2002年12月

スパイク(松尾由美) 竜とわれらの時代(川端裕人)
ねじの回転(恩田陸) ファンタズム(西澤保彦)
蛇行する川のほとり 1(恩田陸) 闇匣(黒田研二)
セント・ニコラスのダイヤモンドの靴(島田荘司) 深追い(横山秀夫)
戦闘妖精・雪風<改>(神林長平) (横山秀夫)
世界の果ての庭(西崎憲) 華氏451度(レイ・ブラッドベリ)
さみしさの周波数(乙一)
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スパイク

著者松尾由美
出版(判型)光文社
出版年月2002.11
ISBN(価格)4-334-92380-1(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

友人から譲り受けた犬、スパイクと散歩の途中、向こうから同じように犬を連れた男性とぶつかりそうになった。そっくりの犬を持つ彼に、犬の名を聞くとなんとスパイクという。話が弾み、また会う約束をしたが、約束の日に彼は現れなかった。そして、家に帰ると突然犬がしゃべりだし・・・

SF仕立てのミステリー。帯からすると、単なる恋愛モノのように思っていたのですが、これがなかなか本格ミステリでした。単なる人探しも、その仕掛けのお陰で目新しいものになっていますし、それだけでは終わらないところもミソ。久々こういう小説で、納得のラストだったと思います。おすすめ。

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竜とわれらの時代

著者川端裕人
出版(判型)徳間書店
出版年月2002.10
ISBN(価格)4-19-861585-3(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★★

手取の里に住む風見大地は、少年の頃、恐竜のものと思われる骨を近くの地層で発見した。恐竜に魅せられた彼は、大学卒業後アメリカへと留学し、一大プロジェクトをひっさげて再び手取の里へと戻ってくる。そして、そこから現れた化石は、恐竜研究の常識を覆すようなものだった。

恐竜っていうのは、何故これほど魅力的なのでしょう。多分私の恐竜物語体験の最初はドイルの『失われた世界』だったのではないかと思うのです。恐竜は現代にも生きているというファンタジーですが、実はかなり愛読してまして、何度も読み返した記憶があります。もちろん「ドラえもん」は外せませんよね。藤子不二夫の漫画には、恐竜はよくでてきますし、時間軸を自由に行き来できる「ドラえもんご一行」が最も多く出かけているのが「白亜紀」ではないかと思ったり。最近ではやはり『ジュラシック・パーク』シリーズでしょうか。最初の『ジュラシック・パーク』を読んだときは、ものすごく感動しました。前後しますがソウヤーの『さよならダイノサウルス』も恐竜絶滅の謎を解明するSFでした。『ジュラシック・パーク』の中で、人間が恐竜、特にその恐竜の絶滅の謎に魅せられるのは、人間も恐竜と同じく地球を支配している種であるからだ、というくだりがあったように記憶しています。確かにそういう面もあるのかもしれませんし、人間がいない世界など想像もできない現代にあって、1億年以上も前の同じ土地には、人間をはるかに凌ぐ巨大生物がいたことがあるという科学的証拠があることが、夢をかきたてるからなのでしょう。この作品にも「ここに恐竜がいたこと、その時代が繋がっていること」というテーマが象徴的に現れます。

長くなってしまいましたが、要は私は恐竜好きなのです。何もかもが地図に載ってしまっている今、私の知らない地球があったということにものすごく興味があります。その私が読む分には、ものすごくワクワクしたし、登場人物に感情移入もしやすかったということでしょう。『鉄腕DASH』を見ながら、「DASH村より恐竜発掘のほうが面白い」と思っていた人には絶対おすすめ。『ジュラシック・パーク』後の恐竜の変化満載、物語としてもなかなかです。

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ねじの回転

著者恩田陸
出版(判型)集英社
出版年月2002.12
ISBN(価格)4-08-774585-6(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

日本の分岐点である「2・26事件」。その4日間をもういちど「再生」することになった。これが再生時間であることを知るキーマンは3人。しかし国賊となる彼らは、なんとかしてこの事件を「良い方向」へと導けないか思案するが・・・。

もし、過去に遡れることになったら、その後ろにくっついていた未来にはどんな影響があるのかをテーマにしたSF。歴史には幅があり、多少の不一致は許容されるが、しかし大きな齟齬は機械によって阻まれる。設定は非常に面白く、風呂敷の広げ方もこの著者らしくて惹きこまれて読んだのですが、もう少し書き方があるんじゃないかなあと残念な気分。というのもこのミッションの意義がいまいちよく伝わってこなかったんですよね。どの人にも感情移入する前に終わってしまうし。長い割に、その長さを活かしきれてない気がします。そして、「2・26」を題材につかったことで、某直木賞作家の私のお気に入り作品とどうしても比べてしまうというのもよくなかったのかもしれません。今回は終わり方には不満は無いのですが、ストーリーの流れに不満。非常にわがまま。時間物語が好きな方にはそこそこおすすめかも。

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ファンタズム

著者西澤保彦
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2002.12
ISBN(価格)4-06-182292-6(\760)【amazon】【bk1
評価★★★

4人の女性が惨殺された。犯人も動機も不明。警察が「ファントム」とあだ名した犯人は・・・

途中までは面白かったんですよ。犯人と警察との双方の視点から描かれる犯行が。ところが、もしやこれって、と思ったらやっぱりこのオチですか。だめだー私は。頭の切り替えができないんでしょうね。多分受け入れられる人には平気そうな作品。薄いから「損した」という気分にはならないでしょう、ということで★3つ。

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蛇行する川のほとり 1

著者恩田陸
出版(判型)中央公論新社
出版年月2002.12
ISBN(価格)4-12-003336-8(\476)【amazon】【bk1
評価

*この本は途中ですから、最後まで出たら評価します。

演劇祭の舞台背景をまかされている毬子は、憧れの先輩である香澄の家で合宿し、絵を仕上げることになった。有頂天になる毬子だったが、しかし、それには様々な思惑が隠されていた。

まだまだ登場人物紹介程度。いくつか謎が提示されていて、またその広がり加減に、ちょっと危惧するものもあるのですが、物語導入で読者を引き込むこの著者の力量はさすがです。続きは絶対買わざるを得ない感じ。3部作で終わるのかどうか、微妙なところだとは思いますが、納得いく結論に期待。

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闇匣

著者黒田研二
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2002.12
ISBN(価格)4-06-182279-9(\740)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ワンマン社長の娘・杏奈との婚約を目前にし、彼女の家、つまり社長の家に挨拶に行くことになった勉。ところが、杏奈が用意してくれたホテルで、突然襲われて、気づくと闇の中にいた。何も見えない真の闇の中で、突然声をかけてきたのは、古い友人だった。

設定、トリック共に見事な本格ミステリ。こういうガチガチのミステリ、しかもお、なるほど面白いなと思える結論のミステリ、そして余分な薀蓄だの主張だのが入ってないミステリって、最近少なくなった気がするんですよね。単に読んでないだけかなあ。ただちょっと残念なのが、話し運びが唐突なこと。あれ、突然なんでその話になるの?というか、「かすかな伏線」じゃなくて、思いっきり「パイプの線」が見えてるよ、みたいな不器用さがなんとも。でもラストは綺麗に繋がって満足。おすすめです。

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セント・ニコラスのダイヤモンドの靴

著者島田荘司
出版(判型)原書房
出版年月2002.12
ISBN(価格)4-562-03572-2(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★

セント・ニコラスのダイヤモンドの靴。榎本武揚が日本に持ち帰ったというロマノフの財宝の靴をめぐる物語2編。

なぜか島田荘司の本に出てくる子供は、異常なほど純粋ですね。これまた『闇匣』とは別の意味で見事な本格ミステリ。奇抜なトリックをこうやって思いつく力がいまだに衰えていないのがこの著者のすごいところです。本自体が綺麗なので、プレゼントに最適。ですが、中身はあまりクリスマス向きではないかも(^^)。

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深追い

著者横山秀夫
出版(判型)実業之日本社
出版年月2002.12
ISBN(価格)4-408-53430-7(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

敷地内に庁舎、独身寮、家族官舎などなどをすべて持つ三ツ鐘署。県警内では「三ツ鐘村」と言われ、赴任を嫌がられるナンバー1の署だった。。。その三ツ鐘署を舞台とする短編集

特に目新しくもなく、ものによってはよくある日常小説、いくつかはどこかで読んだような警察小説。でもなんだか短編としてよくまとまっていて、面白く読めました。短編って、なんとなく消化不良に終わってしまうところがあって私はあまり好きではないのですが、この小説はオチが巧いので、そういう気分にはなりませんでした。私はラストの「人ごと」がお気に入り。警察署でも、警察官ではない人を中心にしたお話で、すこーし他と毛色が違う雰囲気の良い短編でした。他の本も読んでみようかな(とここに書いて、読んだのってどのくらいあるんだろう・・・)

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戦闘妖精・雪風<改>

著者神林長平
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月2002.4
ISBN(価格)4-15-030692-3(\700)【amazon】【bk1
評価★★★★

南極大陸に出現した超空間通路によって、地球は<ジャム>という異星体の攻撃を受けるようになっていた。通路の先にある惑星フェアリイに置かれた前線基地には、<ジャム>の地球侵攻を防ぐべく、地球でお荷物とされた人々が送り込まれていた。そこで特殊戦と呼ばれる任務につく深井零は、今日もまた、味方の戦況如何に関わらず必ず帰って敵の情報を持ち帰るという孤独な闘いを続けていた。

一見戦争モノと見せかけながらも、<ジャム>とは何かというテーマによって妙にミステリ的な味付けがされているこの作品。いくつか読んだ神林作品の中では最もお気に入りです。たまにパソコンが非常に人間的な反応を返すときとか、正確で言われたことに対して決してミスをしない機械が、そのうち人間を凌駕するとき、あるいは人間を必要としなくなるときが来るのではないかと思うことはありますよね。『ターミネーター』とか、その典型な話ですけれども、そういう話が結構好きな私としては、「機械と人間」という部分が面白く読めました。ので、その色が強く出てくる「フェアリィ・冬」とか「全系統異常なし」辺りの作品が特によかったですね。おすすめ。

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著者横山秀夫
出版(判型)徳間書店
出版年月2002.10
ISBN(価格)4-19-861586-1(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ある事件で、大好きだった似顔絵婦警としての仕事から外されてしまった平野瑞穂。婦警に憧れて警察に奉職した彼女は、いろいろな人と出会いながら、一生懸命仕事をするが。

先日読んだ『深追い』は、ありがちなストーリーながらも、短編だからこそまとまりがあって良かったと思ったのですが、こちらはちょっと平凡な部分が目に付いちゃうかなあ。「女だから」「女のくせに」といったテーマの使い方も、彼女(主人公)のほうの意識がやはり男性の眼からみた雰囲気なんですよね。こんな中途半端な反発じゃないと思うんですよ、それなりに職務をきちんとやってるという意識があれば。その手の話だと、やはり柴田よしきと比べてしまうのもよくないのかもしれません。それに、せっかく似顔絵捜査官にしたのですから、そっちのほうでもう少しいろいろな事件に出会うほうを希望。続きが出そうな気もするのですが、どうでしょうね。

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世界の果ての庭

著者西崎憲
出版(判型)新潮社
出版年月2002.12
ISBN(価格)4-10-457201-2(\1300)【amazon】【bk1
評価★★★★

イギリス庭園、辻斬り、脱走兵、奇妙な病気の母・・・。時間も空間も異なるエピソードが重なるところに、謎の手紙があった。

不思議な小説。どちらかというとこういう不思議な雰囲気の幻想小説って私はあまり好みではないのですが、この小説は読みやすかったし、面白いと思えました。少しづつ語られる物語が、徐々に終わりに近づくのがもったいないような感じ。ファンタジックなお話しが好きな方にはおすすめかな。

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華氏451度

著者レイ・ブラッドベリ
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月1975.11
ISBN(価格)4-15-040106-3(\600)【amazon】【bk1
評価★★★

モンターグの仕事は焚書。人々が隠している書物を見つけ出し、現代には不要と判断されるそれら書物を燃やすことが仕事だ。書物は時代遅れなもの。今は「海の貝」や「テレビ室」など、いくらでも娯楽は存在する。しかし、モンターグはある日突然その仕事に疑問を抱く。そして彼が取った行動とは・・・

私が生まれた年に翻訳された作品。原書はそれをさらに20年以上さかのぼり、1953年刊。当時は「アメリカは10年先を行ってる」時代だったので、このくらいのタイムラグは問題なかったのでしょうけれども、それから28年。やはりこうして読んでみると、世界は異常に変わっているんだなと実感してしまいます。全体的に古い。その古さが気にならない程度ならいいのですが、なんとなく滑稽さを感じさせてしまうところが、こうしたSF古典の最大の弱点じゃないかと私は思うのです。ただ、ブラッドベリが危惧した「書物の無い(書物が軽視される)未来」は、確実にやってきているというのもまた実感。焚書という仕事はさすがに無いのですが、人々の心の中には焚書官を飼ってるんじゃないでしょうか。「テレビ室」なんていうのは笑っちゃいますが、インターネットでも一人一台のテレビでも、世界中のあらゆる情報をインタラクティブにやりとりできるという設備は既に整っていて、人々の関心は古臭い書物よりも、そちらに向いていることも事実。本好きな人には、ちょっと痛い部分も(^^;ありますが、本好きだから読める作品ですね。

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さみしさの周波数

著者乙一
出版(判型)角川スニーカー文庫
出版年月2003.1
ISBN(価格)4-04-425303-X(\457)【amazon】【bk1
評価★★★☆

未来を予報できるという友人に、同級生の女の子と「いつか結婚する」と言われて動揺し、その気持ちをずっと引きずってしまう「未来予報、あした晴れればいい」ほか、4編の短編集。私は自分の会社の資金のために、伯母の宝石と現金を盗もうとして、ちょっとしくじってしまう「手を握る泥棒の物語」が好きかな。他にもトンネルの中での撮影フィルムに映ってしまった少女が、何度も見ているうちに徐々にこっちを振り返る「フィルムの中の少女」は怖い。こういうの私は弱いです。。。全体的にちょっと力が無い印象を受けたのですが、あとがきを読むとしばらく本が出ないようなことが・・・えー。。。今年は結構乙一を読んだので残念なのです。と言いつつ、何年も新刊を待ち続けてる作家もいますから、結構どうにかなるものなのか?(笑)

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