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21.おそろし−三島屋変調百物語事始− 22.英雄の書 23.小暮写眞館 24.あんじゅう−三島屋変調百物語事続− 25.ばんば憑き 26.おまえさん 30.桜ほうさら |
【作家歴】、魔術はささやく、レベル7、龍は眠る、本所深川ふしぎ草紙、火車、とり残されて、淋しい狩人、震える岩、蒲生邸事件、鳩笛草、クロスファイア |
ぼんくら、模倣犯、ドリームバスター、あかんべえ、誰か、日暮らし、孤宿の人、名もなき毒、楽園 |
泣き童子、ペテロの葬列、荒神、悲嘆の門、過ぎ去りし王国の城、希望荘、三鬼、この世の春、あやかし草紙、昨日がなければ明日もない |
さよならの儀式、黒武御神火御殿、きたきた捕物帖、魂手形、子宝船、よって件のごとし、ぼんぼん彩句、青瓜不動、気の毒ばたらき |
●「おそろし−三島屋変調百物語事始−」● ★★ |
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うまいなぁ、本当に上手い。筆運びに一切の無駄がないのでテンポが良い。だから、ただ読んでいるだけで楽しい。 さすが稀代のストーリィ・テラー、宮部さんである。 神田にある袋小物店の三島屋。その主人夫婦が預かったのは、川崎で旅籠を営む長兄の一人娘であるおちか、17歳。 小説の中、三島屋を訪れた客人によって4つの悲しい物語が語られます。その中には、おちかが叔父夫婦の下に身を寄せる理由となったおちかの事件のことも、彼女自身によって語られます。 なお、最後に「ドリームバスター」的展開になってしまったのはどうなのでしょうか。感想が分かれることになるかもしれませんが、私は気にかけないことにします。 1.曼珠沙華/2.凶宅/3.邪恋/4.魔鏡/最終話.家鳴り |
●「英雄の書 de rebus heroicis」● ★☆ |
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2012年07月
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“物語”から生まれた虚構の世界。 その封印された場所から、邪悪に満ちた“英雄”が破獄した。 “英雄”に魅入られ、中学校で事件を起こしてそのまま失踪した兄=大樹(ヒロキ)。 小学5年生の友理子は、兄の部屋に残されていた書物に誘われ、兄を救うため虚構の世界へと分け入ります。 そこで紋章の力を与えられた友理子は“印を戴く者”=ユーリと名乗り、彼女に従う者たちと共に“英雄”と闘うため、さらなる別世界へ向けて旅立つ、というストーリィ。 物語の中での冒険というと「文学刑事サーズデイ・ネクスト」が思い浮かびますが、「サーズデイ」が物語の中に入り込んでしまう冒険物語であるのに対し、本作品は“本”という物的存在自体の意味・力をいみじくも謳い上げたストーリィになっています。 ただ舞台設定がかなり複雑+難解。そのため、虚構世界の位置づけ、その世界の中にいる人々の存在・役割の説明が長々と続き、一通り済んだと思う頃には、ほぼ上巻を読み終わりかけていました。 それなりに面白く読めることは読めるのですが、舞台設定に関する説明の多さ、限りなさにはやや辟易。また、物語の結末に納得できたかと問われると、うーん、疑問。 |
●「小暮写眞館」● ★★☆ |
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2013年10月 2017年01・02月
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このところの宮部作品には、目先の変わったものが多かったのですが、本書は極めて普通の現代ストーリィ。 しかし、 700頁という大部な一冊。頁数だけに目を留めればげんなりしそうですが、そこは宮部作品、読み始めれば厚さなど何ら気にならなくなります。 本ストーリィを読むこと自体がとても楽しい。この辺り、宮部さんのストーリィテラーとしての上手さをつくづく感じるところです。 主人公は高校生の花菱英一。両親がマイホームを購入したと思ったら、さびれた商店街にある元店舗。それが本書題名となる“小暮写眞館”。資金に余裕がないという理由でその古い木造建物にそのまま住むことになったことから、ショーウィンドウもスタジオもそのまま。おかげで、今も写真屋と勘違いする輩がいる。 謎のある写真を手始めに、様々な家族の姿、関わった人々の悔いや哀しみを、英一が友人たちの力を借りながら解き明かしていくという、連作風長篇小説。 物語好きの方には、是非お薦め! 1.小暮写眞館/2.世界の縁側/3.カモメの名前/4.鉄路の春 |
●「あんじゅう−三島屋変調百物語事続−」● ★★ |
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2013年06月
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実家で起きた悲惨な事件、おちかが受けた傷心を癒そうと、おちかの身を引き受けた江戸で袋物店を営む叔父の伊兵衛は、不思議な出来事を体験した人に三島屋へ来て物語って貰うという“百物語”を始める。 場所は三島屋の「黒白の間」、聞き手は勿論おちか。 本書は、そんな趣向の時代物連作ストーリィ「おそろし」続編。 前作ではおちか自身も危難に巻き込まれるという展開があり、その分緊張感もあって楽しみは大きかったのですが、この続編では“語り”前後の展開があるとはいえ、おちかは専ら聞き手、前作と比べてしまうと刺激は少ないようです。 不思議な出来事と一口に言っても、ファンタジー風な話から、面妖な話、呪い話と、趣向様々であるところが、宮部さんの巧さ。 お勝、青野利一郎と行然坊、さらに悪ガキのいたずら三人組も新たに登場し、本シリーズ、まだまだ続きそうです。 序.変わり百物語/1.逃げ水/2.藪から千本/3.暗獣/4.吼える仏/変調百物語事続 |
●「ばんば憑き」● ★★ |
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不可思議な出来事や、物の怪にまつわる話、江戸を舞台にした怪奇物語6篇。 6篇は連作物ではなく、各々独立した物語。最近連作タイプの短篇集を読むことが多い所為か、繋がりのない6篇という構成が、むしろ珍しく感じられます。 各篇ストーリィの趣向は様々。 災いがもたらされたのか?というサスペンス的な物語(「坊主の壺」「博打眼」)もあれば、大江戸ファンタジー的な物語(「お文の影」)もあり、さらには人間こそ恐ろしい(「討債鬼」「ばんば憑き」)といった物語まであります。 どの篇も読み応えは十分。そこは、ストーリー・テラーの宮部さんらしく、流石です。 読了後、6篇のうちどの篇が一番自分の好みだったろうか、と振り返りながら考えてみるのもまた一興。 私の場合は、冒頭の「坊主の壺」に唸らされましたが、7歳のお美代と狛犬が気持ちを通じさせていたからこそと思える「博打眼」、やはり7歳の女の子・加奈の無邪気な姿が印象に残る「野槌の墓」が好みかな。 一口に物の怪と言っても、人間と無関係に存在するものではありません。人間があってこそ物の怪も存在し、また人間の欲があるから物の怪が生まれる、本作品についてはその点が見過ごせません。 ※なお、「お文の影」には「ぼんくら」「日暮らし」に登場した政五郎親分、おでこが登場しています。また、「討債鬼」の青野利一郎と行然坊は「あんじゅう」に登場済。 坊主の壺/お文の影/博打眼/討債鬼/ばんば憑き/野槌の墓 |
●「おまえさん」● ★★☆ |
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2011年09月
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「ぼんくら」「日暮らし」に続くシリーズ第3弾。 のんびり屋の同心=井筒平四郎と、その甥で誰もが目を見張る美少年=弓之助14歳を中心に、岡っ引の政五郎、その配下の少年=おでこ(三太郎)らが、これまで通り江戸で起きた不可解な難事件を解決するために活躍する、時代物長篇。 上下巻合わせて千頁もありますから、読み応え、そして読み甲斐ともたっぷりです。 いつものように宮部さんの構成が巧です。 「おまえさん」は事件そのものを描いて上下巻に及ぶ長篇。そして次の3短篇は事件の周辺で起きたエピソード、そして最後の「犬おどし」が事件の結末を描くという構成。 橋のたもとで一刀の下に切り捨てられた、身元も分からぬ男。ところがその後、生薬屋の主人=瓶屋新兵衛が寝所でやはり一刀の下に斬殺される。しかも、犯人は同一人物らしい。 時間の裏にどんな秘密が隠されているのか。それを探るうち、20年前に起きた事件のことが明るみに出てくる、というストーリィ。 本書での新登場は、腕も立ち頭もキレるうえに仕事熱心、ただし残念ながら醜男という若い同心の間島信之輔。そしてその大叔父で間島家の居候という本宮源右衛門。 本ストーリィの中心が上記の事件とその謎解きにあることに間違いはありませんし、弓之助が当然の如くその謎解きに大活躍します。 しかし、本書に関しては、実は長篇より、その後の短篇部分の方がお見事。何故なら、描かれる人そのものに深い味わいがあるからです。 また、当初颯爽と登場した間島信之輔がストーリィの進展につれ、評価ランクを下げ、逆に悪女といった印象だったおきえ(おでこを捨てた実の母親)が評価ランクを上げるという仕掛けが、実にいい。人間というものの面白さ、底のしれなさを描き出していて妙味あり、宮部さんの上手さには完全に脱帽です。 本書で忘れちゃいけないのは、もちろんお徳の存在。弓之助とおでこのコンビと並んで、平四郎とお徳のコンビもこのシリーズには欠かせない存在です。 その他、平四郎と妻女、政五郎とお紺の夫婦もいい味を出していますし、野菜売りの丸助をめぐるエピソードもいいんだなぁ。なお、弓之助の三兄で遊び人の淳三郎も今回顔を出しています。 様々な人間模様を事件と絡めて描き、真に懐の広い時代小説。今更言うまでもないことですが、お薦めです。 おまえさん/残り柿/転び神/磯の鮑/犬おどし |
27. | |
●「ソロモンの偽証−第T部 事件−」● ★★☆ |
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2014年09月
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う〜ん、面白い! 本書、宮部さんの傑作にして代表作の一つであるとして過言ではないと信じます。 まず何よりも、ストーリィさばきが上手い! 文句なし。 700頁余りと大部な一冊が毎月刊行で計3巻。その頁数に呆然とする気持ちでしたが、読み始めるや否やそんな心配は消し飛んでしまいます。分厚さなどまるで気にならない面白さ、そしてストーリィ展開の巧みさ、無駄な文章、無駄な部分は何一つないと言って良く、その結果としてこの頁数に至っているのですから、その頁数はそのまま満足度の測定数値と言って良い位です。 雪の降った終業式の朝、城東第三中学校2年A組の生徒が正門を避けて通用門から入ろうとすると、同じクラスの男子生徒が雪の中に埋まって死んでいるのを発見します。 騒然とした生徒たち以上に動揺したのは学校側、校長や教師たち。自殺と判定されて自体は落ち着くかと思われたのですが、問題児生徒3人が彼を突き落として殺したという告発状が届き、再び保護者たちも含めて学校内は騒然とします。マスコミがこの騒動に食いついたお陰で騒動はさらに大きくなり、さらなる犠牲が・・・・、というストーリィ。 本ストーリィは複層で展開していきます。生徒間、学校側と警察、そして保護者、さらに部外者やマスコミ等々と。主人公もその時々、場面場面で自在に替わります。 その中で一番翻弄されるのは、何と言っても生徒たちです。自分たちのクラスそして学校は、教師や保護者、マスコミらによって蹂躙され、誰もそれを詫びることすらない。 その一方で、登場する中学生たちがいかにその家庭環境に影響を受けているのかという点も余すところなく描かれています。そして最後に、中学生は自分たちで難題を解決する能力のない“未だ子供”に過ぎないのか、考える力をもった当事者なのか、という大命題が提起されていきます。 印象や趣向は全く異なりますが、ある意味ケストナーの名作「飛ぶ教室」に通じる物語となっています。 これだけの物語ならやはり続けて読みたいもの。3ヵ月連続刊行という方針は、まさに至当なものと思うばかりです。 |
28. | |
●「ソロモンの偽証−第U部 決意−」● ★★☆ |
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2014年10月
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2年A組の生徒は3年に進級してバラバラ。しかし、卒業制作の打ち合わせでの集会で、学級委員長で警視庁の刑事を父親にもつ藤野涼子が皆の前にぶち上げます。 もうこんなゴタゴタはたくさん。騒ぎにだけ巻き込まれて、本当のことはまるで教えてもらえない。もういいかげんうんざり。自分たちで真相を明らかにしよう、と提案。 校長代理や学年主任が抑え込もうとし、大切な受験勉強時期の冷やかに眺める生徒たちもいる中、生徒たちの夏休み課外活動として“学内裁判”の実行が決定されます。 被告人は大出俊次、弁護人は柏木とかつて塾で友人だったという他校生徒の神原和彦、助手に野田健一。当初弁護人になる筈だった藤野涼子が検事に回り、検察事務官に佐々木吾郎と萩尾一美。そして判事に副委員長だった井上康夫、参加表明した8人の陪審員という布陣が決まります。 事件そのものは第1部で出尽くしていますので、本書第2部は弁護人、検事側5人が各々事件前後の事情を調査して回るというストーリィ内容。それによって第1部では判らなかった新たな事実が浮上してくるのですから目が離せません。 その一方、第1部の延長として新たな事態、新たな事件も発生しますが、それは余禄のようなもの。 第2部に入っても面白さは全く揺るぎません。ストーリィの密度も変わらず。中学生たちが主要登場人物とはいえ、本格推理小説にまるで引けを取らない謎、スリリングさは圧巻。 また、事件を調査する生徒たちの行動力、洞察力には唸らされるばかりですが、高校生ならまだしも本当に中学生が?と思いますが、TVドラマ「鈴木先生」でのクラス内裁判もあり、まずは彼ら中学生たちを信じるだけ。 丁度3連休ということもあって一気読みでした。じっくり読むという手もあると思いますが、この3部作、一気に読んだ方が興奮を存分に味わえるのではないかと思う次第。 |
29. | |
●「ソロモンの偽証−第V部 法廷−」● ★★★ |
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2014年11月
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夏休みの最中、5日間にわたる学校内裁判がついに体育館を舞台に開廷されます。 判事(井上)、検事(藤野)、弁護士(神原)、被告人(大出)、陪審員たち、廷吏(山崎)、そして生徒や保護者ら多数の傍聴人(但しマスコミ関係は入場禁止)。 各証人の証言を巧みに利用して有利に運ぼうとする検事側、弁護側の駆け引きまで行われ、まさに本物の裁判並み。同時に中学生らしい処も時折覗かせるのですから、宮部さんのその辺りの上手さには唸らざるを得ません。 そして、思いがけない証人まで次々と登場し、その後にどんな展開があるのかまるで予想つかず。日にちを追う毎、裁判当事者皆に疲れが現れますが、特に検事を担当する藤野涼子の疲れは痛ましい程。 日々の法廷の様子を、当事者の視点を変えながら見守っていく処も実に巧い。 次第に迫真性を増し、いつしか臨場感という言葉を越え、読み手と登場人物の間に一体感が生まれていることに気付きます。この点が何と言っても本書の凄さであり、素晴らしさ。 そして、どんな事態がこの先に待ち受けていようと、最後には、学校内裁判の提案者である藤野涼子がきっと真相を明らかにしてくれるのではないかという期待感がそこにはあります。 本事件を通じて、子供たちの逞しさ、成長が見て取れる処もお見事。 本作品では、文章の一つ一つに見逃せない内容、深み、重みが潜んでいて少しも気を緩めることができないのですが、それ程に読み応えがあるということ。このディテールの見事さ、絶賛する他ありません。 これまでの宮部作品にも傑作と言いたい作品は幾つもありますが、現時点で本書こそ宮部さんの最高傑作と言って良いでしょう。特に、中学生たちの成長、彼らへの期待を描いている点においても。 読了後は、実に爽快な気分に満たされます。是非お薦め! |
30. | |
「桜ほうさら」 ★★ |
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2015年12月
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主人公の笙之介は、上総国搗根藩で小納戸役を務めていた古橋家の次男。父親が賄賂を取ったという無実の罪を着せられて自害、兄と母親は蟄居となります。父親を自害に追い込んだ要因のひとつは、父親そっくりの筆跡で偽造された文書。 江戸に出た笙之介は、搗島藩江戸留守居役の坂崎重秀から、写本の仕事をしながら偽造文書を作成した者を見つけ出すことを命じられます。 そんな舞台設定ですが、武芸第一の母親・兄と異なり、笙之介は父親に似て武芸苦手、性格も温和でのんびり屋と対照的。武家社会における陰謀ものというストーリィにはおよそ似つかわしくないキャラクターです。 冒頭と最後には陰謀・藩内権力抗争という時代物らしい展開があるものの、本質的に本書は、世間知らずの若者=笙之介の成長&恋&ミステリといった青春ストーリィ。 様々なトラブルに遭遇する笙之介、周りの人々の知恵や助けを借りながら何とか乗り越え、自らも成長していくという展開は、とても心温まり、気持ちの好いものがあります。 とくに、笙之介が桜の下に見かけ、花の精かと思った、若い町娘との恋模様も楽しいところ。そこには笙之介と手を取り合って、一緒に成長する風がありますから。 武家というのは所詮頑なな処があるもの。江戸に出て以来長屋に住み、町中で暮らす笙之介には、束縛から放たれてむしろ自由に呼吸しているような伸びやかさがあります。 600頁余り という大部な一冊。でも長さは少しも感じず、むしろどっぷり笙之介の青春&成長ストーリィに浸れる楽しさがあります。題名からしても春、旅立ちに相応しい一冊。 なお、本書の中には親から子への大切なメッセージが潜められていますから、是非読み逃さないでください。 ※題名は、甲州であれこれあった大変だという意味の「ささらほうさら」という言葉を桜にもじったもの。 1.富勘長屋/2.三八野愛郷録/3.拐かし/4.桜ほうさら |
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