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山田正紀ミステリ(1)『女囮捜査官』前夜 2002/05/06


★『女囮捜査官』前夜 1987-1995

  1. 鏡の殺意(双葉社ノベルス→双葉社文庫)1987/1989
  2. 人食いの時代(徳間書店→徳間文庫)1988/1994
  3. ブラックスワン(講談社→講談社文庫)1989/1992
  4. 美しい蠍たち(徳間ノベルス)1989.4
  5. まだ、名もない悪夢。(徳間書店)1989
  6. 恍惚病棟(祥伝社ノベルス→文庫) 1991/1996
  7. 見えない風景(出版芸術社)1994
  8. 花面祭(中央公論社)1995
  9. 郵便配達は二度死ぬ(徳間書店)1995

1.鏡の殺意(双葉社ノベルス→双葉社文庫)1987/1989

サスペンス長編。説明できるほど正確にはプロットを覚えていません。ごめんなさい。横浜の倉庫街が出てきた記憶があります。心理サスペンスの要素が強く、水準以上のレベルの作品との印象があります。

2.人食いの時代(徳間書店→徳間文庫)1988/1994

呪師霊太郎(しゅし・れいたろう)が探偵役をつとめる昭和初期を舞台にした短編集。連作短編集らしい仕掛けもあり、なかなかの充実感があります。やっぱり最初から考えられた仕掛けなら、連作短編も悪くないですね(某社に対する嫌味か、これは^^;)。もっと手に入りやすいといいのだけど。個人的に呪師霊太郎は好き。

とある方のご厚意により入手したので再読して、詳しく紹介しますねー。

3.ブラックスワン(講談社→講談社文庫)1989/1992

学生時代に失踪した妻の友人。その親から頼まれて、友人を回顧する手記を作ることになった主人公は、その失踪事件に関心を持つようになる。そして、妻は……

過去と現在をうまくシンクロさせながら、過去の事件の謎を解いていく作品。主人公を中心とした「いま」と手記による「過去」。時刻表トリックもからんで、ミステリファンが期待する道具立てが揃い、かつきちんとその期待にこたえています。

時刻表のトリックは、じつはデビュー前・雑誌編集者だった折原一氏からヒントを得たものだそう。折原一氏じしんも『白鳥の殺人』あとがきでその辺のいきさつを語っています。

ちなみにわたしにとっては非常に印象深い作品。お薦め。

4.美しい蠍たち(徳間ノベルス) 1989

「これを読んだので、山田正紀のミステリを読む気にならない」という方がいらしたので、ぜひ読んでみたかった作品。念願かなって読めました。

タイトルから連想される通り、若い女性が織りなす犯罪を描いたもの。駄作というより凡作という感じで、何より、山田正紀にしては書き込みが物足りないというか、プロットだけで仕上げちゃいました、て印象です。

あとがきによれば「思い切り人工的な、造り物のミステリー」を書きたかった、また映画などを意識したということですが、実際、脚本さえうまく書けば、いい2時間ドラマになりそうです。

山田正紀らしいのは、仕掛けの部分。わかりやすい仕掛けではあるのですが、「館ミステリとか好きそうだな?」と思われました。

5.まだ、名もない悪夢。(徳間書店)1989

前夜+13夜という構成になっている短編集。あるシナリオライターが深夜サスペンス枠のプロット12回分を書き上げたというのが「前夜」で、次の12編がそのプロットに対応しています。最後の「十三夜」は「前夜」に対応した部分。そういう構成なので、少し連作短編の要素もあります。

短編は「メロン」「忘れ傘」「妖老院へようこそ」「犬の穴」「冷凍睡眠の悪夢」「顔」「管理人」「露天風呂」「代打はヒットを打ったか?」「訪問販売」「宣伝販売」「通信販売」。ミステリあり、SFあり、ホラーあり。いちばん多いのはホラーでしょうか。

「忘れ傘」は昔「ミステリマガジン」で読んだ覚えがあります(本にはどこにもそういう記載がないけど)。どれも水準以上で、作者の器用さを物語っていますが、個人的にはSF系の「冷凍睡眠…」と「通信販売」がとくにおもしろかったです。

6.恍惚病棟(祥伝社ノベルス→文庫) 1991/1996

老人医療の現場が舞台の医学ミステリ。将来は老人医療に関わりたいという女子学生が主人公。彼女がバイト先の病院で担当している痴呆老人たちが、次々に不審な死を遂げていく。その真相は……

痴呆老人医療の現場は興味深いし、ひとりひとりの老人やその周辺の人々がよく描かれていておもしろいのですが、犯人判明後の扱いがわたしの好みではないのが(わたしには)残念でした。

ラストがハッピーエンドなのは山田正紀ミステリにしてはめずらしいかもしれません。

7.見えない風景(出版芸術社)1994

短編集。「山田正紀コレクション」と銘打たれた一冊で、この出版社から他にも短編集が出ています。この本のテーマは「名探偵」。「新築一年改築三回」「脅迫者はバットマン」「二十六日のイブ」「見えない風景」「スーパーは嫌い」の5作を収録しています。企画ものの短編集のためか、作者によるあとがきも付いてます。

「脅迫者…」は映画探偵。バットマンは作者の最愛のヒーローだそうです。「新築…」「二十六日…」「スーパー…」の3編は同じ探偵で、路上探偵。元警察官のしがない探偵が主人公ですが、ほんとうの探偵は散歩している中年男性。ふしぎと町の事件の真相を見破っていきます。「見えない風景」は、作品中ではそれと触れられていないのですが、『人喰いの時代』を読んだ人ならすぐわかるように、呪師霊太郎が探偵役。

個人的にはやはり呪師霊太郎ものが印象的でした。

8.花面祭MASQUERADE(中央公論社)1995

連作短編をふくらませた長編という趣のミステリ。「かめんさい」と読みます。仮面とかけています。華道の家元を舞台にしたというのは、山田ミステリとしては異色でしょう。

95年の作品ですが、もともとは90年に雑誌掲載された短編4編をベースに、1つの長編に仕立てたものです。塘松流(とうしょうりゅう)という中堅どころという設定の華道流派を舞台にしたもので、流派の中で実力を認められ四天王と呼ばれる若い女性4人をひとりずつ主人公にした短編ミステリです。

そこに、天才と謳われた三世家元・挿花の生け花と死にまつわる謎という、塘松流そのものに関わる大きな謎をからませて1つの長編ミステリになっているのが本作です。

短編それぞれのプロットは上品なミステリ、全体に仕掛けられたプロットは大技と、なかなか読み応えがある仕上がり。初読の印象は、「こんなすごい作品を書いていたとは、なのにほとんど話題にならなかったとは」。無視されちゃうのはもったいないです、ほんと!

文章にもっと妖艶さがあったらさらによかったんですが。そういう世界なのです、この作品は。

9.郵便配達は二度死ぬ(徳間書店)1995

1995年ですから、『花面祭』と同時期です。このころから充実期が始まっていたのですね。この作品もなかなか質の高いミステリになっています。ちなみにタイトルは、海外の古典的作品『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のもじり。作品の性格は全然違いますが。

夢島という町の郵便局。とあるティーン雑誌がその町を「恋の町」と紹介したものだから、最近うろつく恋する女子中高生が急増中。その町の郵便局員の主人公・早瀬は、偶然見知った新人アイドルに恋をします。そんな折りにふいに後ろから殴打され、入院するはめに。さらに入院中、彼の担当区域の配達中に同僚の郵便配達員が死亡するという事件が。殴られて殺されたあとに、歩道橋の上から突き落とされたらしいのです。

と、もろミステリな展開ですが、これに、夢島・恋想う坂・夢果つる森という地名やティーン雑誌の童話もからんできて、なんだかメルヘンチックな雰囲気なのです。

大掛かりな密室事件や猟奇事件ではないけれども、よく考え抜かれたプロット・意外なラスト、しっかりとした人物設定と人間模様で、読み終えてみると無駄がない、いかにも山田正紀な作品です。最後の最後までネタのてんこ盛りです!

ほんとに、どうしてこの頃からミステリ作家として話題にならなかったのか、とちょっと不思議なくらい。爽やかな読後感も拾い物の一作でした。

ちなみにこの郵便屋さん、わたしの中では「ポストマン・ブルース」の堤真一さんなのでした。

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