2001年04月

遠い約束(光原百合) 片想い(東野圭吾)
カレーライフ(竹内真) 謎亭論処-匠千暁の事件簿-(西澤保彦)
模倣犯(宮部みゆき) 未完成(古処誠二)
邪魔(奥田英朗) 黄昏の岸 暁の天(小野不由美)
シーズ・ザ・デイ(鈴木光司) なみだ研究所へようこそ!(鯨統一郎)
千里眼 洗脳実験(松岡圭祐) 天使などいない(永井するみ)
もう一人の私(北川歩実) 今夜はパラシュート博物館へ(森博嗣)
総督と呼ばれた男(佐々木譲)
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遠い約束

著者光原百合
出版(判型)創元推理文庫
出版年月2001.3
ISBN(価格)4-488-43201-8(\560)【amazon】【bk1
評価★★★☆

子どもの頃、親類の法事で会った叔父と、ミステリ話で盛り上がった。その叔父との小さな約束。子どもの頃の約束が大きく関わる「遠い約束」ほか数編の短篇集。雰囲気的には加納朋子をさらに甘くしたような印象でした。どのお話しもかわいらしくて童話っぽい。大人が読んでも子どもが読んでも良いような優しい短篇集でした。ちょっと物足りなさも感じましたが、さらっと読むのには適した本です。

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片想い

著者東野圭吾
出版(判型)文藝春秋
出版年月2001.3
ISBN(価格)4-16-319880-6(\1714)【amazon】【bk1
評価★★★★

毎年11月の第3週に行われるアメフト部の同窓会。会もお開きとなり、帰ろうとした哲朗の目の前に、アメフト部のマネージャーであった美月が現れた。「話を聞いて欲しい」と紙に書いた彼女。美月の真剣な様子に気おされた哲朗は、一緒にいた須貝と共に家へと向かう。彼女が打ち明けた相談事は・・・。

男女平等、女性差別撤廃などが取り沙汰される昨今、このジェンダー問題というのも様々な本で取り上げられている気がします。仕事上、そういった本を見る機会は多いですし、椰子の実通信の立ち読みコーナーでも度々そういった本を取り上げていますが、どこか感情的だったり、強弁詭弁と思われるようなものだったり、あるいは非常に保守的だったりと、しっくりくるものが少ないようにも思うのです。この話は女性に妙に肩入れするのでもなく、かといって男性上位の保守傾向というわけでもなく、バランスの取れたストーリーになってるんじゃないかなと思いました。

私としては、この問題は考えれば考えるほど泥沼にはまって抜け出せなくなるんじゃないかなと思うんですね。結局男女平等と言っているうちは「平等」ではないんですよね。また、平等とはいっても、産前休暇を取れるのは女性、子どもを産めるのも女性、金曜日の映画館は女性サービスデーだったり、女性だから受けられる恩恵(?)もあるわけで、そういった「性差」は絶対になくならないと思うのです。「女だから」とか「女のくせに」と言われるのは癪にさわることはあっても、女性サービスデーにはいそいそ出かける人だっているでしょう。

今までに無い問題を交えて性差を語る本書。こうやっていろいろ考えてみるのも、また一興なのではないでしょうか。おすすめ。

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カレーライフ

著者竹内真
出版(判型)集英社
出版年月2001.3
ISBN(価格)4-08-775282-8(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

いつもお盆に親類が集まると、洋食屋をやっている祖父が孫達に特製カレーをごちそうしてくれた。その年も、カレーをふるまってくれた祖父。ところが、そのカレーを食べている最中に、祖父が急死。そのときに一人の従兄が突然言い出した。「大人になったら、カレー屋をやろう」

行きがかり上、カレー屋を始めることになってしまったケンスケ。サトルの言い出した「カレー屋をやろう」のひとことが、なんと本当になってしまうお話。ところが開業も一筋縄ではいかず、子供の頃の約束が気になっているケンスケは、風来坊ワタルと共に世界中を旅するはめに・・・というはちゃめちゃなお話なのですが、その無茶苦茶ながら、何かを創っていこうとする熱意に惹かれて、最後まで楽しんで読むことができました。「外でご飯を食べるなら、カレーかラーメンなら普通ははずれなし」とまで言われるカレー。あの匂いを嗅ぐだけでお腹がすいて来ます。子供の頃、給食のカレーが大好きでしたが、そんな方には是非おすすめ。この本を読むと、非常にカレーが食べたくなります。静岡にこんなカレー屋が本当にあったら、行ってみたいな。

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謎亭論処-匠千暁の事件簿-

著者西澤保彦
出版(判型)祥伝社ノンノベル
出版年月2001.4
ISBN(価格)4-396-20713-1(\857)【amazon】【bk1
評価★★★

タカチ、タック、ボアン先輩、ウサコたちが活躍するシリーズ第7巻。ちょっとボアン先輩が女子高の先生になった後の話が中心となった短編集です。このシリーズは短編連作の多い西澤シリーズの中でも異色の長編中心シリーズなのですが、こうして短編を読んでみると、やはり長編のほうがいいなあと思います。特に前作『依存』での展開が気になるだけに、ちょっと肩透かしをくらった感じでした。

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模倣犯

著者宮部みゆき
出版(判型)小学館
出版年月2001.4
ISBN(価格)(上)4-09-379264-X(\1900)【amazon】【bk1
(下)4-09-379265-8(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★★

飼い犬と共に朝の散歩にでかけた塚田真一は、公園のゴミ箱からとんでもないものを見つけてしまう。ゴミ箱から出てきたとんでもないもの--女性の右腕。そして、その右腕と一緒に発見されたのは、右腕とは違う持ち主のハンドバックだった。

最近ようやっと日本でも被害者の人権を守る会のような組織もできたとかいうことですが、この世の中結局やられ損ってこと多いと思うんですよね。実際のところ、死人に口なしで、殺された人間は捜査に反論もできないし、犯人をののしることもできない。そんな男についていったほうが悪いとか、運が悪かったで済まされちゃってる面も多いと思うのです。一方で、殺人犯にも人権はあるようで、彼らも被害者だったとか、環境が悪いとか、教育が悪いとか、果ては心神耗弱で無罪とか。もちろん殺人を犯した人間だって言い分はあるんでしょうけれども、一生懸命生きてる人が、ただ愉快だからとかいって攫われたり、殺されたりしちゃたまらないですよね。なんとなくそういうのって一般論で、しかも「正論」で嫌がられるかもしれないのですが、でもそれが正しくなかったら怖くて外なんか歩けなくないですか?

この本は、頭のいい犯人がまるで自分が世界を操っているかのように振舞うお話ですが、警察だって世間だってそんな子供だましにいつまでも騙されてるほどお人よしじゃない、っていうのは私も大賛成。よくあるシリアルキラー系小説を一刀両断にするような作品で、なんとなくすかっとしました。連載ものの所為で、重複する場面もあったり、その所為かやたらと長かったりと非もありますが、私はおすすめです。特に有馬のおじいちゃんがよかったな。日本は変わったとか、社会が変わったとか言いますけど、やっぱり根本のところでは変わってはいけないところもあるんだと思える1冊でした。

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未完成

著者古処誠二
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2001.4
ISBN(価格)4-06-182181-4(\820)【amazon】【bk1
評価★★★★

自衛隊基地以外に何もない島、伊栗島。そこである事件が起きた。練習中に使っていた小銃が紛失したのだ。調査班の朝倉二尉とその助手野上三曹は、事件が起きた伊栗島へと向かったが。

アットホームな軍隊、その自衛隊と共存関係にある島。そんな不思議な場所で起こる、不可解な事件。『UNKNOWN』の時にも思ったのですが、この著者は自衛隊に入っていたことがあるのでしょうか?あるいは単に自衛隊オタク?(笑)確かに、いざというときに国を守ってくれるのは自衛隊しかいないのに、なんでこんなに嫌われているんでしょうね<自衛隊。

そんな自衛隊で起こる、小銃紛失事件。何故小銃を盗んだのか、という動機は、自衛隊じゃなくても起こる(既に起こっている?)ような気が。派手な兵器話はあっても、こういう自衛隊の生活みたいな話ってあまりなかったように思うので、それが新鮮だったかも。思想的な部分が無いとはいえませんが、私はこの人の考え方は結構好きですね。このシリーズは続けていって欲しいな。『UNKNOWN』を読んで無くてもこれだけでも読めますが、朝倉二尉と野上三曹の出会い話が読みたい方は、『UNKNOWN』からどうぞ。

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邪魔

著者奥田英朗
出版(判型)講談社
出版年月2001.4
ISBN(価格)4-06-209796-6(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★

取り壊しが決定しているある会社の支店が、放火された。けが人は誰もおらず、燃えたことによる被害はほとんどゼロ。ところがそんな小さな放火事件が、やがてそれに関連する人々を蝕んでいく。

あちこちで起こる小さな事件が、徐々にからんで来てラストへ。展開が読めずに楽しく読むことはできましたが、どうも二重人格的な人物設定が最後までなじめなかったかも。特に及川の妻の人物設定がどうもよくわからず、しかし主人公に近い彼女は重要な役割も果たしていて・・・というところがものすごく残念。小さな事件が、転がり落ちるように人々の生活を壊していく辺りが面白かっただけに、それだけがひっかかりました。

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黄昏の岸 暁の天

著者小野不由美
出版(判型)講談社文庫
出版年月2001.4
ISBN(価格)4-06-273130-4(\714)【amazon】【bk1
評価★★★☆

戴は6年前より王も麒麟も行方不明の状態が続いていた。ある日、慶の宮城に満身創痍の女が落ちてきた。戴の将軍と名乗った彼女は、景王に戴を作って欲しいと申し出る。

大分間が開いてしまいましたが、ようやく出た十二国記第6作。ストーリーは『 風の海迷宮の岸』で登極を果たし王となった泰王・驍宗と、泰麒のその後になります。行方不明の泰王と泰麒。しかしどちらも生きているらしいという状況。とりあえずどちらかを探さねば、と依頼を受けた景王・陽子は思うわけですが・・・。全く決着はつかず、もしかすると7月刊行予定と書かれた「文庫オリジナル新刊」で続きが書かれるのかもしれません。。。楽しみというか、本当に出るのかというか・・・(^^;

■入手情報: 講談社X文庫ホワイトハート(2001.5)

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シーズ・ザ・デイ

著者鈴木光司
出版(判型)新潮社
出版年月2001.4
ISBN(価格)4-10-378606-X(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

16年前、太平洋を渡り、名声を手に入れるはずだった船で、沈没事故に遭遇してから、船越はずっと失意の日々を送っていた。沈没場所も不明だったその船を、ある一人のダイバーが発見する。そこには、謎だった沈没原因と、あの人がいるはず。そう思った船越は、再び太平洋横断を決意する。

という話ではあるのですが、どうも話がわき道に逸れすぎて全体的にまとまりに欠ける構成でした。連載だった所為もあるのでしょうか。面白くないとは言えないのですが、読み終わったあと、かなり不満が残ります。ただ、著者が海が好きというのは非常によくわかりましたし、ヨットで太平洋を横断する緊張感、高揚感はとっても共感するものがあって、自分もヨットで海を横断してみたいという気にさせてくれたところはよかったかな。鈴木光司の「リングシリーズ」を離れた久々の長編ということで、期待しすぎたのかもしれません。

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なみだ研究所へようこそ!

著者鯨統一郎
出版(判型)祥伝社ノンノベル
出版年月2001.4
ISBN(価格)4-396-20712-3(\819)【amazon】【bk1
評価★★★☆

伝説のサイコセラピスト波田煌子女史。その彼女の開くクリニックに勤務することになった松本清は彼女に会うことを楽しみにしていた。ところが出てきたのは、心理学を全く知らない、しかも臨床心理士の資格も無いとんでもない女性だった。

これは鯨統一郎の心理学への痛烈な皮肉なのでしょうか。私も心理学に対しては非常に懐疑的で、大学の授業で心理学と統計学をやったとき、「おいおい、そんなサンプルで本当に全体をみられるの」って思ったときは結構ありました。一人一人の心は非常に複雑だったり、それが群集になったりするとまた違ったりと、分野としては日進月歩、実験心理ならともかく、臨床心理っていうのは、学歴だの知識だのよりも、要するに「聞き上手で、慰め上手、ノセ上手なら尚可」みたいな人間が一番向いていると思うのです。私の友人に一人心理学で修士を取り、あちこちでカウンセリングをしている子がいるのですが、彼女みたいな子なら話やすいからカウンセラーに向いているよねって周りの人間もよく言ってました。というわけで、馬鹿馬鹿しさ爆発の鯨統一郎の新刊。ナミダ女史と哀れな松本君のとんでもセラピーを楽しめる作品です。

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千里眼 洗脳実験

著者松岡圭祐
出版(判型)小学館
出版年月2001.4
ISBN(価格)4-09-386073-4(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★

京都上空で突然旋回し始めた輸送機。パイロットはわけのわからないことを喚き、燃料は徐々に減っていく。積荷は危険物で、墜落したときの被害は非常に大きい。緊急召集された事故調査委員会だったが、解決案は浮かばず、以前日航機事故の際に世話になった東京カウンセリングセンターに応援を求める。

友里と岬の最終決戦?派手な演出と、主人公を次々襲う危機というハリウッド映画的なストーリーは健在で、ちょっと恥ずかしくなるぐらいです(笑)。たまにこういう本を読んで休息っていうのも一興といったところでしょうか。あまりのスケールの大きさと、著者がそれを是としている(ように見える)ところが、好き嫌いの分かれるところかもしれませんね。全部読んでないと、ストーリーが見えないので、読もうと思う方は『催眠』から読んでください。長いですけど。

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天使などいない

著者永井するみ
出版(判型)光文社
出版年月2001.4
ISBN(価格)4-334-92333-X(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★☆

弱くもあり、したたかでもある女性を主人公とした短編集。

女って怖いって言いますけど、現実的なだけなんじゃないかとこの本を読んで思ったり。それが「怖さ」に思えるのかもしれませんが、今までの社会の中で弱者だった女性が生きていくには、そうするしかなかったってことなんでしょうね。顔では笑って、本音は心の中で。派手な喧嘩もしない代わりに、上手く立ち回って自分の欲しいものは手に入れる。実際そこまで要領のいい人っていうのは、会社でのし上がっていく男性のように、女性として優れた人間だけなんじゃないかと思いますけど。

この本は、そんな女性のしたたかさを描いた作品集。ただ、作品ごとの印象が良く似ていて、それぞれ雑誌で独立した短編として読むにはよくても、こうして集めてしまうと、ワンパターンで飽きてしまうところはありますね。なんでも集めて短編集にすればいいってもんでもないってことでしょうか。

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もう一人の私

著者北川歩実
出版(判型)集英社
出版年月2000.9
ISBN(価格)4-08-774489-2(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

「私」とは何かをテーマにした短編集。

それぞれ味のあるアイデンティ問題をテーマにしていて、ホラー色あり、ミステリ色ありの短編集でした。標題と同じタイトルの作品が無いため、寄せ集めという印象も薄く、短編集の割に読み応えもあったように思います。元々こういうテーマで纏めて1冊にしよう思って雑誌に掲載していたのでしょうか。なかなかです。私は「婚約者」のホラー色が好きでしたが、皆さんはどうでしょう。

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今夜はパラシュート博物館へ

著者森博嗣
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2001.1
ISBN(価格)4-06-182166-0(\800)【amazon】【bk1
評価★★★

萌絵ちゃんと練無くんが両方でてくる短編集。

両方が出会う短編集もありということで、完全なるファンサービス的作品。それらはおいておいて、最後の「素敵な模型屋さん」はなんとなく気持ちわかるなあ、と思いました。私は子供のころ、「本屋さんに漫画しかなくなっちゃったらどうしよう」と思ってて、自分の好きな本屋さんを作るのが夢でしたね。漫画ばっかりの本屋さんもあるにはありますが、ちゃんと本も売ってる本屋はあれから20年経っても残っていて一安心です。。。森シリーズファンの方にはおすすめ・・・かな。

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総督と呼ばれた男

著者佐々木譲
出版(判型)集英社文庫
出版年月2000.8
ISBN(価格)(上)4-08-747225-6(\571)【amazon】【bk1
(下)4-08-747226-4(\571)【amazon】【bk1
評価★★★★

大正時代のシンガポール。そこで生まれ、孤児として育った彼の成長記。

ずーっと積まれていたのをようやく読みましたが、さすが佐々木氏、文章も良くて一気読みです。上下巻でそこそこ長いのですが、それほど長いとは感じませんでした。英国に占領され、中国人が台頭し、そして日本軍に占領されるという激動期のシンガポール。そこで上手く立ち回り、「裏総督」という名を手に入れた男の半生記です。最後も私の好きな終わり方で、大満足。冒険もの、戦時中の話、社会派的な作品が好きな方におすすめ。

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