派遣社員の労災保険給付額についてお尋ねします。5月から派遣社員として派遣先のB社に勤務しております。7月1日から派遣元A社で社会保険に加入しました。時給1700円、1日8時間労働です。9月中旬、通勤途中に事故に遭って骨折して3週間ほど会社を休みました。通勤災害と認められ、先日給付金の明細が送付されてきましたが、明細書には給付基礎日額が8542円となっています。
給付基礎日額について疑問が生じ、調べましたところ「被災者が事故に会った日の前3ヶ月間の賃金総額を、その期間の総日数で割った額」とあります。おそらく、社会保険に加入しているのでその分を引いた月給で計算しているかと思われます。「被災者が事故に会った日の前3ヶ月間の賃金総額〜」の賃金総額とは手取りのことをいうのでしょうか。派遣社員として、社会保険加入は自ら望んだわけではなく、派遣会社で強制的に加入させられ、交通費も支給されていません。
今回の私の条件では、 日給 1700円×8時間=13600円 が給付基礎日額にならないものなのでしょうか。
通勤災害に遭われたとのこと大変でしたね。
さて、ご相談の内容については、法的には、いくつかの点を指摘しなければなりません。要約して整理してみます。
(1)給付基礎日額 通勤災害で仕事ができないときには休業給付が支給されますが、その計算には給付基礎日額が使われます。給付基礎日額は、原則として、労働基準法第12条の「平均賃金」相当額とされています(労災保険法第8条)。
(2)平均賃金 労働基準法第12条では、「算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」となっています。
(3)ご相談では、「社会保険に加入しているのでその分を引いた月給で計算しているかと思われます」とありますが、そうではありません。平均賃金は、社会保険の保険料が控除される前の段階での賃金総額を前提にして計算します。
(4)あなたの場合、日給が13600円ということですのに、給付基礎日額=平均賃金が8542円になっているとのことです。これは(3)の社会保険の保険料とは関係のないことから生ずる問題です。
(5)9月に事故に遭ったということですので、その前の3ヶ月間を逆算して、計算する必要があります。3ヶ月の出勤日数をx日だとしますと、分母となるのは、このx日ではなく、総暦日数であるy日(1ヶ月の日数も期間によって異なる)です。誤解があるのは、この点です。分母は、出勤日数ではなく、暦日数なのです。
(6)派遣労働者の場合、残業手当以外では、正社員には支給が一般的な各種の手当(家族手当、通勤手当、住宅手当など)がないことがほとんどです。つまり、労働とは別の理由で支給される、こうした手当があれば、暦日数で割っても平均賃金はそれほど少なくなりません。派遣労働者の場合、手当がないのに総暦日数で割るので、平均賃金=給付基礎日額が日給に比べて少ないと感じるのです。
(7)8542円という給付基礎日額、日給13600円ということで残業手当がないとすれば、日給13600円×総出勤日数x日/y日=8542円ということになります。たとえば、x日が58日、y日が92日であれば、ほぼこの数字に近くなります。
(8)要するに、平均賃金=給付基礎日額の計算方法が悪いと言えます。少なくとも派遣労働者の賃金構造とは違っていて、時代遅れだと言えるかもしれません。あるいは、手当類がない派遣労働者の賃金のあり方が悪いとも考えられます。
(9)労働基準法第12条第1項の但書は、時間給や日給による労働者(派遣労働者など)については、総暦日数を分母にするのではなく、総出勤日数を分母にする計算方法を使えるとも定めています。しかし、有利とも思えるこの方法なのに、そこで得られた金額の100分の60を平均賃金にするとしていますので、結局、これでは有利になるどころか、平均賃金額は本来の方法よりも低額になってしまい、実際には使えません。
(10)当面の問題には間に合いませんが、長期的には、派遣労働者の賃金のあり方を現状のままとする以上、平均賃金についても、労働基準法第12条第1項を改正する必要があると思います。(9)で、100分の60をかけることなく、100分の100とするのが実情にあいますが、派遣労働者でも残業手当や通勤手当が支払われる等の場合もありますので、100分の90程度にとどめるのが妥当だと考えます。この計算方法であれば、13600円の日給+残業手当等の90%ですから、平均賃金=給付基礎日額も12000円から13000円になります。
(11)ご相談の場合、給付基礎日額=平均賃金と社会保険加入は関係がないことを理解してください。そして、上で指摘した派遣労働者にとって不利な平均賃金の計算方法の問題点を理解していただきたいと思います。
(12)そして、その問題点について直接の被害者として改善の声をあげていただきますようにお願いします。労働組合などを通じての労働基準監督署へのアクション、マスコミへの投書など、もっとも不利に扱われている派遣労働者が声をあげない限り、本来の改善は進みません。
給付基礎日額は、労働基準法第12条の平均賃金に相当する額とする。この場合において、同条第1項の平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、前条第1項各号に規定する負傷若しくは死亡の原因である事故が発生した日又は診断によつて同項各号に規定する疾病の発生が確定した日(以下「算定事由発生日」という。)とする。
2 労働基準法第12条の平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められるときは、前項の規定にかかわらず、厚生労働省令で定めるところによつて政府が算定する額を給付基礎日額とする
この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
2 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。
3 前二項に規定する期間中に、次の各号の一に該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。
一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
二 産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間
三 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間
四 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(同法第五十二条第三項(同条第六項及び第七項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第七項において同じ。)をした期間
五 試みの使用期間
4 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。
5 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
6 雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。
7 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。
8 第一項乃至第六項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。