畠中 恵
(はたけなか・めぐみ)作品のページ No.1


1959年高知県生、名古屋育ち。名古屋造形芸術短期大学ビジュアルデザインコース・イラスト科卒。漫画家アシスタント、書店員をしながら漫画家を志し、88年小学館の漫画雑誌でデビュー。ただし漫画家としての作品は3作どまり。都築道夫さんの創作教室に丸8年通って小説家を目指す。2001年「しゃばけ」にて第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞、同作品にて作家デビュー。“しゃばけ”シリーズはすっかり人気シリーズとなり、同シリーズは2016年第1回吉川英治文庫賞を受賞。


1.しゃばけ

2.ぬしさまへ−「しゃばけ」シリーズNo.2−

3.百万の手

4.ねこのばば−「しゃばけ」シリーズNo.3−

5.おまけのこ−「しゃばけ」シリーズNo.4−

6.アコギなのかリッパなのか

7.うそうそ−「しゃばけ」シリーズNo.5−

8.みぃつけた−「しゃばけ」シリーズ絵本−

9.まんまこと

10.ちんぷんかん−「しゃばけ」シリーズNo.6−


つくもがみ貸します、しゃばけ読本、こころげそう、いっちばん、アイスクリン強し、こいしり、ころころろ、ゆんでめて、若様組まいる、ちょちょら

 → 畠中恵作品のページ No.2


やなりいなり、こいわすれ、ひなこまち、さくら聖・咲く、けさくしゃ、つくもがみ遊ぼうよ、ときぐすり、たぶんねこ、明治・妖モダン、すえずえ

 → 畠中恵作品のページ No.3


えどさがし、まったなし、なりたい、うずら大名、明治・金色キタン、若様とロマン、おおあたり、まことの華姫、ひとめぼれ、とるとだす

 → 畠中恵作品のページ No.4


むすびつき、新・しゃばけ読本、つくもがみ笑います、かわたれどき、てんげんつう、わが殿、猫君、あしたの華姫、いちねんかん、いわいごと

 → 畠中恵作品のページ No.5


もういちど、御坊日々、こいごころ、忍びの副業、おやごころ、いつまで 

 → 畠中恵作品のページ No.6

  
 → しゃばけ倶楽部〜バーチャル長崎屋〜

 


    

1.

●「しゃばけ ★★      日本ファンタジーノベル大賞優秀賞

 
しゃばけ画像

2001年12月
新潮社刊

(1500円+税)

2004年04月
新潮文庫化

2002/02/20

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一言でいえば、アイデア勝負の時代小説、というところでしょうか。

主人公の一太郎は、廻船問屋兼薬種問屋の大店・長崎屋のひとり息子。生まれついての病弱故に、両親は勿論のこと、周囲皆からいつも健康を気遣われている、という境遇。
今は亡き祖父がそんな一太郎を心配して世話を頼んだ相手が、何と妖(あやかし)犬神、白沢
その2人以外にも一太郎の周囲には屏風のぞき、鳴家(やなり)等多くの妖が集まり、一太郎と妖たちの交流は結構にぎやか、という舞台設定です。

そんな一太郎が、夜の外出時に闇夜の殺人事件に遭遇。
それ以降、薬種問屋の主人が襲われ、殺されるという事件が相次いで起こります。さて、一太郎と妖たちによる探索および推理、犯人との対決は如何に、というストーリィ。

さしづめ一太郎は、時代小説版“病床探偵”(安楽椅子探偵ではなく)という役割でしょうか。
これぞまさしく日本昔話的ファンタジー・ノベル!

※「娑婆気」:俗世間における、名誉・利得などのさまざまな欲望にとらわれる心(本書・辞典「言泉」からの引用文)

      

2.

●「ぬしさまへ ★★


ぬしさまへ画像

2003年05月
新潮社刊

(1300円+税)

2005年12月
新潮文庫化


2003/08/29

前作しゃばけの続編。日本橋の大店・長崎屋の一人息子である一太郎と、彼を守る妖(あやかし)たちの活躍を描いた連作短篇集です。
妖たちの顔ぶれは、2人の手代・佐助仁吉(妖名:犬神白沢)を始めとして、屏風のぞきという付喪神、騒がしい鳴家(やなり)たち、と変わるところありません。
妖怪ともなれば人間を超越する能力をもっていて当然と思うのですが、本書の妖たちは「人と一本ずれたところが相変わらず」というのですから、何とも微笑ましい存在。それ故、恐ろしい存在である筈ながらつい親近感を抱いてしまうのです。

次々と起きる奇妙な事件を一太郎とその手足となって動く妖たちが解決していくという、大江戸版ファンタジー・ミステリ。
2作目となれば作者・読者ともに落ち着きが出て、居心地良く楽しめるところが魅力です。
なお、「仁吉の思い人」は謎解き物語ではなく、1千年にもわたる白沢の片想い物語。最後に「あっ」と言わせられるところがまた楽しい。

ぬしさまへ/栄吉の菓子/空のビードロ/四布の布団/仁吉の思い人/虹を見し事

        

3.

●「百万の手 


百万の手画像

2004年04月
東京創元社刊

(1700円+税)

2006年06月
創元推理文庫化



2004/06/08

ファンタジー時代小説でデビューした畠中さん初のミステリ。
しかも、放火事件で焼死した筈の親友が携帯電話の中から語りかけ、主人公と二人三脚で事件の真相を追う“ファンタスティック・ミステリ”というのですから、興味をそそられるのは当然でしょう。

主人公は中学生の音村夏貴。家族とともに焼死した親友は日野正哉。携帯電話の中の正哉と語り合いながら、夏貴が放火事件の真相を追うという折角のアイデアも、活かされているのは冒頭部分のみ。正哉の登場が途絶えた以後は、平凡なミステリになってしまった、という観があります。
ミステリという点では、先の展開が安易に読めてしまう、読み手をあっと言わせるような展開がない、折角の登場人物が途中退場してしまう、というところが物足りない。
その一方で、過呼吸の持病をもち、母親との間に問題を抱えている主人公・夏貴と、その母親の婚約者として突然現れる東省吾のキャラクターが充分楽しめます。ホストクラブとキャバクラの経営者というと一見いかがわしそうですが、それなりの苦労人という人物設定。
後半は、その東と夏貴がコンビとなってストーリィが展開していきます。本筋のミステリ要素に、義理の父子関係がどうなるのかという要素が加わるところが面白み。次第に息の合っていく2人の様子は楽しい。
短絡的でミステリとしては不満が大きいものの、キャラクターの組み合わせが楽しいという、いかにも畠山さんらしい作品。

      

4.

●「ねこのばば ★☆


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2004年07月
新潮社刊

(1300円+税)

2006年12月
新潮文庫化


2004/08/08

しゃばけ」シリーズNo.3、前作に続く連作短篇集です。
時代版ファンタジー・ミステリの本シリーズもすっかりお馴染みのものとなり、安定した観あり。しかし、逆に言うとマンネリ化の畏れも兆してきた、という観もあります。
その所為か、前2作のような物珍しい楽しさという魅力は薄れています。その分本書では、病弱な若旦那が他出までして自ら事件解決に乗り出すという2篇があります。ただし、その後またもや床に就いてしまうという処が若旦那らしい。

表題作である「ねこのばば」は、猫又になりかけている高齢の猫を救い出すため、寺院内に起きた不可解な事件解決に乗り出すというストーリィ。
しかし、私としては同作より「茶巾たまご」「花かんざし」の2篇の方が、冒頭に読んだ所為か印象的。表題作を含め、この3篇がミステリらしいストーリィ。
「産土」佐吉(犬神)の思い出語り、「たまやたまや」は幼馴染である三春屋栄吉の妹・お春の縁談にまつわる若旦那の冒険事。

茶巾たまご/花かんざし/ねこのばば/産土/たまやたまや

    

5.

●「おまけのこ ★★


おまけのこ画像

2005年08月
新潮社刊

(1300円+税)

2007年12月
新潮文庫化



2005/09/03

しゃばけ」シリーズNo.4  
シリーズ4作目ともなると、もう盤石のロングシリーズもの、と言って良いでしょう。図抜けて面白いということもなかった代わりにいつも居心地の良い楽しさがあって、少しもそれが衰えることがない。そこがロングシリーズになりうる本シリーズの魅力でしょう。

徐々にしっかりとしてきて、時々知恵者ぶりも発揮する若旦那・一太郎ですけれど、「今日も元気に(?)寝込んでいる」とか「気合の入った病人ぶり」と言われていて、笑ってしまうところは相変わらず。
その若旦那をいつも囲んでいる妖(あやかし)たち、佐助、仁吉、鳴家、屏風のぞき等々。騒々しいこともありますけど、わいわいといつも賑やかで愉快なこの雰囲気は、格別の楽しさがあるのです。
今回は、皆から敬遠される狐者異(こわい)がまず登場、続いて珍しく若旦那が親友・栄吉と大喧嘩するかと思えば、若旦那が禿を吉原から足抜けさせる騒動、盗難騒ぎに加えて鳴家が一匹迷子になるという騒動が続きます。

本書の中で注目すべきは、紅白粉問屋・一色屋の孫娘で顔が判らぬほど厚化粧のお雛をめぐる話。
ねこのばば中の「花かんざし」から続くストーリィで、今回は屏風のぞきが活躍し、おかげで漸くお雛は厚化粧を止める勇気がもてそうです。お雛のこれから先の展開も楽しみです。

こわい/畳紙/動く影/ありんすこく/おまけのこ

  

6.

●「アコギなのかリッパなのか ★☆


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2006年1月
実業之日本社

(1600円+税)

2012年03月
新潮文庫化

2006/02/20

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政治家事務所を舞台にした日常かつ軽妙ミステリ・連作短篇集。元大物国会議員に対して平気でタメ口をきく主人公と、議員事務所の裏側という興味が本書の面白味。

主人公は佐倉聖、21歳で元暴走族。8歳下の腹違いの弟の面倒を見させられる羽目になったことから、弟を養うため議員事務所の事務員かつ大学生という身分。
雇用主である大堂剛は元大物国会議員。政治勉強会“風神雷神の会”の会長を未だ務めている所為か、弟子筋の議員からもめ事の相談が多い。秘書に任せる訳にはいかないと、いつも引っ張り出されるのは事務員という身分の聖、という次第。
政治家絡みといっても泥臭い話はあまりなく、軽妙な現代ミステリです。元暴走族である聖と元大物議員である大堂2人の、事務員と議員とは思えない遠慮のないやり取りが、和気藹々として楽しい。
惜しむらくは、聖の弟であるの出番が殆どないこと。

気分転換に読むにはちょうどよい一冊。しゃばけと違って現代風のところが本作品のミソ。

政治家事務所の一日/五色の猫/白い背広/月下の青/商店街の赤信号/親父とオヤジとピンクの便せん/選挙速報と小原和博

 

7.

●「うそうそ ★★


うそうそ画像

2006年05月
新潮社刊

(1400円+税)

2008年11月
新潮文庫化



2006/06/18



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しゃばけ」シリーズNo.5
今回は第一作以来となる久々の長篇。それも、いつも元気で寝込んでいたりする若旦那の一太郎が、なんと箱根へ湯治に出かけるという。お供はもちろん2人の兄や達=仁吉佐助に、庶兄の松之助という顔ぶれ。
さぁ旅立ちとなれば面白いこと、珍しい場面にも度々会える筈。ワクワクと期待したのですが、そうは問屋が卸さない。遠出は初めてという一太郎を心配して店の前から小舟に乗り、江戸湾で持ち船の常盤丸に乗り換えて小田原迄という安全コース。小田原からは雲助の駕籠に揺られ一気に箱根に達してしまうのですから、これじゃあ道中の楽しみがないではありませんか。
そんな万全を期したのに、仁吉と佐助は姿を消すわ、湯に一度も入っていないというのに正体不明の侍連中に誘拐されるわ、天狗たちに襲われるわ、挙句の果てに謎めいた女の子にはひどく嫌われるわと、もう散々。
あぁ道中の面白さがまるで味わえなかったと、がっくり。

その一方、今回のストーリィはスケールがとても大きい。だけでなく、山神さま、その娘のお比女ちゃん(姫神さま)まで登場するのですから。
本書では何といっても、このお比女ちゃんの存在感が格別。お比女ちゃんをかばい、慰める一太郎の優しさ、成長振りも頼もしいところ。このお比女ちゃんがとても可愛らしく、若旦那の次にファンになりそうです。

相変わらず難しく考えることなく、気軽に読んで楽しめるところが変わらぬ本シリーズの魅力です。
1年に一度、定期的にこのシリーズの続刊が読めたら、こんな楽しいことはないよなぁと思う次第。

※なお、表題の「うそうそ」とは、「たずねまわるさま。きょろきょろ。うろうろ」という意味だそうです。

   

8.

●「みぃつけた(文・畠中恵、絵・柴田ゆう) ★☆


みぃつけた画像

2006年11月
新潮社刊

(966円+税)

2006/12/23

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しゃばけ」シリーズの絵本!

「しゃばけ」シリーズの楽しさは、ストーリィのみにあるのではなく、柴田ゆうさんの絵にもあるのですから、柴田さんの絵が存分に楽しめる絵本になるのは、ファンとしても嬉しいところ。

絵本のストーリィは、一太郎がまだ子供のこと。
両親は商売で忙しく、病弱な一太郎は毎日ひとりぼっちで寝ているだけ。いい加減うんざりしていた一太郎は、ふと天井に子鬼のような姿を見つけます。
逃げ出す子鬼たちを追いかけて、一太郎は鬼ごっこだとご満悦。一太郎にとって初めてできた友達は、子鬼のような鳴家(やなり)たちだった、というストーリィ。

ただ残念ながら、一太郎に大甘の両親も、実は妖という2人の手代、佐助と仁吉(妖名:犬神と白沢)も登場しません。代わって“ばあや”が登場するのみ。

 

9.

●「まんまこと ★★


まんまこと画像

2007年04月
文芸春秋刊

(1400円+税)

2010年03月
文春文庫化



2007/04/22



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神田の町名主・高橋宗右衛門の息子・麻之助は元々評判の良い若者だったのですが、16歳になった時突然に大層“お気楽”な若者に化けてしまい、いずれ支配町の名主になることを考えると不安だという声もあるとか。
そんな麻之助と、隣町名主の息子ある女子好きな清十郎、同心見習い中の相馬吉五郎という幼馴染の3人が、町内で起きた揉め事の解決に奔走するという連作短篇集。

舞台は一応江戸といっても、時代ものであることを感じさせない、しゃばけシリーズと同じく温もりがあってユーモアもあるという、楽しい一冊。
傍や親からは、遊び好きで頼りない、不安だとばかり言われる麻之助や清十郎ですが、相次ぐトラブルを知恵を使い、時には身を張って親に代わる町名主名代として見事な調停をしてのける、そんな展開がとても楽しい。
頼りないと言われようが、いざとなれば町内のため相応のことはしてみせる、そんな意気が感じられるところも爽快です。

冒頭「まんまこと」で初めて麻之助が仕切った調停ぶりの見事さにその後の面白さへの期待を抱きましたが、もっと面白くなりそうだと期待が膨らんだのが「万年、青いやつ」
麻之助に突然降って湧いた縁談の相手、おきゃんな武家娘・野崎寿ずが登場するからです。この寿ず、麻之助に劣らない風変わりな武家娘。これはもう面白くなりそうです。

麻之助の父親・宗右衛門、清十郎の父親・八木源兵衛、その後妻で麻之助たちと幼馴染のお由有と息子の幸太という、麻之助たちを取り巻く登場人物たちもなかなか味があります。
麻之助たちの更なる活躍を期待したい新シリーズ。“しゃばけ”ファンには是非お薦めです。

まんまこと/柿の実を半分/万年、青いやつ/吾が子か、他の子か、誰の子か/こけ未練/静心なく

   

10.

●「ちんぷんかん ★☆


ちんぷんかん画像

2007年06月
新潮社刊

(1400円+税)

2009年12月
新潮文庫化



2007/07/15



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しゃばけ」シリーズNo.6
袖の中にもぐり込む鳴家(やなり)、守り役の手代2人をはじめとして大勢の妖に囲まれながら、いつも気合を入れて病気がちという一太郎を主人公とする人気シリーズ。
微笑ましく、楽しく、温かく、いつも和気藹々。“しゃばけ”シリーズはいつ読んでも気軽に楽しめます。

とはいいつつ、本書はシリーズの中で格別に面白い、という程のことはない。それでも、様々な趣向が凝らされているところが楽しい。
まず冒頭の「鬼と小鬼」、何と一太郎が賽の河原へ行くという、危機一髪の篇。そこから逃れ出るため、一太郎が最後に打つ手立ては・・・余りに懐かしい。
「ちんぷんかん」は、妖退治で高名な僧=寛朝の弟子となった秋英が主人公。一太郎たちと絡み合いながら、秋英が新たな一歩を踏み出す篇。
「男ぶり」は、一太郎に請われて母親=おたえが、自らの初恋と手代の藤吉(後の長崎屋藤兵衛)と一緒になる経緯を語った篇。ここではおたえが主人公となりますが、一太郎同様に守り狐が常におたえの周辺を守っていたのだとか。
「今昔」は一太郎の庶兄=松之助の縁談を描いた篇。何と一太郎と妖たちが陰陽師と対決!
最後の「はるがいくよ」は、他の4篇と趣きがまるで変ります。古き桜の怪が寄越した小紅と一太郎を描いた風情ある一篇。
本書中ではこの「はるがいくよ」が一番好きですねぇ・・・。

鬼と小鬼/ちんぷんかん/男ぶり/今昔/はるがいくよ

   

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