商法 平成10年度第1問
問 題
甲及び乙の二つの事業部門を有するA株式会社が甲事業部門を別会社として分離独立させるため、商法上採り得る方法とそれぞれの方法の特色について述べよ。
答 案
一1 Aが甲事業部門を別会社として分離独立させる方法としてはまず、別会社を甲事業部門の現物出資により設立することが考えられる。
現物出資とは金銭以外の財産をもってなす出資であり、組織法上の契約である。
2 現物出資による別会社設立の場合、別会社設立のための資金を準備する必要はない。
3 また営業の「出資」であり「譲渡」ではないので、営業譲渡のときに必要とされる株主総会の特別決議(二四五条)は不要である。
これは、現物出資の場合は株式保有を通じて出資先の営業に影響を及ぼすことができるので、A会社株主への不利益は小さいと考えられることによる。
4 一方、現物出資は出資対象たる財産評価が適切に行われないと、設立の健常さが損なわれ、資本の空洞化が生じるので、原則として検査役の検査を経なければならないこととされている(一七三条一項)。
二1 次に、別会社の設立に際して、甲事業部門につき財産引受を行わせることが考えられる。
財産引受とは会社成立を条件として特定の財産を譲り受けることをいい、取引法上の行為である。
2 財産引受をさせることについては、別会社を設立するための資金を別途準備する必要が生じる。
3 財産引受をさせるに当たっては、A株式会社は甲事業部門という有機的一体として組織された財産を譲渡し、それにより譲受人が当該営業を継続することに当たるので、Aと新会社との間で競業避止義務(二五条)を排除する旨の特約がない限り、営業譲渡(二四五条)として、A会社の株主総会の特別決議を要する。
4 また、財産引受は現物出資の規制の潜脱手段として行われることが多いことから、原則として検査役による調査を受けることを要する(一七三条一項)。
三1 また、別会社を設立した後に、甲事業部門について新会社へ譲渡する契約を結ぶことも考えられる。これが事後設立である。
2 事後設立の場合も、新会社設立のための資金を別途準備する必要がある。
3 この場合も、原則として、営業譲渡となるので、Aの株主総会の特別決議を経ることが必要である(二四五条一項一号)。
4 また、新会社においても、株主総会の特別決議を経ることが必要とされる(二四六条)。しかも、検査役の調査を経なければならない(二四六条二項)。
四1 さらに、Aとしては、新会社を設立した上で、右新会社に対し甲事業部門を現物出資して新株の発行を受けるという方法も考えられる。
2 この場合も、別会社設立のための資金を別途必要とする。
3 新株発行を受ける場合は、A会社の株主総会の特別決議は不要である。
4 新会社については、検査役による調査を経ることを要する(二八〇条ノ八)。ただし、調査が免除されるための要件が緩和されている。
以 上
所 感
試験直前の休み時間に、弥永先生の「リーガルマインド会社法」を読んでいました。
合併のところが分からなかったので調べていたのです。
その近くに企業分割のページもあったので、ついでに読んでいました。そうしたら・・。
こんなんだったらもっときちんと読んでおくんだったと後悔しました。
でも、ちらっとでも見ておいたおかげで、なんとか書くことができました。感謝です>弥永先生
答案の方ですが、答案構成にやたら時間がかかってしまい(約25分)、大急ぎで書きました。
後半端折りまくりなのが時間不足をよくあらわしてますね。
書く際に注意した点は、各方法についての特徴を述べるにつき、同じ項目(資金を別途用意する必要はあるかどうか等)は同じ番号のところに来るようにしたということです。具体的には、1.方法、2.別途資金を準備する必要性、3.譲渡会社の株主総会特別決議の要否、4.新会社における手続、というように。
ちなみに、現物出資の場合「営業譲渡」に当たらないというのは誤りのようです。確かに、現物出資も、営業を譲渡する対価として株式を得ていると考えられるので、「出資だから譲渡に当たらない」というのは変ですよね。
商法1 |
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