K218. 地球温暖化量の観測


著者:近藤純正
いま世界では気候変動問題が大きな話題になっている。私たちは地球温暖化(長期の 気温上昇率)を正しく知らなければならない。気象観測所における気温の観測値には 都市化影響のほかに、観測所近傍の樹木・建物など地物の影響によって平均気温が 高めに観測される。それゆえ、地物の直接的な影響を受けない塔の上で気温を測る 「地球温暖化観測所」(15観測所の測風塔の上に通風式気温計)の設置を提案した。 その提案に日本森林学会と水文・水資源学会は賛同して、気象庁の予算獲得を応援 するために気象庁長官宛てに要請書を提出した。

いっぽう、地球温暖化量は高層気象観測を利用すればよいという案もある。この案に ついて検討してみると、ラジオゾンデが降水・雲中を飛揚するとき気温センサが濡れる ことによって生じる観測誤差、放射影響の補正方法の曖昧さ、検定許容誤差など多くの 誤差を含む。地上観測で行われている、気温センサの濡れと放射影響を防ぐ 通風式気温計と同程度の高精度観測は難しいことが分かった。 (完成:2021年8月9日、10月14日:(3)を追加)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2021年8月6日:素案の作成
2021年8月9日:218.3節の「(6)放射影響誤差」と備考に加筆
2021年10月14日:218.2節に「(3)その他の要請書(日本経団連)」を追加

    目次
        218.1 まえがき  
        218.2  「地球温暖化観測所」設置の要請書
           (1) 日本森林学会の要請書
           (2) 水文・水資源学会の要請書
          (3)その他の要請書
        218.3  高層気象観測の利用
        文献

        付録A 「地球温暖化観測所」設置の提案(要請書に添付された資料1)
        付録B 要請書に関する日本気象学会からの回答、その内容についての検討     


謝辞
資料の提供と本原稿に目を通していただいた次の方々に感謝いたします(称号・ 敬称略、査読順)。玉井幸治、吉田貢士、近藤昭彦、鈴木健司、斎藤篤思、藤部文昭


218.1 まえがき

いま世界では気候変動問題が大きな話題となり、人々は地球温暖化・気候変動の 真実に関心をもつようになった。大気中に含まれる水蒸気、二酸化炭素などの温室 効果ガスが増えると地表面近くの気温は上昇し、上層大気の気温は逆に下降する。 これが地球大気に及ぼす温室効果である。地球温暖化量とは、都市化の影響を 除いた地上気温の長期的な上昇率のことである。

気象庁発表によれば、過去130~140年間にわたる日本の地球温暖化量は100年間 当たり1.2℃の割合の上昇率としている。筆者はこの値に疑問をもち、約20年間に わたり全国の主な気象観測所を巡回し、昔の観測原簿や観測露場の写真・図面など を調べた。さらに各地の公園や観測所の露場で風速や気温を観測し、さらに理論的 考察も加え、気温観測値と観測環境(露場の空間広さ)の関係を求めた (近藤、2021;「K48.日本の都市における熱汚染量の経年 変化」「K121.空間広さと気温―日だまり効果のまとめ」 ;Sugawara and Kondo, 2019)。

筆者が日本各地で行った観測では、各地の気象庁職員、公園管理者、地域住民、 大学の教員・院生、気象予報士ら、多くの方々に協力いただいた。

気温観測値に影響する3要素
(1) 都市化の影響(緑地の減少、人工熱、ビルの高層化、・・・・)
(2) 観測方法の変更(観測時刻、回数、測器、1日の区切りの変更)
(3) 日だまり効果(観測露場の風通し悪化で平均気温が上昇)

これら3要素を補正してみると、正しい地球温暖化量は気象庁発表値の60%、 すなわち各種の補正を行っていない気象庁発表値には40%の誤差を含んでいる (近藤、2012;「K203.日本の地球温暖化量、再評価2020)」

上記(1)の都市化の影響は大・中都市で0.5~2℃と大きいため、筆者による地球 温暖化量の評価に大都市の観測所は含めていない。近藤(2012)は日本の93都市に ついて、10年ごとの都市化影響による昇温量を1930年から2000年まで一覧表に示した 「K48.日本の都市における熱汚染量の経年変化」。 さらに、2000年以後を示す図218.1によれば、多くの都市では都市化昇温量が地球 温暖化量と同程度またはそれ以上の大きさとなっている。東京の大手町(東京の 旧観測露場)の都市化昇温量は日本最大の2℃である(観測露場が現在の森林公園内 の北の丸露場へ2014年12月2日に移転したことで年平均気温が旧大手町露場に比べて 0.62℃低温になった分は補正してある)。

都市化と自然昇温の和、2019年時点
図218.1 日本各地における、1920年を基準とした自然昇温量(0.96℃/100y)と 都市化昇温量の和、ただし2019年時点における値である( 「K209.猛暑日・熱帯夜と都市化・地球温暖化との関係」の図209.3に同じ)。 図の自然昇温量は地球温暖化量を指す。


近藤(2012)によれば、要素(2)と(3)で生じる誤差の各々は、0~0.3℃の範囲内 にあり、無視することはできない。

研究者はより正しいことを知るために研究しており、一般社会の人々も正しい情報 を求めている。地球温暖化量の評価については誤差が±10%程度以内であれば、 ほぼ正しいと認識してよいだろう。

地球温暖化量を正しく観測しなければならない理由
地球温暖化量(気温の年々変動など自然変動を除く長期の気温上昇率)は観測に よって正しく知る必要がある。例として、未来の2051年までの今後30年間の地球 温暖化量について考えてみよう。気温上昇率がこれまでと同じ0.7℃/100yと仮定 すれば、30年後は現在より0.21℃の高温となるが、2倍の1.4℃/100yで上昇すれば 0.42℃の高温となる。それらの差は僅か0.21℃である。“今後の温暖化対策は 0.21℃の違いで変わらない、高精度観測はそれほど必要ではない、現在の気象庁 発表値に含まれる程度の誤差があってもよい”という人たちがいる。それで よいのだろうか?

そうではないのだ! 30年後を想定してみよう。今後の地球温暖化量が今までと 同じ0.7℃/100yの上昇率と予想していたとして、実際にはその2倍の上昇率が観測 されたとき、人々は温暖化が急激に進んでいることに気づき、それまでの考えを 改めで、観測は高精度で行うべきだと考えるようになるであろう。現実には、 日だまり効果など補正された最近12年間の気温変化を見ると、2倍を越える上昇率 で温暖化が急激に進んでいる兆しが見える(近藤、2021; 「K217. 地球温暖化観測所の設立に向けて(動画)-正しく知ることの重要性」 の後編の㉛番目のスライド)。

シミュレーションによる将来予測はモデルによって大きなバラツキがあり、 真実は正しい観測によってのみ知ることができる。

筆者は、観測露場近傍の樹木や建物など地物の影響で生じる日だまり効果の補正方法 について気象庁にも知らせたが、補正の作業を現実に行うとなれば、人材が不足して いる。そこで、日だまり効果が無視できる塔の上、具体的には気象観測所の測風塔 の上に通風式気温計を設置する「地球温暖化観測所の設立」を提案した。

塔の上の観測所が15か所必要な理由
気温は年々変動のほか、長期的には太陽黒点周期の約11年と、大規模火山噴火・ 海洋変動にともなう30~40年の周期的な自然変動が混在し、その変動幅は地域に よって異なり高緯度ほど大きい(近藤、2012; 「K173.日本の地球温暖化量、再評価2018」)。

そのほか、観測所の観測環境の変化が生じたとき他の観測所へのデータ接続を 行わなければならない。各観測所の観測環境の悪化は、その周辺の数か所のデータ を用いて相互にチェックすることで見いだすことができる。それには日本全体で 3~5か所の少数観測所では不十分で、最低15か所の観測データを利用することで 高精度のデータ接続が可能である。これは筆者がこれまでに行ってきた温暖化量 評価の経験から言える結論である。


2020年2月10日に気象庁で開催した談話会において、筆者は「地球温暖化観測所の 設立」を提案した。そのとき気象庁関係者から、これを実現させるには、
(a)塔の上での観測が良いことを観測から示すこと、
(b) 研究者集団(学会)からの応援・要請が必要、
と言われた。その後、別の気象庁関係者から「社会(団体)からの応援・要請も あればよい」と言われた。

上記(a)については、国立環境研究所の地球環境センターで温室効果ガス濃度を 中心とした各種気象要素を観測しており、北海道の落石岬、富士北麓、沖縄県の 波照間島の、高さがそれぞれ55m、32m、39mの観測塔における気温データから 気温上昇率を得ることができた。これと気象庁地上観測所34か所平均の気温上昇率 (諸々の補正済み)の差は6%の精度で一致し、塔の上での観測は良いことが検証 された(近藤、2021;「K215.水と時代、私の研究と方法 ―地球温暖化観測所の設立に向けて」 「K217.地球温暖化観測所の設立に向けて(動画)」の後編を参照)。

気候変動の観測(長期の気温観測)は気象庁が行わねばならない理由
気温の長期観測では観測データの品質が均一で、担当者・測器の変更にともなう 不連続が生じてはならない。筆者はこれまで、国・地方・民間組織による観測データ の多数を見てきたが、1975年ころ以後では、品質の均一性が保たれているのは 気象庁以外では見いだせなかった。気象庁は気象測器検定試験センターを持ち、 かつ100年以上にわたり観測精神が培われてきたからである。今後の長期にわたる 高精度の気温観測は気象庁以外では難しい。

気象庁が行う長期にわたる気候変動の観測では、大気バックグランド汚染観測 (国内3地点で実施)や日射放射観測(国内5地点で実施)も行っている。 日射放射観測では温室効果ガス濃度の上昇による影響を気温変動(上昇)よりも 直接的に監視することができる。

必要な予算
筆者(年金生活者)は高精度の通風式気温計(データロガー含む)の15台ほどを 用いて、日本各地で観測し、観測所近傍の環境と観測誤差「日だまり効果」の 関係など、準備研究を行ってきた。気象庁の既存の測風塔に15台の通風式気温計 を設置するのに必要な予算は気象庁にとって決して高額ではない。


次節は前記(b)の研究者集団からの要請書である。要請書は今後の気象庁の予算獲得 の際に役立てていただきたい。最近は人員削減が行われ、予算の獲得は難しくなって いる。社会からの支持・応援によって、いま世界で重視されるようになった地球 温暖化の真実を知るための基本となる気温観測が気象庁によって実現されることを 願いたい。


218.2  「地球温暖化観測所」設置の要請書

気象庁長官宛ての「地球温暖化観測所」設置の要請書2通が作成された。 その(1)は日本森林学会、その(2)は水文・水資源学会の要請書である。 2021年8月3日までに2通が筆者の手元に揃った。当初の計画では筆者が持参して 気象庁長官に手渡す予定であったが、深刻なコロナ禍(新型ウイルス感染症: COVID-19)にあるため、気象庁長官宛てに2021年8月4日付け郵便で発送し、 8月5日に届けられた。

(1)日本森林学会の要請書
日本森林学会は、1914年に創設された、森林・林業を総合的に扱う日本で唯一の 学会である。自然環境の維持増進と林産物の供給など森林の価値や機能に関する 研究の発展に努め、国民ひいては人類の生活・文化の向上に貢献している。 森林の動植物や微生物、水源かん養や山地災害、森林資源など森林環境は気候に 大きく依存しており、これらに関わる諸問題を研究している。

日本森林学会の会長は東京大学教授の丹下 健さん、副会長は京都大学准教授の 深町加津枝さんと森林総合研究所研究ディレクター(生物多様性・生物機能研究 担当)の正木 隆さんである。

筆者は2021年5月18日に常任理事(総務担当)の森林総合研究所研究ディレクター (国土保全・水資源研究担当)の玉井幸治さんにお願いしたところ、会長・副会長 と検討されて、要請書を提出していただいた(日付は2021年6月9日)。 このことは事後、理事全員に報告される。

要請書のコピーは文書1である。なお、要請書に添付の資料1は付録Aに示してある。

文書1 日本森林学会の要請書(コピー)
日本森林学会の要請書



(2)水文・水資源学会の要請書
水は生命の維持に必須な物質であるとともに、人間の社会的・経済的活動を支える 基本的要素の一つである。特に前世紀後半以後の人間活動の飛躍的拡大の中で、 人間が水循環に影響を与え、またその反動を受ける事態が生じてきた。水問題は 気候変動に大きな影響を受ける。従来、水に関する研究は各分野で進められて きたが、最近の研究の著しい進歩により、水循環の物理過程の観測、データ収集・ 情報処理・現象解析とモデル化など、一分野に限らない共通の研究課題が多く なっている。これら研究の効率的な推進を図るために、多様な要素が関与する 現象を把握する新しい学問体系を充実させることになり、水文・水資源学会が 1988年に発足した。学会の構成員は、気象学、地理学、土木工学、砂防工学、 人文科学など10分野の研究者からなる。

水文・水資源学会の第17期会長は千葉大学教授の近藤昭彦さん、4名の副会長は 九州大学教授の大槻恭一さん、東京大学教授の沖 大幹さん、秋田県立大学教授 の増本隆夫さん、東北大学教授の山崎 剛さんである。

水文・水資源学会では2021年からオンラインセミナーを行うことになり、 筆者は講師として依頼され、2021年3月9日に第一回セミナーが開催された。 このセミナーでは水と気象・気候変動に関わる諸問題と地球温暖化問題を話題にし、 最後に「地球温暖化観測所」設置の提案をおこなった( 「K215.水と時代、私の研究と方法―地球温暖化観測所の設立に向けて」)。

学会の企画事業委員会(委員長は東京大学准教授の吉田貢士さん)は気象庁長官 へ提出する「地球温暖化観測所」設置の要請書の原案を作成し、6月17日の総務 委員会(委員長は東京工業大学教授の鼎 信次郎さん)、そして6月24日の理事会 を経て整えられた。さらに7月6日に学会会員に周知し、7月20日締め切りで意見 を求めた。会員からの意見を参考に要請書原案の一部に加筆して要請書の最終案 が完成した(日付は2021年7月30日)。

文書2は要請書のコピーである。なお、要請書に添付の資料1は付録Aに示してある。

文書2 水文・水資源学会の要請書(コピー)
水文・水資源学会の要請書


(3)その他の要請書
〇  (一社)日本経済団体連合会環境エネルギー本部長・長谷川雅巳さんも、 「付録A 『地球温暖化観測所』設置の提案」を検討するよう気象庁長官宛に 要請書を提出されている(要請書の日付:2021年10月7日、気象庁長官に届いた 日付:2021年10月12日)。


218.3 高層気象観測の利用

都市化や観測露場近傍の植生・建物などの影響のない場所における観測として、 塔の上で気温を測る方法のほかに、高層気象観測の大気境界層内のデータを利用 すればよいという案がある。

筆者は以前のラジオゾンデによる高層気象観測は知っており、それでは気温センサ に及ぼす放射影響誤差が大きく、精密な気温観測は難しいと考えてきた。 しかし、気象庁と測器メーカーの長年にわたる精度向上の努力によって観測精度 は良くなってきている。高層気象台観測第一課の鈴木健司課長から最近のラジオ ゾンデの詳細と、関連する文献(阿部、2015、2016;Kizu et al, 2018; Vaisala 2013)を教えていただいた。

以下では、それらの情報から、精密な地球温暖化量(長期の気温上昇率)が 得られるか否かについて検討する。具体的には今後の30年間について、地球温 暖化量を誤差±10%の精度で得られるか否かについて検討する。(誤差30~40% なら、現在の気象庁発表の温暖化量の精度と同じであり、高精度観測とは言えない。)

これまでは100年間当たり0.7℃の気温上昇率であったが、今後はその2倍の 1.4℃/100yとなった場合、つまり30年間で0.4℃/30yの割合で温暖化が生じる場合 を想定する。誤差±10%の精度を必要としているので、目安として気温の30年間 の相対誤差が0.04℃以内であればよい。これを例によって説明すれば、仮に真の 気温変化がなくても、測器の変更や気候(日射量、雲底高度、降雨強度・日数など) の変化があるので観測気温と真の気温の差(観測誤差)は30年間の始めのころと 終わりの頃で変わる。この観測誤差の30年間の変化幅が0.04℃以内で観測されるか 否かである。その観測が可能ならば高精度観測である。

同様に、今後の気温上昇率がこれまでの3倍の2.1℃/100yとすれば、観測誤差の 30年間の変化幅が0.06℃以内であれば高精度観測と言える。

次に具体的な検討に進もう。観測方法とラジオゾンデの種類は時代によって変更 されてきた。現在の高層気象観測では、自動放球装置による観測(ABL観測)と 人の手による観測(MBL観測)の2種類がある。それぞれの観測では、各2種類 のラジオゾンデが使用されている。

自動放球のABL観測
観測地点に整備された自動放球装置メーカーのラジオゾンデを使用することになる。 現在のセンサと観測地点は次の通りである。

・Vaisala製 RS41-SG ラジオゾンデ
観測地点:釧路、輪島、松江、潮岬

・明星電気製 iMS-100 ラジオゾンデ
観測地点:八丈島、名瀬、南大東島、石垣島


人力による放球のMBL観測
現在のセンサと観測地点は次の通り。

・Vaisala製 RS41-SG ラジオゾンデ
観測地点:稚内、札幌、館野(高層気象台)、福岡、鹿児島

・明星電気製 iMS-100 ラジオゾンデ
観測地点:父島、南鳥島

観測に使うゾンデは、毎年の競争入札で決めているが、ゾンデの種類・構造は 毎年変更されるわけではなく、過去の例を見れば数年または概略10年ごとに微細な 変更がある。それは、観測精度の向上に加えて、小型軽量化・低廉化のため、 その時々の最新の電子部品や技術を取り入れて改良と改善が図られてきたからで ある(阿部、2015)。

それでも気温観測に及ぼす誤差の要因は多く、そのため下層大気の気温データから 地球温暖化量(長期の気温上昇率)を正確に求めることは簡単ではないことが 以下の検討から分かってくる。

高層気象観測における気温観測に及ぼす誤差の要因
(1) 観測時刻の変更。1921年4月に現在のつくば市長峰で高層気象観測が開始 され、続いて福岡、札幌で開始された。現在の観測時刻は、世界時0時と12時 (日本時間9時と21時)であるが、1957年4月1日に世界時3時と15時(日本時間12時 と24時)から変更された時刻である。観測時刻の変更によって気温の不連続が生じる。 それゆえ、古いデータは長期の気温変化の評価に利用できない。

(2) 気球とゾンデセンサの距離(吊り紐の長さ)の変更。ゾンデセンサは 気球から紐で吊り下げられているために、気球による気球後流(熱航跡)の気温 測定値への影響がある。1968年6月に紐の長さが7mから15mに変更されたとき 観測の「データが格段に良質になっている」と記されている(阿部、2015)。 吊り紐が長ければ気球による熱影響は小さくなる。今後、紐の長さが変更された 場合は注意しよう。

(3) 気温センサのサイズの変更。放射影響誤差はサイズが大きいほど大きくなる。 観測開始の頃、気温センサは長さ50mm、幅42mm、厚さ0.23~0.28mmのバイメタル 温度計を使用していた。そして時代とともに何度も変更されてきた。例えば1981年 には小型ダイオードタイプの白色塗装したサーミスタとなり、2013年には、 明星電気製のサーミスタ温度計のサイズは1mmと小さくなった。そして、 現在使用されているiMS100ゾンデでは短径=0.43±0.1mm、長径=0.8±0.3mm の卵型の形状である。表面にはアルミと二酸化ケイ素(Al+SiO2)でコートされて 日射の反射率を高くしている。現在のVaisala製の白金抵抗体では、RS41ゾンデ の気温センサの径は0.3㎜程度である(観測後に回収したセンサの実測値:鈴木 健司課長による)。

(4) レスポンス・タイムの変更。気球の飛揚速度は約6m/sであり、 気温センサのレスポンス・タイムが長いと指示高度より低い高度の気温を測った ことになる。現在の明星電気製センサの63.2%レスポンス・タイムは気圧= 1000hPa、飛揚速度=5m/sのとき0.374sである(Kizu et al, 2018)。 Vaisala製センサでは気圧=1000hPa, 飛揚速度=6m/sのとき0.5sである (Vaisala, 2013)。したがって、いずれも1s前の気温の真値をほぼ示すことになる。 飛揚速度=6m/s、気温の高度減率=0.0065℃/m の場合には、1s前の気温は誤差 約0.04℃(=0.0065℃/s×6m)の高温として記録される。

(5) 雲内や降水中をゾンデが上昇するときセンサは濡れて湿球温度を示す ことになる。湿球の蒸発・乾燥・凍結のとき凝結・気化・凍結・融解熱が発生する。 それによって気温観測に誤差が生じる。雲の状態は年々変化し、また長期変化する と考えられるので、気温の観測値に誤差を含むことになる。この影響を受け難く するには、気球が雲に入る確率を小さくし可能な限り大気境界層内の低高度の データを使えばよい。また、降水時の降水粒子は雲底から落下するにしたがって 蒸発し雲水量が減少し、ゾンデのセンサの濡れる確率は小さくなる。目視の経験 から分かるように、降水時は概略100~200m以下の低高度で雲水量が少なく 視程がよい。日本では日降水量が1mm/d以上の日数は、年間365日のうち1/3~1/2 程度の日数があり、センサが湿球温度となる確率は無視できない。

気温センサが濡れたり乾いたりするときのセンサ温度は気温の真値と違ってくる。 その温度差(観測誤差)は熱収支計算から求めることができる(近藤「水環境の 気象学」の6章)。計算例は「K176.凍霜害予測の実用化(4) 狭山―準備研究」の付録3「葉面温度と気温の差」に示してある。 その図176.13は気温が0℃で、夜間の作物葉面を想定し上面の有効放射量= -100W/m2の場合である。パラメータとして相対湿度rhで表わしてある。 rh=1(相対湿度100%)のときでも有効放射量があれば(完全な放射除け通風筒内 でなければ)縦軸の気温差(観測誤差)はゼロにはならない。横軸は顕熱交換速度 ga=ChUである。

この図をラジオゾンデ用の細線の気温センサの直径0.3mmの円柱、ゾンデの 飛揚速度=風速=6m/sに利用するには横軸のga=ChU=0.36m/sを読み取ればよい。 濡れているときは蒸発効率β=1、赤線は濡れた状態で降霜・昇華が生じない 平衡状態ときの関係であり、温度差は0.1℃程度である。また、濡れたセンサが rh=0.9(90%)の空気中を上昇するときのセンサ温度は気温より1℃ほど低温になる。 気温差つまり観測誤差は有効放射量に比例するので、有効放射量が大きい日中の 観測誤差は図176.13に示された値より大きくなる。

なお、物体の顕熱交換速度はga=ChU=(a/L)N で定義され、a は空気の分子 熱拡散係数、L は物体のサイズ(直径、長さ)、Nは伝熱工学でおなじみの ヌッセル数である。放射場に置かれた気温センサ(物体)の温度と気温の差 (放射影響誤差)の計算方法は近藤(1982)「大気境界層の科学」の3.2節 (p.71―p.77)と、近藤(1994)「水環境の気象学」の6.2.1節(p.132-p.135) を参照のこと。

なお、気温センサの水濡れや乾燥による気温鉛直分布に見られる異常値(気温の 超断熱減率発生時)が見られたときは品質管理の対象であり補正が行われている (阿部、2015)。本論で問題としているのは、気温の超断熱減率の異常な 鉛直分布でない場合である。

(6) 放射影響誤差の補正式の不正確と時代による補正式の変更。放射影響 誤差はゾンデ飛揚時の太陽高度や、雲や大気混濁係数や地面反射率などの条件に よって異なるが、現実にはラジオゾンデでは放射量を観測していないので、 現在の観測では条件によらず一定値を補正している。現在のバイサラ製RS41の 日中の観測値についてはVaisala(2013)のTable2.3に掲載されている補正値 (例えば1000hPa, 10℃で0.03℃)を観測値から引き算している。

この補正値0.03℃は疑わしい。Vaisala製の白金線直径=0.3mmに対する補正量は 近藤(1982)の図に比べてかなり小さい。つまり、Vaisala製 の補正図は日射量 が小さな条件に対する補正値になっている。近藤(1994)のp.133を参照すれば、 有効放射量=(入力放射量-σT4)であり、入力放射量は物体が 吸収する短波と長波放射量の合計、σT4は気温 T に対する黒体放射量 である。

一方、明星電気製RS-11GとiMS-100の日中の観測値についてはKizu et al(2018)の Figure3.6に示されている補正値(例えば気圧1013.25hPa, 太陽高度=60°で 0.17℃)を観測値から引き算している。これらは気球の上昇速度=6m/s (固定された温度計では通風速度に相当)を想定した場合である。 この0.17℃の補正値は、明星電気製の卵型サーミスタの直径≒0.6mm (球に置き換えた直径)としたとき、近藤(1982)の示すセンサの太陽光に対する 反射率が90%の場合の放射影響誤差の目安にほぼ等しい。
夜間の補正量については、センサー表面の黒体度は近似的に 1 としてよく、快晴夜 の補正量は日中と符号が逆で、概略0.17℃となる。
要約すれば、高度数100m以下の範囲における補正量は概略+0.2℃~ー0.2℃の範囲 にあり、ゾンデ放球時の季節や雲の存在つまり天気によって変化する。
(ここでは高度数100m以下の場合を論じており、高層大気では有効放射量の絶対値 が日中・夜間ともに大きくなることと、空気密度が小さくなるので放射影響誤差 の絶対値は大きくなる。)

放射影響誤差についての詳細は近藤(1982)または 「K16.気温の観測方法」を参照のこと。ただし近藤(1982)の図3.4は 常温常圧の条件で、有効入力放射量=0.1 ly/min=70W/m2の場合 (太陽直射光を完全に防いだような場合、または、センサの反射率が90%程度の場合) である。

(7) センサ検定の許容誤差。気象測器検定制度において、ラジオゾンデ用 温度計の器差は、 -50℃以上~+40℃以下の範囲で±0.5℃、 -85℃以上~-50℃ 未満の範囲で±1.0℃とされている。また、実際に飛揚する前に地上の検査機器を 使ってゾンデに異常のないこと(気温の場合は基準器との差が±0.5℃以内である こと)を確認してから放球する。各ラジオゾンデについて器差補正は行わないので、 誤差は±0.5℃以内である。電気抵抗と温度の関係は直線でなく、電気回路によって 小さい温度幅ごとに直線化している。そのとき、温度によって器差が異なってくる (例として「K171.サーミスタ温度計の校正(おんどり TR-52i)」を参照)。センサと電気回路は時代によって変更されるので、 温度と器差の関係は一定ではなくなる。

(8) 都市化の影響。都市化昇温の大きな都市に設置されている高層気象観測所 は解析から除外する。中小都市における高層気象観測では、高い高度の気温データ を利用すれば都市化影響は小さくなるが、前記(5)のセンサの濡れの影響を含む 確率が高くなり、観測誤差となる。

仮に、気球およびセンサの形状と飛揚速度などが時代によらず一定で、 さらに雲などの気候条件が一定であれば、上記の観測誤差は長期にわたり一定 となる。しかし、現実には気候が変化すれば雲などの諸条件が時代とともに変化し、 観測誤差は一定ではなくなり、正しい観測値は得られない。

上記の考察に加えて、阿部ほか(2015;2016)の資料を参考にすれば、次のように まとめることができる。

要約:ラジオゾンデの気温センサのサイズが小さくなり、気球の高度・ 方位をGPS測位方式になった2010年以後なら地球温暖化量(長期の気温上昇率) は以前よりは高精度で得られるであろう。しかし、特に上記の(5)(6)(7) による誤差を含むので、前記した「±10%の誤差:気温の30年間の相対誤差が 0.04℃、または0.06℃以内」の高精度観測は難しい。現在の地上観測で用いられて いる「センサの濡れと放射影響を防ぐ通風筒内センサによる気温観測」と 同等の精度は高層気象観測では難しそうである。

その確認には、固定された塔(例えば測風塔)の上に設置された通風筒による 気温観測値と比較検証が必要である。ラジオゾンデのセンサの変更に伴う気温の 不連続が生じないか確認し、また、気候変化による雲の状態などは変わりうるので、 雲内・降水中飛揚のとき生じるセンサの濡れに伴う気温観測誤差が年によって変わら ないか検証しなければならない。センサの変更などは今後もあり得るので、 その検証期間は少なくとも20年間を要する。

備考:ラジオゾンデによる観測データから長期の気温上昇率を評価する 試みが古林(2016)によって行われている。新旧ラジオゾンデの比較観測で得た 気温の不連続(段差)を補正した結果、高層気象台における850hPa面の1958年~ 2013年期間について、100年当たり1.8℃の上昇率を得ている。この上昇率は かなり大きな値である。この結果は、気温の年々変動などに比べて小さな気温 上昇率である地球温暖化量の評価について、多数の誤差要因をもつラジオゾンデ 観測から求めることの難しさを示すものであろう。
鈴木健司課長によれば、現在、ラジオゾンデによる観測データを 気候監視に利用する取り組みとして、WMOほかによる全球気候監視システム (GCOS: Global Climate Observing System)におけるGRUAN(GCOS Upper Air Network)と呼ばれる高層気象観測ネットワークがあり、高層気象台も、 これに参加している。なお、GRUANについては藤原(2011)が解説している。


文 献

阿部豊雄、2015:気象庁における高層気象観測の変遷と観測値の特性、 第1部 高層気象観測の変遷.天気、62(3)、161-185.

阿部豊雄、2016:気象庁における高層気象観測の変遷と観測値の特性、 第2部 観測値の特性.天気、63(4)、267-295.

藤原正智、2011:気候監視のための新しい高層気象観測ネットワークGRUAN.天気、 58(8)、679-695.

古林絵里子、2016:ラジオゾンデの歴史的変遷を考慮した気温トレンド(第2報). 高層気象台彙報、第74号、17ー25.

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版会、pp.219.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学-地表面の水収支・熱収支.朝倉書店、 pp.350.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学ー理解と応用.東京大学出版会、 pp.324.

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化. 気象研究ノート、224号、25-56.

近藤純正、2020:日本の地球温暖化量、再評価2020.
www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke203.html

近藤純正、2021:観測の誤差から真実を見るー地球温暖化観測所の設立に向けて. 天気、68、37-44.

Kizu N., T. Sugidachi, E. Kobayashi, S. Hoshino, K. Shimizu, R. Maeda and M. Fujiwara, 2018: Technical characteristics and GRUAN data processing for the Meisei RS-11G and iMS-100 radiosondes, GRUAN-TD-5,GRUAN Lead Centre, pp.152.
https://www.gruan.org/documentation/gruan/td/gruan-td-5

Sugawara, H. and J. Kondo, 2019: Microscale warming due to poor ventilation at surface observation stations. J. Atmos. and Oceanic Tech., 36, 1237-1254.

Vaisala 2013: Vaisala Radiosonde RS41 Measurement Performance, pp.28.
https://www.vaisala.com/sites/default/files/documents/ White%20paper%20RS41%20Performance%20B211356EN-A.pdf




付録A 「地球温暖化観測所」設置の提案(要請書に添付された資料1)

要請書に添付の資料1の内容は以下の通りである。

        資料1 「地球温暖化観測所」設置の提案

           東北大学名誉教授 近藤純正

    目次
        要約  
        1 気温観測の異議
        2 地球温暖化量評価の問題点
        3 「地球温暖化観測所」の提案」
        文献
要約
地球温暖化の速度は、過去100年間につき約0.7℃である。これまで、気温は地上 1.5mで観測されてきたが、都市化やごく近傍の環境変化によるノイズが大きく、 正確な地球温暖化の観測となっていなかった。そこで、地物の直接的な影響を受け ない観測塔の上において気温を観測する「地球温暖化観測所」の設置を提案する。 観測塔の候補として、データ記録の信頼性と費用低減のために、風速が観測されて いる既存の気象観測所15箇所の測風塔を利用する。

1 気温観測の意義
気象観測所(測候所)は、人々の生活や海上運輸、農業等の産業活動に貢献してきた。 全国に展開されている気象観測所は、このような目的のためには十分であり、 観測精度の許容誤差は±0.5℃程度とされてきた。

実際には、気象観測所で観測される気温は、地域を代表する気温と系統的に 大きく外れることもある。その理由は、都市化の影響や観測所のごく近傍の 環境状態 (例:樹木の繁茂による日だまりができる)によるものである。 しかしながら、 通常の生活に利用する限りにおいては、こうした外れは深刻な 問題ではなかった。

2 地球温暖化量評価の問題点
しかしながら、これら既存の気象観測所を地球温暖化の評価に転用するには、 問題がある。もともと、±0.5℃程度の誤差を許容するものだったため、100年間 当たり0.7℃程度という僅かな地球温暖化の傾向を検出するには無理がある。 加えて、都市化の影響は100年で1.5℃(横浜や名古屋など)から2℃(東京)、 地方の中小都市では0.5℃前後もある(近藤、2012:日本の都市における熱汚染量 の経年変化.気象研究ノート、224号、25-56)。

観測所のごく近傍の環境状態による気温観測のノイズ(日だまり効果)もある。 このノイズは長期的に大きく変わる。気温観測の露場に設置されている気温計 から周辺地物までの距離をXとし、周辺地物(樹木や建物)の高さを h とすると、 少なくともXはhの30倍以上なければ、h の変化による気温観測へのノイズは大 きくなる。図1は露場の広さ(空間広さ)を説明したものである。

空間広さの模式図
図1 気温観測の露場の広さの説明図。観測点における気温は、理想的な広い 空間(X/h>30)で観測される気温から外れる。その外れの大きさは X/h の関数 で表わされる(「K121.空間広さと気温―“日だまり効果” のまとめ」の図121.2に同じ)。


現実には、日本の気象観測所の露場は狭く、周囲に樹木が繁茂していたり、 建築物があったりして、X/h>30の条件を満たしている理想的な観測所はほとんど 存在しない。図2は東京の北の丸公園に設置されている北の丸露場の写真であり、 X/h が狭い代表的な露場の例である。

東京の新露場全景
図2 東京の北の丸露場。露場は土盛りして一段高くなったところ、中央の やや 左よりの黒い箱は「現在の気象」を表示する施設である(露場の南南東方向 から 北北西を撮影、2011年7月22日)(「写真の記録」の
「93.東京の新露場」の図93.2に同じ)。 東京の気温などの正式観測地点は2014年12月2日に大手町露場から北の丸露場に 移転した。 


日だまり効果の例
図3 晴天日中の日だまり効果の例。北の丸露場の気温はビル街の大手町露場 に比べて1℃ほど高温に観測される(
「K217.地球温暖化観測所の設立に向けて(動画)―正しく知ることの重要性―」 の節「217.3資料(提案書)」の図2に同じ)。 


さらに、長期にわたる気温観測データには統計上の問題がある。現在では、 毎正時の24回観測の平均値を日平均気温としているが、昔は1日に3回、あるいは4回、 6回、 8回の観測があり、時代と観測所によって異なっていた。観測回数と統計方法 の変更による気温の違いについての詳細は近藤(2012)に示されている。 統計方法の変更で大きな違いが生じるのは日界(1日の区切り)の変更による 最低気温の年平均値の違いであり、日本平均で0.35℃、最大0.7℃の違いが生じた 観測所もある。また、測器も変更されてきた。以前は百葉箱の中に置かれた 水銀温度計で気温を測り、微風晴天日中の気温は約1℃ほど高温に記録されていた。 1970年代からファンモータで外気を吸引する通風筒内に取り付けられた白金 抵抗温度計で気温を測るようになった。

都市化影響、日だまり効果、観測・統計方法の変更による誤差を補正して求めた 日本平均の気温の長期変化を図4に示した。図中の破線は気温の長期変化を1次式 で表わし、気温上昇率は 0.77℃/100y である。各種の補正をして いない気象庁発表値(1.2℃/100y)の約60%であり、気象庁発表値は過大評価 になっている。

気温の長期変化
図4 日本平均の気温の長期変化(34地点平均)。都市化や日だまり効果を 含まない気温である(近藤、2021:観測の誤差から真実を見る-地球温暖化観測所 の設立に向けて.天気,68,37-44)、( 「K203.日本 の地球温暖化量、再評価2020」の図203.2に同じ)。 


3 「地球温暖化観測所」の提案
提案:地球温暖化の観測を目的として、全国15か所の気象観測所の測風塔に 通風式気温計を設置し、気温の観測を常時行う。

この提案の詳細は以下の通りである。
(a) 地球温暖化の観測を目的とする場合、地球温暖化の影響や十年規模変動など 自然変動には地域差(緯度依存性)があることから、その地域分布を把握するために、 全国15か所の気象観測所で観測する。これら既存の施設を使うことで、経費を抑える ことができ、また管理上の利点がある。

(b) 15か所として、寿都、室蘭、浦河、深浦、宮古、大船渡、奥日光、石廊崎、 相川、浜田、津山、室戸岬、屋久島、南大東島、与那国島が候補にあげられる。

(c) これらの「地球温暖化観測所」における観測気温を用いて、図4に示した 地上1.5m高度で測る34地点の地上観測気温の日だまり効果による誤差のチェック も行い、 より正確な地球温暖化および自然変動の見積もりができる。

(d) 「地球温暖化観測所」および34地点の地上観測所は長期にわたり周辺環境 の変化による気温観測に及ぼす影響が生じる可能性がある。そのため約5年ごとに、 相互比較によってデータを接続できる観測所を見いだす作業を行うこととする。

(e)測風塔における観測においても、観測環境の悪化(都市化昇温量の変化も含む) が生じた際、周辺の複数観測所のデータでチェックし、データ接続を行う必要が 生じる。そのようなデータ接続の精度を考慮した際、最低限でも全国で15か所程度 の測風塔が必要となる。

(備考)気候変化(気温、湿度、風速、降水量)のうち、気温が基本であり 正確に求めやすい。各種気象要素は測器・観測方法・統計方法が時代によって 変更されてきたため、降水量や風速などの長期変化を求めることは気温以上に難しい。 特に降水量は変動が激しい。温暖化対策上、行うべき多くの観測要素・研究課題の 中で気温の正しい観測が基本であり、他に比べて少額の予算で可能である。

文献

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、 224号、25-56.

近藤純正、2021:観測の誤差から真実を見る-地球温暖化観測所の設立に向けて. 天気、68,37-44.




付録B 要請書に関する日本気象学会からの回答、その内容についての検討

日本気象学会の理事長は佐藤薫・東京大学教授、副理事長は橋田俊彦・元気象庁長官 である。気象庁関係者が主要な役員に入っており、現気象庁長官宛てに提出する 要請書には微妙な問題を含むことになる。

筆者は2021年3月18日に佐藤薫理事長にお願いして、要請書について理事会で 協議していただいた。しかし文書3に示すように、学会においてコミュニティの 合意形成に至っていないことから要請書を学会から発出することは難しいという 回答があった。

文書3 日本気象学会からの「地球温暖化観測所」の提案に関する回答書(コピー)
日本気象学会からの回答書



この回答文の中で、筆者が問題とするのは次の2点である。
その1 “気温の長期変化は、都市化や植生などの地物の影響を受けない測風塔 での観測でなくても、高層気象観測を利用すれば可能ではないか”という意見に ついて。
その2 “気温観測の他にも重要であるにもかかわらず実現されていないと考え られる観測が数多く存在する。それゆえ、塔の上で気温を測る「地球温暖化観測所」 だけについて要請書を出すことは不公平である”という意見について。

その1についての検討
筆者が本論の「218.3 高層気象観測の利用」の節で示したように、気温センサ をむき出しにしたまま測るラジオゾンデ観測には、様々な観測誤差が含まれる。 そのうち特に(5)雲中や降水中をゾンデが上昇するときセンサは濡れて湿球温度 を示すこと、(6)放射影響誤差の補正式の不正確さと時代による補正式の変更、 (7)センサ検定の許容誤差が-50℃以上~+40℃の範囲で±0.5℃であり、 実際に放球する前に地上の検査機器を使ってゾンデに異常のないこと (基準器との差が±0.5℃以内)を確認してから飛揚していること、さらに 器差補正は行っていないことによって、気温の観測誤差を大きくする可能性がある。

それゆえ、地上観測で用いられている「気温センサの濡れと放射影響を防ぐ通風筒 を用いる観測」と同等の高精度観測は難しそうである。それを検証するには、 固定された測風塔の上に設置された通風式気温計と比較する必要がある。 ラジオゾンデの気温センサその他は、今後も微細な変更がありうるので20年間ほどの 検証が必要である。高層気象観測の資料から高精度の地球温暖化量(長期の気温 上昇率)を求めることは容易ではない。

その2についての検討
日本気象学会内の気象庁関係者に、“気温観測のほかに重要であるにもかかわらず 実現されていないと考えられる数多く存在する観測項目”は何かについて、個人的な 考えを尋ねたが、「お答えすることは難しい」とのことであった。
筆者は、実現されていない観測項目は共有し、社会へ伝えるべきだと考えて、尋ねた のである。いま、予算獲得が難しくても、そうしていれば、実現されるときがくる と考えるのである。

多様な考えをもつコミュティーでは、意見の一致は早急には難しい。 だからといって、何もしなくてよいわけではない。理解者・協力者と共に、 なすべきことは前進させ、地球温暖化の真実を知りたい多くの人々のために 働きたい。



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