約 束 1 2 3 おまけ |
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その日は朝から陣屋の中が活気づいていた。周瑜の策が当たったのか、敵がやっと包囲を解いて孫呉の挑発に乗ってきたのだ。大事な緒戦を落とすべく、総大将である孫堅自ら先陣に立つという。 人に心配させるなとか言うくせに、殿は呉国中の人間には平気で心配かける男だよな。 甘寧は一人だけカヤの外に置かれ、つまらなそうに布団の上で伸びをした。肩の調子は大分良い。この調子なら、もう二、三日で剣を握れるようになるだろう。いや、本当ならもう軽い剣くらいなら持てるはずだ。素手なら肩を上げても痛みはほとんどなくなっているのだし。 だいたい、殿にしても周瑜殿にしても、呉国の人間は心配性過ぎる。そりゃ筋は伸ばしちまったらもう縮まない分骨折よりタチが悪いけど、ここまで過保護にしてやるもんでもないのだ。ちゃんと包帯で固めておけば、このくらいなら戦に出たって差し支えないはずなのに。 甘寧は、あまり自分を甘やかす事に馴れていない。腕を折ったまま斬り結ぶ事だって、錦帆の時代には幾度もした。いつもそうやって自分を追いつめていないと、甘寧はなんだか不安になるのだ。 それなのに、ここの人間はみんな優しくて、それが彼には残酷だった。生きながら殺されていくような気がしてしまうのだ。 孫堅にしたってそうだ。 ……もっと、ひどく扱ってくれりゃいいのに……。 慈しむような孫堅のキスを思い出して、甘寧は溜息をついた。 もっと乱暴に扱われれば、そうすれば俺はきっと殿の気持ちに応える事ができる。別にそういう嗜好がある訳ではないが、今の状態は精神的にちょっときつい。 甘寧は溜息をついて寝台から起きあがった。必ず寝ていろと念を押されてはいるが、そこまで自分はヤワにできてはいないのだ。あちこち自分の傷を点検してみると、なるほどせっかくの刺青に火傷の痕が結構目立つ。鞭の痕は治ってしまえばそれほどでもないのだろうが、火傷の方はもう諦めないといけないようだ。背中の痕は痛みからして中央か。あそこにはあんまり墨入ってないから良いけど、脇の下の龍はもったいなかったな。まぁ、脇の下なんてそんなに人から見られるとこでもないから、これも思ってる程目立たないだろうか。 その時、そっと辺りを伺うようにして幕舎の入り口が開いた。一瞬方志が自分の不在を確認しに来たのかと焦ったが、入ってきたのは自分の部下ばかり、三人の男達だった。 「頭、今戦でみんな出払ってるんで、こっそり来ちまいやした。どうです? 具合は」 どうやら甘寧を訪なう事は禁止されているらしい。それはそうだ。甘寧はここにはいないことになっているのだから。孫堅の幕舎に甘寧の麾下が出入りしていたのでは、誰の目から見てもおかしな話だ。 「おう。手間掛けて悪かったな。この通りピンピンしてらぁ」 「頭もいい加減化けモンっすね……。普通まだ立てねぇっすよ」 「それは誉め言葉としてとっておく。おい、それよりその腰のモン、ちょっと寄こせや」 手下の一人が支給品の剣を渡すと、甘寧は音を立てて鞘を払った。刃に指を沿わせて青光る刀身を眺めていた甘寧だが、すぐにニヤリと笑う。 「おい、その辺の包帯の替えをこいつに巻いてくれ。お前らのにもだ」 「どうするんで?」 「決まってんだろ。軽くて頼りねぇような剣だが、リハビリにはちょうど良い。このまま撃ち合ったら外に音が聞こえちまうから、刃を覆うんだよ」 「あぁ…」 一瞬一人が納得仕掛けたが、慌てて他の二人が首を振る。 「そりゃやばいっすよ、頭!」 「ばれたらエライ目に遭いますって!」 甘寧はそんな手下共の様子にはお構いなしのようで、さっさと包帯をとって自ら刀身をぐるぐる巻きにし始めた。 「今戦で人が出払ってんだろ? お前らが黙ってりゃばれやしねぇって。もういい加減体がなまってクサクサしてたんだよ」 そうして脅されるように手下が自分達の剣にも包帯を巻くと、甘寧は一度に二人で打ちかかってくるように命令して束を軽く握った。 自分の覇海と比べれば、持っているのかいないのかも分からないような軽さだが、その分肩に掛かる負担はほとんどない。ずっと布団の中で寝かされていたにしては、体の切れも悪くなかった。甘寧の部下の中でも精鋭と言っていい二人を相手に、甘寧は久しぶりの感触を楽しんだ。 が。 「甘寧! お前何やってんだよ!」 少し夢中になりすぎていたらしい。天幕の入り口が開いて孫策が入ってくるまで、甘寧はその気配に気づかなかった。 「っちゃ〜。やっぱ鈍ってんのか、俺。気配にも気づかないなんて、間抜けもいいとこだ」 「バカ、俺だったから良いようなモンの、オヤジに見つかってたら殺されてたぞ」 「っつうか、なんで孫郎がこんなとこいるんすか」 「留守居役だよ。誰も残らない訳ねぇだろ」 孫策は甘寧の剣を取り上げると部下に返してやり、さっさと出てくように手で合図した。三人が慌てて出て行くのを眺めながら、孫策は土産だと言って桃を卓の上に乗せると、甘寧と並んで寝台の上に腰を下ろした。。 「で? その調子なら、もう万事オッケーか?」 「上々って言いたいとこですけど、まぁまぁってとこですかね。気配、気づかなかったし」 「気にすんなって。なんか中で暴れてるから、いっちょ脅かしてやろうかと思って俺も気配消してたんだし。って、俺の方が驚いたけどな。まさか甘寧がもう撃ち合いやれるようになってるとは思わなかったぜ?」 「どうせ殿が大げさに言ってやがるんでしょう?」 甘寧はつまらなそうに溜息をついているが、普通あの状態で運び込まれた人間が、半月ちょっとで暴れまくっていたら誰だって驚くだろう。孫策は喉の奥で唸ると、「さすが錦帆賊」と少しだけ尊敬した。 「あ」 「ん?」 「やっぱ親子っすね。そうやって喉の奥で唸ると、声が似てる」 「そうか?」 しばらくの間自分の声を気にしていた孫策が、ふといたずらを思いついた子供のように「な、な、」と甘寧の脇に膝を寄せた。 「お前さ、オヤジとやっちった?」 「……え!?」 いきなり何を言い出すのかこの男は!!!!! 甘寧が火を噴いたような顔で否定しようとするのを、孫策は「良いって良いって」と笑いながら止めた。 「オヤジもいい加減若いよな〜。隠すつもりがあるんだかないんだか分からんけど、顔に出まくってんだもん」 「イヤ孫郎!」 「あ、別に家族に悪いとか考えなくても良いんだぜ? オヤジがあんなに幸せそうなの、俺久しぶりに見るし。オヤジもさ〜。馴れない君主生活で、眉間に皺が居座ってるじゃん? 正直そういうオヤジ見る方が辛いんだよね。ま、そんな訳でオヤジの面倒よろしくな? お駄賃に、さっきのは見なかった事にしといてやるから!」 「イヤあの孫郎!」 「あ、桃は早めに食っちまえよ! アリがたかるから! じゃあな!」 笑顔で去っていく孫策に、甘寧は二の句が継げなかった。あまりの非常識さに、赤くなっても仕方あるまい。 普通そういうこと、人に訊くか!? 気づいても訊かないだろう、普通! いや、百歩譲って訊くとしても、でもそれを息子が言うか!? 父親だぞ、お前の! お前のオヤジがヤローと寝てるってのに、よろしく頼むはないだろう!? 「やべぇ。熱出そうだ…」 甘寧は大人しく布団にくるまった。知恵熱だろうか。この国の奴らは、よく分かんねぇ…。 もう何も考えずに済むように、甘寧はさっさと眠ってしまう事にした。 荒々しい足音で目が醒めた。小さく周瑜と孫策が何事かを諫めるような声がする。眠い頭で体を起こすと、天幕の外に目を向けた。外は暗い。いつの間にか夜になっていたようだ。卓の上には孫堅の鎧や天狼剣がおいてあり、あぁ今日の戦は終わったのか、戻ってきたのに俺気づかなかったんだな、と、まだ寝ぼける頭で考えていた時。 「甘寧逃げろ!」 叫び声と同時に、口を大きく横に結び、目の据わった孫堅が入ってきた。その腕には周瑜と孫策が貼りついている。甘寧は呆然とその状況を眺めた。 「すまねえ、甘寧! お前の事、公瑾にだけは言っとこうと思ったら、こいつがオヤジにチクリやがって」 「殿の留守中の事は全て報告する義務があるだろう!」 「だからってオヤジの性格考えろよ!」 「…マジかよ…」 甘寧もさすがに血の気が引きそうだった。孫堅の怒りはどう考えても昼間の手下との剣劇騒ぎのせいだろうが、正直孫堅がそこまで怒る理由が甘寧には分からない。 「殿! それだけ甘寧はもう良くなってきているという事ですよ!」 「俺が見たとこ、甘寧はもうどっこも悪くなさそうだったぜ! だからオヤジ、そんな怒らなくても良いじゃねぇか!!!」 何も言わずに、孫堅はずかずかと寝台の脇まで近づいてきた。何も言わない分、そそけだつような殺気が感じられる。 「甘寧だって子供じゃねぇんだから、オヤジがそんなに心配してやる事ないんだって!」 「殿、体罰だけは絶対にやめて下さい!」 ……この二人、ガキの頃殿にどんな育てられ方したのか大概分かるな……。 まだどこか他人事のように考えていた甘寧だが、孫堅と目があった途端、さすがに背中に冷や水が流れた。 「俺は興覇に話がある。お前らはさっさと出て行け」 「オヤジ…!」 低く、絞り出すような孫堅の声に、さすがの孫策達も腰が引けたようだった。 「出て行けと言っているのが分からんのか!」 孫策と周瑜はお互いに困ったように顔を見合わせ、それから甘寧に向かって何事が言いたそうな目を向けながら「オヤジ、冷静に、な?」とか「殿、甘寧は病み上がりですので、そこの所を考えて下さいよ」とか口々に言いながら、後ろ髪を引かれるように幕舎から出て行ってしまった。 しんと静まった天幕の中に孫堅と二人で残された甘寧は、とりあえずちゃんと話をしようと布団の上に起きあがった。 「殿、前から何度も言ってるけど、俺の肩はもう大丈夫なんっすよ。殿ちゃんと見てないじゃないっすか。なんなら今試してみますか? ほら、殿の剣を貸し…」 孫堅は甘寧の言葉などまるで聞こえていないかのように、甘寧の腰の脇にどさりと左手を置き、それから右手を甘寧の肩に置いた。話を聞く耳は持たないらしい。 「俺は、お前をずっと心配していた」 「それは分かってますけど、でも」 「お前を失うかもしれないと思った時には、気が狂うかと思った」 「……殿……」 肩にかかる重みが増す。痛みは感じなかったが、そのまま布団の上にゆっくりと縫いつけられた。 「お前にはまだ言っていなかったが、俺はお前に惚れている。だからお前が俺の腕の中で眠っていても、お前の体の事を一番に考えて、何の悪さもしないで我慢もしていた」 話の筋が少し違ってきたような気がして、甘寧は少し眉をしかめた。 気がつくと、孫堅の唇が、自分の唇のすぐ上にあった。 「お前が俺のいない間に暴れまくっていたと聞いた時、俺は自分が何に腹を立てているのかよく分からなかった。無茶ばかりするお前に腹が立つのか、俺が大人しく寝ていろと言っているのに俺の言う事を聞かないお前に腹が立つのか、お前のためにと色々我慢していたことがばかばかしくて腹が立つのか」 「殿、今は俺の肩の話じゃなかったんっすか」 「肩の話だろう。そんなに言うなら試してやる…!」 孫堅が感情を殺していたのはここまでだった。甘寧は喰らいつかれるようなキスをされながら、寝間着代わりに来ていた小衫が裂けるのではないかと思う程の勢いで襟を広げられた。肩に巻いた包帯が弛み、ほどけそうになる。 「色っぽい格好しやがって。これで我慢していた俺はいったい何なんだ!」 「言ってる意味が分かんねぇよ!」 口を開けた途端に舌が差し込まれたが、頭を抱え込まれて逃げる事ができなかった。時々歯がぶつかる。舌の付け根が痺れる程きつく吸い上げられると、甘寧はなんとかやめさせてちゃんと話をしようと思っているのに、腰に疼きが走って狼狽えた。孫堅の堅い胸板が自分の胸から腹にかかってのしかかり、体重差で動きを封じられる。もう少し体がずれたら、自分の泣き所が孫堅の体に触れられてしまうと思うとよけい焦り、焦ればますます息が荒くなっていった。 「んんっ」 「どうした。キスだけで珍しいな」 「ちが…っ! 殿、そうじゃなくてちゃんと話をしやしょうぜ!」 赤くなって話を戻そうとする甘寧を、孫堅は無視した。唇を塞ぎながら孫堅の腰が甘寧の腰の上に擦りつけられると、孫堅のそこは興奮の色を隠してもいなかった。 「殿!ちょっ…待てって!!」 甘寧のそこも半ば勃ちあがりかけていて、それは多分孫堅にも伝わってしまっただろう。孫堅は小さく「ほう」と呟くと、口元だけでニヤリと笑った。 「お前の方もその気だという事か?」 「殿のと俺のじゃ興奮の色合いが大分違うだろ!」 「そいつはどうだかな」 そのんまま孫堅の手は何の遠慮もなしに下履きの中にねじ込まれた。直接握られるといきなり捻り上げられて、小さな叫び声が出る。 「痛えって、殿!」 「あぁすまんな、加減がちっとも出来なくて。誰のせいで加減が出来んのかはお前が考えろ!」 こんな理不尽なことがあるか! 甘寧はもう相手が殿だとか肩を庇わないとまずいとか、そういう事を考えるのはやめた。 「ふざけんなよ! 人が下手に出てりゃいい気になりやがって! だいたい人の気も知らねぇで、あんたが勝手に人の事過保護に扱ってやがったんじゃねぇかよ! それを俺があんたの思い通りにならないからって、勝手に腹立ててんのはお門違いだ! 俺はあんたがそうやって俺を扱うたんびに居心地が悪くて堪らなかったんだよ!」 「言いたい事はそれだけか!」 孫堅は手の中にある甘寧自身をもう一度捻り上げると、齧りつくように口に含んだ。激しくしごき上げられ、じゅぶじゅぶと卑猥な音がする。そこを握られると男なら誰でも体の力が抜けるだろう。だがそれ以上に、へたに抵抗をすれば歯で傷を付けられそうで、さすがの甘寧も足技を振るう事が出来ない。甘寧の抵抗は腕で孫堅の頭を引きはがそうともがくぐらいで、そんな物は抵抗のうちには入らないと思っている孫堅は、甘寧の後ろにいきなり指を突き立てた。いつもなら、いまだに馴れない風情の甘寧の体を気遣って、ゆっくりとほぐしてやる孫堅である。だが、「居心地が悪い」と言い切られてしまったのに、何で優しくしてやる義理がある。 強引に中指をねじ込むと、そこはいつもよりもたやすく孫堅を受け入れた。中が熱く蠢いて、早く次の指も入れてくれと、誘っているようだ。甘寧の息が荒く、時々鼻にかかった喘ぎが混ざる。 「……興覇?」 「な、何だよ…!」 試しに指を大きくえぐるように回してみると、甘寧は痛みのためか、……感じているのか、くぐもったような息を長くついた。 「……そうならそうと早く言え」 銜えていた物を吐き出すと、中途半端に刺激された甘寧が少しだけ腰をくねらせながら、それでもきつい目で孫堅を睨みつけた。 「だから、何の事だよ!」 「分かった分かった。肩を試してやるから、四つん這いになってしりをこっちに寄こせ」 「何で肩を試すのにしりを寄こさないといけないんだ!」 「肩が本当に治ってるんなら、どんなことをしても腕を崩したりはしないだろう? もし腕が崩れるようなら、お前の肩はまだ治ってないって事だ」 「そんな試し方があるかよ!!!」 さっきまでとすっかり表情の変わっている孫堅を、その手に乗るかと睨みつける。だが孫堅は甘寧の性格を把握していた。 「なんだ興覇。できないのか? じゃあやっぱりまだ当分の間は大人しくしていてもらおうか」 「 !!」 何か怒鳴り返そうとしたが言うべき言葉が見つからず、結局甘寧は半ばやけになって四つん這いになった。 「これで良いんだろ!」 「上出来だ」 「……てめぇ、主君だと思ってやりたい放題やりやがって! このままで済むと思うなよ! 」 「威勢の良い事だ。その台詞はそのままお前にお返しするぞ」 孫堅はたっぷりとその扇情的な姿を眺めてから、しりの丸みを楽しむように、ゆっくりと手のひらを這わせた。 「良い眺めだな」 「うるせぇよ」 「綺麗なもんだ」 「うるせぇって言ってんだろ」 「中も見せてみろ」 「ほんっとに変態だな!」 ほくそ笑みながら孫堅は甘寧のしりを左右に開いた。薄朱に色づいた蕾が、意味ありげに震えている。 孫堅は遠慮なくそこに口をつけた。甘寧は、いつもこれをするとひどく怒る。そういう汚い事をする口とはもうキスをしないと嫌がるが、孫堅は別に汚いと思った事はない。 舌で、ことさらゆっくりと舐め上げる。襞の一本一本に舌を這わせ、時々ぴくぴくと震える内部に舌を差し入れる。 「あ…っ、や、やめろって……んんっ!」 いつもなら罵声が飛んでくるところだが、今日はいつもとは違った。先ほどから半端な刺激しか与えていない。もうこれだけの刺激で、甘寧の先端からは透明な液がぱたぱたと溢れていた。 「中に、入れて欲しいんだろう?」 「はっ…はぁ、ふっ、んく…!」 「どっちを入れて欲しい? 指なら何本欲しいんだ? それとも、もっと太いのが良いか?」 「この、変態エロジジィ!」 あれだけ中をかき混ぜてやったのだ。充分とはいかなくても、そこそこにはほぐれているだろう。それに、今日は少しぐらい泣いて貰わないとつまらない。 「その変態エロジジイに突き上げられたいんだろう? そら、くれてやるからたっぷり味わえ」 先端を潜り込ませると、それだけで甘寧は内股をひきつらせた。暫く入り口だけを行き来していたが、甘寧があんまり扇情的な声を上げるから、孫堅も一気に根本まで突き入れた。まだ充分に熟れきっていないそこは、孫堅に引きずられて悲鳴をあげている。 「あ、あ、と、殿……」 手をつかせた事を、孫堅は少しだけ後悔した。この位置からでは甘寧の顔を見る事が出来ない。こんな声を出すなんて、一体どんな顔をしてやがるんだ。今までに、甘寧がここまで素直に反応した事はないのに。 「殿、との…!」 叩きつけるような肉を打つ音と、甘寧の小刻みの悲鳴に、孫堅は目眩を覚えた。体中が滾ってくる。 「痛むか?」 甘寧が首を小さく横に振る。 「無理しなくていい。痛むんだろう?」 「ちが…との、やべぇ、すげぇ、すげぇ良い…! どう…俺の体、どうなって……!」 「……お前!」 孫堅がなおさらきつくねじ込むと、甘寧は今まで聞いた事もないような声を上げた。 「あぁあ、殿、あ、あっ、んんんっ!」 「お前、そんな事を言われたら、俺まで達っちまうだろうが!」 甘寧の腕がぶるぶる震えている。もう先ほどのやりとりなど、頭の中から消えているのだろう。今にも腕を突っ伏して布団に顔を擦りつけそうな甘寧を、孫堅は繋がったまま抱きかかえて、膝の上に乗せた。自分の腹に甘寧の背中を全て受け止め、己の腹にぶち当てている甘寧自身に手を伸ばすと、孫堅はその根本をきつく握りしめた。 「達きたいか、興覇」 「殿!」 先ほどから、まだ一度も甘寧は達っていない。初めてこんな官能を味わっているというのに、孫堅のやり様はあまりにもひどい。 だが。 「達きたいんだろう、興覇?」 「い…達きてぇ…」 「『俺は二度と殿に心配をかけません』復唱してみろ」 「殿!?」 ほら、と孫堅が腰を入れる。甘寧はどうすることも出来ない欲求に突き動かされて、孫堅が言うままに繰り返した。 「俺は」 「おれ、は」 「もう二度と」 「も、二度…とっ」 「殿に」 「との、に……」 「心配を」 「しんぱ…い、んっ、を……」 「かけません」 「かけ、ま、せん…と、との、殿早く…!」 「まだだ」 「殿!」 孫堅はニヤリと笑うと、ぴくぴくと震えている甘寧自身を丁寧に撫で上げた。つけ根は充血してかなり厳しそうだが、初めて見る甘寧を、孫堅はもっと味わってみたかった。何かもう少しこの状況を引き延ばすことは出来ないか……。思いついて、孫堅は満足げに笑った。 「興覇、これから先、そのへったくそな敬語を使うのをやめたら達かせてやる」 「なんだよ、その、へったく、そって……ん、ふくっ、お、俺だって、あ、ふ、ちゃんとしねぇと、いけ、いけねぇと、う、思っ…との、殿、やぁ、ちょっ…」 甘寧が抗議の声を上げている間も、孫堅の腰は動きをやめなかった。孫堅の動きに合わせて、甘寧の声がおかしな具合に揺れる。 「だが、お前のその敬語は敬語になってないぞ。 どうだ、俺と二人の時は敬語をやめてみないか?」 「なに…」 「さっきからお前、タメ口だろう? なかなか良いぞ、それ」 「はっ!」 くんっと小さく突き立てられ、甘寧はもう何でも良くなった。今はもう、孫堅と繋がっている体だけが甘寧の全てだ。 「分かったから! 何でも言う事聞くから!! だから早く!!」 「何でも?」 「殿!」 「何でもか?」 「殿!!」 「よし興覇。その言葉を忘れるなよ」 孫堅は一度自身を引き抜いて甘寧を仰向けに押し倒してから、のしかかるようにして深く挿入した。接合は座位よりも浅くなるが、前合わせの方が甘寧の顔が見れるし、第一背中がつく分甘寧自身も落ちつくようなのだ。握りしめていた手を少し弛めてそのまましごき上げると、すぐに甘寧は自分の欲望を解き放った。びくびくと断続的にそれは繰り返され、全てを吐き出した後にまた孫堅に突き上げられると、甘寧のそこはすぐにまた力を盛り返した。 「あぁ、殿、殿…すげぇ……! はぁあ…んんんんっ!」 先ほどまでの戸惑ったような表情は、もうなかった。甘寧は孫堅を受け入れ、自分の快楽に正直に従った。孫堅の背に足を巻きつけ、孫堅を深く体の中に繋ぎ止める。もうこのまま、どうなっても良いと思った。孫堅に刺し貫かれて、喰らい尽くされてしまいたかった。 いっそ自分はこの快楽の器になってしまえばいいと、本気でそう思った。 翌朝。 甘寧を起こさないように、孫堅はそっと寝台から降りようとしたが、僅かな動きで甘寧は目を覚ました。明け方近くまで眠らせなかったのだ。ほとんど眠っていないということだろうか。 「……殿、もう、戦か…?」 声が掠れている。怪我人相手に何をやっているんだと、孫堅は自己嫌悪に顔が歪んだ。 「あぁ、そろそろ時間だ。いいからお前は今日くらい大人しく寝てろ。夕べは悪かったな。少しやりすぎた」 甘寧は暫く孫堅の顔をじっと見ていた。怒っているのか寝惚けているのか……。 「……殿。一つ言っておきてぇ事があるんだけど」 「何だ」 声はいかにもぶっきらぼうで、やはり昨日はまずかったかと、孫堅は内心で汗をぬぐった。 「……俺は別に、痛いのが好きだとか酷くされないと達けないとか、そういう嗜好がある訳じゃないからな」 「……何を言い出すのかと思えば……」 あまりの内容に、孫堅は小さく笑った。いつもながら、自分の予想を裏切ってくれる奴だ。 「そんな事は言われなくても分かってる」 「……誤解してるのかと思ったから、言っとかねぇとと思って」 「少々乱暴にされた方が悦いみたいではあったがな」 わざとからかうと、甘寧は赤い顔で睨んだ。 「あれは…!」 「優しくされると居心地が悪いんだろう? だから少しくらい乱暴に扱われた方が正直に反応できるという訳か。ならこれからは泣いてもらうさ」 「だからそういうのが好きな訳じゃねぇって!」 昨夜のあんなやりとりの中で交わした約束だったいうのに、甘寧の言葉遣いはちゃんとタメ口になっていて、意外と律儀な奴だと苦笑する。あぁくそ、あんまり可愛くて、このまままた昨日の続きがしたくなる。 孫堅はもう一度臥牀に座ると、甘寧を抱き寄せてキスをした。キスだけだと自分を戒めるが、どうしても体に触れてしまう。できるだけそういう気分にならないように、慈しむ手で背中を撫で、肩を抱き寄せる。 「昨日の約束を覚えているな?」 「俺はいつだって、心配をかけてるつもりはねぇよ」 「それじゃああの後何でも言うことを聞くといってたのは覚えてるか」 甘寧は少し怒ったように孫堅を見た。あれは言葉の綾だと言うのは分かっているが、甘寧が一度口に出したことは律儀に守る奴だということも今度の事でよく分かった。 「……覚えてる」 「それなら、もうあまり無茶はしてくれるなよ」 「それは約束できねぇ。戦になったら、俺はどんな無茶でもするぜ。だから、約束なら他のことにしてくれ」 甘寧は真っ直ぐに自分を見つめていた。そうだ。甘寧はそういう男だ。だからこそ自分もこの男に惹かれたのだ。 「あぁ、言葉が悪かったか。もちろん、無茶はするだろうさ。俺も酷い命令を出すだろう。お前にしかできないような過酷なことを。それでも、お前は俺に心配をかけちゃならないし、俺より先に死んじゃならない。分かったな?」 「俺は呉のために命を捨てる覚悟だ。殿より先に死なない約束はできねぇ」 「バカが、年の差を考えろ。俺もお前も臥牀の上で大往生すれば、順番からいって俺が先に逝くに決まってる。だから、お前はそれまで俺に心配をかけずに、それでも戦では暴れまくって、戦の無くなる世の中になるまで生きるんだ。分かったな」 甘寧は少しだけ呆れたような顔をしたが、今度は反対しなかった。ただ、ずいぶん虫のいい話だと、少しだけこぼした。 「何でも言うことを聞くといったろう。興覇、確かに約束したぞ」 「分かった。でも、それは殿にもそのままお返しするぜ。大体、俺なんかより殿の方がよっぽど無茶してるじゃん」 「死ななければどんな無茶も無茶とは言わん」 その台詞は甘寧の気に入ったらしく、甘寧はニヤリと笑った。 その時、幕舎の外から黄蓋の声がかかった。 「殿。もうお時間です」 「おう。今行く」 孫堅は立ち上がるともう一度甘寧の唇にキスをして、「今日は大人しく寝てろよ」と念を押した。 「三日もしたら、お前には暴れ回ってもらうつもりだ。今のうちに体を完全な状態に治しておけ」 甘寧の顔がぱっと輝いた。いい顔をすると、孫堅は一瞬見とれた。 「おう!」 「うむ。では行ってくる」 背中を向けた孫堅に、甘寧が声をかけた。 「殿! 俺の出番、ちゃんと残しといて下せぇよ!」 孫堅は肩越しに笑って見せて、幕舎を後にした。
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