加治丘陵に残る滝山古街道

埼玉県入間市西三ツ木から飯能市阿須への丘陵越えの古道

平成13年9月〜11月


私が加治丘陵に残る古街道のことを知った切っ掛けは、芳賀善次郎氏の『武蔵野の万葉を歩く』という本との出会いからでした。鎌倉街道の参考図書にとこの本を購入しましたが、始めのうちは、他にも参考図書が沢山あったために、目をとおすことは多くはありませんでした。ある日、入間市の野田にある円照寺に出掛けた折りに、入間川の橋上から西の山並みを眺めていると、向こうに見える崖下の河原に公園があって、確か万葉の碑か何かあったような記憶が過ぎり、その時、その公園に寄ってみたのでした。万葉の碑に二首ばかり書かれていて、傍らに説明解説板がありました。帰宅後に『武蔵野の万葉を歩く』を久々に開いてみると、載ってる載ってる、阿須と題するページにその二首が。説明を読んでいくと、どうやらここ飯能市阿須には鎌倉街道が通っていることを新たに知ることになりました。その約一ヶ月後にそこの鎌倉街道を訪ねて出掛けたのでした。


加治丘陵に残る滝山古街道その1 地図はこちら

上・瑞泉院の前の石地蔵
左・瑞泉院境内にある金子一族の供養塔

入間市の西端は東京都青梅市と接しています。西端から木蓮寺・南峰・寺竹・西三ツ木と古い村名が並んでいます。この辺りは鎌倉時代の初めから武蔵七党の村山党の一族である金子氏の館があったところなのです。木蓮寺にある瑞泉院というお寺がその金子氏の館跡地と推定されています。現在の瑞泉院は広い境内で、館跡を思わせるような遺構などはほとんど見あたりませんが、境内の中央奥の傾斜地に金子一族のものと伝わる宝篋印塔が6基と保元の乱より壇ノ浦に至る源平合戦に加わり数々の武功をたてた金子十郎家忠の院号法名の記された位牌が残されています。これら宝篋印塔や位牌は時代が下ることから、後の世に家忠とその一族を偲んで造立されたと考えられています。

金子十郎家忠は『保元物語』『源平盛衰記』『吾妻鏡』等、鎌倉時代初期のことが記されているものには必ず登場するほど知られた武将です。金子氏の館があったと伝えるこの土地から当然、鎌倉への道があったことと思われます。
瑞泉院の南の入り口前に立つ地蔵菩薩像から南の青梅街道(豊岡街道)迄の道は何となく、この付近に館があったことを感じさせてくれる雰囲気があります。

金子氏の館があったとされるこの付近には東西方向の街道と南北方向の街道が、その昔に存在したようです。その内の東西方向の街道が現在の入間市扇町屋から東京都の青梅市に至る青梅街道です。南北方向の街道は南は東京都瑞穂町方面から来て青梅街道を横切り北側の加治丘陵を越えて飯能市阿須へと向かうものでした。左の写真は西三ツ木の霞川岸から南に向かう馬頭坂と呼ばれる坂道です。坂の上には金子十郎ゆかりの馬頭観音堂があって、そこから坂の名前が馬頭坂となったというそうです。

馬頭坂から霞川を渡り青梅街道に出たところに以前、滝池山観音寺というお寺があったそうです。文久年間に火災に遭い現在は小さなお堂があるだけです。そこから更に北へ進み、丘陵への登り口近くには右の写真の高札場跡があります。高札場は江戸時代の各村の要所に御触書や禁令を民主に示すために設けられたものです。ここの高札場は名主三木氏の庭前を通る旧道に立てられたものだそうです。

高札場跡の少し西に加治丘陵に登って行く道があります。この道の更に少し西に白鬚神社があります。その神社は金子十郎家忠が社殿を造営したと伝えられていて、境内には金比羅神社、敷島神社の社殿も建ち、入間市指定文化財の十一面観音座像の浮彫りのある懸仏があります。

いよいよ丘陵へと道を登って行きます。しばらくは舗装路ですが、途中から右の写真のような道の中央部分だけコンクリートにされた道になっています。やや急な切通しの坂道を登り着くと、目の前に金子神社の鳥居が現れます。そこの地点の左手から西の方より登ってきた別の道と合流します。その道が合流した角は、こんもりとした塚のようになっていて、その頂上部には何か石碑のようなものが建っているのが見えるのですが、そこへの登り口がどこだかわかりません。

塚状のところに登るのは諦めて、正面の金子神社に進み参拝します。この金子神社に関しては詳しい情報を得られなかったのですが、三木氏が創建した牛頭天王を祀るものだそうです。三木氏は信濃国市村郷(現小諸市)の出身で、建暦2年(1212)に和田義盛の乱に敗れて逃れる途上当地に土着したと伝えます。

金子神社から、右と左に道が分かれます。上の写真の神社の右の道が丘陵の尾根上を行く道です。ここからは土の上を歩ける道となります。
金子神社を後にして、いよいよ加治丘陵の中心部へと道を北に向かいます。この道は山道としては広くて立派で、街道の雰囲気十分の道です。この先に、いったいどんな光景が待ち受けているのかワクワクしてきました。

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