山田正紀のミステリ(3)『女囮捜査官』のあと 2002/08/12
『女囮捜査官』以後
- 妖鳥<パルヒュイア>幻冬社ノベルス)> 1996
- 螺旋<スパイラル>幻冬社ノベルス)> 1997
- 阿弥陀<パズル>幻冬社ノベルス)> 1997
- 神曲法廷(講談社ノベルス) 1998
- 仮面<ペルソナ>幻冬社ノベルス)> 1998
- 長靴をはいた犬 (講談社ノベルス) 1998
- SAKURA 六方面喪失課 (徳間ノベルス) 2000
- ミステリ・オペラ――宿命城殺人事件 (早川書房) 2001
女囮捜査官シリーズ以後も次々とミステリを発表されています。大作も多く、1,2,4がそうです。3と5、4と6はそれぞれ同じ主人公のシリーズです。7はこれからシリーズになってほしい。8は、ハードカバーの大作です(重いです、いろんな意味で)。
妖鳥<パルヒュイア>幻冬社ノベルス)> 1996
たしか帯には「『シンデレラの罠』と『虚無への供物』が手術台のうえで出会った」とあった作品(手術台の上云々は哲学の分野では有名なことばだそう)。たしかにこの2作品の要素が入ってます。さらに、最後まで読むと、『×××××』まで入っていたという……。もっとも最後のそれは、偶然でしょう、時期的に。
パルヒュイアというのはギリシア神話に出てくる怪鳥のこと。パンドラのお姉さんか何かだったかなぁ……(うろ覚え)。神話、曼陀羅、密室……と大作らしく、ネタもてんこ盛りの意欲作です。
ただ、いささか盛り込みすぎで消化しきれてなくて、散漫な印象はあります。『シンデレラの罠』(「わたしは誰?」)部分については、女性の書き込みがもの足りないという気がします。にもかかわらず、わたしは好きな作品です。
ミステリならこんなこともできる、という可能性を示しているというのもありますが、なんだか引き込まれるんですよね、この世界に。
普段はむしろ端正に小説をまとめる氏の作品にしては荒削りで、それでかえって迫力を感じたのかも。さらっとまとめている女囮捜査官シリーズから、また違った方向に歩き出そうとしているのを感じました。
螺旋?スパイラル?(幻冬社ノベルス) 1997
『妖鳥』とは、内容的なつながりはありません。でも幻冬社ノベルスから続けて刊行された大作という共通点があって、なんとなく続編的に感じてしまう作品。
帯にある、水路という巨大密室の謎と電車がメイントリックになっています。テーマは今回はキリスト教。『妖鳥』より筋立ても小説としてもまとまっていて、出来自体はこちらのほうが上という評価もあります。レベルは高いです。でも、わたしの好みだと『妖鳥』なのです。 この作品は、密室トリック部分よりも、もっと内面の、人間の罪を考える作品という印象が強いです。さすが『神狩り』の作者。
探偵役は風水林太郎。ちょっと呪師霊太郎が入っているかな、という人物です。(ちょっとだけ)
阿弥陀?パズル?(幻冬社ノベルス) 1997
探偵役は風水火那子(かなこ)。『螺旋』の探偵の妹ですが、兄とはまったく無関係な事件です。
これはまさにパズルっぽい事件。それを評価する人もいるし、それだけだ、と切って捨てる人もいます。わたしはどちらかというと後者かな。
神曲法廷(講談社ノベルス) 1998
大作です。講談社ノベルスということもあって、発売当初から話題になった作品。
主人公は佐伯神一郎で、精神的にまいっていて検事を休職中の身の上。それがゆえに先輩からある調査を依頼され、そして事件に巻き込まれてきます。メインの事件は裁判所での密室トリック。全体としてダンテの『神曲』がイメージされているため、重厚な雰囲気です。そのために苦手という人もいます。
事件の解決を迎えてハッピーエンドかと思いきや……。佐伯の将来が案じられてなりません。
仮面?ペルソナ?(幻冬社ノベルス) 1998
個人的にはかなり好きな作品。好み、てヤツです。火那子シリーズの2作目ということになりますが、『阿弥陀』とは事件の様相はかなり違います。
とにかくすばらしいのがこの構成。<現在><事件><事件と現在のはざま>などいくつかの時系と場所が交錯しているのに、章立てもされていないのです。それが、ぞくぞくするほどすばらしい。それなのに全然混乱はなく、でも仕掛けは存分にあって……と構成のうまさが十二分に発揮されています。
で、最後の謎解きになったら、真相がまたわたし好み。
これ以上はネタばれなので書けないけど、こういう本を学生時代何冊か読んでいたこともあって、「おおっ」て気分でした。長さも手頃だし、お薦めします。
長靴をはいた犬 (講談社ノベルス) 1998
神性探偵・佐伯神一郎と銘打たれた『神曲法廷』の続編。
関ミス連の講演会で、編集及び読者からの希望でシリーズにすると聞いたものの、『神曲法廷』のラストがラストなので、「この主人公でどう続けるんだ?」と思っていたのですが、ちゃんとシリーズになってました。まさかこう来るとは……。まずその点でびっくり。
女性が鋭利な刃物で殺される事件。暴行のあとはないが下着をはぎ取られ、猟奇的殺人と話題を呼ぶ。犯人が逮捕され公判にかけられるが、公判中に同様の手口の事件がおきる。犯人は別人なのか? 最初の事件の犯人を誤認逮捕とは思っていない警部補が事件を追い、佐伯も巻き込まれるようにして事件に関わっていく……
最後は、山田正紀らしいテーマも包含し、まとまっているが大胆な佳作です。
ちなみに警部補さんのお名前は、関ミス連のオークションで権利を競り落とされた方のお名前なんです。いいなぁー。
SAKURA 六方面喪失課 (徳間ノベルス) 2000
作者じしんがB級作品と宣言する、非常にハイレベルな「B級」エンタテインメント。
「問題小説」に1998年から1999年にかけて掲載された短編5編に、大幅な肉付けをして完成されたもので、作中の時代は1990年、バブルの盛り、地上げ全盛のころ。そして舞台は東京都足立区綾瀬――『長靴をはいた犬』もそうでしたが、なんて...地味な。
綾瀬署失踪課。実体は、陰で六方面喪失課などと噂されるリストラ予備軍。そこの刑事がそれぞれ、大したことではないがちょっと妙な事件に遭遇する。事件を追っていくうちに、あっちとこっちがつながっていき、大きな陰謀が見え隠れする。そして、綾瀬の町が――消えた?!
そのとき綾瀬の拘置所にいるSAKURAが動いた……
なんというか全編山田正紀のエンタテインメントらしい作品です。内容からはミステリって言っても差し支えはないでしょうが、「エンタテインメント」ていうのがいちばんしっくり来ます。そういう作品でも、人間模様を描くことに手を抜かないのが山田正紀ですね。そういうところが好きなんです。
それにしてもこの作品、六方面喪失課とSAKURAのそれぞれの紹介で終わっている感もあり、第2弾があるのかどうか気になるところ。というか、書いてほしいんですけど、どうなんでしょう。
スカッとしたい気分のときに読んでみてください。お薦めです。
ミステリ・オペラ――宿命城殺人事件 (早川書房) 2001
本格探偵小説、というのがもっともふさわしいジャンル名のような気がします。本格といえば本格的としか表現しようのない二段組682ページのハードカバー。内容的には、当初本格推理というより、ファンタジーかSFかという趣なのですが……
そもそもの事の起こりは昭和13年の満州。殺人事件。ダイイング・メッセージ。そして「見立て」の連続殺人。
いっぽう、1990年の日本。出版社員の自殺。遺された暗号。不可解な証言。ほんとうはどうして彼は死んだのか? 妻は疑問に思う。いっぽう妻じしんは、満州での事件にシンクロしていく……
あんまり詳しくは書けませんが(書けるほど消化しきれないという説^^;;もあり)、なんでもありぃと思われる話が、だんだんときれいに本格推理に収斂していきます。……ということすら、書いていいのかどうかわからないけど。とりあえず読んでください。 本格推理というからには探偵もいます。当然シリーズキャラクターではないのですが、イメージ的には呪師(しゅし)霊太郎系です。
|