(かがやくみどり つちとみず 21せいきのみぬまたんぼ)






2.知恵 市民が耕し守る緑地

 地べたに並べた木のいすに座り、話し合う。「利用するだけじゃなく土作りをやろう」「資金も人手も足りない」。議論は続き、やがて日も暮れていく。見沼田んぼの福祉農園で月1回開かれる協議会の様子だ。
 98年度から始まった公有地化事業で、県が買い取ったり借り受けたりした農地は約14ヘクタール。市民が農園などとして利用し、農作物が青々と茂る。公有地化事業は開発を規制しつつ住民参加による保全活用をめざす。全国でも珍しい知恵だ。
 福祉農園はその1つとして99年春に開園した。福祉関係の10団体がそれぞれ年会費2万円で借り、野菜を栽培している。障害者と住民、福祉施設の職員らボランティアの交流が実現し、今年2月の大阪府庁をはじめ自治体の視察も多い。「有機野菜がほしい」と東京の有名レストランのシェフもやってくる。
 この2年間は順調だったわけではない。昨夏は「たまに来るだけでは農園は維持できない」という実感が重くのしかかった。
 面積が8000平方メートルに広がり、土作りが本格化した。耕作放棄地が多く排水が悪い。雑草の根がはった。農薬によらず、人手頼りの草取りは大変な手間だった。ボランティアが早朝立ち寄って畑へ。障害者ら利用者は約200人いるが、実際にはボランティアに負う部分が大きい。
 資金も足りない。県の管理運営委託費は年70万円。利用団体の年会費2万円と合わせても足りず、ボランティアの持ち出しも少なくない。

自立模索する福祉農園

 今年2月、福祉農園の猪瀬良一代表は土屋知事らに要望書を出した。続いて3月6日、行政が福祉農園とどう連携するかという問題が県議会で取り上げられ、知事は支援を約束した。直後に県は支援のための連絡会議を発足させた。
 批判もある。見沼田圃(たんぼ)保全市民連絡会代表の村上明夫浦和市議は「保全をめざす公有地化の金で授産施設ができた。福祉農園の目的は障害者の自立であって保全ではない」と手厳しい。
 猪瀬代表は「市民みんなの福祉をめざしている。福祉の予算でやれというのは縦割り的発想。農業をまっとうすることで見沼は守れる」という立場だ。
 福祉農園を土いじりで終わらせたくないと猪瀬代表は思っている。農園の自立に向けて売れる農産物を作りたい。そのためにまずはNP0法人化をめざす。

朝日新聞埼玉版(2001年(平成13年)4月7日 土曜日)から転載

 




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