派遣元事業主にたいする損害賠償請求
まず、派遣元事業主(派遣元会社)には、派遣労働者との労働契約上の安全保護義務が
あります。派遣元事業主は、派遣労働者が派遣先で安全に就労できるように各種の措置をとらなければなりません。たとえば、
1 派遣先との労働者派遣契約で、派遣労働者が安全に働けるように十分な措置を定めること、
2 それが十分に果たされるように派遣先に求めること、
3 安全が十分でない派遣先事業所に労働者を派遣しないこと、
について責任を負っています。この安全保護義務に違反して派遣労働者を労働災害にあわせた場合には、派遣元事業主には相当な損害賠償の義務が生ずるのです。
派遣先事業主にたいする損害賠償請求
次に、直接の就労を指揮命令する派遣先事業主は、一方で労働安全衛生法上の数多くの義務が課せられますが、他方で派遣労働者にたいして民事上の安全保護義務を負っていると考えられます。
つまり、機械や設備の安全基準に反したり、特定の資格を有する人を配置せずに危険な作業を行なわせたり、有害な物質を基準に反して用いたりするなど一定の注意義務を果たしていない場合には、派遣労働者にたいして損害賠償の責任(不法行為または契的関係類似の関係における安全保護義務違反の責任)が生じます。
また、派遣先で派遣先会社の従業員の不注意でケガをさせられた場合には、直接の加害者であるその従業員にたいして損害賠償を請求することができますが、それとともに、従業員の使用者である派遣先事業主にたいして「使用者責任」(民法第七一五条)にもとづく損害賠償を請求することも可能です。
派遣先の損害賠償を認めた判例があります。三広梱包事件・浦和地裁平成5年5月28日判決〔労働判例650号76頁・判例時報1510号137頁〕です。この判決えは、梱包会社に派遣された労働者が派遣先の作業場前庭にある格子扉が倒壊したことで負傷した事故につき、この派遣先会社にも安全配慮義務による損害賠償責任があることを認めています。
すなわち、
「被告会社は、亡三津男が本件現場で作業をするに当たり、同人の生命、身体等を保護するよう配慮する安全配慮義務を負うべきである。そして、被告会社は、亡三津男に、格子扉という高さ170センチメートル、幅111センチメートル、重さ16・38キログラムの重量物の運搬を伴う作業をさせていたのであるから、右格子扉を保管する場合には、これが倒壊しないように手当てをし、その取扱について十分な安全指導をすべきであったにもかかわらず、被告会社は、本件ラックに格子扉を倒壊しやすい状態で積んだまま、何らの措置もせず、また、特段の安全指導もしていなかったのであるから、右安全配慮義務に違反したものというべきであり、その結果前記のとおり、本件作業中に亡三津男が本件ラックから格子扉を下ろそうとした際、右格子扉が倒れてきて、同人の頭部、胸部に強度の打撲傷を負わせ、同人を右頭部外傷により死亡するに至らしめたものである。したがって、被告会社は、これにより亡三津男が被った損害を賠償する責任がある。」
派遣先の事業主は、派遣労働者については、労働安全衛生の責任を負うとともに、この判決が示しているように安全配慮義務を負担しています。労働者が負傷したり、死亡したときには、この安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求される可能性が生じるのです。
【関連ページ・リンク先】
次のページも参考になりますので見て下さい。
上肢作業に基づく疾病の認定基準の改正(97年)
3320.労災保険は適用されますか
3321.通勤災害は適用されますか?
3322.腱鞘炎で労災保険を受けられますか?
3328.労災保険給付を受ける手続は?
3330.通勤の途中、交通事故にあってしまったのですが?
3340.派遣先での仕事中に事故。損害賠償は可能ですか?
なお、労災保険の受給手続きについては、「労務安全情報センター」のHPに、労働省労働保険徴収課編「労働保険の手引(平成8年度版)」をベースにした説明がありますので、これを参照して下さい。