1999年09月
・亡国のイージス(福井晴敏) | ・夢の島(大沢在昌) |
・巷説百物語(京極夏彦) | ・カエサルを撃て(佐藤賢一) |
・夢幻巡礼(西澤保彦) | ・盤上の敵(北村薫) |
・ボーダーライン(真保裕一) | ・バベル消滅(飛鳥部勝則) |
・閉じられた環(ロバート・ゴダード) | ・八月のマルクス(新野剛志) |
・夏草の記憶(トマス・H・クック) | ・夜想曲(ノクターン)(依井貴裕) |
・歓喜の島(ドン・ウィンズロウ) | ・人形式モナリザ(森博嗣) |
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亡国のイージス
著者 | 福井晴敏 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 1999.8 |
ISBN(価格) | 4-06-209688-9(\2300)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
海上自衛隊のミサイル護衛艦<<いそかぜ>>の艦長・宮津は、ある男の話で、自殺だと思われていた息子が、実は国家に殺されていたことを知る。鬼と化した艦長は、その男とともに「あれ」と言われる秘密兵器を強奪、それを武器に日本へと宣戦布告をする。
読んだ方は誰でも思い出すと思うのですが、この話そっくりの漫画がありますねぇ。「沈黙の艦隊」。すんごい好きでしたよ、あの漫画。でも、ちょっと文章にするとつらいかなあ。面白いのですが、この人の話ってスピード感が足りない気がするんですよねぇ。もしかすると、私があんまりこういう戦艦に興味が無いからかもしれないのですが。あとこの著者の考えと、自分の考えが合わないからかもしれません。でもじゃあ、どうして「沈黙の艦隊」は面白かったんだろ。クーデター系の話って私は好きなのですが、そういうのなら、快進撃をしてすーっとする話がいいのかもしれないですね。
夢の島
著者 | 大沢在昌 |
出版(判型) | 双葉社 |
出版年月 | 1999.9 |
ISBN(価格) | 4-575-23376-5(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
僕の父が死んだ。24年間全く音沙汰もなく、もう死んでいると思い込んでいた父の突然の訃報。慌てて父が世話になっていたというその女性のところへ、墓参りをかねてたずねる。ところが、その後あちこちから僕に「シマ」の話を持ちかける人間が出てきて・・・
あまり重くない大沢在昌。面白かったです。みんなが(しかもどう考えてもアンダーグラウンドな人間たちが)狙う「シマ」には、何があるのか。またそのシマはどこにあるのか。詳しいことは全く知らない僕のところに、次々と脅しが入って、徐々にそのシマの正体が明らかにされていくのは、意外に面白かったですね。新宿鮫シリーズとはまた違う主人公もよかったですし。でも、そんなシマがあったら、私も移住しちゃいますね・・・(^^;
巷説百物語
著者 | 京極夏彦 |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 1999.8 |
ISBN(価格) | 4-04-873163-7(\1900)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
小股潜りの又市、山猫廻しのおぎん、考物の百介、事触れの治平の4人が、江戸を舞台に活躍する連作集。当然京極夏彦ですから、ひたすら妖怪。ちょうど、4人組というのが京極堂一味を思い浮かべたりするのですが、いままでの京極堂シリーズとは全く違った雰囲気の7編です。私は最後の「帷子辻」が一番面白かったですね。人間は死んでしまえばただのモノ。カバー裏の絵がかなり凄惨です。こういう哀しいホラー(?)は結構好き。「舞首」もなかなか。全体的には、まあまあだったかなという感想です。
カエサルを撃て
著者 | 佐藤賢一 |
出版(判型) | 中央公論新社 |
出版年月 | 1999.9 |
ISBN(価格) | 4-12-002932-8(\1900)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
ローマ帝国によって良いようにされていたガリア。その混沌のガリアを纏め上げ、ローマのユリウス・カエサルに対抗した、ウェルキンゲトリクスの半生記。
ウェルキンゲトリクスの半生記と書きましたが、その視点はカエサルの視点と、ウェルキンゲトリクスの視点と交互に書かれているので、ちょっと感情移入がしにくかったかなという感じです。佐藤賢一が書いた半生記といえば、「双頭の鷲」を思い出すのですが、あの痛快な小説と比べると、ちょっと落ちるかなぁ。どっちかにものすごく肩入れした戦記だともっと面白かったと思うんですけれども。
夢幻巡礼
著者 | 西澤保彦 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 1999.9 |
ISBN(価格) | 4-06-182077-X(\1100)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
奈倉渉のところに、電話がかかってきた。なんと十年前に嵐の別荘から失踪した<リョウ>からだった。彼が失踪した日、その別荘では2人が惨殺されている。「再びその別荘に来い」という<リョウ>の言葉に、奈倉は上司の能解警部と共に別荘を訪れる。
<神麻嗣子シリーズ>の番外編。能解警部しか出てこないお話です。彼女の部下で大学時代の友人、奈倉渉が実は殺人鬼という恐ろしい設定。十年前の事件の真相と共に、このシリーズ自体の完結に大いに関わってくる作品だそうです。ストーリーはひたすら暗く、ものすごく鬱になりました。自分が殺人鬼になった気分。ただ、それくらいストーリーに集中できたという意味では、やっぱり面白い作品でしたね。「念力密室!」に収録されて、かなり話題となった6番目の作品「念力密室F」とこの作品とあわせて、一体どんな完結編が待ち受けているのか・・・すごーく楽しみな反面、ちょっと読みたくないという気も(^^)。
盤上の敵
著者 | 北村薫 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 1999.9 |
ISBN(価格) | 4-06-209876-8(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
末永が家に帰ってみると、パトカーが家を取り囲んでいた。なんと自分の家に凶悪犯が立てこもり、妻を人質に取っているというのだ。妻を救いたい末永は、ある作戦を思いつく。
うまい!という感じ。トリックにびっくりするというより、うまいなあという感想です。登場人物をチェスの駒(クイーン、キング)に例え、どうチェックメイトまで持っていくかというお話。様相の見えないある駒が、実は重要な役割を果たしているのですが・・・。かなり面白かったです。おすすめ。
ボーダーライン
著者 | 真保裕一 |
出版(判型) | 集英社 |
出版年月 | 1999.9 |
ISBN(価格) | 4-08-774426-4(\1700)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
故郷を捨て、ロサンゼルスで雇われ探偵をしている永岡のもとに、ある依頼が回ってきた。家出をして行方不明になっている息子を探して欲しいというものだった。単なる家出少年探しかと思われたその調査だったが・・・
生まれながらの犯罪者というのは存在するのか、という命題に挑むハードボイルド。真保裕一が海外を舞台に書くのって、確か初めてですよね。面白いのですが、やっぱりこういう私立探偵ものって、「こういう本前に読んだなー」と思ってしまいますね。「ホワイトアウト」を超える作品を期待するのは、ちょっと酷?
バベル消滅
著者 | 飛鳥部勝則 |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 1999.8 |
ISBN(価格) | 4-04-8731726(\2200)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
佐渡と粟島の中間にある孤島、鷹島。そこで不可解な事故死が相次いでいた。たまたま最初の死体の発見者となってしまった教員の田村は、その死にあるミッシング・リンクを見出そうとするが。
再び、絵が先にくる推理小説。さまざまな人の書いたバベルの塔がキーワードとなって、次第に事件が深みにはまっていくのですが。うーん、この最後はなあ。私は納得できません。このトリックを使うなら、もう少し考えて欲しかったな、という感じです。前作はもっと絵が存分に関わってきたのですが、今回はちょっとこじつけっぽいのも、うーんと思ってしまった一因かもしれません。
閉じられた環
著者 | ロバート・ゴダード |
出版(判型) | 講談社文庫 |
出版年月 | 1999.9 |
ISBN(価格) | (上)4-06-264672-2(\648)【amazon】【bk1】 (下)4-06-264705-2(\648)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
1932年、アメリカで荒稼ぎをしていた詐欺師コンビのガイとマックスは、あるへまから故郷へ逃げ帰ることになった。イギリスへの旅に豪華客船<女王陛下号>に乗り込んだ彼らは、目をつけた乗客に取り入って再び詐欺を働こうとする。そのマックスの目にとまったのが、富豪の一人娘で絶世の美女のダイアナ。仕事そっちのけで彼女に惹かれるマックスだったが・・・
最初、ガイとマックスがどうやって富豪から詐欺を働くのか、という話かと思っていたのですが、そこはゴダード、そんな簡単には終わらせてくれません。現実主義者のはずのマックスは、すっかりダイアナの虜になってしまい、親に結婚を反対されると駆け落ちしようと言うところまで行ってしまうのですが、そこにある事件が起きて、巨大な陰謀が次第に明かされるというゴダードらしい話。今回は「陰謀」がちょっと大きすぎて、いまいちのめり込めなかったかなあと思っていたのですが、最後はよかったですね。実際のところ、こんな「陰謀」があってもおかしくないと思えるところが、ゴダードのすごいところでしょうか。
八月のマルクス
著者 | 新野剛志 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 1999.9 |
ISBN(価格) | 4-06-209857-1(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
笠原雄二は、元お笑い芸人。5年前のある事件で芸能界から身をひいてから、芸能界とは一切関わらずにやってきた。ところが、5年ぶりに芸人時代の相方がいきつけの店に現れる。一晩飲み明かして帰った相方だが、その直後失踪。突然現れたことと言い、相方の言った「癌で先が短い」という言葉といい、気になった笠原は、相方を捜そうとする。
相方の失踪を調査するうちに、2回で打ち切られた深夜のバラエティー番組が浮かび上がってくるのですが、さてさて、それがどう関係してくるのか、というお話。まとまりはあって面白いのですが、なんとなく新鮮さに欠けるというか、2時間ドラマ的だなあというイメージ。★4つはあげられないけど、なかなか面白いかなという感じです。でも、すごく良く調べてあるなという印象もあって(わたしは芸能界が本当はどういうところなのか知らないので、本当かどうかは別)、今後が楽しみな作家さんでもあります。経歴もふるっていて(^^)、その経験を生かした面白い題材で、あっと驚く小説を書いてもらいたいものです。
夏草の記憶
著者 | トマス・H・クック |
出版(判型) | 文春文庫 |
出版年月 | 1999.9 |
ISBN(価格) | 4-16-721858-5(\667)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
現在、名医としてある田舎町に住むベンは、30年前に「心臓破りの丘(ブレイクハートヒル)」で起こった痛ましい事件の回想をしていた。転校生でもあり、ベンと仲のよかったケリーが無残な姿で発見されたのだ。地元民でもあまりいかないその丘へ、なぜケリーは迎えも頼まずに行ったのか。そしてその犯人は・・・
おーやられた、という感じ。多分事件の真相よりも、「あること」の方にわたしはびっくりしました。回想によって、徐々に明らかにされる真相に、わたしはてっきりこいつが実は犯人なんでしょう、と思っていたのですが、甘かったですね。記憶シリーズは、この本で3冊目になりますが、この本が一番好きかもしれません。
夜想曲(ノクターン)
著者 | 依井貴裕 |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 1999.8 |
ISBN(価格) | 4-04-873175-0(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★☆ |
人の首を絞めた生々しい記憶におびえる桜井。しかし、人を殺したという心当たりは全く無いし、過去を思い出すことができない。そんな彼のところにある手紙が届いた。山荘で行われた同期会の時の記録。そこには・・・
同期生が3日3晩の間にひとりひとり殺されていて、その犯人を暴く推理小説なのですが、うーん、この真相は・・・。ちょっといただけないですかね。手紙形式で、読み手はその参加者の一人、そして彼はその時の記憶が無いという設定自体は面白いと思うのですが、それが活かしきれてない感じでした。
歓喜の島
著者 | ドン・ウィンズロウ |
出版(判型) | 角川文庫 |
出版年月 | 1999.9 |
ISBN(価格) | 4-04-282302-5(\952)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★☆ |
元CIAの工作員で、ヨーロッパで活躍したウォルターは、現在民間の調査員に転身、NYで働いている。上司からの依頼で、若い上院議員とその妻の警護についた彼だったが、上院議員の秘密が思わぬところから波紋を呼んで・・・
やっぱり面白いですね、ウィンズロウ。というか、この本ストーリー的にあんまりウィンズロウっぽくないなーと思いながら読んでいました。今回はニールものではない1冊なのですが、元CIA工作員が、恋人の歌手と共に政治的な陰謀に巻き込まれるお話。誰が味方か分からない状況で、ウォルターはうまく上院議員を守ることができるのでしょうか。おすすめです。
人形式モナリザ
著者 | 森博嗣 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 1999.9 |
ISBN(価格) | 4-06-182092-3(\800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
蓼科のペンションでバイトをしている練無のところへ押しかけた阿漕荘の面々。ペンションの近くにある人形博物館で、乙女文楽が演じられたが、その最中、演者が何者かに殺害された。不可解な状況に頭を悩ます彼らだったが。
なんだかんだ言って1ヶ月ほど放っておかれてしまったこの本。でも読み出したらあっという間でした。結構面白かったです。人形コレクタ岩崎達治の子孫たちが巻き込まれる殺人事件。一方で、江尻駿火が愛人に残した「モナリザ」という人形の謎もまた面白いです。さてさて、大騒ぎの一行は事件を解決することができるのでしょうか。
このシリーズ、事件もさることながら、メインキャラの人間模様も面白いですね。まだまだ何か出てきそうで(^^)。今回も吃驚の真相ありです。一体このシリーズはどこへ落ち着くのでしょうか。
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