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22.ジンリキシャングリラ 23.芸者でGO! 24.店長がいっぱい 25.誰がために鐘を鳴らす 26.天晴れアヒルバス(文庫改題:あっぱれアヒルバス) 27.ふたりみち 28.あたしの拳が吼えるんだ(文庫改題:あたしとママのファイトな日常) 29.神様には負けられない 30.マイ・ダディ |
【作家歴】、笑う招き猫、はなうた日和、凸凹デイズ、幸福ロケット、男は敵女はもっと敵、美晴さんランナウェイ、渋谷に里帰り、カイシャデイズ、ある日アヒルバス、シングルベル |
床屋さんへちょっと、愛は苦手、失恋延長戦、ヤングアダルトパパ、パパは今日運動会、寿フォーエバー、一匹羊、GO!GO!アリゲーターズ、東京ローカルサイキック、展覧会いまだ準備中 |
人形姫、花屋さんが言うことには、おでんオデッセイ、社員食堂に三つ星を |
21. | |
「幸福トラベラー」 ★☆ |
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2015年09月
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新聞部の取材という理由で写真撮りに上野公園にやってきた中2生=小美濃春生は、偶然出会った見知らぬ女の子=やはり中2生だという行方彩夏に付き合って、上野公園を半日一緒に散策して回ることになります。 不器用な男の子からしたら夢のような、ワクワク、ドキドキのヤングアダルト向けストーリィ。 でもこれってそう珍しくもない物語パターンで、名作映画にも結構あります。「或る夜の出来事」「フォロー・ミー」もありますが、極め付けはやはり「ローマの休日」でしょう。 差しづめ本書、中学生版“上野公園の休日”というところか。 上野公園が観光地かというと東京人としては物足りなさも感じますが、広さもそれなりにあり、山も池も観光施設もあるという点では中学生同士の仄かなラブストーリィにはぴったりの舞台かなと思います。 活発な女の子にずっと引っ張られっぱなしではありますが、2人が生き生きと上野公園を歩きまわる姿には、こちらもつい一緒に散策している気分にさせられ、楽しいものがあります。 なお、背後霊のように時々登場する人物の存在が愉快。 また、「ある日、アヒルバス」のデコがゲスト出演しています。 |
22. | |
「ジンリキシャングリラ」 ★★ |
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2017年03月
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日本海沿いにある小さな市=猫跨市は、自称“日本海の小京都”というものの特段観光客が多い訳ではない。 その猫跨市にある県立鷭(ばん)高校には、珍しい部がある。それが“人力車部”。文字通り人力車を楽しむ部で、一応車夫チームと制作チームに分かれ、さらにマネージャーという構成。 高校に入学して野球部に入学した早々、主人公=浅間雄大は理不尽な言動をする上級生を締め上げ、即退部。そこに声をかけてきたのが一学年上の可愛い女子=珠井由紀、「人力車部、入ってくんない?」と。 珠井に誘われるまま人力車部に入部した雄大でしたが、人力車部に相応しくそこには奇人、変人もいて・・・。 本書は正統派“高校青春ストーリィ”、マイノリティ、友情、純情な恋と、まさに真っ向勝負。これだけけれん味のない高校青春ストーリィは、今の時代、ずいぶんと久し振りに味わった気がします。 特に興味を覚えなかった部の同学年生たちとも、一緒に行動してみて初めて仲間たちと一緒にいる楽しさを雄大が知る、という展開も正統派ストーリィだからこそでしょう。 こんな楽しさを味わえるのは、たとえ爆沈しても後悔しない行動を取れるのは、高校時代だからこそ、という山本さんから今の高校生たちへのエールを感じる作品。青春小説好きの方にとっては快感、と言える一冊です。 |
23. | |
「芸者でGO!」 ★☆ |
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2017年06月
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東京は八王子の置屋「夢民」に所属する芸者衆5人を一人一人描いた連作小説 山本幸久さんのことですから今回は“芸者”というお仕事小説?と思うところですが、そういう面が無くはないにしろ、各人の芸者になるまでの事情&なってからの状況という連作ドラマ。 さらにプラスして、そうした経緯を踏まえてこれからも芸者でやって行こう、という各人の思いが爽快です。 芸者というと特殊な職業と思いがちですが、そうした点では一般的な“仕事”とそう変わるところはない、と思わされます。 登場する5人は、同じ芸者といっても年代は10代から40代と幅広い。元女子高生(弐々こと杉浦晴子)、元女子プロレスラー(兎笛こと望月優希)、元キャバ嬢(未以こと沢村紗英)、元丸の内OL(寿奈富こと田中喜久代)、シングルマザーの元看護師(茂蘭こと細井千香)と経歴は様々です。それだけに各人の人生、恋愛等々のドラマがたっぷり楽しめます。 そしてもうひとつ、後へ後へと期待を高めているのは、元丸の内OLという寿奈富が漂わせる謎めいた雰囲気。一体彼女にどんな秘密があるのか。そこは少々ミステリ風の味付けになっていて興味津々。 山本幸久さんらしく、軽快に、かつ楽しく読める一冊。 本書を読んだ後はきっと、芸者衆が少々身近に感じられるようになっていることでしょう。 ※なお冒頭、「ある日、あひるバス」のデコこと高松秀子が、杉浦晴子の従姉にしてツアーガイドとしてゲスト出演、ストーリィの盛り上げに一役買っています。お楽しみに。 1.よりを戻して/2.伽羅の香り/3.夕立の余り/4.真鶴/5.待ちわびて |
24. | |
「店長がいっぱい」 ★★ |
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2017年10月
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“お仕事小説”と言えばこの人、というくらいに作品の多さ、職業の多彩さから右に出るものがいない山本幸久さんの、最新刊お仕事小説。 今回はファーストフード“友々丼”チェーンの店長、7人。 その本社である“友々屋”は、真田あさぎが一人息子を育てるため30年前に一店舗から始めた他人丼の店、名前を“友々丼”に変えて成功し、今や国内外に 120店を数えるチェーン店という設定です。 ファーストフードの丼チェーン店舗となれば、労働実態も今や結構過酷なものと推察できますが、そんな業態の店長になったのには各人それなりのドラマがある訳で、その辺りが本書の読み処。 登場する店長7人の内、オーナー兼店長は4人。オーナー店長ともなれば直接生計に関わってくる訳ですから業績堅持も必死。でも堅持できたからといって楽ができる訳でも沢山儲かるという訳でもなく、また有能なバイトもいれば問題児のバイトもいるといった具合で、つくづく大変ですよねぇ。 脱サラに失敗、あるいは離婚してひとりぼっちになり、すがりつくようにして店長に応募した中年男女もいれば、一年発起して店長に応募した若い女性店長、左遷されて海外直営店の店長になった男性も有りと、様々なドラマは各々短いながら読み応え十分です。 各篇、企画失敗ばかりの二代目ダメ社長が話題に上る他、本社フランチャイズ事業部に所属する美人で有能という霧賀久仁子が登場し、各篇ストーリィを引き締めています。 山本幸久さんの手慣れたお仕事小説の上手さと、ささやかな人生ドラマが選り取り見取り楽しめる、連作ストーリィ。 ※なお、何のための仕事? 皆が幸せになるためではなかったかという問い掛けは、至極もっともだと思うのです。 松を飾る/雪に舞う/背中に語る/一人ぼっちの二人/夢から醒めた夢/江ノ島が右手に/寄り添い、笑う |
25. | |
「誰がために鐘を鳴らす」 ★☆ |
2019年03月
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「誰がために・・・」と言えば、頭に浮かぶのは当然にしてヘミングウェイの代表作「誰がために鐘は鳴る」。 しかし、本書はその名作とは全く関係なく、「鐘」とは楽器の“ハンドベル”のこと。 来年の3月に廃校が決定済の諏那高校、在校生は3年1クラスの42人のみ。 その諏那高校から備品の楽器を運び出す際に手伝わされた生徒たちが偶然眼にしたものは、ハンドベル。 主人公である錫之助と同級生3人は、女子校とのハンドベル合同練習を目的にハンドベル部を立ち上げますが、その音色に魅せられて次第に練習へと熱が入っていく。 別に仲が良い訳でも友人という訳でもない、という4人だったのですが、5人揃わないと(生徒4人+担任教師)演奏ができないという事情もあってか、いつしか絆が生まれていく。 廃校決定済の高校生徒ということでどこか冴えない表情の主人公たち。それがハンドベルとの出会いによって一変します。 一応は高校生たちの青春ストーリィなのですが、高校生活の最後に至って何とか大切なものを発見するのに間に合った、という印象です。 「終わりよければすべて良し」という言葉がありますが、ハンドベルとの出会いが、錫之助たちにとって自分の未来をどう選択するかという問題にも繋がっていきます。 なお、「店長がいっぱい」に登場した霧賀久仁子が、錫之助たちの先輩として登場、本ストーリィへの貴重なスパイスとなっています。 また、終盤になって登場する女子高生は、主人公へのご褒美のようなものでしょうか。(笑) 主人公たちと一体感を抱ける、極めて気分の良い高校生ストーリィ。私好みです。 |
26. | |
「天晴れアヒルバス」 ★★ (文庫改題:あっぱれアヒルバス) |
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バスツアー会社のガイドたちが奮戦する様子を描いた「ある日、アヒルバス」、よもやの続編。 でも主人公のデコ、これまでも他作品に時々顔出しをしていましたから、続編が登場しても何ら不思議ないことだったのかもしれません。 前作で中堅バスガイドだったデコこと高松秀子も30歳となり、すっかりベテランガイド。 とはいうものの、同期の中森亜紀は既に結婚、長男を出産して現在は産休中。前作で新人ガイドだった“華のゼロハチ組”と言われる後輩5人も次々とツアー企画を生み出してはヒットさせ、あるいは旅館の女将、あるいは通訳ガイドの中心として大活躍中。 それに比べて現在の自分は恋も仕事も不調、と嘆き節。 そんな状況のところ、外国人向けのオタクツアーのガイド代役に急遽引っ張り出されたデコでしたが、コンビを組む相手が社内外から評判最悪の本多光太とは。 最初から暗雲垂れこむオタクツアーが開始されますが、さてデコ、どう本多光太を切り裂くか・・・・? 仕事への貢献度、女性としての好感度、自己評価と周囲の評価があるで異なるというパターンは、良くも悪くもあるものですが、本ストーリィもそのことが鍵となっているようです。 自信喪失中と言えども、ツアー客が喜んでこそガイドの喜び、というデコの信念は健在、だからこそデコを応援し、それによって読み手も元気になれる、というのが本作の真骨頂。 「笑う招き猫」のアカコとヒトミの登場、「凸凹デイズ」の浦原凪海らの登場が、山本幸久ファンにとっては嬉しいところ。また、フィギュア制作会社の社員でイケメンながらボーズ頭の龍ヶ崎銀蔵のキャラも充分楽しめます。 1.並ぶ招き猫/2.周回遅れのビリッケツ/3.カンバンボーイ/4.コール・ミー・デコ/5.魔法の力/6.四人はハラキリズ/7.アッパレちゃん参上/8.メチャクチャ、あたしのタイプ/9.すっごくミライ/10.彼女はゲイシャガール/11.なぜ寿限無?/12.タコ社長ではない/13.招ぎ猫がいっぱい/14.とりあえずのおわり |
27. | |
「ふたりみち」 ★★ |
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2020年11月
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野原ゆかり、67歳。元ムード歌謡の歌手で芸名は“ミラクル・ローズ”、現在は函館の五稜郭近くで小さなスナックを営む。 そのゆかり、歌手はとうの昔に引退したものの、ある事情から再びコンサートツアーと称してドサ廻りの旅へ。 ところが旅立って早々、津軽海峡を渡るフェリーの上で知り合ったのが、もうすぐ中学生という12歳の少女、森川縁(ゆかり)。ピアノ練習を強要する母親に反抗し、家出してきたとのこと。 すっかりゆかりの歌に夢中になった縁、ゆかりの旅について行きたいと言い出し、ゆかりの方も縁が気になって、縁はゆかりの旅に同行することになります。 要は、67歳のゆかりと12歳の縁という2人の、温かな思いが通ういあうロードノベル。 ところが、約束していたツアー場所では次々とトラブルが発生、尽く中止という有り様。それでも2人は旅を続け、最後は目指す東京のある場所へ。そこで2人は・・・。 過去にいろいろな思いを抱えてここに至ったゆかりと、これから様々な可能性がある縁という2人の組み合わせがユニーク。 2人の想いが繋がり合って、お互いに新たな道が見えてくる、という展開が嬉しい。 これぞロードノベルが持つ楽しさ、魅力です。 元気でしっかり者、その上大喰いという縁のキャラクターがピカイチ。でも、一流のシャンソン歌手ばりにエディット・ピアフの名曲「愛の讃歌」を朗々と歌い上げるゆかりも、決して縁に引けを取りません。とくに、ラップ・バトルの場面は見もの。 2人の旅はまだこれからも続く、そんな幕切れは良いなぁ。 |
28. | |
「あたしの拳が吼えるんだ」 ★★ |
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小学4年の橘風花(ふうか)、診察を受けた歯科医院で目に留めたのは、ボクシング女子選手のポスター。 受付女性の戸部小町がそのボクシングジムのトレーナーだったということもあり、誘われて見学に。そこで一気にボクシングに惹きつけられた風花は、母親に懇願して戸部ボクシングジムの練習生となります。そして・・・。 すっかりボクシングに嵌ってしまった風花、ジム、自宅と毎日練習を欠かさない熱心さ。 その熱心さに惹かれるようにして、周辺人物たちも風花を中心にして活気を増していきます。 いやー、メッチャ楽しいです。 無心に何かに夢中になっている人が傍にいると、自分までも楽しくなってくる、自分も負けずに頑張ろうという気になる・・・風花がボクシングに熱中したことで作り出す世界は、まさにそんな風です。 戸部ボクシングジムの戸部松之進・小町親子、世界チャンピオンの挑戦予定のサクラ、風花を姉のように慕う6歳の未来(みく)。 下級生に対して横暴に振る舞うことから殴ってやりたいと思っていた6年生の織田公平、風花の同級生で優等生の川原一路、そして同い年の強豪選手で風花をライバル視する橋本龍子と、風花の世界はどんどん広がっていきます。 それは、風花の母親である陽菜子についても言えること。風花のボクシング熱に巻き込まれたおかげで、勤務先の<浅利洋裁>で手を焼いていた新人3人のヒヨッコトリオともいつの間にか気軽に話し合える関係になります。 風花の目覚ましい上達が嬉しい、それに驚く周辺人物たちの表情を見るのも楽しい、風花と陽菜子の世界があっという間に広がったことにもワクワクします。 とにかく嫌味なところが全くなく、熱心さでまっしぐらに進んでいくストーリィですから、楽しさこの上なし。 もちろん、ボクシングシーンも魅力いっぱいです。お薦め。 |
29. | |
「神様には負けられない」 ★★ |
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2023年10月
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義肢装具士というお仕事小説、いやその前段階=修業中小説。 何故って主人公たちは、義肢装具士の専門学校で装具士になるための技術を学んでいる最中なのですから。 お仕事小説の楽しみは、そのドラマの他に、その業界の内情を知る処にあります。その点では本作も全く同一。 義肢を製作するための様々な苦労、そして障害者にとっての苦労(義肢が壊れて修理する場合の煩雑な手続)やハンデ(就職等)様々な問題を知ることができるストーリィになっています。 その中でハッとさせられたことは、障害のある人を可哀想だとか気の毒だとか言うのは、所詮健常者の上から目線に他ならないということ。 考えさせられること、反省させられること、本作を読む中で諭されることは沢山あります。 なお、神様は人間の身体を驚くほど精巧に作った。義肢を作る僕らも「神様に負けてはいられない」というのが題名の意味。 主人公は、7年間勤めた内装会社を辞めて渋谷医療福祉専門学校(シブイク)に入学し、現在2年生の二階堂さえ子・26歳。 他の生徒は殆どが20歳前後とあって浮き上がった存在、学びながら自分に自信が持てず、でも恋人とも別れ貯金も学費に注ぎ込みとまさに背水の陣。 そんなさえ子をなんだかんだ支えてくれているのは、同じ四班に属する永井真澄、戸樫博文という19歳の生徒仲間。 3人、学んでいく中で、様々な障害者、様々な義肢装具士と出会いを重ねて成長していきます。 この辺りは、山本さんの手練れの上手さを感じる処です。 予想外だった面白さは、最初の頃に自信がなさそうだったさえ子が、終盤(それが本性だったのでしょう)気の強さを現し、印象が一変していくところ。これはかなり痛快です。 また、山本幸久ファンにとって嬉しいのは、これまでの作品に登場した人物、団体が次々に登場してくること。 何と言ってもその代表は、ゴミヤ(醐宮純子)に他なりませんが、他にも凹組の浦原凪海、山田香な子、ココスペース(さえ子の元勤務先)の篠崎や大家、高校の人力車部、芸者の弐々、友々屋の霧賀久仁子、といった具合。 彼らがどんな風に登場するのか、是非お楽しみに。 |
30. | |
「マイ・ダディ My Daddy」 ★☆ |
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2021年 9月全国公開予定、ムロツヨシ初主演映画「マイ・ダディ」の小説版。 主人公となる御堂一男は、小さな教会の牧師。 15年前、キャリーバック一つで教会に飛びこんできた江津子と出会い、愛し合って結婚、ひかりという愛娘に恵まれます。 しかし、8年前江津子は交通事故で死去、一男はガソリンスタンドのバイトで生活費を稼ぎながら教会と娘を守ってきました。 そのひかりも今は中二生。しかし、ある日ひかりが突然倒れ、下された診断結果は・・・急性骨髄性白血病。 それでも闘病生活を終え、ひかりは無事退院できることになったのですが、さらに一男を衝撃的な事実が襲います・・・。 父と娘の物語。そして、娘ひかりに対する一男の、愛情の本気度を試されるようなストーリィ。 神は、耐えられないような試練に合わせるようなことはしない、と信じてきた一男ですが、一男の心は揺るぎます。 たった一人を除いて、登場するのは皆、好感度溢れる人たちばかり。でも、娘のために本気で行動できるのは、やはり一男一人なのです。 小説もそれなりに感動できるストーリィですが、これはやはり、映画でムロツヨシさんが演じてこその魅力、と思います。 映画公開が、楽しみです。 |
※映画版 → 「マイ・ダディ」
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