(かがやくみどり つちとみず 21せいきのみぬまたんぼ)






5.鍋釜 立場超え将来像模索

 見沼の農家のうち農地拡大や現状維持を望んでいるのは4割だけで、規模縮小派が6割。県浦和農林振興センターが昨年末に行った調査結果だ。約1800人に聞き、35%が答えた。
 高齢化と後継者不足で休耕したり、農地を他人に貸したりしている人が半数おり、開発規制の代償として生まれた公有地化事業についても「知らない」と答えた人が半数いた。
 見沼をどう守り、活用するか。公有地化で行政と市民は近づいたが、地権者らを交えた議論は十分ではない。保全の将来像をめぐる対立が背景にある。
 2月21日。意見の違う人々が初めて同じテーブルについた。県土地政策課が呼びかけた第1回公有地活用推進会議だ。見沼田圃(たんぼ)保全市民連絡会、福祉農園、見沼ファーム21、県生態系保護協会、浦和市南部領辻自治会など11の市民団体や農協、見沼を抱える3市の担当者らが出席し、県が活動報告や提案を聞いた。
 「子供たちが米作り体験を喜んでくれた」「土地利用者のために農業支援センターがほしい」。会議は心配された荒れ模様にこそならなかったものの、単なる「ガス抜き」に終わったという見方もある。

地権者交え議論本格化

 県生態系保護協会の池谷奉会長は公有地化のあり方や土地利用自体について議論を期待し、「もっと早く集まるべきだった」と話す。公有地については「市民農園も悪くないが、このままでは小さな公有地が点在するだけ。芝川周辺を湿地帯に戻した方がいい」という主張だ。
 俣全連代表の村上明夫浦和市議も「行政は生態系の価値を低くみている。都市住民が本気で農業をやる必要はない」と市民農園などの活動に冷ややかだ。
 見沼ファーム21の島田由美子前大宮市議は「沼に戻せというのは理想主義の暴論」と批判し、市民が農家と体験を積み重ねる現場が生まれた点で公有地化を高く評価する。福祉農園も同じ立場だ。
 土地政策課時代に公有地化に奔走した沼尚司県産業拠点整備室主幹は「尾瀬や釧路湿原が金(きん)なら見沼は鉄。金になれなくても鉄は鍋釜(なべかま)になる」と例え、「人の手で守り、活用してこそ見沼」と強調する。
 南都領辻自治会の厚沢正栄煎会長は公有地化を評価しつつ「あくまでも暫定措置。農家が生き生きと農業できるならその方がいい。ここで生きる人のための保全を」と話す。土地の相続税免除などを検討してほしいと考えている。
 見沼を後世にと考える人たちの議論がやっと始まった。
=おわり
(13日に番外編を掲載します)

朝日新聞埼玉版(2001年(平成13年)4月12日 木曜日)から転載

 




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