2003年12月

電子の星-池袋ウェストゲートパークIV-(石田衣良) 無法地帯-幻の?を捜せ!-(大倉崇裕)
失われる物語(乙一) 後巷説百物語(京極夏彦)
月の扉(石持浅海) あの橋の向こうに(戸梶圭太)
希望(永井するみ) 指を切る女(池永陽)
真夜中の金魚(福澤徹三) 逃避行(篠田節子)
太陽の塔(森見登美彦) 図書館の神様(瀬尾まいこ)
豆腐小僧双六道中ふりだし(京極夏彦)
<<前の月へ次の月へ>>

電子の星-池袋ウェストゲートパークIV-

著者石田衣良
出版(判型)文藝春秋
出版年月2003.11
ISBN(価格)4-16-322390-8(\1524)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ウェストゲートパーク第4弾。フリーライターとして活躍するマコトが、かつての仲間や、池袋で出会った人々の面倒事を受けてしまう短編集。

この作品は飛びぬけて面白かった!というのが無い代わりに、外れもないという手堅いシリーズだと思うんですよね。泣きのツボも冒険的な要素も巧くとらえてる感じで、評価的には微妙なところですが、とりあえず次も買うだろうなあという作品です。マコトほか登場人物が魅力的ってこともあるのでしょうけれども。というわけで、シリーズで読んでる方にはおすすめ。

先頭へ

無法地帯-幻の?を捜せ!-

著者大倉崇裕
出版(判型)双葉社
出版年月2003.12
ISBN(価格)4-575-23484-2(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

怪獣オタクの一匹狼ヤクザ・大葉、そして食玩フェチの私立探偵宇田川。それぞれのところにマニアの間で幻のプラモデルとして400万もの値がつけられている「ザニガニラー」を捜せという依頼が来た。それぞれの生活とオタク根性を賭けてザニガニラーを追うヤクザと私立探偵。しかし、他にも邪魔者が出てきて・・・

もーこういうノリノリおバカ小説(というのは言葉が悪いですかね。私の中では良い意味なんですが)、条件無しで好きです。私も趣味には金を惜しまない水瓶座のオタクタイプ、相方も食玩のペンギン欲しさにコンビニに通う人なので、この気持ちわかるんですよね〜。コレクターの熱意って端から見ると、滑稽を通り越して異常だったりするわけですが、それをここまできちんと小説として笑いに昇華させていることに、素直に拍手です。コレクターが近くにいるかた、または自分がコレクターという方、絶対おすすめ。

先頭へ

失われる物語

著者乙一
出版(判型)角川書店
出版年月2003.11
ISBN(価格)4-04-873500-4(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

白乙一の切なさ爆発短編6編(書き下ろし1編)。

買って読もうとして開けるまで、あちこちの短編集からひっぱってきて再編集した本だとは知らず、がびーん、6編中5編まで既読じゃん、しかも2つが11月にたまたま引っ張り出してきて読んだやつじゃん、と思ったのですが、冷静に考えるとこの本はおいしい。『きみにしか聞こえない』から一番泣けた「Calling you」と「傷」、『さみしさの周波数』から感想で一番好きと書いた「手を握る泥棒の物語」と、こちらもぐっとくる表題作「失われる物語」。そして私の一番好きな『失踪Holiday』から、表題作よりこっちが良いと言った「しあわせは子猫のかたち」、それに現在の乙一に近い感じのちょっとホラーが入った書き下ろし短編「マリアの指」という、乙一ベストとも言える短編集なのです。「乙一が良いらしいけど、どれから読めばいいですか?」と後輩Bに聞かれたことがあったのですが、今なら間違いなくこれをおすすめ。というわけで、乙一布教本とも言えるこの作品。「乙一なら?」と聞かれたら、「失われる物語をとりあえず読んでみ」が合い言葉になりそうです。

今まであまり気にしなかったのですが、こうして並べられてちょっと思ったのは、この人って指や手に特別な思い入れがあるのかなあということ。「手を握る泥棒」に「指だけ動かせる男」そして「恋人の指を探す男」。6編中3編が明らかに手と指がテーマになっているのです。他の作品も細かく見ると手や指が出てくるのかも。ちょっと気になった片桐でした。

先頭へ

後巷説百物語

著者京極夏彦
出版(判型)角川書店
出版年月2003.11
ISBN(価格)4-04-873501-2(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★☆

あの事件から数十年。時代は江戸から明治へと変わっていた。剣之進、正馬、惣兵衛、与次郎の4人は、不思議な事件があると必ず顔を揃え、そして九十九庵に住む一白翁を訪ねた。一白翁は、無類の不思議話好きで、若い頃不思議な話を集めて国中を旅したというが・・・。

ひとつひとつは面白い話なのです。特に「天火」の仕掛けや、「手負い蛇」の謎解きなんかは、やはり水準以上。が、続けて読むとまあまあかなあ。という感じです。最後の一編を除いて、雑誌連載だったこともあり、雑誌連載として書かれたものは、やはり雑誌の連載で毎回毎回楽しみながら読むのが正しいのかもしれません。又市というか、百介のその後を描いた短編集なので、巷説百物語シリーズが好きな方は読んでも損無し。

先頭へ

月の扉

著者石持浅海
出版(判型)カッパノベルス
出版年月2003.8
ISBN(価格)4-334-07533-9(\819)【amazon】【bk1
評価★★★★

ボランティアで引きこもりの少年少女たちを救うキャンプに参加していた3人は、今ハイジャックをしようとしていた。舞台は国際会議を前に厳戒態勢の那覇空港。そして彼らの目的は・・・。果たしてハイジャックは成功し、彼らの要求は通るのか?

何故彼らがハイジャックをしなくてはならなかったのか、そして飛行機内で起こった不可思議な事件の謎は?という2つの軸が見事からみあって、緊張感のあるミステリです。面白いとは言えるのですが、この動機は受け入れられるかどうかが分かれそう。私としては、こんなリアルなハイジャックを描きながら、そうくるかと思ってしまったので、★は微妙な4つというところです。長さはちょうど良い感じだし、一気読みできる本ですので、何か読むものないかな〜というときにおすすめ。

先頭へ

あの橋の向こうに

著者戸梶圭太
出版(判型)実業之日本社
出版年月2003.12
ISBN(価格)4-408-53450-1(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★

毎日終電、仕事は単調で全く面白くない。彼氏もいなく、家と会社の往復ばかりの毎日。そして、極めつけは駅と家の間にあるあの橋!そんな芳美の前に現れたインテリアデザイナーの男。突然始まった恋の行方は・・・。

この人「一生懸命のかっこ悪さと滑稽さ」を書かせたら、本当にうまいなあーと感心。恋物語も戸梶にかかれば、哀れと気持ち悪さしか残らないのです。すばらしい。こんな恋愛小説がいままであったでしょうか。というか、小説としては完全に破綻してると思われるのですが、それでもこの「芳美」という主人公の人物描写には、ある意味「女の子」のステレオタイプが詰まっているような気も。ちょっと極端だとは思いますけど、戸梶ファンにはおすすめかな。

先頭へ

希望

著者永井するみ
出版(判型)文藝春秋
出版年月2003.12
ISBN(価格)4-16-322450-5(\2400)【amazon】【bk1
評価★★★

老婆ばかり狙われる連続殺人事件が起きた。ところが捕まったのは少年法に守られた14歳の中学生だった。5年後。少年院を退院することになった「少年」は、既に19歳。少年の家族、そして被害者の家族。事件に関係した刑事や記者。多くの人間が彼を中心に動き始める。

これもまた雑誌連載だったこともあって、少し冗長なのが難点。少し似た先行作品に『繋がれた明日』という面白本があるだけに、比較して見たくなってしまいます。少年犯罪ってもう何年も問題になっているように思いますが、「将来があり」、「責任はなく」、「社会的弱者」の彼らの犯罪をどう理解し、どう処罰したらいいのか、裁判所も法律も、我々も結局わからないままな気がします。そんなものに結論はでないのかもしれませんが、どうなんでしょうね。一番やりきれないのかも。そういうところをテーマにしながらも、この本はそういう難しいところを巧妙に避けているところが、うまいとも言えるし、中途半端な印象を与えているような気もします。もう少しカウンセラーの視点からだけ、物語が進んでもよかったかなというのが正直なところです。

先頭へ

指を切る女

著者池永陽
出版(判型)講談社
出版年月2003.12
ISBN(価格)4-06-212144-1(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

状況に流されて生きていく女をテーマにした短編集。

なんだかちょっと感覚古いかなあという感じ。最近女性は自分でも稼ぐし、一人で何でもできる人が増えてるので、運命に流されてしまった、というのって流行らない気がします。こういう流れに逆らえない人々って哀しいです。それを池永陽が書くのですから、もうさらに哀しいです。ただ、「流されてしまう」という根本のところでイライラ感が私にはあって、少し評価は辛くなってしまいました。暗いのが読みたい方におすすめ。

先頭へ

真夜中の金魚

著者福澤徹三
出版(判型)集英社
出版年月2003.12
ISBN(価格)4-08-775332-8(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★

おれは人生を踏み外し、今は九州で昼はパチンコ、夜はバーのカウンターに入っている。ある日、いつもようにバーのカウンターで料理を作っていると、そこに昔東京でよく遊んでいた仲間が現れた。

部分部分のエピソードはとっても面白いし、文章もなかなか良かったので、結構サクサク読めたのですが、全体としてみると面白かったけど、おすすめってほどではないかな〜という中途半端な印象。全体としての起伏があまりないのが原因かも。最近そういう本って多いですよね。エピソードの積み重ねだけでストーリーとしての波が無い本って。それなら連作短編集でもいいんじゃないかなあという気がしてしまいます。そういう風に読むならば、そこそこおすすめかな。

先頭へ

逃避行

著者篠田節子
出版(判型)光文社
出版年月2003.12
ISBN(価格)4-334-92415-8(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

夫にも子どもにも見放された気分になっている妙子。そんな妙子が唯一信じていたのは、飼い犬のポポだった。しかし、そのポポが隣の子どもをかみ殺してしまう。周囲から無言の圧力がかかり、家族はポポを処分しようとしていた。ポポは渡さない、そう思った妙子は。

指を切る女』と続けて読んだので、男性作家と女性作家では同じ世代の女性を主人公にしても、ここまで描き方が違うかと思いました。『指を切る女』では、「女が守る家」というのがすごく強いんですよね。いろんなことが起こるのですが、出て行くのは男で、女はいつまでも同じ場所に居続ける。ところが、この『逃避行』では、その女が、守るべき家を出ていくところから物語が始まるのです。恐らく篠田節子が女性に人気なのも、物語の力強さ、新鮮さを感じるのも、そういうところにあるんじゃないかと。主人公はバリバリキャリアの30代女性でもなく、かといって、古くさい女でもない。そんなところが面白いのだと思います。ポポと主婦の考え無しの逃避行。その結末はいかに?思った以上のドラマが待っていて、満足です。おすすめ。

先頭へ

太陽の塔

著者森見登美彦
出版(判型)新潮社
出版年月2003.12
ISBN(価格)4-10-464501-X(\1300)【amazon】【bk1
評価★★★☆

京大に在学しながらも、研究室から逃亡した僕は、今休学中の五回生だった。

文章は好き。こういう斜めに見る感じって、若さを感じさせますし、クリスマスをここまで目の敵にするのも爆笑モノ。小説として見るとうーん、どうなんだろと思ってしまいますが、太陽の塔をやたらと見たくさせるその文章の持つ力に☆を1つつけたしました。

登場人物の彼らはちょっと自意識過剰な気がするのです。多分年頃ってやつで、恐らくわたしもそうだったと思います。が、20代も終わりに近くなってきて徐々にそういうのが無くなってきたというか。ちょうど『希望』の中で美人カウンセラーが「30過ぎたら、一人でいることも気にならなくなった」と振り返る部分があるのですが、30近くなって結婚してしまった私、こういう若くて独身の人々が持つ、周りの目が気になるという感性を失ってしまったのか?私は20代前半から一人でご飯を食べたり、どこかに行ったりすることを気にしない質だったのですが、最近ますます拍車がかかってきたような気がします。相方が夜勤のある仕事なもので、そういう日は一人で映画を見に行ったり、気になってたレストランに行ってみたり、はたまたクリスマスイルミネーションきらめく街や、オジサン臭い競馬場で(私までオジサンのような格好をして)、カメラを抱えてたりするわけです(笑)。大学生の頃はクリスマスが近づいてくるとワクワクして、でもイブは寂しー仲間たちとどんちゃん騒ぎをしたりしたものですが、そう言えばクリスマスだったか(被写体が増えたことしか考えてなかった、マジで)、と今更ながら思い出した次第。街に繰り出す若い人たちを、「アホかアホか」と思うのは、やはり羨ましさの裏返しなんじゃないかと思うんですよね。今日も六本木ヒルズに行ったのですが、カップルなんて大勢いる人の中でそんな眼に入らないですもん。そんなになってしまったら、やっぱりおじさんおばさんの仲間入りってことかもしれない、とちょっと反省したところです。

なんか本の話になってませんが、この本の感性に乾杯。そこそこおすすめ。

先頭へ

図書館の神様

著者瀬尾まいこ
出版(判型)マガジンハウス
出版年月2003.12
ISBN(価格)4-8387-1446-7(\1200)【amazon】【bk1
評価★★★★

ある事件がきっかけで、打ち込んでいたバレーボールから離れた清。故郷を離れ、大学を出てある高校の講師になった清は、イヤイヤながら文芸部の顧問になり、図書館で面白い青年と出会う。

私はぜーんぜん運動しない人間で、というか、運動が嫌いな人間で、子どもの頃は遊んだものの、中学入ってから運動部で汗を流すなんざ、ぜーったい嫌ってタイプでした。なので、学生生活で一番面白いのはなによりスポーツ、って言う考え方、理解できないんですよね。本読んでたほうが面白かったし。天の邪鬼な性格が、学生時代は部活で頑張ってました、みたいなステレオタイプを嫌ったせいもあるかもしれませんが。ただ、きっとその理解できないは、私が「いつも本読んでて偉いね」という勘違いな反応に、どう返していいかわからないのと同じかと思うのです。人間っていうのは、自分の感覚の範疇を超えるものは理解できないものだと私は思っていますが、正に運動と読書とか、本当は同じ延長線上にあるものを、その見た目が全然違うために、それぞれの面白さを知らない人には面白いのが理解できないってことなのでしょう。

そんな感覚をうまく表現してると思うのです、この小説。中学の頃やってたサッカーよりも本を読み込むのが面白くなってしまった青年と、スポーツ馬鹿だったのに、それを取り上げられてしまった講師。一直線は美しいかもしれませんが、まあいろいろあってもいいんじゃないの、くらいの気楽な気持ちになれる小説です。おすすめ。

先頭へ

豆腐小僧双六道中ふりだし

著者京極夏彦
出版(判型)講談社
出版年月2003.11
ISBN(価格)4-06-212214-6(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★★

「何故手前は豆腐を持っているのでございましょう」。自分の存在意義に疑問を持った豆腐小僧、旅をしながら、様々な出会いを経てその疑問を解こうとする。

豆腐小僧、すごくかわいいのです。しかもアホなのです。そして猪突猛進なのです。かなり笑えますが、内容は「妖怪とは何か」にひとつの答えを出すまじめなものでした。妖怪自体は人々の心からなくなりつつあるかもしれませんが(いや、そんなことないかな。鬼太郎がいる限りは)、その倫理観の代替装置としての神というか、存在しないがそこにあるもの、というのは、まだ日本人の心に生きてると思うのです。というのも、前に不法投棄に困った土地所有者が、そこに鳥居を立てたところ、不法投棄が無くなったという新聞記事があったんですよね。もちろんそこに神社があるわけではなく、「不法投棄禁止」の看板の代わりに置くレプリカなんだそうですが、単なる木の造形物が、「不法投棄禁止」の看板以上の役割を果たしてくれるのは、その形に対する畏怖の念が日本人にはあるからでしょう。一方で今でも「目の前が墓」だと土地が割安になったり、神社で肝試しはちょっと怖かったり、「無い無い」とは思っていても、見えないものの怖さ自体は人間から無くなっていません。この本を読んでなるほど、そういう考え方もあるかと納得したのでした。豆腐小僧なら出てきてもいいかな(笑)。私は豆腐嫌いなんですけどね。

先頭へ