民法 平成10年度第2問

問  題

  消滅時効と除斥期間につき、どのような違いがあるとされているかを論じた上で、次に掲げる権利が服する期間制限の性質やその問題点について論ぜよ。
一 瑕疵担保による損害賠償請求権
二 不法行為による損害賠償請求権
三 取消権
四 債務不履行による解除権

答  案

一 消滅時効と除斥期間との差違
1 消滅時効も除斥期間も一定の期間の経過により権利を消滅させる制度である点で共通している。

2 しかし消滅時効については一定の事由の発生によりその進行が中断する(一四七条)のに対し除斥期間には中断はなく、一定の期間の経過によって当然に権利が消滅する。
  また、時効による裁判は当事者の援用が無い限りなしえないが(一四五条)、除斥期間は援用を必要としない。
  このような違いから、除斥期間の方が消滅時効に比べて権利関係の早期安定に資するものということができる。

二 瑕疵担保による損害賠償請求権について
1 瑕疵担保による損害賠償請求権は、買主が「事実ヲ知リタル時」から一年間の期間制限に服する(五七〇条、五六六条三項)。

2 右の期間制限は、売買における法律関係の早期確定を目的とするものであるから、除斥期間を定めたものと解する。

3 この期間制限については、不特定物売買の場合にも適用されるのかが、不特定物売買についての瑕疵担保責任の成否と関連して問題となる。
  思うに、瑕疵担保責任の規定(五七〇条)は目的物を限定していないこと、不特定物売買についても法律関係の早期安定を図るべきことから、瑕疵担保責任の規定は不特定物売買にも適用されると解する。よって不特定物売買の場合も右の期間制限に服する。

三 不法行為による損害賠償請求権について
1 右請求権については、三年及び二〇年の期間制限に服する。

2 このうち三年の期間制限(七二四条前段)については「時効ニ因リテ」とあることから消滅時効、二〇年の期間制限(七二四条後段)については法律関係早期安定の要請から設けられたものであり、除斥期間であると解する。

3 右請求権の期間制限については、特に二十年の期間制限について、「不法行為ノ時」を行為時と解すると長期間潜伏の後顕れる損害について請求できなくなり被害者の保護に欠けるという問題点が生ずる。
  そこで、「不法行為ノ時」とは損害が発生した時をいうものと解し被害者保護を図るべきと解する。

四 取消権について
1 取消権は、追認可能時から五年、行為の時から二〇年の期間制限に服する。

2 性質については、五年の制限は消滅時効、二〇年の制限は除斥期間と解する。

3 取消権については、右の期間内に取消しの意思表示をすればよいのか、取消しによって生じる請求権も右の期間内に行使しなければならないのかという問題が存する。
  思うに右の期間制限は取り消されるか否か分からない不安定な状態を解消しようとするものであるから、右の期間内に取消権を行使すればよいと解する。

五 解除権について
1 債務不履行による解除権は債務不履行責任に付随するものであるから、債権の消滅時効と同一の消滅時効に服する。

2 解除については右の期間制限内に解除権を行使すればよく、解除により生じた原状回復請求権の時効は別途進行すると解する。

六 取消と解除については、抗弁として行使される場合には、上記の期間制限に服さない(抗弁権の永久性)。その方が法律関係の安定に資するからである。

以 上


所  感

 いや〜、まいりました。なんだこれは!という感じ。視点を出して、各論をその視点に沿って書いていくという型が作れなかったのは本当に残念でした。昨年の第2問目に比べると、手応えは段違いに落ちました。
 「問題点」については、知っている論点をとにかく挙げた、という感じで、各項目間のつながりが欠如してます。ただ、期間制限の性質を論じる際に、総論で挙げた、「法律関係の早期安定に資する度合い」を理由付けに使ったことで多少は総論各論の結びつきをつけたつもりです。
 ところで、「問題点」というのは、予備校の解答例を見ると期間制限の性質をいかに解するかをめぐる問題点であるととらえていますが、そうなんでしょうか・・。期間制限の性質をどのように捉えるかという点と、そのような性質のものとして期間制限を捉えた場合に生じる問題点の両方について論じろということのように読めると思うんですが・・。
 もっとも、本件答案は、取消権や解除権についての記述なんか、本当にあっさりしてるし、取消権の期間制限の性質など、結論しか述べていません。時間がなかったんです。
 こんな答案でも4頁目に食い込んでいます。抗弁権の永久性のところなんか、ホント、良くいえば草書体のような、その実はミミズの這ったような字です。

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