和歌入門附録 和歌のための文語文法

活用表 動詞についての留意点 助動詞の種類と機能 助詞の種類と機能 仮名遣

助詞の種類と機能 1

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助詞一覧表

連体助詞 格助詞 副助詞 係助詞 終助詞
間投助詞 接続助詞

連体助詞     

連体助詞は、体言と体言を関係づける助詞である。連体格助詞とも言う。語と語の関係をあらわすという意味では格助詞の一種である。
なお、以下「体言」の語には体言に準ずる語(活用語の連体形など)を含めて言う。

 連体助詞

【主な機能】

    体言と体言を繋げ、後の語が前の語に属する関係をあらわすのが元来の機能であったと思われる。「の」で置き換え可能な場合が多いが(「母が手」→「母の手」)、当然ニュアンスは違ってしまう。

  1. 人称代名詞や人を指す名詞を承けて、後に来る語がその人に属するものであることを示す。
    身 ()名 君代 (いも)俤 母手 ()

    賀歌などでよく用いられた「我君」のような場合は「後の語(君)が前の語(我)に属する」とは言えないが、この語は元来は親しみを籠めて相手を呼んだ言い方で、その後主君を敬して言う語としても慣用されるようになったものと思われる。

  2. 動物や植物の名を承けて、後に来る語がそれに属するものであることを示す。
    枝 萩花 尾花末の露 雁音 浅茅原 小松

    「浅茅が原」「小松が原」は「浅茅(小松)が占有している原」ということで、やはり後の語が前の語に属する関係を示している。
    なお、「鈴が音」(万葉集巻十四)のように無生物の名に付く場合も稀に見られる。

  3. 「〜が上」「〜が下」のように、体言に付いて、そのものを中心として見たときの位置関係を示す。活用語の連体形に付く例が多く見られる。
    我が背子は仮廬作らす草なくは小松下の草を刈らさね(万葉集、中皇命
    梅の花咲ける中にふふめるは恋やこもれる雪を待つとか(万葉集、茨田王
    消ぬ上に降るかとぞ見る梅が枝の花にあまぎる春のあは雪(続千載集、二条為定
  4. 体言に付いて、後に来る形式名詞「ほど」「こと(ごと)」「から」「むた」などの内容を示す。
    まにまに 「〜の成行きのままに」「〜の思いのままに」程の意。「まにまに」とも遣う。
    春風の音にし出なば有り去りて今ならずとも君がまにまに(万葉集、大伴家持
    ごとし 助動詞「ごとし(ごと)」と結び付く。名詞に付く場合「ごとし」とも遣うが、動詞・形容詞・助動詞の連体形に付く場合は「が」が用いられた。
    あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり(万葉集、小野老
    からに 「ただ〜しただけで」の意。
    故郷は遠くもあらず一重山越ゆるがからに思ひぞ吾がせし(万葉集、高丘河内
  5. ほど 程度を示す。
    短夜の浅きがほどになく蛙ちからなくしてやみにけらしも(長塚節)
    むた 「〜と共に」の意。「むた」とも遣う。
    畏きや命被り明日ゆりや草がむた寝む妹なしにして(万葉集、物部秋持
  6. 体言と体言を繋いで地名を作る。
    佐渡島 弓月嶽 青根峰 野島崎 雑司
【他の機能】

格助詞接続助詞としても働く。

 連体助詞

【主な機能】

    体言と体言を繋げ、前の語の内容を後の語に付け加えることで、後の語の内容を限定するはたらきをもつ。例えば「吉野の山」の「の」は、「吉野」という場所を指定することで「山」を限定するはたらきをするのである。
    「の」は他にも様々な機能を発達させ、「つ」「が」に比べ用途は極めて広い。その多くは現代口語に継承されている用法なので、大方は省略し、ここでは和歌に多用された修辞的用法のみを取り上げた。

  1. 比喩をあらわす用法。「の」を「のような」の意味で遣う。

    命はかなきものを朝夕に生きたるかぎりあひ見てしがな(続後撰集、小野小町
    おなじくは散るまでをみて帰る雁花都のこと語らなん(新葉集、宗良親王
    今日はとひ明日はとはるる夢世になき人しのぶ我もいつまで(香玉詠藻、徳川尋子

    例歌中の「花の都」は「花咲く都」の意にもなるが、「花のような(花やかな)都」の意味を帯びることが多い。

  2. 1とは逆に後の語が前の語の比喩となる用法。逆に言えば、前の語が後の語の実体であることを示す。例えば下記引用歌の「涙の川」は「涙であるところの川」、すなわち「川のように流れる涙」を意味する。他に「涙の雨」(雨のように降る涙)、「花の雲」(雲のような花)など。

    身をわけて涙川のながるればこなたかなたの岸とこそなれ(和泉式部続集、和泉式部
    またや見ん交野の御野の桜がり花雪ちる春の曙(新古今集、藤原俊成
  3. 形容詞の語幹または終止形と体言をつなげる用法。(1)ク活用の形容詞の場合「(とほ)のみかど」等のように語幹に付き、(2)シク活用の形容詞の場合「あやしの住み家」等のように終止形に付く形となる。

    (1)逢ふと見てことぞともなく明けぬなりはかな夢の忘れがたみや(新古今集、藤原家隆
    (2)秋にあへずさこそは葛の色づかめあな恨めし風のけしきや(千載集、藤原基俊)
【他の機能】

格助詞としても働く。

 連体助詞

【機能】

 連体助詞

【機能】

 連体助詞

【主な機能】
【他の機能】

主格を示す格助詞としてもはたらく。

【来歴】

上代に用いられた語で、平安時代には衰えた。その後はもっぱら仏典の訓読語の中で主格を示す助詞として使われた。詳しくは格助詞「い」を見られたい。


連体助詞 格助詞 副助詞 係助詞 終助詞
間投助詞 接続助詞


公開日:平成19年3月27日
最終更新日:平成21年6月3日