2002年07月

殺意は幽霊館から-天才龍之介がゆく!-(柄刀一) MISSING(本多孝好)
GOTH-リストカット事件-(乙一) ブラックエンジェル(松尾由美)
龍宮(川上弘美) 失踪Holiday(乙一)
コンビニ・ララバイ(池永陽) 翼はいつまでも(川上健一)
トキオ(東野圭吾) 発火点(真保裕一)
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殺意は幽霊館から-天才龍之介がゆく!-

著者柄刀一
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-396-33053-7(\381)【amazon】【bk1
評価★★★

龍之介シリーズ。龍之介と後見人の光章、そして一美は、温泉地へと遊びに行くことになった。その温泉地には幽霊館と呼ばれる廃ビルがある。夜、ライトアップされる間欠泉を見学にいった3人は、その幽霊館に浮上する女を目撃した。。。

うーん、まあまあかな。もともと連作短編のシリーズなので、こういう形で出すのは間違ってはいないと思うのですが、トリックがそれほど驚けなかったのが残念。

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MISSING

著者本多孝好
出版(判型)双葉文庫
出版年月2001.11
ISBN(価格)4-575-50803-9(\600)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

このミステリーがすごい!2000年版のベスト10ランクイン作品で、唯一読んでなかったこの本。なんとなく新刊に手を出す気になれず、本屋でふと思い立って、今更ながら手にとってみました。どの短編もいいですねー。特に無茶なことばかりをしていた女の子が、歳を重ねるにつれて、嫌っていた「普通」にはまっていく自分に悩む「瑠璃」や、死を前にして自分のことを忘れて欲しくないと思う老人を描いた「蝉の証」、どちらも微妙な人間の心理を見事に描いた作品で、お気に入りです。

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GOTH-リストカット事件-

著者乙一
出版(判型)角川書店
出版年月2002.7
ISBN(価格)4-04-873390-7(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★☆

殺人事件が起こった場所を訪れることを趣味とする高校生。一人は一般になじんでいるように見える男の子、そして誰とも交わることのできない女の子。ある日、女の子-森野が、殺人者の手帳を拾う。

今まで読んだ乙一とはちょっと雰囲気の違う連作短編集。私にとっては、読んでいるとき、読んだ後の感触はあまりよくありませんでした。人と関わるのを嫌う2人の高校生が遭遇する恐ろしい事件の話ですが、乙一の世界大爆発・・・といったところは、森博嗣的路線に通ずるものがあるからかもしれません。もちろん中身は全然違いますけど、妙に内省的な文章を是とするか非とするかで評価がわかれるかもしれません。

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ブラックエンジェル

著者松尾由美
出版(判型)創元推理文庫
出版年月2002.5
ISBN(価格)4-488-43901-2(\620)【amazon】【bk1
評価★★★★

幻の一枚と呼ばれるテリブル・スタンダードのファーストアルバム。ようやく中古CDショップで手に入れた加山は、マイナーロック研究会の面々と共に、そのアルバムを鑑賞していた。ところが、途中の「ブラックエンジェル」という曲が流れたとき、突然黒い天使が現れ、仲間を殺してしまった。彼らは、黒い天使とCDの謎を解こうとする。

ファンタジー仕掛けのホワイダニット・ミステリー(そんな言い方あるのかしらん?)。そう見れば、確かにちゃんとミステリになっていますし、オチもある。ただ、黒い天使の存在理由がちょーっと甘いかなあと思ったかも。もちろん説明はされていますけど、私としてはもう少し違うオチを期待していただけに、肩透かしだったかな。あ、それともそこまでミステリとして読んじゃいけなかったのかなぁ。

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龍宮

著者川上弘美
出版(判型)文藝春秋
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-16-321030-X(\1238)【amazon】【bk1
評価★★★

人間ではないもの、と人間との交わりを描く短編小説。

全体的に、やりたいことはわかるけど、私の好みではないといった感じ。ただ「島崎」はいろいろと考えさせられることがあって興味深い短編でした。200年くらい前までは人生50年とか当たり前だったのに、今は80年当たり前。平均寿命が100を超えるのも不可能ではないかもといった現世で、500歳というのはともかく、100年以上生きる、つまり定年退職を迎えてからの時間のほうが長いような人生を生きるということは、誰もが考えなくてはならないことなのかも。よく「不老不死の薬」を求める阿呆な為政者の寓話がありますが、人生80年、人生100年以上という時代、しかも不況のど真中、若者でさえが生きることの目標を失っている時代に、「不老不死の薬」ほど無駄な妙薬は無いのでは。人間は医学や科学の進歩で、長い人生を手に入れましたが、長い人生を手に入れること自体が目標になってしまい、それをどうやって使うかということが置き去りにされてしまっている気がしたのでした。

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失踪Holiday

著者乙一
出版(判型)角川スニーカー文庫
出版年月2001.1
ISBN(価格)4-04-425301-3(\552)【amazon】【bk1
評価★★★★

一人暮らしをしたい、と思った僕は、親類の所有する一軒家に住むことになったが、そこには先住者がいた「しあわせは子猫のかたち」と、母の再婚相手の家で、お姫様のような暮らしをしていた私が、母が無くなり、義父が再び再婚して、居場所が無いと勝手に思い、自分で失踪、そして誘拐を偽装する「失踪holiday」の中篇2本。標題は「失踪holiday」のほうですが、私は「しあわせは子猫のかたち」のほうに軍配です。どっちも若者らしい繊細な心理描写がとってもうまい小説なのですが、「しあわせは子猫のかたち」のほうの哀しい感じが私は大好きです。先週読んだ『GOTH』が、ちょっと乙一らしくないと思ったところだったので、そうそう、こういうのが乙一だよね、と勝手に安心。乙一氏自身はそういう「乙一らしい」と言われるのが心外なようですけど。いろんな印象の小説を書けるという意味では、やはり天才なのかも。

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コンビニ・ララバイ

著者池永陽
出版(判型)集英社
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-08-774586-4(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★★

息子が亡くなったとき、妻の側にいようという決心をして、「賑やかだけど乾いている」コンビニをはじめた幹郎。やる気のないコンビニは、しかし「乾いた」場所ではなかった。

久々につけましたよ★★★★★。いやー本当に泣きました。これはいい。電車の中で読むのはおすすめしませんが、買って損はなし!どこかに「重松清と浅田次郎を足した」と書かれていましたが、私は重松よりも浅田よりも、池永です(笑)。不器用でやる気のないコンビニ店主と、そんなコンビニにやってくる傷ついた人々との心温まる交流を描いた小説。たまたま手にとった本が当たりだったのが非常に嬉しい。というわけで、超おすすめ。

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翼はいつまでも

著者川上健一
出版(判型)集英社
出版年月2002.7
ISBN(価格)4-08-775291-7(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

何かに怯えていた中学生の僕は、あの夏ビートルズに勇気づけられ、成長した。

去年にしむらさんがオススメしていた川上健一『翼はいつまでも』。読んでなるほど、と思いました。にしむらさん、こういう「僕の夏休み」系(なんじゃそりゃ)の話好きですよねー。確かに良い!夏休みの十和田湖で、子どもから大人になる中途半端な少年少女たちに起こる「事件」のお話。読んだ時期もよかったのかもしれませんが、じーんとくる小説でした。エピローグを読み始めたとき、あ、これは蛇足では・・・と思ったのですが、見事。ちゃんと僕の夏休みの着地点を作ってくれていて、すっきり。東北に行きたくなりました。昔少年少女だった人々みんなにおすすめ。

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トキオ

著者東野圭吾
出版(判型)講談社
出版年月2002.7
ISBN(価格)4-06-211327-9(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

宮本拓実は、今まさにこの世を去ろうとしている息子を見ていた。遺伝的に50%罹患することがわかっていた難病に冒され、短い人生に幕を閉じようとしている息子を見ながら、拓実は妻にあることを告げようとしていた。
「昔、二十年以上前に、息子に会ったことがあるんだ」と。

前作の『レイクサイド』のようなガチガチの本格推理から、『秘密』のような恋愛モノまであらゆるジャンルを見事にこなす東野圭吾。今回はある男が、未来から来た息子に出会うことで成長していく、SFタッチ(?)の親子物語で、奇抜なアイディアもさることながら、ラストまで飽きさせないストーリーテリングの才能には本当に感服といったところです。きっと人間はどこかで精神的に大人になっていくような経験をするのでしょうけれども、ダメ男が成長する内側の物語と共に、その外側の息子と父親の話も非常に感動的。何度も候補に上げられながら、いまだ一度も取れていない直木賞、今度こそ狙えるのでは。期待。

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発火点

著者真保裕一
出版(判型)講談社
出版年月2002.7
ISBN(価格)4-06-211325-2(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★☆

12歳の夏。嵐の海に倒れていた男を助けた僕。その男は、父の幼馴染だった。同居することになったその男が、しかし、ある事件を起こし、僕の人生は大きく変化した。

題材は悪くないし、ちりばめられたエピソードは面白いものもあるのですが、いかんせん新聞連載のせいか長いのです。冗長なのです。この半分にして、父と息子とあの人と母と、12歳の夏に起こったあの事件だけに絞れば、もっと面白かったんでは、と思ったりもしたのですが。主人公がまだまだ精神的に子どもであり、21歳のときのいろいろな出来事で段段と大人になるというのがこの物語のキモだと思うのですが、主人公の精神的な子どもの部分を説明するためのエピソードに、本筋が奪われてしまっているような気がしました。17章がなかったら、☆ひとつ減らしていたかも。決して小説としては悪くはないとは思うのですが。暑いときに読んだのが敗因か?

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