4304.エネルギー政策を検討



エネルギー政策は、日本の多くの分野、特に産業に与える影響が大
きいので、今後の日本を考えると、このエネルギー政策を真剣に検
討する必要がある。    津田より

0.はじめに
原発事故で、この日本のエネルギー政策が根底から崩れて、まった
くゼロベースで考える必要に迫られている。この機会なので、1か
ら見直すことが必要であるが、この問題は日本の将来を規定するの
で、感情論ではなくて、将来を見据えた論理的な議論が必要である。

しかし、橋下さんなど多くの政治家が、国民感情を基にした感情的
と思われる方向に議論を進めているので、それを検証することが必
要になっている。

感情論に流れると、論理的な思考が止まることになる。無理が通れ
ば、道理が引っ込み、失敗してしか気がつかないことになる。この
ことは、すでにドイツで実際に起こっていることでもある。

参考資料のコラムを見ていただくと分かるが、過去に多くの電力シ
ステムの仕組みを明らかにして、その上で問題解決を図ることを目
指したが、その中で原発廃止は40年程度の期間を掛けるべきであ
り、かつ風力発電や太陽光発電は不安定性があるので、大規模には
できないことも検証した。

2つの自然エネルギー発電は不安定性があり、このため、同容量の
LNG発電を設置しないと、雲に太陽が隠れてや風が突然止まるな
ど突然発電がなくなった時に、送電網が止まり大規模停電、ブラッ
クアウトになる。

これを避けるため代替の安定した火力発電が必要になる。止まって
いる火力発電を安定した出力に上げるためには、20分程度の時間
が掛かるので、それまでは蓄電池で電力を供給する必要がある。こ
のため、風力や太陽光には、蓄電池などの設置も必要になるのだ。

この設備費がかかり、LNG発電に比べて、大きなコストUPにな
る。エネルギーはコストが重要な要素なので、これを過小評価して
はいけない。

全電力量の5%程度なら、不安定電力も許容範囲であるが、将来的
に全電力の20%ととなると、いろいろな整備が必要になる。とい
うことで不安定発電を進めるなら、送電網の1本化が必要であろう
と考察した。

北海道電力はピーク時電力は500万KWしかないので、風力発電
適地であるのに、25万KWしか許していない。東京電力はピーク
時電力が6000万KWであり、その5%とすると、300万KW
までの不安定発電を許容できる。

今後、東京直下型の地震が起こる可能性が高い。このとき、東京湾
に4000万KW分の火力発電所があり、これが使えなくなる可能
性がある。この発電所がなくなると、東京は停電が長期にわたると
思われるので、この面からも送電網を東京電力と関西電力は一緒に
する必要を感じる。関西電力は3000万KWの電力容量があるの
で、余剰も多い。後の電力会社は非常に少ないので、東電に震災時
供給できる余裕がない。

送電網を一本化すれば、電力事業の自由化ができるので、それを進
めることである。橋下さんの主張には不安定な太陽光発電や風力の
推進はないので、私の主張との違いはない。

ということで、橋下さんと私の主張の違いは、原発廃止までの時間
である。橋下さんの主張は即座に原発を廃止する案であり、私の案
は、40年程度掛けて原発を廃止することである。

また、原発事故の原因や対応にも大きな違いがあるようだ。
この考察をケプナー・トリゴー法を使って、考察しようと思うが、
その前にドイツの失敗を見よう。

1.ドイツFITの失敗
ドイツ政府は2000年から再生可能エネルギーを20年間に渡り全量固
定価格で買取る制度(フィード・イン・タリフ)を施行してきたが
、消費者に莫大な長期負債を残すとともに、その目指す目標がほと
んど果たされていない、むしろ正反対の結果となっていることが、
ドイツの経済研究シンクタンクの調査研究で明らかになった。特に
、問題になったのが太陽光発電である。

このため、ドイツの再生可能エネルギーの全量買取制度(フィード
インタリフ、以下FIT)の買取価格を引き下げれることが決定した。

すでに2009年から2年で太陽光発電の買取価格は40%引き下げられて
いて、さらに2011年4月に家庭用太陽光が20%、事業用太陽光では30%
と引き下げ幅が拡大されている。

さらに2013年1月からは太陽光発電の買取量そのものが一部カットさ
れ、全量買取ではなくなる。Qセルなどソーラーパネルメーカーにと
っては、リストラでコストカットするしか生き残る道はない状態で
、ドイツの中堅ソーラーパネルメーカーソロン(ゾロン)や、発電事
業を手がけるソーラーミレニアムが相次いで倒産した。

不安定な自然エネルギー発電は自立することが出来ないため、バッ
クアップ用に火力発電を準備しておかなければならない。このバッ
クアップ用の発電機の運転は不規則なものになるため、必然的に発
電効率は低くなり、通常の火力発電以上の経費が必要になる。

 更に、発展途上の技術にはいくら補助金を投入しても思うような
効果は期待できない。投入費用に対して発電効率が低いという風力
発電や太陽光発電の問題は、自然エネルギーという不安定なエネル
ギーを利用すること自体が問題であって、風などの捕捉技術の多少
の改良で克服できる問題ではない。このことをドイツの政策担当者
は、始め理解できなかったようだ。このため、道理が引っ込み、無
理が通り、実際に失敗して気がつくことになる。

この結論は、競争力を持たない揺籃期の技術については、政府は大
規模な生産を推進するよりも研究開発に投資する方がコスト効率は
高い。特に太陽光発電についてそう言えるとやっと気がついた。

高コストであること『だけが問題』なのではなく、高コストである
ことはエネルギー供給技術としての『致命的な欠陥』なのだと政策
担当者が気がついたことによる政策変更のようである。

それではケプナー・トリゴー法で考察しよう。

参考資料:
4302.橋下市長の意見:脱原発と
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/L4/240323.htm
4023.電力系統の負荷変動対応
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/L3/230624.htm
4021.電気の完全自由市場では
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/L3/230621.htm
3991.発送電分離反対に対する反論
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/L3/230520.htm
3941.脱原発の道筋を考える
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/L3/230403.htm

2.状況分析(SA)
問題と思われる点を列挙すると、
・全ての原発で原発事故の原因を除去する必要がある。PA
・原発事故の復旧工事のリスクを除去する必要がある。 PPA
・原発事故時に的確な対応ができる組織を作ることが必要。DA
・原発の今後の運転をどうするか?  DA
の4つは緊急性が高いので、先に分析する。

・日本の電力システムはどうあるべきか?  DA
・今後のトータルなエネルギーをどうするべきか?  DA
の2つは日本の将来設計である。

・電力料金をなるべく安価にするためにはどうするか?
・エネルギーは安全保障問題であり、外交を含めた対応はどうする
 か?
の2つはDAの評価項目になる。

3.問題分析(PA)
原発事故の原因を分析し、今後の原発事故が起きないためには、ど
うするかをここでは検証する。

福島第一、福島第二の2つの差異を分析すると、事故原因が明らか
になる。どちらにも津波が押し寄せているが、第二は危なかったが
事故を防げた。

第二は、高台に予備の発電機があり、ポンプも正常に動き、冷却水
を取り込むことができたことによる。

ということで、原発事故を防ぐには、予備の発電機を高台に設置し
ておくことである。今後も日本では大地震が多発して、津波が来る
ことを予想しなければならないので、津波対策の防波堤は必要であ
るが、一番重要なのは高台に予備の発電機を設置することである。

4.緊急的な項目の決定分析(DA)
原子力を統括する政府組織をどうするかというと、促進組織と規制
組織を分けて、それぞれが相互牽制をする組織にする案と、組織に
専門家を多数参加させて、議論を透明化することである。これはす
でに決まっているので、それを実行することである。

もう1つの原発の今後の運転をどうするかが問題で、
案1:即座に原発廃止
案2:ストレステストをクリアした原発を再稼動させて、40年経
   った原発を廃止して、長期スパンで廃止する。
案3:原発を今後も長期に使用して、新設も行う。

案2のバイエーションは、40年ではなく20年という案もある。
しかし、ここでは40年案として代表させる。

目標の実現するべき項目としては、安定した安価な電力を供給する
こと。安全性を確保されていること。の2つでしょうね。

ほしい項目としては、外国の事情に影響されないこと。環境に配慮
されていること。(CO2などが少ないこと)。

この項目で各案を評価すると、案1は、安価な電力の供給ができな
い。原発の設備費用2000億円の減価償却費とウラン燃料購入費
が無駄+火力電力新設費+燃料費が掛かることになる。燃料費だけ
で年間4兆円程度の費用が増額になる。これを料金に反映されるの
で、高価になる。石油ルートにあるイランの影響を受ける。

また、案2は、原発の整備費用やウラン燃料代が無駄ならないこと
と。LNGガス発電に移行する時間的な余裕ができるために、安価
な電力を提供できる。案3も同様である。しかし、藻からの石油と
かメタンハイドレードなど日本産の燃料ができると、案2はウラン
購入と言う海外からの影響を遮断できる。案1は、藻からの石油な
どの実用化までの時間分が高価な石油を使う必要になる。

ということで、将来的な観点を見ると、案2が一番理にかなってい
る。

5.潜在的な問題の分析(PPA)
原発事故の復旧工事の大きなリスクは、今後、再度大震災が起こり
、4号機の使用済み燃料の冷却ができなくなるのではないかという
ことである。

計画は40年程度も掛かることが確実であるが、一番心配なのが、
4号機の使用済み燃料プールが崩壊してしまわないかということで
ある。もちろん、正常な状態であれば、大震災でも耐えられるが、
水素爆発があり、壁の強度が落ちているために、地震に耐えられる
かどうかということである。

この4号機の使用済み燃料が溶解すると、東京まで影響してくるの
で、避難が必要であるという。重大性が高いので、その計画を立て
ることであるが、そのとき、東京も大震災が襲い、混乱した状況が
想定される。自衛隊の要員だけでは無理がある。地震災害+放射能
災害の二重の災害であり、かつ東京が被災となると、おそらく、大
変なことになる。

ということで、そうなった時点で、今から隣にプールを作り、壁崩
壊時、決死隊が燃料棒を4号機のプールから隣のプールに移すしか
ない。このためには、4号プールの中にあるガレキを今から除去す
ることでしょうね。

6.将来設計の決定分析(DA)
今後の日本の電力システムをどうするかであるが、案1:現状(地
域独占型民営化)、案2:送電網を一本化(国営)して自由競争化
(民営化)、案3:全て国営化の3案がある。

実現するべき項目は、安定し安価な電力の供給、安全確保、災害時
の早期復旧。ほしい項目は、環境重視、海外に影響されないこと。

案1の現状のままであると、今後予想されている大地震での災害時
対応ができないこと。家庭までの自由化ができないので競争原理が
ないことで、安価な電力を供給できない。案2は、自由競争になる
ので安価な電力を供給できる。しかし、不安定な自然エネルギーの
電力が排除されることになる。案3は、自由競争がないので、高く
なる可能性がある。

ということで、案2がよいと思うが、関西と東京では50Hz、60
Hzの問題があり、技術的な問題点があるので、東西を2本化して中
央でサイクル変換するか全国を超高圧直流送電にするかは、技術的
な検討が必要である。こうすると、送電電力の5%は不安定な電力
を許容できる。

トータルエネルギー政策は、中東の混迷で石油からの脱却が必要で
ある。同じ程度のコストであれば、国内生産のエネルギー資源に転
換することが必要になる。藻から石油、エタノール、メタンハイデ
レードなどの国内でできるエネルギー資源を早く開発してほしいも
のである。

さあ、どうなりますか?
参考資料:
4302.橋下市長の意見:脱原発と
4023.電力系統の負荷変動対応
4021.電気の完全自由市場では
3991.発送電分離反対に対する反論
3941.脱原発の道筋を考える

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