破産法 平成10年度第2問

           問  題

 A会社は、B銀行から三億円を借り受け、この債務を担保するため、A会社所有の土地につ
いて順位一番の抵当権を設定し、その旨の登記がなされた。また、A会社は、C会社から八〇〇
万円を借り受け、この債務を担保するため、C会社との間で、A会社所有の機械(時価一、〇
〇〇万円)について譲渡担保契約を締結した。
 その後、A会社は破産宣告を受け、破産管財人が選任された。
 A会社は、B銀行及びC会社に対する各金銭債務につき、利息を支払ったのみで、元本の弁
済はしていない。なお、B銀行は、右土地(破産宣告時の時価二億円)について抵当権に基づ
く競売の申立てをしておらず、C会社のため譲渡担保に供された右機械は、A会社の工場内に
設置されている。
一 破産管財人は、右土地を換価処分するため、どのような措置を採ることができるか。
二 B銀行は、自己の債権を回収するため、どのような措置を採ることができるか。
三 C会社は、破産管財人に対し、どのような権利行使をすることができるか。 

           答  案

一 小問一
 1 本件土地にはBの抵当権が設定されており、
  しかもBは抵当権の登記を得ているので、Bは別除権者
  としての地位を有する(九二条)。
 2 このように別除権が付着している土地について、
  破産管財人は、民事執行法上の強制競売
  (民事執行法四五条以下)の手続を利用して土地を
  換価していくことができる(破産法二〇三条)。
 3 しかし競売では安く買い叩かれがちである。
   そこで破産管財人としては、本件土地を抵当権の
  付着したまま任意売却することが考えられる。
   任意売却については、これを認めても
  破産財団にとって不利になるものでないので、認めて
  よいと解する。一九七条一号も任意売却が可能で
  あることを前提としたものである。
   よって破産管財人は本件土地を抵当権の
  付いたまま任意売却することができる。
 4 また、破産管財人は、本件土地を
  受け戻してBの抵当権を消滅させた上で
  (一九七条一二号)、本件土地を強制競売や任意
  売却の方法により換価することもできる。
   しかし、本件土地の時価が二億円であるのに対し
  Bの抵当権を消滅させるためには三億円を払わな
  ければならない(不可分性、民法三七二条、二九六条)ので、
  本件土地を受け戻すことは妥当でない、と解する。
二 小問二について
 1 Bは前述のように別除権者であるから(九二条)
  破産手続によらずに抵当権を実行して自己の
  債権の満足を優先的に受けることができる。
   また、別除権行使により満足を得られない
  分については、破産債権として届け出(二二八条)、
  調査(二三一条)・確定(二四〇条)を経て
  配当という形で回収を図ることができる(九六条本文)。
 2 また、Bは、別除権を放棄した上で債権
  全額を破産債権として届け出、調査・確定
  手続を経ることにより債権の回収を図ることが
  できる(九六条但書)。
三 小問三
 1 譲渡担保権は形式的には譲渡という形をとる
  ことからすれば、Cは破産管財人に対して
  取戻権(八七条)を行使し、機械の自己への
  引渡しを請求できるようにも思える。
 2 しかし譲渡担保の実質は担保であることからすれば
  別除権を認めれば足りる。また、八〇〇万円の
  債権しか有しないCに一〇〇〇万円の機械の丸取りを
  認めるのは不当である。
   したがって、Cは別除権(九二条)を行使する
  ことができるにすぎない、と解する。
 3 この別除権の行使については、自らに所有権を
  帰属させて実行する型(帰属清算型)の譲渡担保
  については清算金の支払と引換えに機械の
  引渡しを求めるという形で行う。
   これに対し第三者に処分することで実行
  する型(処分清算型)の場合には、第三者に本件
  機械を譲渡するという形で行う。

                       以 上


所  感

 とにかく、問題文に沿って淡々と書きました。
 Bの権利行使なんか、ほんとに薄いの一言です。
 第一問で時間とりすぎたから・・。

 Aの採りうる措置についてですが、
 法学書院から出されている本の解答例を見ると、事例問題であることに配慮されていない気がします。
 抵当権の付着した土地は、破産管財人のもとにあるのであり(非占有担保だから)、したがってAがBに対し提示を求める必要はないのではないか?
 また、抵当権の受け戻しは、そのまま別除権を行使させる場合に比べ財団に不利になるのではないか?(不可分性により、3億円支払って2億円の土地を受け戻すことになるため。)
 このあたりがポイントではないかと思いました。

 Cについては、「権利行使」とあったので、単に「別除権を行使できる」というのみでなく、具体的にどのような形で権利を行使するのかまで聞かれているのだと思いました。帰属清算型と処分清算型に分けたりしたのはそのためです。

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