モーリス・バーバネル
潮文社 1984年刊 近藤 千雄(訳)
目 次
巻頭言
第1章 シルバーバーチの使命
第2章 絶対不変の法則-因果律
第3章 再生-生まれ変わり-
第4章 苦しみと悲しみと-魂の試練-
第5章 死後の世界
第1節 死の過程と意識について
第2節 死後の身体について
第3節 飲食と睡眠について
第4節 時間の感覚について
第5節 霊界の位置について
第6章 動物の進化と死後の生命
第7章 心霊治療
第8章 交霊会の舞台裏
第9章 真理の理解を妨げるもの -宗教的偏見-
第10章 おしまいに
遺稿「シルバーバーチと私」
巻頭言
あなたがもし古い神話や伝来の信仰を持って、これで十分と思い、あるいは、すでに真理の頂上を極めたと自負されるならば、本書は用はありません。しかし、もし人生とは一つの冒険であること、魂は常に新しい視野、新しい道を求めてやまないものであることをご承知ならば、ぜひ本書をお読みいただいて、世界の全ての宗教の背後に埋もれてしまった必須の真理を見出していただきたい。
そこには、すべての宗教の創始者によって説かれた教えと矛盾するものは何一つありません。地上生活と、死後にもなお続く魂の旅路に必須不可欠の霊的知識が語られています。もしもあなたに受け入れる用意があれば、それはきっとあなたの心に明かりを灯し、魂を豊かにしてくれることでしょう。
はじめに…
シルバーバーチSilver Birchと言うのは、英国のハンネン・スワッハー・ホームサークルHannen Swaffer Home Circleと言う家庭交霊会において、一九二〇年代後半から五十年余りにわたって教訓を語り続けてきた古代霊のことで、紀元前1000年ごろ地上で生活したということです。
もちろん仮の呼び名です。これまで本名すなわち地上時代の姓名を教えてくれるよう何度かお願いしましたが、その都度、「それを知ってどうしようと言うのですか。戸籍調べでもなさるおつもりですか」と皮肉っぽい返事が返ってくるだけです。そして、
「人間は名前や肩書にこだわるからいけないのです。もしも私が歴史上有名な人物だと分かったら、私がこれまで述べてきたことに一段と箔がつくと思われるでしょうが、それは非常にたちの悪い錯覚です。前世で私が王様であろうと乞食であろうと、大富豪であろうと奴隷であろうと、
そんなことはどうでもよろしい。私が言っていることがなるほどと納得が行ったら真理として信じてください。そんな馬鹿な、と言われたら、どうぞ信じないでください。それでいいのです」というのです。今ではもう本名の詮索はしなくなりました。
霊視家が書いた肖像画は北米インディアンの姿をしていますが、これには三つの深い意味があります。
一つは、実はそのインディアンがシルバーバーチその人ではないということです。
インディアンはいわば霊界の霊媒であって、実際に通信を送っているのは上級神霊界の高級霊で、直接地上の霊媒に働きかけるには余りに波長が高すぎるので、その中継役としてこのインディアンを使っているのです。
もう一つは、その中継役としてインディアンを使ったのは、とかく白人中心思考と科学技術文明偏重に陥りがちな西洋人に対し、いい意味での皮肉をこめていることです。むろんそれだけが理由のすべてではありません。インディアンが人種的に霊媒としての素質において優れているということもあります。
そのことは同じ英国の著名な霊媒エステル・ロバーツ女史、Estelle Roberts の支配霊レッド・クラウドRed Cloud、グレイス・クック女史Grace Cookの支配霊ホワイト・イーグルWhite Eagle等が共に(男性の)インディアンであることからもうかがえます。
そして表向きはそのことを大きな理由にしているのですが、霊言集を細かく読み返してみますと、その行間にいま述べた西洋人の偏見に対する戒めを読み取ることが出来ます。
さらにもう一つ注意しなければならないことは、どの霊姿を見る場合にも言えることですが、その容姿や容貌が必ずしも現在のその霊そのものではなく、地上時代の姿を一時的に捉えて見せているにすぎないことが多いことです。シルバーバーチの場合も、地上に降りるときだけの仮化粧と考えて良いでしょう。
さて、シルバーバーチの霊訓は「霊言集」の形でこれまで十一冊も出版されております。ホームサークルの言葉通り、ロンドンの質素なアパートで非常に家庭的な雰囲気の中で行われ、従って英国人特有の内容や、その時代の世相を反映したものが多く見られます。
たとえば第二次世界大戦勃発の頃は「地上の波長が乱れ連絡が取れにくい」とか、「連絡網の調子がおかしいので、いま修理を依頼しているところだ」と言った興味深い言葉も見られます。
何しろ一九二〇年代に始まり、半世紀以上にわたって連綿と続けられてきたのですから、量においても質においても大変なものがあります。
そこで私は、余りにも特殊で日本人には関心の持てないものは割愛し、心霊的教訓として普遍的な内容のものを拾いながら、同時に又、理解の便を考慮して、他の個所で述べたものでも関連のあるものをないまぜにしながら、易しくそして親しく語りかける調子でまとめていきたいと思います。「訳編」としたのはそのためです。
重厚な内容を持つ霊界通信の筆頭は何といってもモーゼスの「霊訓」Spirit Teaching by S Mosesであり、学究的内容を持つものの白眉としてはマイヤースの「永遠の大道」The Road to Immortality by F. Myersが挙げられます。後者には宇宙的大ロマンといったものを感じさせるものがあります。
私ごとにわたって恐縮ですが、東京での学生時代やっとのことで両書の原典を英国から取り寄せ、宝物でも手にした気持ちで、大学の授業をそっちのけにして、文字通り寝食を忘れて読み耽った時期がありました。
特に「永遠の大道」はその圧巻である「類魂」の章に読み至った時、壮大にしてしかもロマンに満ちた宇宙の大機構に触れる思いがして思わず全身が熱くなり、感激の涙が溢れ出て。しばし随喜の涙にくれたのを思いだします。
「霊訓」は非常に大部でしかも難解です。浅野和三郎のものもありますが部分的な抄訳に過ぎません。何しろ総勢五十人からなる霊団が控え、その最高指導霊であるイムペレーター(もちろん仮名)紀元前五世紀に地上で生活した人物・・・実は旧約聖書に出てくる予言者マラキMalachiです。
筆記者すなわち直接霊媒の腕を操った霊はかなり近代の人物が担当していますが、イムペレーターの古さに影響されてか、文字に古典的な臭いがあります。もっともそれが却って重厚味を増す結果となっているとも言えますが・・・
それに比べるとシルバーバーチの霊訓は至って平易に心霊的真理を説いている点に特徴があります。モーゼスとマイヤースが主として自動書記通信を手段としたのに対し、霊言現象と言う手段をとったことがその平易さと親しみやすさの原因と考えてもよいでしょう。
私は、これを先ほど述べたように、一冊の原書を訳すという形式ではなく、十一冊の霊言集をないまぜにしながら、平たく分かり易く説いていく形で進めたいと考えています。
時に前に述べたことと重複することもありましょう。それは原典でも同じことで、結局は一つに真理を角度を変えて繰り返し説いているのです。
更に私は、必要と思えば他の霊界通信、たとえば右のモーゼスやマイヤースの通信等からも、関連したところをどしどし引用するつもりです。大胆な試みではありますが、シルバーバーチの霊訓の場合はその方法が一番効果的であるように思うのです。
ここで誠に残念なことを付記しなければならなくなりました。本稿執筆中の一九八一年七月、シルバーバーチ霊言霊媒であったモーリス・バーバネル氏Maurice Barbanellが心不全の為に急逝されたとの報が入りました。急逝と言っても、後一つで八十歳になる高齢でしたから、
十分に寿命を全うされ、しかも死の前日まで心霊の仕事に携わっていたのですから、本人にしては思い残すことはなかろうと察せられますが、吾々シルバーバーチ・フアンにとっては、もっともっと長生きして少しでも多くの霊言を残して欲しかった、と言うのが正直な心境です。
特に私にとっては、その半年前の一月にロンドンでお会いしたばかりで、あのお元気なバーバネルさんが・・・としばし信じられない気持でした。あの時、バーバネル氏の側近の一人が私に「あなたの背後には今度の渡英を非常にせかせた霊がいますね」と言ったのを思い出します。
その時の私は何の事だか分かりませんでしたが、今にして思えば、私の背後霊がバーバネル氏の寿命の尽きかけている事を察知して私に渡英を急がせたということだったようです。
同時にそれは、私にシルバーバーチの霊訓を日本に紹介する使命の一端があるという自覚を迫っているようでもあります。氏の訃報に接して本稿の執筆に拍車が掛ったことは事実です。氏の半世紀余りにわたる文字通り自我を滅却した奉仕の生涯への敬意を込めて、本書を少しでも立派に仕上げたいと念じております。
心霊はコマーシャルとは無縁です。一人でも多くの人に読んでいただくに越したことはありませんが、それよりも、関心を持つ方の心の飢えを満たし、のどの渇きを潤す上で本書が少しでもお役に立てば、それがたった一人であっても、私は満足です。