新潮社編アンソロジーのページ

  

1.
甘い記憶

2.ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ

3.十年交差点

 


     

1.

●「甘い記憶 6 Sweet Memories 」● 

 
甘い記憶

2008年08月
新潮社刊

(1200円+税)

 

2008/08/31

 

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本書は、森永製菓会社が実施した「森永チョコレート カレ・ドショコラ」のキャンペーンプレゼント本「ひとり時間にカレ・ド・ショコラ 6ショート・ストーリーズ」を単行本化したものだそうです。
そのため、どのストーリィにも必ずチョコレートがモチーフとして登場します。
そしてストーリィの内容はといえば、チョコレートの相応しく、苦味と甘さの入り混じった恋愛もの風。

ただ、私の好みからすると今ひとつ。
女性の恋愛観、生き方観に立ったストーリィという色彩が強いからかもしれません。その代表的な篇が、江國香織「おそ夏のゆうぐれ」、野中柊「二度目の満月」
小手鞠るい「湖の聖人」は如何にも小手鞠さんらしい作品。エンキョリレンアイを偲ばせるところがあって、私の好み。
また、吉川トリコ「寄生妹」も面白い一篇。寄生虫のように妹を譬えながら、妹は姉にどこか甘え、そんな妹を姉もどこかで愛おしんでいるところがあります。

 井上荒野 「ボサノバ」
 江國香織 「おそ夏のゆうぐれ」
 川上弘美 「金と銀」
 小手鞠るい「湖の聖人」
 野中柊  「二度目の満月」
 吉川トリコ「寄生妹」

  

2.

●「ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ」● ★☆

 
ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ

2008年10月
新潮社刊

(1400円+税)

 

2008/11/21

 

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紫式部「源氏物語」を元に9人の作家が描き出した、原作とは別の源氏物語ストーリィ。

意外に面白かった、というのが率直な感想です。
複数作家のアンソロジーというと、一人一人の個性がぼやけてしまうところがあるのですが、本書は「源氏物語」という共通土台があるために、かえって各作家の持ち味、趣向の違いがはっきり出ていて面白い。
また、「源氏物語」というひとつの作品であっても、各々の場面ごとに光源氏の置かれた状況も違えばその行動、その結果も異なります。そうした違いについて、各作家の持ち味を踏まえて役どころを与えるという、組み合わせの妙がお見事。楽しいことしきりです。
とくに女性作家と男性作家で趣は大いに異なります。
女性作家は、光源氏に恋を仕掛けられる女性側を描き、光源氏に愛された女性たちの揺れ動く心理を艶やかに描き出します。
松浦理英子「帚木」空蝉は切なく、江國香織「夕顔」夕顔は刹那的に美しく、角田光代「若紫」に描かれる少女のエロスは甘く匂い立つよう。
一方、男性作家は光源氏の側を描き、町田康「末摘花」の光源氏はどこまでもコミカル(大輔の命婦という存在がまた面白い)で、島田雅彦「須磨」の光源氏には絶頂を過ぎた男の儚さが感じられます。

原作を読んだことがあればもっと違いが判って楽しいだろうと思うのですが、私自身は読んでいないことが残念。
なお、時代は冒頭こそ平安朝のようですが、「若紫」にはアイロンの話が飛び出し、「葵」は妊娠検査薬を試すところから始まるという具合に、時代設定は自由自在。
9篇の中で特に印象的な作品はというと、「夕顔」「葵」。前者はたおやかな面影を残し、後者は金原ひとみさんの描く若いギャルから子を持つ母親への変貌が若々しくかつ鮮烈で、共に忘れ難い2篇です。
そしてまた、桐野夏生さんにしては珍しく抑制の効いた観のある「柏木」、最後を締めるに相応しい風格ある小池昌代「浮舟」の2篇も見逃せません。

 松浦理英子「帚木」
 江國香織 「夕顔」
 角田光代 「若紫」
 
町田 康 「末摘花」
 金原ひとみ「葵」
 
島田雅彦 「須磨」
 
日和聡子 「蛍」
 桐野夏生 「柏木」
 小池昌代 「浮舟」

                

3.
「十年交差点 ★☆


十年交差点

2016年09月
新潮文庫刊

(550円+税)

 


2016/11/12

 


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「10年」をテーマにしたアンソロジー。
普段アンソロジーは余り読まないのですが、顔ぶれに惹かれて読もうと思ったのですが、購入してからだいぶ時間が経ってしまいました。
アンソロジー故に、それなりに楽しめた面もあり、物足りない面もあり、という感想。

・中田永一「地球に磔にされた男」
タイムマシンが題材。タイムマシンというと梶尾真治さん、というイメージなのですが、中田永一さんがという意外性が面白さかも。
・白河三兎「白紙」
何か問題を抱えたらしい女子生徒を担任教師が気に掛ける話。良い方向へ進むと思いきや、逆転の背負い投げといったシビアな結末は、白河三兎さんならではのもの。
・岡崎琢磨「ひとつ、ふたつ」
初めての作家さんです。結婚に積極的になれない事情を抱えた女性が主人公。今やいろいろ考えさせられます。
・原田ひ香「君が忘れたとしても」
姉の死後、幼い甥を義兄と一緒になって育てた女性が主人公。こうした関係の継続は難しいもの。でも最後はホッ。
・畠中 恵「一つ足りない」
中国から倭国に渡った河童の頭=
九千坊河童が主人公。利根川河童の大親分=禰々子河童も登場する処は、「しゃばけ」の延長という気分。

 中田永一「地球に磔にされた男」
 白河三兎「白紙」
 岡崎琢磨「ひとつ、ふたつ」
 原田ひ香「君が忘れたとしても」
 畠中 恵「一つ足りない」

 


   

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