2001年05月

モザイク(田口ランディ) タンポポの雪が降ってた(香納諒一)
マチルダ(ポール・ギャリコ) 恋恋蓮歩の演習(森博嗣)
紫の砂漠(松村栄子) ペロー・ザ・キャット全仕事(吉川良太郎)
断鎖 Escape(五條瑛) 淑女の休日(柴田よしき)
眠りの牢獄(浦賀和宏) 三人目の幽霊(大倉崇裕)
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モザイク

著者田口ランディ
出版(判型)幻冬舎
出版年月2001.4
ISBN(価格)4-344-00078-1(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★☆

家族などの依頼で、引きこもりなどの問題を起こしている人々を説得して、精神科などへ連れて行く移送屋。その移送屋に見込まれてスタッフの一人として働く佐藤ミミは、一人の少年を探していた。「渋谷の底が抜ける」といって、移送途中に逃亡してしまったその少年は、ある宗教団体らしきものと関わっていることがわかったが・・・。

少年の言う「俺ら」・・・赤ん坊のとき泣かなかった、持久力がない・・・云々は、私にも半分当てはまりますけど、半分は全く違う。こういうのって、星座による性格占いとかと同じで、いくつか当たっていれば、全てが自分の気質と同じように思えてくるっていうのと似てないでしょうか。職業柄、躁鬱病を始めとする精神病関係の本って非常にたくさん見るのですが、型にはめる考え方って私はあまり好きでなないですね。。。「常識」という型から遠く外れると精神の病で、さらにその病を型にはめてどうするのかな・・・とか。まずその型から脱却することを考えないとって思ったり。まあ分類することは、物事を把握しやすい(あるいはしやすくて安心)ってこともあるとは思うのですが。

渋谷の電波の話は、なんとなく「そうかも」って信じてしまいそう。私も渋谷の雑踏って苦手です。人の多さもあるのですが、もしかしたら、こんな問題もあったりするのかも。

今回の話は、題名どおりモザイクちっくで、肝心の全体の絵柄がなんだかぼやけていたような。私の理解力不足でしょうか。本当は「モザイク」という語の使い方は違うのかもしれませんけど(^^;

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タンポポの雪が降ってた

著者香納諒一
出版(判型)角川書店
出版年月2001.2
ISBN(価格)4-04-873274-9(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

せつないストーリーを集めた短編集。

この作品は、ミステリ色もハードボイルド色も薄く、本当に短編らしい短編を集めた優しい感じの短編集になっています。特に標題作でもある「タンポポの雪が降ってた」はいいですね。こういうあの時ああしていれば・・・という話に私はとても弱いです。という自分は「反省しても後悔しない」っていう人間なのですが・・・(最近反省もしてない気もする)。

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マチルダ

著者ポール・ギャリコ
出版(判型)創元推理文庫
出版年月2000.6
ISBN(価格)4-488-19403-6(\940)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

ボクシングをするカンガルー・マチルダ。元チャンピオンに見出され、今はチャンピオンと共にサーカス団などを回っていた。ところが、ある出し物中に現ミドル級チャンピオンにKO勝ちしてしまったから、さあ大変。「ミドル級チャンピオン」と新聞にも書き立てられ、あちこちで試合をするはめに・・・・

面白い!カンガルーが人間と互角に戦ってしまうという設定もさることながら、快進撃を続けるマチルダの活躍も爽快。しかもひとひねりもふたひねりもある、練られたストーリー。単なるボクシングカンガルーのコメディではありません。闘うカンガルーマチルダと、その仲間達の悪戦苦闘。カンガルーはチャンピオンになれるのか?楽しく読める1冊です。おすすめ。

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恋恋蓮歩の演習

著者森博嗣
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2001.5
ISBN(価格)4-06-182183-0(\840)【amazon】【bk1
評価★★★

富豪からの依頼は、ある自画像を盗むこと。チャンスは1度、世界一周をしている豪華客船ヒミコ号に、その自画像の持ち主が絵と共に乗り込むというのだ。ところが、そのヒミコ号で銃声が聞こえたあと、男性客が行方不明となる。

Vシリーズ第5弾。今回の舞台はちょっと毛色が変わって豪華客船。。。ところが、そこまでがながーい。もっと絞ってもいいんじゃないかなぁ。まあ著者も前置きが長いことは言っているのですが、だからって許されるわけではないでしょう。せっかく××が主人公?なのに、その職業を十分に活かしたストーリー構成にしないのは、何か理由があるのでしょうか。。。れんちゃん、しこさんといった場を盛り上げる人間は今回も健在。紅子さんもかっこいいですが、いまいち全体的な流れが見えてこないのが残念です。

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紫の砂漠

著者松村栄子
出版(判型)ハルキ文庫
出版年月2000.10
ISBN(価格)4-89456-782-2(\820)【amazon】【bk1
評価★★★★

シェプシは毎日砂漠を見て過ごしていた。紫色の砂漠は、禁断の地。人は入ることができない。しかし、何故かその光景に惹かれるシェプシは、早く親元を離れて、砂漠に入ることのできるようになりたいと思っていたが・・・。

地球とは異なる、ちょっと変わった異世界のお話。人は生まれたときは性を持たず、真実の恋に出会ったときに性分化するという部分がかなり面白い。魚だったか、メスばかり入れていると、オス化するものが出てくるという話を聞いたことがあるのですが、それに近い考え方でしょうか。彼らは最初からそういう種族だったのか、それとも何か問題があって、地球と同じ人間みたいだったものが、そうなってしまったのか。もし、自分がそういう風に性を選べるような状況にいたら、生む性(女性)になったか、守る性(男性)になったか考えたのですが、やっぱり生む性がいいなと思ったり。他にもいろいろとこの星の掟みたいなものがあって、この世界にどっぷり浸かって読むのがおすすめです。続きもあるので楽しみです。

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ペロー・ザ・キャット全仕事

著者吉川良太郎
出版(判型)徳間書店
出版年月2001.5
ISBN(価格)4-19-861349-4(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ペローは、ハイテクを駆使して猫に乗り移る技術を手に入れた。人間なら到底もぐりこめない場所へともぐりこみ、のぞきを楽しむ毎日。副産物として、地位ある人間をゆすったりしていたところ、ギャングに目をつけられてしまった・・・。

生まれ変わったら、別の動物になってみたいと思う人は多いようですが、猫っていうのはどうでしょう。この主人公は生きているうちから猫に乗り移ることに夢中になってしまって、見てはいけない部分に足をつっこんでしまうのですが・・・。人間としての感覚しかわかりませんけど、人間以外のものになるってどうなんでしょうね。。。しかもこういう技術(生物兵器?)って本当に開発されようとしているのでしょうか。そんなペロー・ザ・キャットの仕事を追った冒険話。そして結末は・・・。

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断鎖 Escape

著者五條瑛
出版(判型)双葉社
出版年月2001.5
ISBN(価格)4-575-23413-3(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

ふらふらしているところを、ある男に拾われ、空路密航斡旋という仕事をしていた亮司。いろんな人を騙してパスポート申請に必要な書類を手に入れ、安全かつスピーディに密航者を空輸する。しかし、その会社が何者かに襲われた。一体誰が裏切ったのか。襲撃者の目的は?

今までのシリーズとはちょっと外れて、密航斡旋業をする男のお話。なんとこちらもシリーズ化予定のようで、最後には「続く・・・」になっていました。きっと五條瑛の世界は、本1冊では書ききれないのでしょう。

というわけで、1冊目の『断鎖』は、どちらかというと亮司の人となりを中心としたイメージ。この空路斡旋というのが、これからの話に何か影響してくるのでしょうか。そして、このじいさんは一体。プロローグの行く末も気になります。また続きが楽しみな1冊がでてきました。

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淑女の休日

著者柴田よしき
出版(判型)実業之日本社
出版年月2001.5
ISBN(価格)4-408-53401-3(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

私立探偵をしている鮎村美生は、友人の依頼もあってある高級シティホテルの幽霊騒ぎの調査に向かった。あまりに自分の生活とかけ離れた場所に、萎え気味になる美生だったが、単なる幽霊騒ぎが実は根が深いことを知る。

シティホテルって私も結構好きで、さすがに都内にはそんなに泊まらないですが、大阪とか行くと使いますね。でも確かに高いですよねぇ。1泊一人2万5000円って、なめとんのか、こらって感じ。でもそれがすんごいアバウトな料金で、確かに正規料金はそうですけど、宿なびとか使ったり、生協の出張プランなんかを使ったりすると一気に半額以下になったり。大阪行った時は往復飛行機で2泊したのですが、飛行機往復の正規料金だけで済んでしまいました。あとレディスプランとか閑散期のお得プランなんかを使うと、別のサービスもプラスされて、1万円くらいになったり。一体何なのでしょうね。不思議です。

そんなホテルの幽霊さわぎ。実は因縁の深いもので・・・というものですが、このホテルはどこをモデルにしてるのかなあ。こうやって本を読むと、久々に都内に泊まってみたくなってしまいました。ミステリとしてはちょっと甘いというか、ご都合主義的なところもありますが、ヴァーチャル・ホテルライフを楽しむにはいいかも(^^)。

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眠りの牢獄

著者浦賀和宏
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2001.5
ISBN(価格)4-06-182190-3(\720)【amazon】【bk1
評価★★★☆

この小説は、亜矢子に読ませるために書いた。ところが、彼女が読む前に・・・。

薄い中篇ながら、なかなか面白い内容。この人は文章は読めると思うので、こういうのを書くと面白いですね。ほーそうきますか、と思ったのですが、読んだ方はどうでしょうか。あっという間に読める本なのに、実はさらっと読むとわけがわからなくなるクセモノな中篇。長い本を読んだ後にどうでしょう。

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三人目の幽霊

著者大倉崇裕
出版(判型)東京創元社
出版年月2001.5
ISBN(価格)4-488-01286-8(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

やっとの思いで、夢だった出版社勤務についた緑。ところが、彼女に下った辞令は「『季刊落語』への配属を命ずる」・・・えー落語なんて一度も聞いたことない!という彼女は、編集長の牧と共に寄席めぐりをすることになるが。

緑と編集長牧の活躍する連作短編集。短編ながら、どのストーリーもしっとりしたストーリーで、物語世界にすっと入っていける文章、という粒のそろったものでした。あまり短編を読まない私も、連作なら許す・・・といったところなのですが、そんな私もこの連作には脱帽です。特に「不機嫌なソムリエ」は泣けるほどよいですね。すっかりこの作者のファンです。最初の短編を読み始めたとき、「落語?っていうと北村薫?」って思った私でしたが、内容は全然違います。私はこっちのほうが好きかも。おすすめの1冊です。

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