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12.ぼんくら 13.模倣犯 14.ドリームバスター 15.あかんべえ 16.誰か−杉村三郎シリーズNo.1− 17.日暮らし 18.孤宿の人 19.名もなき毒−杉村三郎シリーズNo.2− 20.楽園 |
【作家歴】、魔術はささやく、レベル7、龍は眠る、本所深川ふしぎ草紙、火車、とり残されて、淋しい狩人、震える岩、蒲生邸事件、鳩笛草、クロスファイア |
おそろし、英雄の書、小暮写眞館、あんじゅう、ばんば憑き、おまえさん、ソロモンの偽証(第1〜3部)、桜ほうさら |
泣き童子、ペテロの葬列、荒神、悲嘆の門、過ぎ去りし王国の城、希望荘、三鬼、この世の春、あやかし草紙、昨日がなければ明日もない |
さよならの儀式、黒武御神火御殿、きたきた捕物帖、魂手形、子宝船、よって件のごとし、ぼんぼん彩句、青瓜不動、気の毒ばたらき |
●「ぼんくら」● ★★ |
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2003/04/12 |
のんびり気分の定町廻り同心・井筒平四郎を狂言回しに、鉄瓶長屋の住民たちに生じるちょっとした騒動を語っていく、市井もの連作短編集という印象。 ところが、6篇目の「長い影」に至ると、この篇ひとつで十分に長編小説長代小説というだけの量感を備えています。そして一気に本作品は時代・日常的ミステリといった展開になるのです。 そのうえ、それ以前の短篇5篇も、すべてそのミステリの伏線となるストーリィだというのですから、宮部さんの構成力には降参です。 2篇目で、長屋の差配人がまだ若い佐吉という元植木職人に代わります。ところが、その佐吉の健闘に逆行するかのように鉄瓶長屋では次々と事件が起こり、住民たちがその都度減っていきます。 理屈ぬきに、楽しく読める一冊。 殺し屋/博打うち/通い番頭/ひさぐ女/拝む男/長い影/幽霊 |
●「模倣犯」● ★★★ |
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2001/05/13 |
上下2冊、二段組で合計1400頁という圧倒的な量ですが、そんな分厚さを吹っ飛ばしてしまうくらい、冒頭から読者を一気に引きずり込んでしまうミステリ長編です。 ストーリィは、公園のゴミ箱から女性の右腕が発見される、というところから始まります。そして、テレビ局に架かった犯人からの電話。事件は複数人に及ぶ連続女性誘拐殺人事件へと拡がり、被害者の遺族を愚弄するような犯人の振舞いが続きます。 本作品に特定の主人公はいません。発見者、被害者、被害者の遺族、ルポライター、警察、そして犯人。さらに、容疑者の家族まで。現代社会に起きた衝撃的な事件に関わる、あらゆる人が登場し、各々の思い、状況が描かれて行きます。そうした構成から、ふとトルストイ「戦争と平和」を連想しました。戦争或いは犯罪という共通舞台から展開される多様な人間ドラマ、というのがその共通点。 第三部に至っても、悲劇は収まることを知りません。第一部の登場人物らに加え、犯人と見なされた青年の遺族を襲う絶望感がそれ。また、真犯人は従来以上に人々を翻弄し続けます。そして、最後の悲劇、一瞬の逆転による結末。その容赦ない展開には圧倒されるばかりです。 第一部/第二部/第三部 |
●「ドリームバスター」● ☆ |
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書店の店頭で見かけて、これは面白そうだと思ったのですが、どうも勘が外れたようです。 さて、ストーリィはと言うと、次のとおり。 地球とは時間軸を異にした別世界での実験失敗により、実験台とされていた凶悪犯らが、意識だけの存在となって地球に逃亡します。彼らは人の弱みを見つけて夢の中に入り込み、その相手を乗っ取ろうと企みます。それを防止し、凶悪犯らを逮捕すべく別世界から追いかけてきたのが、“ドリームバスター”と名乗る賞金稼ぎ。何やら、小説になったファミコンゲーム、という気がします。 そんな事態を引き起こす事になった実験の経緯、ドリームバスターの役割について、長々と判り難い説明を読まされるところは、率直に言ってかなり煩わしいです。では、それを除いた肝心のストーリィはというと、それ程のストーリィ展開がある訳でもありません。わざわざ読むこともなかったなぁ、というのが正直な感想です。 何やらよく判らない、ファミコン風・ファンタジーアクション、と言うべき作品。 |
●「あかんべえ」● ★★ |
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2007年01月 2014年08月
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宮部ワールドの魅力を、改めて感じる一冊。 新たに料理屋を始めることになった両親と共に、おりんが引っ越した処は深川。ところがそこには数人の亡者が住みついており、その姿を見たおりんは、彼等と親しく交わることになります。一方、料理屋の初仕事と両親がはりきった宴会では、あろうことか亡者の一人が暴れ出し、化け物のでる料理屋という評判に、両親たちは思いも寄らぬ悩みを抱え込むことになります。 亡者、化け物というと本来おぞましいものですが、本作品は明るく、和やかな気持ちになれるところが魅力です。 時代小説という舞台を背景に、ミステリと成長物語という2つの要素があり、そのどちらにも充分な面白さのあるところが、嬉しい。 |
●「誰か Somebody」● ★ 画:杉田比呂美 |
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2007年12月
2004/02/12 |
宮部さん2年ぶりの現代ものミステリ、という点に惹かれたこともありますが、もうひとつ惹かれたのは、表紙の杉田比呂美さんの画。 本書の主人公は、財閥系企業グループの広報室に勤める平凡な編集者・杉村三郎。その杉村が、財閥オーナー会長である妻の父親から、専属運転手が自転車に撥ねられ事故死したことについて、娘2人からの相談にのるよう頼まれます。 梶田姉妹の相談というのは、犯人を見つけるための手段として父親についての本を出したいというもの。 本格ミステリを期待する人にはきっと物足りないことでしょう。でもその一方、居心地の良さに快さがあります。 |
●「日暮らし」● ★★☆ |
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2008年11月
2005/06/11
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「ぼんくら」の続編。 前作同様、ちとのんびり屋で人情味もある定町廻り同心・井筒平四郎を狂言回しに、平四郎の甥=跡継ぎ候補の美少年・弓之助、岡っ引・政五郎、おでこ(三太郎)らが活躍する江戸下町・事件ものがたり。 主要人物が平四郎、弓之助であることに相違ないのですが、脇役でありながら2人以上に読み手を惹き付ける登場人物がいます。煮物屋のお徳。今回も前作以上に、予想もしなかった活躍ぶりをみせ、読み手を楽しませてくれます。 本書の楽しさは、登場人物の魅力というより、登場人物らが親しく繋がってその輪を広げていくところにある、と言った方が良さそうです。そして、彼らがお互いの身を気遣う気持ちの在り様が素晴らしい。 おまんま/嫌いの虫/子盗り鬼/なけなし三昧/日暮らし/鬼は外、福は内 |
●「孤宿の人」● ★★★ |
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2009年12月
2006/01/28
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宮部さんの新境地を開いたといえる傑作。 舞台は将軍・家斉の時代。幕府の有能な勘定奉行だった船井加賀守が、奥方および2人の子供、部下まで斬り殺すという鬼のような所業を繰り広げる。その加賀守の流刑先として幕府から押しつけられたのが、讃岐の丸海藩。 恐ろしい流罪人であると同時に幕府からの預かりものである“加賀さま”を迎え入れた丸海藩は、穏やかな土地柄だったにもかかわらず次々と恐ろしい事件、災厄に見舞われることになります。果たしてそれは加賀さまの鬼気が災いを引きつけたものなのか。 本ストーリィには様々な登場人物が登場し、まるで丸海藩全体が主人公のようです。その中でとくに重要な役割を担うのは2人。一人は女ながらに引手(岡っ引)見習いを勤める宇佐。もう一人は、不幸な生い立ちで江戸から讃岐まで連れて来られたうえに置き去りにされた10歳の女の子「ほう」。 自分は鈍いと思い込んでいるからこそ、「ほう」は謙虚であり素直であり、稀にみる純真さを備えています。この「ほう」の一挙手一挙手に幾たび感動させられることでしょう。 小さな藩が流罪人を引受けたというだけのことで生じる藩内の大騒動。様々な人の姿を描き出している点で、本作品は大河小説と言うに相応しい風格をもっています。 |
●「名もなき毒」● ★☆ 吉川英治文学賞 |
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2011年12月
2006/09/22
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本書に登場する杉村三郎の人物背景、どこかで聞いた気がするなぁと思っていたら、宮部作品の中では印象の薄かった「誰か」の主人公。その杉村が再び2つの事件に巻き込まれるストーリィ。
犬を連れて散歩中の老人が突然道端で苦しみ悶えたと思ったら、僅かのうちに死す。原因は散歩途中にコンビニで買ったパックの烏龍茶に含まれていた青酸カリ。 編集部で雇っていたバイトの若い女性・原田いずみが、信じ難いようなトラブルメーカー。編集長がついに決断して解雇したところ、その後も盛んに騒動を巻き起こし、杉村はじめ編集部全員が振り回される始末となります。 偶然に古屋母娘に関わりをもった杉村は、なんとなく青酸カリ事件にも足を踏み入れていく。 本作品のテーマがもつ重み、恐ろしさは理解できるのですが、ストーリイとしてはいまいち納得できないところが多い。 |
●「楽 園」● ★★ |
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2010年02月
2007/08/28
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「模倣犯」で犯人を追い詰める役目を担ったフリーライター、前畑滋子が再び活躍する長篇ミステリ。
「模倣犯」の事件から9年が経過するが、未だに滋子は事件の悪夢から抜け出せないでいた。それでも漸く再びライターとしての活動を始めた滋子の元に、萩谷敏子という中年女性が頼みごとを持ち込んできます。 前作のような複雑で多重なストーリィ、驚愕すべき展開がある訳ではありませんが、本書もまた、類稀なるストーリーテラー・宮部さんの面目躍如となる作品だと思います。 本作品には、人の心の癒しきれない暗部が描かれています。その一方、そんな中にあってさえ希望を見い出そうとする人の姿もまた描かれます。 |
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