった。・・・
 第4話「ムーアストーンズ荘殺人事件」(1977年10月11日)。車の話ばかりのヒューゴは婚約者のドーラを道端に置き去りにして父親クライヴ卿の誕生日祝いに駆けつける。弟のチャールズとルース夫妻も到着。夕食で残虐な話題を平気でする父親に閉口してルースが料理の皿に溺れた。その後、銃声がして父が死亡。疲労困憊して歩いて家に着いたドーラ。翌朝ヒューゴも撃たれた。昔、叔母を殺したというチャールズに撃たれたのだろうか。ファーソン医師が到着したが奥様を愛していたので拳銃で自分が卿を撃ったと告白、執事も積年の恨みをはらすために卿を撃ったと告白、ドーラもチャールズも殺人を告白して撃ちあいになる。奥様だけが残ったが・・・
 第5話「カエルでアンデス越え」(1977年10月18日)。スネッタトン大尉はカエルを携えてアンデス越えの探検に出た。ベース・キャンプの村ではラジオでサッカーの決勝戦の中継放送。翌日もウィブルドンの試合でガイドがいない。老婦人のガイドで偵察したものの、足が早くて追いつけなかった。曹長は現地語で「タマシ(女学生)」と呼びかけて老婦人を止める。カエルを見張っているはずの曹長や兵士も現地の娘と一緒になってしまった。逃げたカエルを探させたが火山の鳴動をカエルのせいだと恐れる現地人は気が入らない。大尉がラジオを壊したことで怒りが向けられた。箱の中に残っていた眠りガエルを抱えて逃げた大尉は・・・
 第6話「ツメの呪い」(1977年10月25日)。妻のアガサを亡くしたばかりのケビンのもとに道に迷った探検隊の一行が来る。探検隊はビルマの部族を連れていた。ケビンは隊長にジャック叔父から預かったハゲワシの爪の呪いを語る。ビルマ行の貨物船の船長になってケビンは爪を部族に返すはずだったが、クルーが実は女だったりして上陸寸前で爪の呪いが発揮される。60歳の誕生日に爪はケビンのもとへ戻って来るが、それとともに不幸が訪れる。しかし、外に誰かが訪ねて来たようだ。迎えに出てみると息子を迎えにきた両親だった・・・
 シーズン2
 第1話「ウィンフリーの最後の活躍」(1979年10月10日)。1913年ドイツが開戦準備をしているらしいと英国軍は歴戦の勇士ウィンフリーに情報探索・戦争の阻止を依頼するが、彼は休暇を理由に断る。港町のコテージで休むはずが多くの使用人が同居し、なにやら陰謀がたくらまれているような様子だ。なんとかコテージから逃げ出し、村へ戻った彼が知った秘密は・・・
 第2話「執念のゴードン 涙のサッカー物語」(1979年10月17日)。バーンストーンワースのサッカー・チームは弱小。ゴードンは負けるたびに家に八つ当たりしていた。とうとう経営陣は売却を決定。ゴードンはオーナーの鉄クズ会社社長フォーゲルに思いとどまってもらうように懇願したが意志は変えられなかった。1922年の勝利チームのメンバーを集めて最終戦の臨んだ。試合は8対1で勝利。喜びで家族で家のものを壊し始めた・・・
 第3話「ロジャーのインド統治」(1979年10月24日)。大富豪の息子ロジャーはラタン語の家庭教師から革命理論を教えられていたが、恋人のミランダに夢中だった。ミランダと商売を始めるのが夢だったが、富豪の財産をなげうつわけにもいかず、逡巡していた。ある晩、家庭教師が革命を標榜し軍隊の反乱軍を率いて邸宅にやってきた。ロジャーをリーダーにするという。ロジャーは恋人と脱出する予定だったのだが、リーダーに祭り上げられ銃撃戦にまきこまれる羽目となる。・・・
 番外篇「シークレット ブラック&ブルー」(1973年8月)は家庭用ビデオで録画された一篇、BBCアーカイブより。脚本はマイケル・ペイリン&テリー・ジョーンズ、監督はJ.C.ジョーンズ。新発売の高級チョコ、シークレットの製造工程の混合器に工員3人が落ちてしまった。対応が遅れて工員は粉砕されチョコに混ざってしまった。市場調査の結果、人肉成分が混入したチョコの評判が良かった。牛肉を混ぜても不評だったので、スタッフは思い切って人肉を混ぜることに決定。死体の利用システムを確立し、チョコは莫大な利益を上げることになる。死体利用システムは英国の経済をも変えた。
 
 特典は上記番外篇のほかに「ムーアストーン荘殺人事件」未公開シーン(ファーソン医師が訪問する直前に新興宗教の教団の勧誘の女性二人が訪問してくるエピソード。初放送にはあったがその後カットされた部分)と「マイケル・ペイリンの“笑いの原点”」(マイケル・ペイリンの生い立ちから学生時代を経てデビュー直前までを描いたドキュメンタリー)。




2013年2月1日以降、2013年9月31日までに見た 日 本 映 画 (邦画)

見た日と場所 作  品        感    想   及び  梗  概  (池田博明)
2013年9月20日



DVD
人情紙風船



東宝
1937年
86分
 山中貞雄監督の最後の作品。脚本は三村伸太郎。山中貞雄が海野又十郎の逸話を加えている。三村は「はじめて見たときには、ほんとうに胆をつぶしたように、驚いた。この作品は私のシナリオに似て非なるものである」と書いた。前進座とP・C・Lの提携第二回作品。第一回作品は滝沢英輔監督の『戦国群盗伝』。
 歌舞伎の通称「髪結新三(しんざ)」(河竹黙阿弥作「梅雨小袖昔八丈」)が原作。新三が地回りのやくざをへこます転回が庶民の喝采を浴びた。筈見恒夫が「山中貞雄は前進座の舞台『償金五十万兩』を見て、中村翫右衛門のぐうたらな浪人が、山岸しづ江の氣の強い女房に殺される演出に心を打たれた」と報じている。
 雨にけむる長屋のどぶ。雨がやんで晴れ間が広がる。江戸深川の棟割長屋である。長屋では侍が首をつったと人々の話題になっている。朝これから働きに出ようとしている長屋の人々にとって、お役人の取り調べが終わるまでは長屋から出てはいけないと足止めをくらって、迷惑な話である。
 「侍なら腹を切りそうなもんじゃねえか」「刀が無かったんだよ」「長えやつをさしてたじゃねえか」「あれは竹光だよ」と住民たちは話している。
 長屋の大家(助高屋助蔵)が来るが、とんだ迷惑だという風である。髪結の新三(中村翫右衛門)は事件を知らずに朝寝をしていて大家と一緒に事件の証人として奉行所へ呼ばれる。
 帰途、大家の下駄の鼻緒を直しながら新三はゲンの悪い部屋の悪気払いも兼ねて侍の通夜に五升の酒を大家から住民へふるまわさせる。
 その夜は首吊りの家に住民一同が集まって飲めや歌えの大騒ぎ。通夜と言ったって結局は祝宴である。盲の隣に座った金魚売りの源公(中村鶴蔵)は盲・藪市(坂東調右衛門)のキセルをくすねる。大家が刺身が薄いと文句を言うと新三はそれならと仕出し屋へ厚い刺身と追加の酒を注文し大家につけてしまう。
  翌朝、飲みすぎた男たちは頭が痛いと嘆く。盲の藪市はキセルが無いと探す。キセルは源公が盗ったのだ。地回りのやくざが新三を探しに来る。新三は隣の海野の部屋に逃げ込み、かくまってもらう。新三がやくざに追われている理由は後であきらかになる。
 長屋の住人のひとり、侍の海野又十郎(河原崎長十郎)は妻おたき(山岸しづ江)の手内職で暮らしている浪人。
 海野は道で出会った毛利三左衛門(橘小三郎)に士官の途を願い出るが、あきらかに毛利に迷惑がられている(写真1)。亡くなった海野の妻の父が毛利へあてた手紙を読んでもらおうと渡そうとするが、明日と日延べするばかりで毛利は受け取ろうとしない。毛利の地位には妻の父親の恩があるのだから無視はできないはずだというのだが。毛利は質屋の大店・白子屋に入り、海野は店先で毛利の仕事の終わりを待つ。
 毛利は白子屋の娘お駒(霧立のぼる)を大名に輿入れする相談である。商家の娘では不釣り合いだからいったん毛利の養女にするという。こんなめでたい話に白子屋でも異存があるはずはない。しかしお駒本人は手代の忠七(瀬川菊之丞)と惚れ合っているので不満である。
 白子屋(御橋公)が毛利にお付きのお侍を如何しましょうかと尋ねる。毛利は迷惑しているので追い払ってくれと依頼。そこで白子屋の忠七は使いの子供(市川扇升)に「薬屋へちょっとひと走り」と命じて地元のやくざに追い払いを依頼する。 ほどなくやってきた弥太五郎源七の子分たち(猪助は市川莚司ことのちの加東大介ら)は海野を表へ連れ出し、暴行する。そこへとおりかかったのが新三、止めに入るが反対にやくざたちに捕まってしまう。やくざたちにとっては海野はもはや関心外である。
 長屋へ帰った海野は妻にそこでちょっと転んだ、毛利さまは多忙で明日来いと言われたと嘘をつく。 おたきは黙って内職の紙風船張りをするだけである。
 一方、新三は源七の縄張り内で盆を開いたことを咎められている。新三は勝手なことはしないと源七(市川笑太郎)に約束させられるが、次の場面では源七の脅しをよそに自分で盆を開いている。蕎麦屋に灯りを消させるほど用心していた新三だったが、源七の子分たちは張り込んでいた。蕎麦屋の場所を手がかりに開帳の場所を突き止めてしまう。あわてて逃走する新三や客たち。
 翌朝、新三は酒屋でなじみの客を気遣いながらも、二両ばかりの借金を頼むが色よい返事はない。仕方なく新座は髪結いの道具を質入れするつもりで、道具を持って白子屋を尋ねる。しかし、忠七からは金を貸してもらえない。怒って帰ろうとする新三。お駒は「貸してあげればいいのに」と意見したが、既に新三は半身を外へ出していた。忠七は小童を源七のもとへ走らせていたので、新三は外で源七の子分たちに捕まる(写真2)。殴り蹴られて倒れてしまった新三。
 長屋で、盲は実はあのキセルはつまっていた、源公がそれを修繕した頃に取り戻すつもりだと、源公の盗みを知っている乙松のかみさん(岬たか子)に打ち明ける。
 ある縁日の夜、お駒と忠七は連れ立って出かけたものの、折悪しく激しい雨になる。忠七が傘を取りに行っている間に、新三はひとり待つお駒と出会う(写真3)。
 新三は、弥太五郎に一泡吹かせるためにお駒を長屋へ連れ去る。「帰してくれ」と嘆くお駒に、新三は「そうはいかねえ事情がある。おとなしくしな」と話す。隣の海野はお駒の声を聞きつけ、不審に思って新三に問いただす。たまたま妻のおたきは実家に帰っていて留守だった。
 翌日、お駒奪還のために弥太五郎たちが新三のもとを訪れる。白子屋からことを荒立てないでお駒を取り返してくれと言われている弥太五郎は新三に暴力をふるうわけにはいかない。二、三両の金で解決しようとする弥太五郎を、新三は「金なんかいらねえ。てめえが頭を丸めて謝りに来い」と追い返す(写真4)。お駒は隣の又十郎の部屋に隠していた。
 長屋の大家が様子を見に来る。地元の顔役を追い返したとあって一躍、新三は貧乏人の英雄だ。大家もすっかり溜飲を下げている。しかし、大家にはもうひとつ魂胆があった。それは金である。お駒を返す代りに白子屋から謝金をせしめようというのだ。新三は乗り気ではなかった。弥太五郎に一泡吹かせたので、もうお駒を白木屋へ返すつもりなのだ。
 大家はひとりで勝手に白木屋へ交渉に行く。籠を頼んで白木屋へお駒を返した新三のもとに五十両を得た大家が戻ってくる。二人は五十両を山分け。長屋の連中に大判振る舞いをすることにする。二人は又十郎を協力者として飲みに誘う。
 あまり気の進まない海野だったが、飲み屋で大家から毛利の慌てぶりを聞いて、海野は会心の笑みを浮かべる(写真5)。なにせ白子屋で追い出されたあとも、毛利家を訪問しては使用人から追い返され、雨のなか籠で帰ろうとする毛利に訴えたけれども、もう会いに来ないでくれと言われていたのである。父親の手紙も渡せていない。つまはじきにされ放しだったのだ。久しぶりに気持ちよく酔った海野は妻が帰ってくるのを思いだし、飲むのをいったん中座して妻に断ってくると帰宅する。
 一方、飲み屋の外では弥太五郎の子分たちが待ち構えていた。「顔を貸せ」と言われて新三はただでは帰れないと覚悟を決める。財布を飲み屋の主人に預け、飲み代はそこから払ってくれと言いおく。ついでに雨のなか借りた傘を帰して欲しいと知人から頼まれてそれも引き受ける。弥太五郎は意地をかけて新三とタイマンの勝負をする(結果は描かれない。弥太五郎は長ドス、新三は匕首)。新三は猪助に傘を預けて返却を依頼する。
 一方、里帰りをしていたおたきが長屋に戻っていた。 長屋のかみさんたちが「まさかお侍さんが片棒かついでいたなんてね」「うちの宿六と変わりゃしないね」と噂しているのを聞いてしまう。
 加藤泰はこう指摘している。“おたきの場合、夫は、信じて生きる世界の象徴である。それが目の前で崩れたのである。山中貞雄はおたきにどうさせたか。黙って、爪先に目をやり、コトッ、コトッと路地のどぶ板を踏ませて、家に帰らせたのである。それを後ろ姿のフールでとらえたワン・ショットをぼくは鮮烈に覚えている。”(306頁)。
 上機嫌で帰宅する又十郎はおたきに背を向けごろりと横になり、毛利様も白子屋の娘のことで忙しく、会えなかったが、手紙を渡したので、あの手紙を読んで無視はできないだろうと話す。聞いているおたきの手は、渡されずに着物の袂にあった手紙を出していた(写真6)。やがて、密かに刃物を取り出すおたき(溶暗)。翌朝、おかみさん連中が驚いた顔をしている。「心中だよ」と言っていた。どぶには、おたきの作った紙風船がぽつんと浮いていた。

 人情は、紙風船のように薄く、はかないものだという諦念が現れている作品。加藤泰はその見事な遺著『映画監督 山中貞雄』(1985年)で、こう書いている。“山中貞雄が、三村伸太郎を尊重し、その『人情紙風船』から汲み取ったものは、社会の底辺の庶民への愛情と、雑草にも似たその生命力への信頼である。だからその居直りや反抗に、たとえ浪人でも、侍の力などという連帯は無用である。海野又十郎の登場がありとすれば、庶民の対性格という意味での失業武士、それの現実そのままがいいのである。禄を離れた武士はタダの人、いやそれ以下かもである。だから彼の望みは唯一つ帰参、再就職-士官である。面をつぶされた侠客は、その回復のためには、どんな術策を弄してでも、つぶした相手を消すものである。殺されるのは新三である。だが殺されても、殺されても、別の新三がまた出てくるであろう。それが雑草というものである。お駒が誘拐の恐怖をくぐり、得たものがありとすれば、親の決めた婿を蹴って、惚れた手代の忠七と手に手をとって逃げてしまう勇気、いや、無分別であろう”(299頁)。三村の脚本と山中の映画を比較して実作者の観点から述べたこの評言は的確である。ちなみに、今日見ることのできる山中作品三本はどれも後期の作品である。
【参考文献】
 加藤泰『映画監督 山中貞雄』(キネマ旬報社,1985)
 やまさき十三『日本映画監督列伝3 山中貞雄』(小学館,2001)。
 『山中貞雄作品集 全一巻』(実業之日本社,1998)
 千葉伸夫(編)『監督山中貞雄』(実業之日本社,1998)
 『日本映画ベスト150 大アンケートによる』(文春文庫,1989)にて
   『人情紙風船』は第10位,『百萬両の壺』は94位,『国定忠治』は138位。
2013年9月7日



DVD
ハードスキャンダル
性の漂流者


にっかつ
1980年
70分
 ミニコミ誌『学校第5号』(1980年12月1日発行)から転載した批評を以下に示す。キネマ旬報の「読者の映画評」に投稿して掲載されなかった批評を少し手直ししている。
 ========================
 現実はささくれだっている。
 私たちは、ひとりひとりばらばらに切りはなされている。しかし、ひとりで生きていけるほど強くなってはいない。おたがいが、心のよりどころ、結びつく相手を求めて「声なき叫び」を挙げている。
 私たちは結びつこうとして集まってくる。深夜のディスコに集まってくる。「竹の子族」として集まってくる。「暴走族」として集まってくる。夫婦交換(スワッピング)のために集まってくる。いっときの、バラバラの、連帯ができる。しかし、それは悲しい連帯である。
 ロマン・ポルノは性の悦楽を描くとともに、それと表裏一体の満たされぬ欲望も描いてきた。『性の漂流者』には悦楽の性の側面は皆無である。満たされぬ欲望だけがふくれあがる。不幸な性、歪みねじれた人間関係、演技と嘘と裏切りが描かれる。『人妻集団暴行致死事件』(田中登監督1978年)と同様に、ここにあるのは、あまりにも現代的な人間関係の喪失である。親と子、夫と妻、「姉」と「弟」といった前提は、いっさい無効となってしまった人間が、それでも共同性を回復しようとして、あがいている姿である。
 悦楽のための夫婦交換であるはずが、その光景はたいそう痛々しい。現代の性は、自分以外の他者との断絶を埋めようとする悲しい努力であるように思える。努力すればするほど性の深さを意識せざるを得ないような、それだからこそ、それに耐えられずにまた努力してしまうような、そんなむなしい光景が、現代の性風景である。
 突破口はどこにあるのか。その解答を私たちも田中登も手にしてはいないようだ。しかし、あるいはまことしやかな解答を提示することが、映画の欺瞞につながってしまうということを、制作者たちは知っているのかもしれない。映画は常に解答を裏切る表現であるということを。     (1980年11月記) 
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 2006年にDVD化された。脚本は荒井晴彦、監督は田中登。
 ディスコで夜遊びを始めた中学生の少年(野沢晶則)。未成年は帰宅するようにとのアナウンスで店を後にする少年はひとりの少女(北原理絵)と知り合い、同伴喫茶で抱き合う。翌朝、少年は原宿で踊っている竹の子族を見る。洋品店で赤い服を万引きしようとしたとき、若い女(亜湖)に「へたくそ」と目撃されてしまう。女は赤い服を袋に放り込み、店を出る。電車を乗り継ぎ、降り立ったのは小田急線新百合ケ丘駅。女はアパートの部屋に入る。少年は自宅前までやって来る。少年の両親(本郷淳、吉川遊土)は投稿主体のスワッピング雑誌に夢中だ。
 少年は女の部屋に窓から忍び込む。無理やり女のヒモに居座った少年は家出をして居ついてしまう。少年の両親は新しいスワッピング関係に夢中で少年のことは眼中にない。女のもと彼が現れたり、竹の子に扮した少年少女が暴走族に暴行されたりした挙句、少年は女と結婚し、スワッピング相手の夫婦として両親のもとを訪れる。気まずそうな両親と、してやったりとほくそ笑む少年。
 竹の子族を取り上げたドキュメンタリー風な素材に田中登のアイデアでスワッピングの話をからめて創作したという。
2013年7月10日



ビデオ
人妻集団暴行致死事件


にっかつ
1978年
96分

 長部日出雄原案、佐治乾脚本、田中登監督。昭和53年度「キネマ旬報」ベストテン第9位の作品だが、DVDは未発売。中古ビデオを入手。
 本作には田中登のケレン味のある映像は見られない。その代わり川端に住む泰造(室田日出男)が投網を打つ様子や鶏小屋といった風景が象徴的に描写される。都会の近郊、『遠雷』にも描かれていた埼玉県の近郊都市の若者の精神の荒廃が描かれる。田中登監督は『秘・色情めす市場』以降は、意外なショットではなく、人物の背景にこだわる作風になった。
 善作(酒井昭)、礼次(深見博)、昭三(古尾谷康雅=古尾谷雅人)は中学の不良仲間。ある飲み屋で再会した三人は酔った勢いで停車中のトラックから卵を盗み、ナンパしようとしていた女の子に会えなかった腹いせに川に投げ込んだ。盗難届を出した泰造に礼次の親は金を払って収めてもらう。泰造は元はテキ屋だったが、いまは川端で鶏小屋や生簀で鯉を養殖し、川下りの客に鯉こくを出したりして、暮らしを立てていた。泰造は後妻として若い妻・枝美子(黒沢のり子)を嫁にしていた。枝美子は卵を回収する仕事を言いつけられると、火にかけたおかゆのことを忘れてしまうようなちょっと頭の弱い女だった。
 泰造は三人に焼肉をふるまった。青年たちは女の子をナンパし、無理やりセックスしたりして性衝動を発散していた。傷害罪などで前科のある昭三は父親(小松方正)とも喧嘩。家を出てアパートへ移ることになった。その引越し祝いに礼次や善作を呼んだ。ご馳走になった返礼にと泰造も呼んだが、お目当ての女たちは別の誘いを受けて帰ってしまった。ヤケ酒で酔った彼らは酔うと脱ぐという噂のスナックの女将(絵沢萌子)を呼んで騒ぐ。飲みすぎた女将は放尿したりしてかえって世話が焼けた。潰れた泰造を家に運ぼうとした若者たちは泰造の妻を強姦することを思いつく。
 家の外のトラックの荷台に泰造を残し、部屋で枝美子を強姦する。途中で枝美子は死んでしまった。あわてる三人。そこへ泰造が入ってくる。必死に謝る三人に、泰造は「出ていけ!」と言い放つ。礼次から事情を聞いた父親は母親に様子を見にいかせた。
 泰造は風呂場で枝美子の体を洗っていた。神聖な儀式のようだ。しかし、常識人の母親は「泰造は狂った」と報告する。翌日駆けつけた枝美子の母親は「目ぐらい閉じてやればいいのに」と嘆く。
 枝美子の死因は心臓麻痺だった。警察官から「奥さんは心臓が弱かった」と聞いた放心の泰造は「(自分の背をひっかいたのは)喜んでいたんじゃなかったんだ。(苦しかったんだ)」とつぶやく。
 判決(昭三は懲役七年、ほかの二人は懲役三年・執行猶予)が出た後、川端の家で泰造は死んでいた。善作は家を出て恋人・八重子と同棲を始めた。

 田中登ロング・インタビューより、“『人妻集団暴行致死事件』の場合には、中川っていう川に潮が満ちてくるんですけど、潮が退く時と潮が満ちる時と中川の川っぺりの葦に潮の満干の落差が記されるんですよね、それを見てた時に、この映画は潮が退いた時の跡と潮が満ちた時の跡、この残った空間の間だけの話にならないかな、その軽やかさというか、軽さがまず映画にならないかなって思ったんですよね。
 それと、あれ、長部日出男さんの短いレポートなんですけど、それをチラッと読ましていただいて、自分の心臓の悪い奥さんが若者に、村の若者にレイプされてね、そして警察に届けるのにその中年の男は24時間待ってるんですよね。で、24時間待って警察へ届けた。この人はどうして24時間待ったんだろうということがもう一つ気になって・・・。
 それとやっぱり都市化現象が非常に顕著になりかかる時代だったから、東京なら東京という都市の周りのドーナツ化現象っていうか、そこが暗闇の中に閉ざされているような距離感を持ちながら、そこで息している若者たちが闇の中から出てくる感覚があるんですよね。そして、しかも実際あった出来事で、『人妻集団暴行致死事件』の舞台に使った家は実際殺人が行われた家なんですよね、外回りのシーンはですね。だからあの集落では、もう勤めを果たして出てきてる三人の若者もいるわけでね。で、佐治乾さんとその部落にシナリオハンティングで入った時には、その辺のことも含めて足で調べることから始まったんですね。
 あれはプロデューサー三浦朗さんになってますけども、言い出しっぺは僕だったんですよね。”
2013年9月9日


DVD
若草物語


日活
1964年
84分

 吉永小百合「私のベスト20」第20弾。森永健次郎監督、三木克巳脚本。
 伊藤雄之助の娘が美人四姉妹というあり得ない設定。芦川いづみ、浅丘ルリ子、吉永小百合、和泉雅子の四姉妹である。お正月映画だからでしょうか。
 芦川いづみの結婚相手が内藤武敏、堅実なサラリーマンで、芦川は安定しつつも主婦生活の安定にやや不満も抱えている様子。浅丘ルリ子は幼馴染の浜田光夫となりゆき気味に結婚の約束をしてしまったが、金持ちの御曹司・和田浩治から猛烈なプロポーズを受け、押し切られてしまう。吉永小百合は浜田光夫に好意を持ちながら姉の恋人という立場から踏み出せない三女。和泉雅子はノンシャランと山内賢と付き合っているちゃっかり娘。浅丘ルリ子と吉永小百合と浜田光夫の三角関係が主軸。
 浅丘と吉永が売り場はちがうものの同じデパートで働いているなど現実感のない設定が興をそぐ。森永監督作品はどれもこれといった芯のない当たり障りのない作品となっている。
2013年8月8日



DVD
風と樹と空と


日活
1964年
86分
 吉永小百合「私のベスト20」第19弾。松尾昭典監督。石坂洋次郎が吉永小百合を東京の金満家のお手伝いさんに当て込んで書いた小説の映画化。脚本は三木克巳、撮影は萩原泉。集団就職で上京した五人の若者の一年後までと、東京見物とも言える東京の若者の見学名所をあちらこちらを盛り込んだ東京ガイドの一本。お手伝いさんの多喜子役の吉永のキャラは『青春のお通り』のチャッカリンのキャラクターに近い。上京した若者たちの最大の関心事は「結婚」である。題名を「集団就職者の東京結婚模様」とでもしたほうがいいような内容である。
 多喜子が思いを寄せていた武雄(和田浩治)は同級生の信子(平山こはる)に取られ、給料がある額になるまで結婚しない約束だったはずが、早々と結婚生活に踏み切ってしまう。黒ちゃは職場のエレベーター・ガール(山本陽子・新人)と一緒になってしまう。かね子(安田道代)は美容学校に通いながら歌手を目指していたが、キャバレーのホステス。新二郎(浜田光夫)の優しさに憧れている。多喜子は一年たって、自分と新二郎が独り身なのに不満で酔いつぶれてしまった。奉公先の安川家(夫は永井道雄、妻は加藤治子、娘は田代みどり)の息子、慶応大学の学生・三郎(川地民夫)は病弱な学生の浅井秀子(十朱幸代)と婚約をしていた。クリーニング屋の店員で荒木一郎も出演していた。
2013年8月5日



DVD
潮騒


日活
1964年
82分
 吉永小百合「私のベスト20」第18弾。原作は三島由紀夫、棚田吾郎・須藤勝人脚本、森永健次郎監督、松橋梅夫撮影。
 中学校の映画鑑賞会で見た記憶があります。山形市市民会館での鑑賞会だったようです。いったいどういう教育方針でこの映画が全校の映画鑑賞会の作品に選ばれたのかは、謎というしかありません。私が中学の教員だったら選定しません。有名な「のうも裸になれ」などというセリフがあるのですから。画面には裸体シーンは出て来なくて、なんだか期待はずれだった覚えがあります。
 現在の目で見ると、初江(吉永小百合)と新治(浜田光夫)と安夫(平田大三郎)の三角関係に千代子(松尾嘉代)がからむだけの単純な対立関係で、話に広がりがなく、あまり見るべきところのない作品で、原作は読んでいませんが、なぜ人気が出たのか理解できません。音楽を担当した中林淳眞のギターのみが素晴らしい作品です。
2013年7月14日



DVD
青春のお通り


日活
1965年
76分
 吉永小百合「私のベスト20」第11弾。京都伸夫原作、三木克巳脚本、森永健次郎監督。チャッカリンこと桜子(吉永小百合)とケロリンこと久子(浜川智子)は短大時代の友人。あだ名がチャッカリンスカヤ、ケロリンスカヤとソ連の女性名はスプートニク効果でロシアの女性名が流行したからだという。桜子は奈良の姉夫婦の家に寄宿していたが、両親は養老院へ入ったし、姉夫婦も子供が大きくなったので、そこを出て住み込みのお手伝いになるという。彼女は久子と一緒に久子の兄・圭太(浜田光夫)の千里のアパートにときどき泊まるものの、圭太とは友人関係。圭太がにぎったおにぎりを片っ端から半分に割って中身の具を検めている。自分の好きな具の入っているお握りを食べるためだ。二人のもとに友人のキドリンこと中子(松原智恵子)が失恋で松山から出てくる。桜子がお手伝いとして務めたのは放送作家・浪花俊介(藤村有弘)の豪邸。先輩の家政婦(原泉)もいるが、妻のユカリ(芳村真里)ともども若い桜子は大歓迎された。運転手(山田吾一)も桜子にモーションをかけてくる。
 圭太は中子と急接近の様子で桜子はヤキモキする。女優ユカリの東京の仕事に付き人として付いていくことになった桜子だったが、二週間の留守の間に圭太を取られるかもと久子に示唆されてますます心配になる。東京での撮影で俳優の早川(杉山俊夫)と親しくなった桜子だったが、国立市の姉(長内美那子)の部屋を訪ねた桜子はガス臭にむせる。理想的な結婚生活を送っていたと思っていた姉が自殺を図ったのだった。聞けば夫が浮気をし、自分も不義の子を身ごもったのだという。浪花夫婦もお互いに愛人や恋人を持ち、相手を偽って暮らしている。桜子は早川に交際を求められたが、自分の気持ちが圭太に向いていることを自覚して早川の申し出を断った。
 大阪に帰ってみると久子は子持ちの年上の営業部長と一夜を共にしたところだった。圭太は中子を送って松山へ行ったという。バカバカしくなった桜子は金色夜叉になってやると買い物でがめつく値切り始めた。そんなとき店で松山から帰って来た圭太に会った。圭太は桜子の好物このわたを買っているところだった。なぜ松山の旅館の若旦那の身分を振り切って帰ってきたのか。圭太は話し始めた。
 この当時は短大卒の女子はかなりの高学歴とみなされている。それでも三人とも花嫁修業に励む様子である。久子は旅行会社に勤めているが、部長の後妻に納まったら仕事は辞めて家事と育児に専念すると発言するし、中子は家業の旅館を継ぐ模様。桜子も女中を一生の仕事とは考えていない。
2013年7月13日



DVD
雨の中に消えて


日活
1963年
99分
 吉永小百合「私のベスト20」第16弾。石坂洋次郎原作、池田一朗・西河克己脚本、西河克己監督。
 北国の高校から上京してきた三人娘、あや子(吉永小百合)、たか子(笹森礼子)、きみえ(十朱幸代)はきみえの親戚の借家にひと月の家賃5千円でルームシェアして暮らしていた。食事作りも当番制である。
 あや子は大学1年生で、クラスメイトの村田榮吉(高橋英樹)とアルバイトで自由党の樺山松雄(伊藤雄之助)の都議会議員選挙の応援演説をする。樺山にはしっかりものの妻(轟夕起子)がいた。たか子は出版社の編集者で推理作家・高畠(下元勉)の原稿を引き受けていた。たか子に好意を示す高畠には無名時代に結婚した妻・千代(菅井きん)がいる。洋裁学校に通うきみえには高校時代にスキーで脚をくじいたとき、冬の山小屋で閉じ込められ、抱きかかえて暖をとってくれた渡部先生(山田吾一)の思い出があった。きみえは部屋でいつもブラザーの編み機で衣料を編んでいる。アルバイト料を得た村田を仕事始めのお祝いにとスキヤキで部屋に呼んだあや子は村田に「村田君、童貞なの?」と聞く。結婚観や恋愛観に関するディスカッションが真正面から論じられるドラマで、精神の関係と肉体の関係などの言葉が飛び交い、時代が感じられる。キスも二人の間の関係を示す行為として重大視されている(きみえが冬の山小屋以降、東京を訪ねてきた渡部先生にキスを求める行為と婚約したという歌川先生と<寝た>渡部先生に初めてのキスを許してしまった自分を惨めに思うという言葉などに表現されている)。
 あや子が孤独解消を目的に同居解消を提案し、各人が同意した晩に、村田が訪ねてくる。父親危篤の電報で帰郷し、家業を継ぐため東京には戻って来られないかもしれないという。雨の中、駅まで見送ったあや子は村田にキスを求めるのだった。 
2013年7月12日



DVD
青い山脈


日活
1963年
96分
 吉永小百合「私のベスト20」第17弾。石坂洋次郎原作、井出俊郎・西河克己脚本、西河克己監督。
 スクーターで通学する寺沢新子(吉永小百合)の走りに驚いて、自転車通学の松山浅子(進千賀子)らが転倒する。貞淑女子高校のホームルームで島崎雪子(芦川いづみ)が点呼すると新子がいない。遅れて教室に来た寺沢と松山は制服の弁償のことで話し合っていたのだという。
 数日後、寺沢は島崎にラブレターを示し、相談する。寺沢は東京から男女間のトラブルからあらぬ疑いをかけられ、彦根に引っ越して来た転校生だった。新子はそのラブレターは文章や内容から同じクラスのものが書いたに違いないと言う。雪子は医務室で校医の沼田(二谷英明)にも読んでもらうが、沼田はこの古い町ではありそうなことで大したことではない、放置しておけと話す。沼田の適当な将来設計に怒りを覚えた雪子は思わず沼田を平手打ち。雪子はホームルームで偽ラブレターを卑劣な行為だと批判する。生徒たちのうち、手紙を書いたと思われる三人は新子こそ学校の名誉を汚した行為を反省すべきだと主張する。その行為とは荒物屋の青年と昼間から抱き合っていたのだと。新子は荒物屋には制服代を捻出するために卵を売りに行ったのだと反論、ネズミに驚いて青年・六助(浜田光夫)にとびついたときに二人で倒れたのだと説明する。雪子が新子の肩ばかり持つとクラスの生徒はヒートアップする。騒ぎは父兄を巻き込んで次第に大きくなる。
 新子は六助の親友で大学生のガンちゃん(高橋英樹)とも知り合いになる。雪子を理解する沼田は町のボスでPTA会長(三島雅夫)に疎んじられていたが、ボスは芸者の梅太郎(南田洋子)には弱みを握られている。梅太郎の妹・和子(田代みどり)は雪子の味方だった。体育教師・田中(藤村有弘)は雪子に惚れていたので沼田をこころよく思っていなかった。ボスの手下は養鶏場の卵のさばき方で自分の指導に従わない新子の父親の取引を邪魔しようと運搬トラックを待ち伏せしていた。事態を予想していた六助とガンちゃんは手下達を殴って追い払う。
 PTAの役員会(校長・下元勉、教師・井上昭文、織田政雄、左卜全ら)が開かれて、論議の末に雪子派と生徒派のどちらを是とするか決戦投票することになる。生徒の保護者を偽って役員会で格言を発言し会員を煙にまいていたガンちゃんの正体がバレて万事休すになるものの、田中の一方的な恋文が同僚教師(北林谷栄)によって暴露されてうやむやになる。
 海に向かって自分たちの気持ちを率直に口に出す若者たちに影響され、雪子と沼田もお互いの気持ちを打ち明けるのだった。
2013年7月5日



DVD
あすの花嫁

日活
1962年
 吉永小百合「私のベスト20」第15弾。芸術祭参加作品。原作は壺井榮。小豆島で雑貨屋を営む母親。汐崎フヨ(奈良岡朋子)の娘・百合子(小百合)は神戸の藤蔭女学院短大に進学することになった。地元でオリーブを作る青年・宇太郎が浜田光夫。母親は短大時代に教員・大井川(宇野重吉)と恋に落ち、結局短大を中退しなければならなくなり、教師も退職せざるを得なくなっていた。20年前の話である。母親は小豆島で結婚したが夫はやがて亡くなっていた。一方、教師のほうも別の女性と結婚したが病気で死別していた。二人はふとしたきっかけから、再び手紙を交わす間柄になっていた。父親っ子だった百合子は母親の秘めた恋を知って悩む。百合子の親友となった十糸子(岩本多代)は父親や後妻の関係がうまくいかず自殺を図る。野村孝監督。
2013年7月4日



DVD
草を刈る娘

日活
1961年

 吉永小百合「私のベスト20」第10弾。芸術祭参加作品。原作は石坂洋次郎。舞台は青森県、馬に食べさせる牧草を刈るため村じゅう総出で岩木山の麓の草原に簡易テントを張って働く。毎年その時期は若い男と女の出会いの場所でもある。そで子婆さん(望月優子)とため子婆さん(清川虹子)はお互いに連れてきた若者どうしを見合いさせるのが楽しみだった。そで子(望月)は姪のモヨ子(吉永小百合)を、ため子(清川)は甥の時造(浜田光夫)を連れて来ていた。二人がうまくまとまるかどうかは村の者の賭けにもなっていた。巡査(益田喜頓)も賭けに参加していた。
 二人はなんとなくひかれ合っていたものの、落馬したときに時造が無理にキスしようとして、モヨ子にかみつかれていた。お互いに相手を意識してしまって、かえってきまずくなる二人。そこへモヨ子の幼馴染の一郎(平田大三郎)が都会から帰って来る。彼は百姓がいやで出て行ったのだという。しかし、戻って来た。その第一の目的はモヨ子に求婚することにあった。祭りの晩を経て、小金を貯金していた浜子が誰かに絞殺される事件が起こる。急に心細くなったモヨ子は時造に自分を守って欲しいと訴えるのだった。
 世話焼きの大人が若者の見合いを設定する牧歌的な物語を観客が微笑みながら楽しめた時代の貴重な一篇。西河克己監督。
2013年6月27日



日本テレビ
怪物



日本テレビ
21:00〜23:08
2013年
 福田和代原作、森下直脚本、落合正幸監督のサスペンス・ドラマ。理科系出身の向井理が理系の研究者を演ずるのに関心があり、視聴。
 会計課への転属を言い渡された刑事・香西(こうざい。佐藤浩市)は殺された人間の匂いを感じることが出来た。15年前、8歳の女の子・遠藤くるみが殺された事件の容疑者・大学生の堂島昭の部屋に入ったときもその匂いを感じ、容疑者に殴りかかった。物証が無く、堂島を逮捕することが出来なかったのだが、堂島がもと警察官僚で防衛大臣だった父親の地盤を継いで、衆議院議員に立候補することにしたというニュースを見ては怒りを覚えずにはいられなかった。お披露目パーティで堂島に自分のことを思い出させる香西。その姿を目撃していた藤井寺りさ(多部未華子)が香西に接触してくる。彼女は9歳のころ、遠藤くるみの数日前に堂島に拉致されイタズラされた経験を持っていた。過去の捜査打ち切りの苦い経験をもつ香西はりさに堂島をおびき出し、過去の事件について証言を密かに撮ろうと計画する。出版記念のサイン会の席上、被害者であることをそっと告白、堂島にゆさぶりをかけたりさはホテルで堂島を待った。堂島はりさを強姦しようとして突き飛ばされ、机の角に頭をぶつけて死んでしまった。
 一方、橋爪幸夫失踪事件を捜査していた香西と石川(栗山千明)は橋爪がゴミ処理施設の技術研究員・真崎亮(向井理)のもとを訪れていたことをつきとめる。彼の研究室に入ったとき、香西は例のにおいを感じた。「橋爪はここで殺され、亜臨界水で処理された」と断定する香西は真崎の身元を調査し、橋爪が金融詐欺事件を起こしたときの被害者で入水自殺した夫婦が真崎の両親だったことを突き止める。亜臨界水は高圧をかけて高熱処理する装置。遺体も分子レベルに分解されるという。堂島の遺体の処理に困っていた香西は真崎のことを思い出した。
 協力して堂島を処理した香西は真崎がりさに接触したことを知る。危険を感じた香西は真崎がほかにも密かに遺体を処理しているのではないかと疑い始める。真崎のマンションに住む失踪者があぶり出される。家庭内暴力をふるっていた夫だった。彼の息子の部屋に入った香西は例の匂いを感じる。あいつは怪物だ・・・。ひとりで真崎を監視する香西。怪物とは、りさを殺人者にしてしまった香西なのか。
 復讐のためならどんな罪を超えてもいいのか。人も有機物の集まりで遺伝子の容れ物にすぎないと断定する真崎。
 
2013年6月25日〜8月13日


NHK
激流



NHK
2013年
22:00~
45分
 NHKの火曜深夜のドラマ10(テン)。原作はミステリー。演出・佐々木章光(1・2・8回)、山内宗春(3・4・6回)。中学時代に京都の修学旅行中に班員のひとり、冬葉が消えた。バスの中から忽然と姿を消したのだった。それから20年がたち、冬葉と同じ班だった男女のうち女性たちに「私を覚えていますか 冬葉」というメールが届く。文芸雑誌の編集部員・三角ことサンクマ(田中麗菜。夫が有名小説家と浮気)、小説家・美弥(ともさかりえ。麻薬所持で逮捕され執行猶予が開けたばかり)、主婦・高子(国仲涼子。夫が失業中で隠れて売春している)、東大卒の銀行員・鯖島(山本耕史。妻と離婚。愛人・奈緒美(佐津川愛美)と同棲中)、警視庁の刑事・萩耕(桐谷健太。主婦殺害事件を捜査中で、関係者のひとりで小説家の美弥に接近)。
 キャストの妙で見せるドラマとなっています。全8回。『告白』以降、中学や高校での事件を扱うミステリーが増えたような印象があります。冬葉から再びメールが届き、同級生たちは故郷の中学を訪れる。冬葉の母親(田中美佐子)にも会って奇妙なメールのことを伝えるが、冬葉の消息は修学旅行以来、つかめないままだという。サンクマ(田中)は冬葉がよく吹いていた「アルルの女」にピアノ伴奏があったことを思い出した。伴奏の主は音楽教師・毛利佳那子(賀来千香子)だった(第2回)。
 3番目のメール「あなたのことはずっと見ているわ 冬葉」が高子に届く。コンピュータ・プログラム会社の社長(カンニング竹山)から無理に誘惑され売春組織を辞めて愛人となった高子。高子と会った後で、ホテルで社長が殺される。酔ったサンクマは中学時代に好きだった鯖島に告白するが、翌朝自宅に送ってもらったものの憶えていなかった。音楽教師・毛利は故郷の中学の教師として再び赴任、冬葉の母親を訪問する。当時の青年教師・浅日村をめぐる何かがあったらしい(第3回)。
 困っているのではないか、殺人犯になるかもしれないという冬葉からのメールが届き、気を失って病院に搬送された高子は、美弥と三角に娘のためにお金が必要だった、殺人はしていないと真相を打ち明ける。美弥は萩耕に友人として高子を守って欲しいと依頼する。毛利は美弥と三角に会い、冬葉が行方不明になった償いをしていると話す。蓼科に行く途中だという毛利。高子の夫は急に三人で逃げようと提案するが出立しようとしたとき警察が高子を重要参考人として連行に来た(第4回)。
 高子はきびしい取り調べに自供する。萩耕は高子を売春婦と決めつけた上司を殴って謹慎になる。無実の高子を救うために、なんとか対処法はないかと友人たちは話し合うものの、有効な対策はない。蓼科の療養所では、毛利が障害者となっている車椅子生活の浅日村に20年前にバスを降りた冬葉に誰かが気づいていればと話している。浅日村は発作を起こし、紙に「くるな」と書く。毛利は謝る。彼女はいまだに浅日村が好きなのだ。急に高子の夫が娘を三角に依頼する。そして彼は自首した。夫は高子のしていたことを知っていたのだ。釈放された高子は娘に合わせる顔がないとひるむ。三角と美弥が二人を支える。気弱になった三角をサバが支える。部屋でふとサバは冬葉からのメール「私を憶えていますか」を見て、文化祭のときの冬葉の何かを思い出す。そのことを三角に連絡しようとしたとき、訪ねてきた奈緒美に刺されてしまう(第5回)。
 三角が駆けつけて鯖島は生命をとりとめる。鯖島が思い出したのはESSの英語劇ミュージカルのことだった。劇の作者は毛利先生。劇の題名は「Do you remenber me?」。彼等が毛利先生を問い詰めるが彼女は蓼科高原療養所の浅日村のところに案内する。しかし、浅日村は発作を起こし真相を話そうとしない(第6回)。
 もと同級生の長チと一緒に写真に写っていた冬葉に似た女性フルーティストと連絡がとれる美弥。しかし、彼女は冬葉ではなかった。毛利に問う6人は修学旅行の日におきた真実を聞く。(第7回)
 美弥の弟が美弥に真相をぶちまけ、隠れた悪意の源が分かる。(第8回)

 ミステリーとしては長すぎた。しかし、若手キャストが健闘。みなさん良い顔になってきました。『夢売る二人』でも結婚詐欺でだまされるアラフォー女性を演じていた田中麗菜が特に良かった。
2013年6月9日


NHK

未解決事件File03 尼崎死体遺棄事件

NHK
2013年
90分
 留置所で自殺した角田美代子被告が指揮した尼崎死体遺棄事件を再現ドラマとドキュメンタリーで描く。森井龍脚本、新名ディレクター。警察は民事不介入を建前に捜査や逮捕などをすることがなかった。家族内で加害者と被害者になっているため、事件となるべきものが家族の問題にすり変わってしまうのだ。香川県警と兵庫県警の無責任はとりかえしがつかないほどである。
 谷本家の長女・茉莉子さんがいったんは脱出したのに、免許証の更新に免許センターを訪れたことがきっかけで連れ戻されてしまったとき、友人が急きょ兵庫県警に助けを求めている。しかし、駐在所では家出人として捜索願が出されていたため妹に連絡したのだった。友人が「茉莉子は殺されるかもしれないと言っていた」と訴えた。それに対して警察官は「殺されるような心配はない、家出人はみんなそんなものだ」と答えたと言う。これでは弱い立場のものは誰に相談してよいか分からない。
 私の父が長井署に勤務したとき、地区で喧嘩が評判の夫婦がいたという。夫が妻に対して殴る蹴るの暴行を働くのだ。しかし、夫婦喧嘩は犬も食わないという格言もあるとおり、まともに事件として扱っていなかったという。しかし、父は違った。身内だって殴って怪我を負わせれば立派な傷害罪である。ある夜、再び喧嘩が始まった。いつも通り夫は外で妻を殴っている。通報を受けた父は夫を傷害の現行犯で逮捕し拘置所に入れた。夫はいままで逮捕され拘置所に入れられたことなどないと抗議したという。そこで父は夫に説明する。いままで逮捕されなかったのが間違いだ、あんたのしていることは立派な暴行であり、傷害罪だ、妻だから殴っていいなどという法律はない、今後も同様の事案があったら、即刻逮捕し送検するから覚悟しておけ、と。その後、夫は妻を殴るのを止めたという。家族であれ夫婦であれ、殴って怪我をすれば傷害罪が成り立つ。傷害罪に被害者の申告は不要なのである。よく警察では被害届が出ないと捜査ができないなどというが、捜査はじゅうぶん可能であり、警察官自身が法律をよく読んでいないのだという。なお強姦は申告罪だそうである。
2013年6月30日


レンタル
アフタースクール


2008年
104分
 内田けんじ脚本・監督作品。中学生時代の靴箱の前、少女・佐野は少年・木村に手紙を渡す。時が経って、佐野(常磐貴子)は臨月である。夫?の木村(堺雅人)は会社へ出かけるところだ。木村は同じマンションの神野(大泉洋)の購入したばかりの外車を借り、佐野を頼んで出かける。神野は中学の教員。しかし、そのまま木村は行方不明になってしまう。謎の女(田端智子)に会っていたことが分かり、失踪の原因が取りざたされる。なにやら不穏な空気を感じた木村の会社の社長が木村探しを命ずる。オトナのオモチャ屋で探偵業の北沢(佐々木蔵之介)が木村探しを依頼される。北沢は木村の中学の同級生を名乗って調査に入る。たまたま夏休みのテニス部の練習に出てきたいた神野と出会って、神野を協力させる展開になる。
 木村の会社・梶山商事は片岡組(伊武雅刀)とつながりを持っていたらしい。背後である計画が進められている。
 
2013年6月29日



レンタル
運命じゃない人


PFFスカラシップ
2005年
98分
 第14回ぴあフィルム・フェスティバル(PFF)スカラシップ製作作品。内田けんじ脚本・監督、第1回作品。撮影・井上惠一郎、美術・黒須康雄。
 マンションをひとり出る女性がいる。鍵をポストの口から中に落とした。恋人に裏切られ、ひとりで生きていく決意をした桑田真希(霧島れいか)だった。レストランで気落ちしている彼女に声をかけてきた男がいた。探偵業の神田勇介(山中聡)である。一緒に食事をしようと言う。ナンパである。ところが、神田は一緒にいた宮田武(中村靖日)を置いて出ていってしまった。恋人との新生活にと貯金をはたいて豪華なマンションを購入してしまった宮田は、半年前にその恋人に逃げられてしまったのだった。失意の二人は夜遅かったこともあり、結局宮田のマンションの空き室に真希を泊めることになる。そこへ宮田のもと彼女・アユミ(板谷由夏)が荷物を取りに戻ってくる。女どうしが鉢合わせしてしまった。部屋を出て行く真希はアユミに意見をする。宮田は真希の後を追った。
 アユミの正体は結婚詐欺士。宮田の後に狙った会社社長の正体はやくざの組長・浅井(山下規介)。組の金庫の金をめぐって取ったり取られたりの攻防が続く。
 「30過ぎたら運命の出会いとか、偶然の出会いなんてないからな」という神田のセリフがある。
2013年6月7日



レンタル
鍵泥棒のメソッド



クロックワークス
2011年
128分
 脚本・監督内田けんじ。殺し屋(香川照之)は家から出てきた岩木社長をアッという間に刺殺して車のトランクに詰めた。その様子を目撃して驚嘆していたヤクザがいた。
 一方、ボロのアパートにひとり暮らす桜井武史(堺雅人)はアルバイトも結婚もうまくいかず自殺にも失敗し落胆していた。財布にはわずかな金しかない。公衆浴場の入場券があったので行ってみることにした。ちょうど映画のロケの交通規制で待たされる殺し屋は殺しの後始末に腕時計についた血のりを落とそうとたまたま見かけた浴場に入った。子供が落とした石鹸で足を滑らせた殺し屋は気を失った。
 足元に飛んで来た殺し屋のロッカーの鍵を武史は拾って咄嗟に自分のカギと取り替えた。救急車が来て武史のロッカーのものを持っていったが、武史は黙っていた。
 雑誌VIP編集長・水嶋佳苗(広末涼子)は「結婚します」宣言をする。しかし、相手はこれから探して決めるのだという。編集部にも候補者探しを依頼する。条件は「健康で努力家なひと」。会社で募集中のアルバイトの求人条件と同じだ。社内から立候補してもいいですかという質問に、社内の独身男性はもう検討済みで条件に適う人はいないと宣告する。
 そんな佳苗は父親(小野武彦。母親役は木野花)が入院している病院の入口で、ちょうど退院してきた殺し屋に出会った。殺し屋はすっかり記憶を失くしていたのだった。ロッカーに残っていた衣服から自分は桜井武史というものらしいとは分かったが住所にも心当りがないという。佳苗は心配になり住所まで送っていくことにした。武史の乱雑な部屋に入っても記憶が蘇って来ない。途方に暮れた様子に佳苗はすっかりこの男のことが心配になった(佳苗は部屋に入ると無意識に塩のビンの塩を出してなめてみている。ちょうどVIPで塩の特集を企画しているところだったからだ)。
 武史は殺し屋・山崎の財布の金を使って借金を清算して回る。武史がホテルの山崎の部屋に行くと、携帯に電話がかかって来た。仕事の金500万を渡したいという。あわてて武史はアパートの郵便受けを指定した。
 アパートに帰ってみると山崎が佳苗に遺書を見せているところだった。あわてて遺書を回収し、車を待つ。
 男たちは工藤が直接話したいと武史を拉致していった。工藤(荒川良々)は暗殺した社長が隠している金の在り処が不明だという。岩木社長の愛人(森口瑤子)が隠しているのではないか、金の在り処を探り、女を消してくれと依頼する。 武史はようやく自分がなりかわった男の正体に気が付く。
 一方、山崎は映画のエキストラに出演して評価されたりしていて、演技の勉強を始めていた。図書館から借りた演技論(メソッド)の本をたくさん読んで。そんな努力家の山崎に佳苗は魅かれていく。
 闘病中だった佳苗の父が亡くなった。葬儀の席上、父はビデオレターを残していた。葬儀用のDVDを再生したつもりだったが、係が間違えて佳苗結婚式用のDVDを流してしまう。DVDは葬儀用、初七日用、三回忌用、七回忌用など色々と準備してあった。
 佳苗の姉(小山田サユリ)はこんなことを言っていた。
 「あなた、恋をしてから結婚をするつもり? 若い頃は、好きな人を思うだけで、心が『キューン』となったことがあったでしょう?でもこの『キューン』のマシーンって、30を過ぎるとたぶん壊れちゃうの。恋はしなくても、結婚はできるわよ。わたしみたいに」
 佳苗が父親愛用のステレオで父が好きだったという「弦楽四重奏曲」をかけると、同じ曲が好きだった山崎は記憶を戻す。自分の部屋に戻った山崎は岩木社長の愛人を逃がそうと画策している武史に会った。協力せざるを得なくなった二人が立てた計画ははたしてうまくいくのだろうか。

 広末が「結婚します。でも相手はまだいません」と宣言すると、映画館の観客がドッと湧いたという。映画館でみんなと一緒に大笑いしながら見たい作品である。
2013年6月7日


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悪の教典


東宝
2012年
129分  
 貴志祐介原作、脚本・監督三池崇史。蓮実こと英語教師ハスミン(伊藤英明)は若く明るく生徒からの信頼もあった。しかし、ハスミンの本当の顔は中学生時代に自分の犯罪に気づいた両親を強盗の仕業に見せかけて刺殺した悪魔であった。中古の小型トラックを運転し、森のなかのバラックに住むサイコパスである。
 彼のテーマソングはブレヒトの『三文オペラ』の主題歌「モリタート」(ジャズにアレンジされて「マック・ザ・ナイフ」となった)、人殺しの歌である。
 散弾銃でクラスの生徒全員を射殺すると決めてしまうと生徒ひとりびとりの人生は棚あげされ、生徒は単なる標的になってしまう。そこには人間ドラマがない。活劇(アクション)場面はあるのだが、心の動き(アクション)は無くなってしまうのである。そこには真の怖さはないと思う。
2013年6月4日


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黄金を抱いて翔べ

松竹
2012年
129分
 高村薫原作、井筒和幸脚本・監督作品。銀行の地下の金庫の240億の金塊。それを強奪しようと男たちが結束する。 中心はトラック運転手・北川(浅野忠信)と、北川とは大学時代の友人で、吹田生まれの私生児、調達屋の幸田(妻夫木聡)。他に北川の弟・春樹(溝端淳平)、システムエンジニア・野田(桐谷健太)と北鮮の工作員「桃」(チャンミン)。 エレベーター保安員だった清掃人・じいちゃん(西田敏行)が協力する。
 しかし、北鮮がらみの組織が桃を抹殺する命令を受けていた。組がからんで暴力の応酬となる。
 北鮮の「桃」がなぜ追われ狙われているのかが分かりにくいが(北朝鮮での爆破テロ事件に関係したことが推測される)、ストレートなクライム・ストーリー。出演者がほとんど男性。この男たちがとても良い。
 『悪人』で演技の幅が広がった妻夫木聡と、東方神起のチャンミンは常に狙われていて警戒を怠らない人物を、リストカットマニアでギャンブルマニアの春樹を演ずる溝端淳平は『新参者』の刑事役とは異なる危険な若者を魅力的に演じている。原作は高村薫。監督の井筒和幸は雑誌連載中から原作のファンだったという。井筒監督は「ジャパン・ノワール」が出来たと称していた。
 北川(浅野忠信)「金塊、見たことあるか」、幸田(妻夫木)「『ミニミニ大作戦』で見た」というトボケた会話があります。
2013年6月4日



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かぞくのくに




スターサンズ
2012年
100分
 北朝鮮から非公式に治療目的で来日したソンホは25年ぶりに母(宮崎美子)、父(津嘉山正種)、妹(安藤サクラ)と再会する。ヤン(ヤン・イクチュン)の監視付きだが、幼馴染や友人たちと交友を深めるソンホ。
 脳腫瘍の検査結果は手術や経過観察で結構長くかかるため滞在三ヶ月では責任が持てないという実際上は手術不能宣言だった。納得いかない妹はソンホの幼馴染のスニ(京野ことみ)の夫の医師に相談する。早速、手配してくれてなんとか展望が開けるかに見えたが、突然ソンホたちに国から帰国命令が出た。有無を言わさぬ帰国命令にみなが戸惑い、怒るものの、どうしようもない。
 ソンホ(井浦新)は妹リエに工作員をやらないかと誘う。それが彼が請け負った国家の使命のひとつなのである。父はそんなソンホの立場が「理解できる」というが、ソンホは「理解できるはずがない」と叫ぶ。この映画でソンホが大きな声を出すのはこのときだけである。
 リエ(安藤サクラ)は見張り役のヤン(ヤン・イクチュン)に「なぜ兄にあんなことを言わせるのか。あんたが言えばいいでしょ」とつっかかる。そして、「あんたも、あんたの国も大嫌い!」と叫ぶ。
 かぞくの背後に国がある。彼(か)の国では悩んだり考えたりすることがかえって負担になってしまうと告白するソンホだけではない。日本で暮らす人々にも実は国があるのだ。そんななかでソンホはリエに「おまえ自身の人生をしっかり生きろ」と助言する。
 帰国に際して母はブタの貯金箱のお金を集めて着たきりだった見張りのヤンに背広を仕立てる。
 演出(ヤン・ヨンヒ)も撮影もドキュメンタリー的なワンシーン・ワンカットで進む。アクション・カットや細かい編集などは無い。
 脚本がしっかりしているので俳優に演じさせてそれを手持ちカメラで固定で撮影するという基本的な撮影方法である。
 半世紀も前、『キューポラのある街』でも北朝鮮への帰国者が描かれていた。かつて北朝鮮では地上の楽園が実現すると目されていた。それに南北統一は近いと思われていた。朝鮮総連の重役だった父が息子ソンホを帰国させたのは帰国を推進する立場にあることもあった。帰国時に、ソンホは港で叔父に「僕が帰国することがオモジの立場をよくすることになるの?」と聞いたという。叔父はあのとき無理にでも連れ帰っていればと、後悔することしきり。

 宮崎美子は『俺っちのウェディング』以降、これといった映画の代表作が無かったのだが(『雨あがる』をあげるひともいるかもしれませんが)、本作では母親役が素晴らしい。小銭を子豚の貯金箱に貯金しているが、その貯金を取り出して購入するのは監視役のヤンのためのスーツである。キネ旬ベストテンでは、川本さんだけが助演女優賞に推している。

 ただ、地元のツタヤでは新作のコーナーで、本作はほとんど借りられていなかった。地味だからかな。キネ旬1位(2012年度)といっても効果なしである。逆に借りることができないほど借りられていたのは『鍵泥棒のメソッド』。
2013年6月8日


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泥だらけの純情


東宝
1977年
96分
 石森史郎脚本、富本壮吉監督、安藤庄平撮影、佐谷晃能美術、鏑木創音楽。
 樺島真美(山口百恵)はチンピラにからまれているところを高倉次郎(三浦友和)に助けられた。しかし次郎は腹を刺され、乱闘のなかでナイフはチンピラ(庄司三郎)の胸に突き刺さった。次郎がたどりついた病院の医者(有馬一郎)は死んだ息子が次郎と喧嘩友達だった。急所を外れていたため命は助かったものの、殺人の嫌疑が次郎にはかかっていた。中込刑事(大坂志郎)は常日頃次郎の身を案じていたが、やくざの証言があった。
 新聞で事件を知った真美は警察に行き、次郎の無実を証言する。 警察を出た次郎の後をついてくる真美を次郎は葉山へ連れていき、食事をおごった。これで住む世界の違う二人の関係は終わりだと次郎は思っていた。真美は父親がスペイン駐在大使で母親代わりの千佳(加藤治子)と叔父(西村晃)が世話をしていた。
 真美は帽子のデザインに関心を持ち、佐竹先生(緑魔子)に習っていたが、先生の真美のデザインに対する過大評価は樺島家の財産目当てのように響くのだった。
 次郎は聖マリア園の少女・みどりを訪問する。アメリカ兵相手のホステス(永島瑛子)が産んだ子だった。塚田組(内田良平)の兄貴分・花井(石橋蓮司)は突っ張る次郎に忠告していた。
 終始真美に俺なんかについてくるなと言い続けている次郎が納得のいく描写である。
 ラストは心中ではなく、麻薬取引情報を警察に密告したと疑われた次郎が組員に刺される。次郎をかばった真美も一緒に刺されてしまう。ちなみに原作は心中。
 街頭ロケを大胆に導入。バックになにがしか必ず音楽(映画音楽だけでなく歌謡曲の場合もある)が流れているという異色作品。

 参考書 『女優 山口百恵』ワイズ出版
2013年7月3日



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female


Jam Films
アミューズ
2005年
118分
 5人の監督(篠原哲雄、廣木竜一、松尾スズキ、西川美和、塚本晋也)による短編オムニバス。西川美和脚本・監督、乃南アサ原作「女神のかかと」を目的に見た。
 femaleは動物学上の女性を表す言葉。5人の女優(長谷川京子、大塚ちひろ、大塚寧々、高岡早紀、石田えり)を中心に性愛を描く。オープニングや間奏、エンディングのダンスは『ショウガール』以上の性的な動きを強調した群舞(振付は夏まゆみ)。
 「女神のかかと」は、小学3年生くらいの男子の同級の女生徒の母親(大塚寧々)に対する憧れを描いた一篇。小池真理子原作、塚原晋也監督「玉虫」の石田えりの存在感が圧倒的だった。姫野カオルコ原作「桃」は桃をエロスと重ねる世界観が陳腐、室井佑月原作「太陽が見える場所まで」はシチュエーション・コメディ、唯川恵原作「夜の舌先」は過剰に人工的。
2013年7月2日


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蛇イチゴ



2002年
108分
 西川美和の脚本・初監督作品、プロデューサーは是枝裕和。喪服を着る男がいる。葬儀場へ出かけて適当な口実を作って関係者を装う。香典泥棒の若い男(宮迫博之)である。明智倫子(ともこ。つみきみほ)は小学校の教師。同僚の鎌田(手塚とおる)を家に招待する。父親・芳郎(平泉成)は既に会社を解雇されているが、家族には秘密にしている。母親・章子(大谷直子)は認知症の義父(笑福亭松之介)の世話をしている。義父は心臓病の発作でときどき倒れることがある。風呂を洗っているときに義父が倒れるが章子は見ぬふりをする。
 義父の葬儀。出棺のとき、父親に金を貸した男がからんでくる。10年前に勘当された兄の周治(宮迫)が弁護士を装い、借金取りを脅してなんとかその場を収拾する。義姉(絵沢萌子)は義父を章子に押し付けたまま、さっさと姿を消す。
 父親は借金を重ねていて、精算しきれないほどの借金があった。倫子は、家庭の混乱を目撃されて鎌田から交際を断られる。両親は勘当した周治の解決案に頼ろうとし始めた。ニュースで香典泥棒のことを聞いた倫子は兄がその泥棒であることを知る。両親に兄を信じてはいけないと話すものの、破産した両親は途方に暮れるばかりである。
 小学校の頃、兄が書いた地図に従って蛇イチゴを採りに行って迷った経験があった倫子は、兄の嘘を非難する。兄は嘘ではないと訴える。それならもういちど採りに行こうということになる。裏山へ蛇イチゴを採りに行く二人。途中で川を渡らず、家に戻った倫子は途中で携帯電話で警察に香典泥棒が山にいると通報する。家へ帰って来ると仏壇には蛇イチゴがあった。
 調子がよくウソばかりついていたという周治、いちどもうそを言ったことがない倫子、本音が言えない両親。家族の絆が壊れている。キャスティングが絶妙だった。
 
2013年6月2日


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夢売るふたり

2012年
アスミック
137分
 西川美和原案・脚本・監督作品。小料理屋を出した夫婦(阿部サダヲ、松たか子)の店が火災で焼失。失意の二人だったが偶然、交通事故にあった上司の不倫相手(鈴木砂羽)に渡された手切れ金を、一夜の相手をした夫がお礼にともらったことがきっかけで、結婚詐欺で店を開くお金を貯めることを思いつく。結婚願望のある女性に近づくが、金のことは言わずに苦労話(店を焼失した、妹ががんで治療代が必要など)で同情を買い、相手に貢がせてしまう手口。騙す女子はOL(田中麗奈)、ウェイトリフティング女子(江原由夏)、暴力亭主(伊勢谷友介)から逃げてきたデリヘル嬢(安藤玉恵)、子連れで父親と同居する女性(木村多江)など。
2013年6月8日


レンタル
ニッポン無責任野郎


1962年
東宝 
89分
 『ニッポン無責任時代』に続く東宝の無責任シリーズ第2作め。脚本は田波靖男・松木ひろし、監督は古沢憲吾。
 明音楽器に乗り込んだ源等(植木等)は社長(由利徹)の後釜を狙う専務(犬塚弘)と常務(人見きよし)の派閥争いの間でスイスイと調子よく生活していく。営業部長(ハナ肇)に取り入り、営業部の丸山英子(団令子)と結婚、中込課長(谷啓)と女性職員(藤山陽子)の仲を取り持ち、回収した未収金は自分の通帳に入れて見せ金を作る。
 バーkokageのママに草笛光子、キャバレーのママに中島そのみ。「無責任男」「ハイそれまでよ」「それが男の生きる道」「ノンキ節」などが適宜挿入される。
 植木等以外のハナ肇、谷啓、犬塚弘の演技が重々しく見ていてつらいものがある。
2013年5月23日



DVD
ニッポン無責任時代


1962年
東宝
86分
 植木等主演の無責任シリーズ第一弾。1962年当時、植木等とクレージー・キャッツの歌は知っていましたが、小学生で映画を見る習慣が無かったもので、映画はまったく見ていませんでした。半世紀を置いてようやく、この傑作を見ました。講談社の昭和の爆笑喜劇DVDマガジン創刊号に収録。植木等のキャラクターとその軽いノリが快感の喜劇です。主演が植木等でなかったら、ここまで痛快ではなかったでしょう。
 脚本は田波靖男と松木ひろしですが、小林信彦は青島幸男がかんでいたと推測しています。主題歌にしろ無責任を肯定的に歌い上げるテーマにしろ、青島調が濃かったからです。当時の東宝に無責任男のキャラクターを維持し発展させるスタッフがいるはずもなく、植木等とクレージー・キャッツの映画は質的にはどんどん低下しますが、人気は逆にうなぎ上り。植木はかなり悩みながら続けたといいます。
 『ニッポン無責任時代』のお姐ちゃんトリオのキャラクター造型は(社長秘書の重山規子、バーのホステスの中島そのみ、芸者の団令子)、既に古くなっています。中島そのみのキャンキャンした声は耳障り。団令子は喜劇にそぐわない。重山規子がもっとも喜劇向きでした。

【参考】中原弓彦『日本の喜劇人』(晶文社、1972) 
2013年5月16日


DVD
喜劇・いじわる大障害



日活
1973年
79分
 ミニコミ誌「不良少女復興!夏純子」(池田編集)に、あらすじを「東京でひと旗あげようとする豪農の息子・次郎(岡崎二朗)。初めはツカなかったのが、一転してツキだし、あずき相場で当てる。落ち目の時に救ってくれた春子(夏純子)に求婚するが、金にふりまわされていると断られる。政府のあずき輸入プランで無一文になった次郎を、春子だけが待っている」と紹介してから50年。やっとDVDが出て見ることができました。けれども、監督が藤浦敦さんだから、見る前から面白くなっているとは予想しませんでした。なにしろ、日活ロマンポルノ時代の愚作『蛸と赤貝』の監督さんですから。この時代劇ポルノはもう映画館で退屈で退屈で・・・その後、彼の作品8本は見ていません。喜劇は難しいものです。
 藤浦敦は三遊亭宗家の子息。『喜劇・いじわる大障害』は彼の初監督作品ということで、円楽はじめ三遊亭家の落語家が大勢出演しています。役どころは、円楽はホストクラブの気取ったマスター、円歌はトルコ風呂の経営者、小円遊は交番の警官などなど。
 そのほかに毒蝮三太夫が理不尽なタクシー運転手、南利明がお調子ものの不動産屋の社長、ケーシー高峰がインチキ産婦人科医、口から出まかせの易者が林屋三平、痴漢でスリが林屋木久蔵(木久扇)、堂々と詐欺を働く女親分が宮城千賀子といった喜劇人が田舎出の次郎(岡崎二郎)を東京で翻弄する役で少しづつ出演。立川談志がなんでもコンサルタントと称して次郎を手玉に取る従兄役で準主演、かつ監修を担当しています。
 しかし、映画にはキレや突出したところがなく、談志の監修が功を奏しているとは私には思えませんでした。
 いまは亡くなった多くの芸人の七十年代の姿が見られ、芸風を垣間見られるという意義はあるものの、それらはアナーキーな笑いを引き起こすほどではないし、テレビのなかの喜劇という枠を超えるものではありませんでした。
2013年6月3日 麒麟の翼


2012年
東宝・TBS

129分
 東野圭吾原作「新参者」シリーズ劇場版。監督 ・土井裕泰、脚本・櫻井武晴、撮影・山本英夫。  日本橋の麒麟像で力尽きて倒れたカネセキ金属の青柳武明部長(中井貴一)は刺された地下道からなぜ麒麟像まで歩いてきたのか。被害者の鞄を持って逃げた八島冬樹 (三浦貴大)は職務質問から逃走する途中でトラックと接触し意識不明の重体。冬樹の同棲相手の中原香織(新垣結衣)は冬樹は人殺しなんかする人間じゃないと言う。被疑者死亡で立件しようとする捜査本部に対し、所轄の刑事・加賀恭一郎(阿部寛)はなぜ青柳部長が日本橋に繰り返し行っていたのかを探る。捜査一課の松宮脩平(溝端淳平)とともに。毎月、七福神に参って千羽鶴を奉納していた。  冬樹が派遣社員としてカネセキ金属の子会社で働き、事故に会っていたことが判明、課長・小竹(鶴見辰吾)の証言から労災隠しの張本人として部長が疑われ、青柳一家は一転して世間のバッシンッグを受ける。高校生の妹・遥香(竹富聖花)は自殺を図る。息子・悠人(松坂桃李)が中学時代に水泳部を辞めたことが事件の背後にあるらしい。水泳部の後輩・吉永友之(菅田将暉)がプールで事故に合っていた。水泳部の3年生だった悠人と杉野達也(山﨑賢人)、黒沢翔太(聖也)は事故に関係があるのか。水泳部の顧問だった糸川先生(劇団ひとり)はなにかを隠しているのか。  若い俳優たちの悩む演技が自然。ゲスト出演でジャーナリストの青山亜美(黒木メイサ)、加賀の父親(山崎努)の看護師・金森登紀子(田中麗奈)。
2013年4月15日〜6月24日



フジテレビ

ガリレオ II



フジテレビ
21:00〜22:24(第1回)

21:00〜21:54
 東野圭吾原作の『ガリレオ』第2シリーズ。毎週月曜日放映。湯川准教授は福山雅治。オクラホマに研修を命じられる内海薫刑事(柴咲コウ)に代わって、岸谷刑事(吉高由里子)が登場。帝都大学法学部出身の生意気な刑事である。脚本・福田靖。
 第1回は「幻惑す」(まどわす)。特別篇で70分版。新興宗教クアイの教祖・連崎至光を大沢たかおが演じる。オウム真理教を批評した作品と思えた。原作『虚像の道化師』を尊重した脚本になっている。連崎の妻・佐代子を奥貫薫。送念に感化され,飛び降りてしまう信者・中上を白倉裕二。クアイの会幹部を梶原善,伊藤高史。 「週刊トライ」の女性記者(西原亜希)。
 第2回は「指標す」(しめす),『ガリレオの苦悩』から。45分。老婆が殺され,仏壇裏の金の延べ棒が盗まれた。飼い犬は毒殺されてゴミ箱に捨てられていたが,その犬の死体を発見したのは女子高校生(川口春奈)の水晶の振り子だった。ダウジング現象を解明しようと,湯川は岸谷刑事を伴って女子高生の足取りをたどり,目の前でダウジングをやってみせてもらう。湯川は真犯人を振り子に教えてもらおうと提案する。
 第3回「心聴る」(きこえる)。見損ないました。
 第4回「曲球る」(まがる)。突然の妻の事故死で復帰もままならないかつての名投手(田辺誠一)。その投球を再生しようと試みた湯川は心理的問題を解く。
 第5回「念波る」(おくる)。双子の姉妹(桐谷美玲)に起こったテレパシーを解明しようとする湯川は、脳磁気感知装置を持ち出して脳内の画像を再現しようと試みるが・・・。
 第6回「密室る」。岸谷は山ガールとして参加したペンションで殺人事件に遭遇。自殺として処理されたものの、水の過飽和に気づいた岸谷は隠された犯罪を確信する。若い優秀な後輩研究員を殺害したのは先輩(夏川結衣)なのか。鉄壁のアリバイがあるのだが・・・。
 第7回「偽装う」(よそおう)、『虚像の道化師』より。前半のカラス天狗はTVオリジナル。一週間行方不明の間に和尚が白骨死体になってしまったという事実こそ奇奇怪怪だがなんら解決篇がなかった。この問題はネット上で指摘されている。また湯川は結衣に気が動転して偽装工作とも思えることをしてしまったと自供するようにと助言をしているが、楷書で「烏天狗」と壁に書いているのだから動転して云々の言い訳は通らないのではないかとも指摘されている。
 第8回「演技る」(えんじる)、『虚像の道化師』より。原作では実行犯とアリバイ工作犯は恋人と旧恋人と別人だが、TVではひとりにしていた。また花火の写真も原作の撮影者は被害者だが、TVではアリバイ工作のため犯人が撮影した写真と設定。蒼井優がエキセントリックな犯人役というのが珍しい。
 第9回「攪乱す」(みだす)。悪魔の手という匿名で犯行予告を送りつけ、その通りに殺人を行う犯人は湯川准教授との知恵比べを宣言していた。「悪魔の手」の正体は物理学者の高取(生瀬勝久)。栗林と同期で久しぶりに会ってグチを言い合っていた。しかけは聴覚に作用して目まいを起こす高周波発信機だった。郵便ではなく、ネットで犯行予告をする犯人。なぜネットなのか。不確実な殺人と推理した湯川はネット上で失敗した殺人の痕跡を探す。
  6月15日(土)「ガリレオからの挑戦状」。2時間枠で、いろいろな物理実験を見せる番組。真空砲を音速に、面白物質大図鑑(ER流体、油を吸収する物質など)、空気砲は100m以上到達、大気圧でドラム缶つぶし、物理学お化け屋敷(アーク放電による緑色の火の玉、ドライアイス・スクリーンに映写される幽霊、パラメトリック・スピーカーによる幻聴)
 第10回6月17日(月)「聖女の救済(前篇)」、演出・西坂。湯川の北海道での中学時代の同級生・三田綾音(天海祐希)の夫がヒ素で毒殺された。自宅で入れたコーヒーに毒物が仕込まれていたが、不可解なことに一杯目を飲んだ真柴はなんでもなかったのだ。どうやって二杯目だけに毒を仕込むことができたのか。湯川は子供嫌いにも関わらず、綾音の託児所の子供たちの前で実験してみせる。ポットのふたの裏のゼラチンに染料をしこむ実験である。綾音は一年以内に子供ができなければ別れる約束だった。綾音は身ごもったのだが、自転車の女性に当て逃げされ子供を流産していた。真柴の前彼女は静岡の実家で自殺していた。中学時代にトゲがあるからバラが嫌いだと言っていた綾音が自宅でバラを育てていることに湯川は違和感を感じていた。
 スピン・オフ 6月22日(土)「ガリレオXX  内海薫 最後事件 愚弄ぶ(もてあそぶ)」。オクラホマへの研修を提案された内海薫(柴咲コウ)は、なんとかメンツを回復しようと思っていた。そんなとき、車いすを押す上念(ユースケ・サンタマリア)を目撃。車いすの老婆は死んでいた。介護士の上念は老婆の娘・石見をなぐり殺した容疑で長野県警から指名手配されていた。内海が自白調書を採った。内海の手柄と思われたが、長野へ上念を移送する途中、上念は自白を否定、無実を訴える。よその警察で立場も悪くなる内海は長野県警へ残り、自分なりに捜査を薦める。地元の新人刑事・当摩(柳楽優弥)が助手役。これが、頼りないボッチゃん刑事だが、コンピュータには強い。上念は内海に、自分が行ったとき既に千賀子は殺されていたと告白。暴行されて気を失っている間に、犯人に仕立てられたと言う。連れ込みホテルに宿泊した内海に新聞記者・甲本が接触。内海は女性署長・高崎依子(余貴美子)を中傷する怪文書を見せられた、獄中死した猿渡の取り調べを告発しようとした石見記者を自殺に追い込んだのは署長Y・Tだというものだった。内海は真相を推理し、当摩と関岡(伊武雅刀)に相談した。そんな折、甲本記者が自殺を偽装されて殺された。しかも、内海の行動は警視庁へリークされていた。そのため内海は監察官(永島敏之)に東京に戻される。刑事を辞めようかと悩む内海の話を聞く立場で、湯川准教授(福山雅治)もちょっとだけ登場。蛍光灯の発光の原理を解説し、「外からの刺激で発光する」と言う。その言葉が内海にインスピレーションを与える。内海は真犯人を刺激するために怪文書を再送する。
 視聴率が20%を切った第5話あたりから人気の下降が取りざたされている。岸谷(吉高)のタカビーな刑事が湯川や栗林に対して不快な言動をするのが不人気の最大の原因だが、先に撮影終了している映画『真夏の方程式』は岸谷の性格がかなり異なるらしい。なんだかんだ言われても、今週号のTVガイドの表紙に「ガリレオ」がなるくらいだから、話題は尽きない。視聴者の「内海薫、カムバック」の声に応えて今回のスピン・オフ・ドラマとなったというが、かなりしっかりと作られていて、だいぶ以前から準備されていたドラマのようである。池上淳哉によるオリジナル・シナリオは物理学とは関係のない犯罪。
 第11回6月24日(月)「聖女の救済(後篇)」。30分拡大版。演出・澤田謙作。謎解き篇である。綾音と湯川は廃校になるという札幌の中学校で謎解き。真実は判明したが証拠はなにひとつ残っていない。そんなとき、真相を手紙で湯川から教えられた岸谷は、二階のプランターのひとつのバラが枯れているのに気付いた。
 
2013年4月10日


DVD
愛と死の記録


日活
1966年
 吉永小百合私のベスト第7号に収録。もとは大江健三郎『ヒロシマ・ノート』(岩波新書)に書かれた被爆者男性の死とあと追い自殺をした女店員の実話。脚本は大橋喜一・小林吉男、監督は蔵原惟繕、撮影は姫田真佐久。音楽は黛敏郎、録音は紅谷宣一。白黒作品。
 広島で少年時に被爆し、孤児となった青年・幸雄(渡哲也)は再生不良性貧血で入院後、退院し、社会復帰に向け、印刷会社で働いていた(最初は過去が明かされないため観客には分からない)。バイクで接触し、レコードを壊してしまったことがきっかけでレコード店員の和江(吉永小百合)と知り合う。何度か会って二人は魅かれ合うものの、親代わりの岩井(佐野浅夫)は浮かぬ顔である。結婚を決意していた二人だったが、やがて幸雄の病気が再発し、入院を余儀なくされる。和江の献身的な看護もむなしく、幸雄は白血病で死んでしまう。泣き暮らしていた和江はやがて明るさを取り戻したかのように見えたが、重大な決意を秘めていた。
 蔵原の画面作りは背景に凝ったもの。大雨のなかの二人乗りバイクの疾走、鉄橋の隣の橋での抱擁場面、激しい嵐の吹きすさぶ窓の外、都市の音を取り入れて緊張感を際立たせる。鈴木清順監督ほどの異化効果ではないが、かなりエキセントリック。

[追記]この作品の役を演じることで、吉永小百合は原爆の悲劇に向き合うことになった。
2013年4月9日



DVD
華岡青州の妻


NHK
2005年
43分×6話
 NHK金曜時代劇で2005年1〜3月放映。脚本は古田求(1・2・6話)と森脇京子(3〜5話)、演出は野田雄介(1・2・6話)、勝田夏子(3・5話)、中寺圭木(4話)。美術監督に西岡善信。カラー作品。
 加恵(和久井映見)、於継(田中好子)、雲平(谷原章介)、於勝(中島ひろ子)、小陸(小田茜)、渡辺美佐子が語り手である。映画版とセリフも共通する部分が多いが、有吉佐和子の原作の構成がしっかりしているからである。映画版にはない、加恵の視力が失われた後の挿話(小陸の縁談、於継の死、小陸の死、加恵の苦梱、乳癌の手術)が描かれている。
 小弁の死を映画版では風邪をこじらせたとしていたが、NHK版では母からもらった櫛を追いかけて川にはまったとしていた。映画版が原作通り。また、NHK版では於継が倒れる場面に盲目の加恵が同伴していたが、原作では加恵は於継の死には立ち会えていない。
2013年4月9日




DVD
華岡青州の妻

大映
1967年
99分
 原作者・有吉佐和子の語り口は見事である。脚本を新藤兼人、撮影を小林節雄、監督を増村保造で映画化。池袋文芸座の深夜興行で初めて見たことがある。白黒作品。小説が雑誌「新潮」に一挙掲載されてすぐに映画化されている。
 青州の母・於継(高峰秀子)に請われて雲平(市川雷蔵)の妻となった加恵(若尾文子)は、マンダラゲの効能を試す実験を於継と張り合う。雲平の妹・於勝(原知佐子)や小陸(渡辺美佐子)はガン腫で亡くなったが、手術や治療が出来なかった。実験により加恵の視力は失われたが、青州の乳癌の手術の成功は実験結果がもたらしたものだった。
 嫁にも姑にもならず良かったというセリフを首に癌腫ができた小陸に言わせている。原作通りである。

【参考文献】有吉佐和子『華岡青洲の妻』新潮現代文学51(新潮社) 1966年発表
2013年4月1日


NHK総合
8:00
あまちゃん


NHK
15分
 怒鳴ってばかりいる登場人物に閉口してほとんど見て来なかった『純と愛』が終わって、NHKの朝の連続ドラマも新しくなった。『純と愛』は「本当の心が見える」主人公だったが、本当の心などを見て人間関係など築けるわけがない。人間社会は「良い誤解」で成り立っているのだから。「隣のひとはみんな善人」と誤解し合うことで世間で生きていけるのである。本当の心などをいちいちのぞかれたのでは、わずらわしくって生きていけない。そのためか、愛(いとし)君の超能力が消えてしまってからのほうがドラマが落ち着いてきたし、最初はこれほどイヤなやつはいないほどだった、ヒロインの知人たちが、すべて実は良いひとだったと変わってしまったのも予想通りだった(それもまたウソくさいのだが)。だいいち本心があれほどいやな人物で終わるのだったら、役柄を引き受けるひとがいないはずである。つまり、本心なんて見ないほうが幸福なのである。擬制の幸福こそが生きる糧なのだ。

 さて、宮藤官九郎(クドカン)の脚本による「あまちゃん(海女ちゃん)」は、最初から曲者女優ぞろいの方言全開ドラマで、『純と愛』とはまったく異なる展開を予想させる。つまり、これは田舎のファンタジーである。地の果てみたいな岩手県の不便な漁村を背景にしたおとぎ話である。井上ひさしの『吉里吉里人』のドラマ化のようなものである。字幕で翻訳が必要な方言は日本語なのにほとんど何を言っているのか分からない(東北人の私には少しわかる)。しかも、その方言を話すのが<木野花>であり、<渡辺えり>(山形県出身!)であり、<美保純>(映画『俺っちのウェディング』のかっぺ<田舎っぺ>を彷彿とさせる話しかた)であり、<片桐はいり>である。故郷を棄ててすっかり都会化した母親は<小泉今日子>で、ベテラン海女の祖母は<宮本信子>である。この顔ぶれと方言を毎朝見聞きするだけで笑いが止まらない。
 第2回目以降は方言の頻度は後退して、かなりわかりやすくなった。クドカンがあさいちに出演して語ったところによると、第1回目の方言と字幕使用は1回きりの実験だったのだそうである。

【参考文献】あまちゃんファンブック『おら、「あまちゃん」が大好きだ!』(扶桑社、2013年)
 NHKドラマガイド『あまちゃん』Part1 Part2(NHK出版、2013年)
 小泉今日子,2013年10月10日読売新聞 「あまちゃん」を終えて

 小泉今日子は読売新聞の書評を担当するほどの文筆家なので、この新聞記事も<寄稿>である。
2013年3月31日


NHK総合
21:00~
魂の旋律

NHK
45分
 NHKスペシャルの副題は「音を失った作曲家」。佐村河内守が、東日本大震災で母親を失った石巻の少女のためにピアノのためのレクイエムを作曲する取り組みを取材した作品。彼が音を失い、作曲を再開するに至るまでの経緯は既に<NHKスペシャル>や<朝いち>で報じられた。『交響曲第1番 ヒロシマ』や『弦楽四重奏曲』などはCDでも聴いている。佐村河内が音を探り苦悩しながら「僕は・・・ひとりしか、救えないですよ」とつぶやくのが印象深い。たった一人の少女の魂を救おうと、七転八倒してノイズのなかから音をつかみとろうとする彼の営み。おそらく晩年のベートーヴェンにも匹敵するだろう苦闘の果てにできた曲は、力強い作品だった(ピアノ演奏は田部京子)。

【追記】その後、半年して佐村河内氏の曲は別の人が作ったもので、彼の全聾という障害もウソだったことが分かった。音楽大学にも行かずに独学で管弦楽を作曲するなどということは、やはり不可能なんですね。無調音楽でない点がアピールした要因のひとつだと思うと、現代の音楽状況を逆説的に批判した結果になってしまった。
2013年2月23日



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リアリズムの宿



ビターズ・エンド
2003年
83分
 つげ義春原作、向井康介・山下敦弘脚本、山下敦弘監督、近藤龍人撮影。音楽はくるり、主題歌は「家出娘」。
 自主映画の脚本家・坪井(長塚圭史)と監督・木下(山本浩司)は国英駅で待ち合わせたが、スタッフの船木が来ない。二人でロケハンに出かけることになったのは冬の鳥取の海岸。そこへ服を海で流されたというあっちゃん(尾野真千子)がやってくる。二人きりの珍道中に女子が加わってやや変化が現れた。木下はいまだに童貞、坪井は6年間同棲していた相手と別れたばかりだった。女子はある日、急にバスに乗り込んで去り、二人の前から消える。残り金も少なくなった二人は食堂で世話された不良っぽい息子の家族の中に同居するが、宿屋でないため居心地が悪く、安い宿を紹介してもらってそちらへ移る。森田屋という看板は出しているものの、狭い二階の部屋に、台所を通らないと行けない風呂場、狭くて汚い浴場、ぜんそくもちの老人、下着の通販カタログを見ている小学生の息子、大鍋いっぱいのミソ汁など、リアリズムの宿だった。翌朝、なけなしの金を払い、駅に向かう二人を女子高校生の列が追い越して行った。駅にあっちゃんがいた。二人はそれとなくあいさつをする。
 撮影はほぼ順撮りで行われたそうである。尾野真千子が撮影に加わった中盤は尾野の明るさが現場を盛り上げて楽しい撮影だったという(長塚談話)。尾野が去った後は喪失感があって画面にもそれが出たとか。長塚はなんにも起こらない青春映画と定義していた。
2013年2月22日



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マイ・バック・ページ



アスミック
2011年
144分
 山下敦弘監督、川本三郎原作を映画化。脚本は向井康介,撮影は近藤龍人(16ミリで撮影,35ミリにブローアップしてザラザラ感を表現した)。学生叛乱が退潮しつつある時代、東都ジャーナルの記者・沢田(妻夫木聡)は京浜安保共闘と名乗る武装集団の活動家・梅山こと片桐(松山ケンイチ)に接触。梅山は沢田を活動の広報に利用する。
 二人が初めて出あったとき、梅山は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」が好きだと言い、活動家になる前は音楽が好きだった、CCRの「雨を見たかい」をギターを弾きつつ歌う。趣味が一致した沢田は梅山を信じ、その武装闘争も確信に満ちたものだと信じた。実際に梅山が何を目指して活動に取り組んでいたのかははっきり語られているわけではない。しかし、映画が描き出すのは彼の自分流に活動を組立てるフィクションを作る能力の高さであり、人心把握の巧みさである。当初予定もしていなかった計画を起こった事実に牽強付会する能力である。逮捕後、デッチ上げの赤邦軍を京大全共闘・前園(山内圭哉,モデルは滝田修)の指令による第二方面軍であると主張し、任務は武器調達であると言い張る。武器調達計画の指令は実行部隊の荒川(山本剛史)によるものだったと責任を転嫁する。
 このような資質はジャーナル編集部を沢田の留守に訪れた際に、上司から沢田との約束金として巻き上げた一万円を、後に沢田には上司はいい人でカンパしてくれたと言い訳していることや、女友達(石橋杏奈)に「君の住む世界を変えたいんだ「と言って抱いてしまうことなどの行動で観客には分かるようになっていた。 さらに、梅山は『真夜中のカーボーイ』で「泣く男」ダスティン・ホフマンに共感することも、『週刊東都』の表紙モデルの女子高校生(忽那汐里,モデルは保倉幸恵。鉄道自殺した)と共通だった。そういった資質のようなものに共感したからこそ、沢田は梅山を信じ、武器調達の行動も思想犯の活動ととらえようとしたのだった。
 しかし、梅山のほうは沢田を利用することしか考えていなかったし、仲間たちも自分の名声をあげるための道具としか考えていなかった。武装闘争を実行し、名を上げたからといって、それが大衆の意識を底上げすることにならないことは明白だが、梅山はそれが正しい道であるかのごとく錯覚し、功名心のとりことなっていた。当時の滝田修の理論が有名であるがゆえに影響されてしまい、自分も有名病にとりつかれてしまったのである。川本さんにとっていちばんショックだったのは逮捕後、自分の味方だと思っていた人々の態度がコロッと変わってしまったことだったろう。そのどん底から立ち上がるのは並大抵ではなかったはずだ。その状況は映画では直接には描かれていない。キネマ旬報編集部の女性から飲み会に誘われたが断る場面、立ち寄った居酒屋の亭主がかつての取材で出会ったウサギ売りのテキヤの若者で、いまの境遇を聞かれて、つまってしまい、慟哭する場面といった間接的な描写になっている。

【参考文献】川本三郎『マイ・バック・ページ』(河出書房新社,1988年) 
2013年2月21日



レンタル
パーマネント野ばら


ショウゲート
2010年
100分
 吉田大八監督の『桐島』の前作。原作は西原理恵子。脚本は奥寺佐渡子。撮影や照明は『桐島』スタッフ。
 ナオ子(菅野美穂)は離婚して娘・モモを連れて実家の母親まさ子(夏木マリ)のもとに戻る。母親は漁村(ロケ地は高知県宿毛)で「パーマネント野ばら」を営んでいた。野ばらにしょっちゅう通うおばあさんたちは男の下ネタの噂話ばかり。出張パーマの先はゴミ捨て場で暮らす老婆とその同居人の廃屋だった。ナオ子の幼馴染のミッチゃん(小池栄子)もトモちゃん(池脇千鶴)も男運が悪く、浮気性の男や甲斐性の無い男と一緒になってトラブル続きだった。ナオ子は高校の化学の教師カシマ(江口洋介)とひそかに交際していた。モモは別れた父親を慕っており、ときどき会わせていた。ある日、母親が慰安旅行、娘が離婚した亭主と出かけたとき、ナオ子はカシマと温泉旅館で待ち合わせをしたが、いったん来館したカシマはナオ子を抱いた後、消えた。自宅に戻り、公衆電話からカシマに連絡を取るナオ子。寂しさにつぶれそうになるナオ子だったが、実はカシマはずっと前に死んでいたのだった。個性の強い登場人物に比べて、それを観察しつつもやや戸惑っている菅野美穂の控えめな演技が秀逸。NHKの『坂の上の雲』の正岡子規の姉役が良い表情をしていたので名優と気づいたのだが。

【参考文献】西原理恵子『パーマネント野ばら』(新潮社,2006年)
2013年2月19日





ブルーレイ


桐島、部活やめるってよ



日本テレビ
ショウゲート
2012年
103分
 吉田大八監督が朝井リョウの原作を脚色・監督した作品。現代の高校生を描いたユニークな青春映画。脚本は喜安浩平・吉田大八。
 中心は高校2年生の宏樹(東出昌大)。野球部を辞めたが主将からは戻って来ることを期待されている。クラスにつきあっている女子・沙奈(松岡芙優)もいるし、吹奏楽部部長・沢島(大後寿々花)からも想いを寄せられている文武両道型の万能青年。バレー部のエースで県選抜選手にも選ばれている桐島がある金曜日、部活を辞めるという事態が発生。学校を休んでいる桐島は画面に一度も現れないが、彼の親友や女生徒、部活動仲間にじわじわと影響が広がっていく。
 虚構の物語で引っ張っていく映画ではない。微妙な共感や反感、身につまされるようなヒリヒリ感で、目が離せなくなる作品。いまの高校生の話し言葉や感覚が吸い上げられているように思えて、かなり面白かった。同じものは二度と現れないだろうと思えるほど突出した作品であった。さえない映画部監督の生徒に神木隆之介を配して監督自身の思い入れのあるセリフを言わせたりと、あざとい感じが気になるが、神木は名演だし、これだけ多くの若い俳優から等身大の演技を引き出した監督の腕前はタダものではなかった。東出昌大も映画初出演ながら健闘。帰宅部の浅香航大、落合モトキ(実際は23歳)、映画部の前野朋哉(実際は26歳)、バドミントン部の橋本愛(実際は15歳)、清水くるみ、吹奏楽部の大後寿々花、帰宅部の山本美月、“闘う女”松岡芙優ら、女子も精一杯演じていた。原作者・朝井リョウはコメンタリーで高校の様子、いわば学校の空気が映っている場面に感動していた。映画のなかで1年生の映画部員に監督・前田が言わせていたセリフ、<ここしか俺たちの生きる世界はないんだ>から映画のメッセージはあきらかだ。
 ヨコハマ映画祭作品賞・監督賞・撮影賞、キネマ旬報ベストテン第2位と評価も高い。ヨコハマ映画祭ではかつて長崎俊一監督の『ロックよ、静かに流れよ』が作品賞を取ったのに、その後DVDも出なくて忘れられた映画になってしまっている例がある。『桐島』はもうブルーレイも出ているので、そうはならないだろうが・・・・。
 映画版『桐島』の特徴は吉田大八監督が文庫版『桐島』の解説で書いている言葉に表わされているだろう。こうである。
 “前田も宏樹も、間違いなく彼ら自身の戦闘状態を生きている。それは勝利への希望や、それに続く昂揚感からはほど遠く、卒業までの果てしなく長い時間を費やすだけと決められている消耗戦。しかし、いやだからこそ彼らの思いやりや優しさは、ある種のタフネスに支えられているに違いない。その「タフ」の定義がもう更新されていることにいいかげん僕らは気づくべきだろう。
 「格差があって、戦争がある。だから---学校は、世界だ」”(文庫244ページ)。
 映画では桐島はまったく出て来ないが、原作ではバレー部での桐島の姿が描かれている(文庫22ページ)。「桐島はリベロで絶対的なキャプテンで、チームをまとめる力があった」(50ページ)。しかし、それゆえに少し浮いていたという。 

【参考文献】 朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』(集英社文庫,2012)


シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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