93. 東京の新露場
著者:近藤 純正
東京北の丸公園に新設された東京の新露場を見学した。気象観測は現在の大手町の露場で行われており、
今後3年間ほど比較観測を行った後、新露場での観測が正式に公表されることになる。
(完成:2011年8月7日)
もくじ
1 はしがき
2 現在の露場
3 新露場の写真
4 新露場の気温は下がるか?
1.はしがき
気象庁は、前身の「東京気象台」として1875(明治8)年に創設され、1887年に「中央気象台」、
1956年に「気象庁」に改称され、所轄は内務省から文部省、運輸省に移され、2001年1月6日から
国土交通省の外局となった。
観測場所は、次のように移転している。
①明治15(1882)年~大正12(1923)年の41年間、皇居旧本丸北桔梗橋(きたはねばし)
(現在の北桔梗門の東約150m、皇居内苑のお堀端:現在の大手町1-3-4から約640mの西方)、
②大正12(1923)年1月1日~昭和39(1964)年の41年間は旧麹町区元衛町(もとえばし)
(現在の気象庁の西側の道路を挟んだ向かい側の竹橋合同ビル付近:竹橋会館付近)、
③昭和39(1964)年3月~現在までの44年間は現在地の大手町1-3-4となった。
今回、東京の地上観測地点として、新しい観測露場が皇居外苑北の丸公園に完成した。
現在の露場から約900mのほぼ西北西にあり、公園内の道路を挟んで科学技術館から西の約100m
の地点である。新しい露場の周辺環境は環境省によって維持管理される。
注:気象庁本庁は平成25年度に、虎ノ門に移転する計画である。
新露場における試験的な運用は2011年8月1日から開始され、今後3年間ほど現露場との比較観測が
行われた後、新露場での観測値が東京の記録として公表されることになる。
以上の経過と今後の予定は、気象庁観測部計画課から教わった内容である。
上述の1923年と1964年の移転に際して、気温と湿度に顕著な不連続は見られなかったが、今後いくらの
気温差が生じるかに関心がある。この問題について、最後の第3節で考察しよう。
2.現在の露場
現露場は大手町の気象庁庁舎の北西側にある。道路を挟んだ西側のKKR竹橋会館12Fの食堂
から見おろして撮影した写真を図93.1に示した。
図93.1 東京大手町のKKR竹橋会館12F食堂から見下ろした現在の露場(標高=6m)、
横に3枚を合成したため、多少のひずみがある。ほぼ中央に露場、右方の8階建てビルは気象庁庁舎、
左方に高架の高速道路が写っている(2011年7月22日)。
3.新露場の写真
2011年7月22日の午後、東京管区気象台技術課観測システム調整官・山下光信氏と本庁観測部の
観測ネットワーク調整官・木俣昌久氏、観測システム運用室技官・小寺裕之氏に案内されて、
北の丸公園内に最近できあがったばかりの新露場を見学した。
北の丸公園の来園者に見学施設として利用してもらえるように、「現在の気象」を表示する施設も
整備されている。また、状況を監視するビデオカメラと拡声器も設置されている。
図93.2 北の丸公園内の道路から少し入った地点から撮影した新露場。中央のやや左よりの黒い
箱は「現在の気象」をデジタル表示する施設、露場は土盛りして一段高くなったところ、露場の
左方の電柱に監視装置がある(露場の南南東方向から北北西方向を撮影、2011年7月22日)。
図93.3 露場内の観測機器、横に3枚を合成したため、多少のひずみがある。左から順番に雨量計、
気温・湿度計、感雨計、積雪計。左側フェンスのすぐ内側の地面に見える四角形は気象標石
(標高25.2m)である。
図93.4 露場内から北方向を見た樹木の状態、気温・湿度の通風筒の右の向こうに見える木は
観測の障害になるとみなされ上部が切り取られている(2011年7月22日)。
図93.5 露場内から東方向を見た樹木の状態(2011年7月22日)。
図93.6 露場内から南方向を見た樹木の状態(2011年7月22日)。
図93.7 露場内から西方向を見た樹木の状態(2011年7月22日)。
4.新露場の気温は下がるか?
現在の露場は大手町のビル域にあり、露場西側のKKR竹橋会館との間には道路、北側には高架の
高速道路、お壕の周りには広い301号線がある。一方、新露場は北の丸公園の樹木の多い所にある。
一般に緑地公園内は蒸散が盛んで、かつ日陰が多いことから、ビル群・舗装道路域に比べて平均気温
は低い傾向にある。公園の広さにも依存するが、公園内は年平均気温が0.5~1℃程度低くなると
予想される。
しかし、現露場は風の通り抜けがよいのに対し、新露場は樹木に囲まれ風速は弱く、日だまり効果に
よって気温が高めとなることが予想される。これらプラス・マイナスの効果によって、現露場と比較
して平均気温に違いが生じるか、現時点で検討しておくことに意義がある。その予想と実測結果の
違いから私たちは自然を学ぶことができるからである。
詳しい検討は「研究の指針」の
「K53. 東京の新露場の気温は下がるか?」に掲載されている。
注: 緑地公園内の気温
各地の公園において、公園内外の気温差の観測が行われているが、非通風の温度計が用いられる
ことが多く、定性的なことは分かっているが正確な気温差は不明である。