K217. 地球温暖化観測所の設立に向けて(動画)
ー正しく知ることの重要性ー


著者:近藤純正
地球温暖化対策(気候変動対策)を適切に行うには、地球温暖化(気候変動)の 実態を正しく知らなければならない。

地球温暖化の速度は、過去100年間につき約0.7℃である。これまでの地上気温は高さ 1.5mで観測所されてきたため、観測所近傍の樹木や建物などの影響を受けて、 正しい地球温暖化の観測となっていなかった。それゆえ、こうした影響を受けない 塔の上で、今後、気温がどのように変化していくのか、長期にわたり、かつ正確に 観測していかねばならない。この目的のために、日本の気象庁気象観測所のうち、 15か所の測風塔の上に高精度の通風式気温計を設置する「地球温暖化観測所」を 提案する。

本章の217.2節の前半の(1)~(4)(動画YouTubeの前編)では、自然を正しく理解することが 研究であり、それが社会に役立つことを理解する。後半の(5)(動画YouTubeの後編)では、 正確な地球温暖化量の評価は、気象庁が発表する地上気温の観測値にはさまざまな補正 を含むために、塔の上で観測された気温を用いることが望ましいことを説明する。 (完成:2021年5月12日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2021年4月12日:素案作成
2021年5月12日:動画の公開

  目次
     217.1 まえがき  
     217.2 講演(動画YouTube:約1時間)
    (1)私の研究観
    (2)十和田湖物語(戦後復興と電力不足)
    (3)海面バルク法物語(数値天気予報精度向上の「気団変質実験」)
    (4)熱・水収支の研究(森林蒸発散と砂漠気候)
    (5)地球温暖化量の正しい評価ー定年後の仕事

     217.3  資料(提案書)
   文献(講演の図表スライドに引用した文献)     



217.1 まえがき

筆者は現役の1990年代に、気象庁が発表する地球温暖化量(長期の気温上昇率) に疑問を持っていた。そして1997年春の引退後、全国の気象観測所を巡回し、 昔の写真や図面を見せてもらい、また古い記録の書き写しを行い、正しい気温の 長期変化を求める作業を行ってきた。その期間に「日だまり効果」によって平均 気温が高めに観測されること、そのほか観測値にはさまざまな誤差を含むこと がわかった。そうして、「日だまり効果」による誤差の補正方法を見いだすための 観測を各地の気象観測所や公園などで行った。

これまでの地上気温は高さ1.5mで観測されてきたため、観測所のごく近傍の樹木 や建物の影響によって正しい気温の長期変化を知ることは難しい。それゆえ、 これら地物の影響を受けない塔の上で気温を測る「地球温暖化観測所」の設置に ついて、2020年2月10日に気象庁観測部談話会において提案した。ところが、 塔の上での観測が理論的に良いことを示すだけでは不十分とされ、次の課題が与え られた。

(1) 塔の上での気温観測が良いことを観測から示すこと、
(2) 研究者集団(学会)からの応援・要請が必要である。
さらに、最近になって気象関係者から「社会(団体)からの応援・要請もあればよい」 と言われた。

国立環境研究所の地球環境センターでは日本の緯度範囲を代表する3か所の観測塔 (北海道の落石岬、富士山の北麓、沖縄県の波照間島)で二酸化炭素など温室効果 ガス濃度を観測しており、これらの塔で気温も観測していることがわかった。 未整理の12年間の気温データをもらって解析し、気象庁の地上観測所34地点と 比較したところ、気温上昇率は誤差6%の範囲で一致した。これは課題(1)に 対する回答である(「K206.地球温暖化、全国3試験観測所」 の図206.9)。

課題(2)について、筆者は講演「地球温暖化観測所の設立に向けて-正しく知る ことの重要性」を行い、多くの人々から理解を得たい。そうして気象庁長官宛てに “「地球温暖化観測所」設置の要請書”を提出していただきたい。

地球温暖化(気候変動)対策上、多くの観測や研究課題の中で、気温の正しい観測 こそが基本であり、他の研究課題に比べて少額の予算で実現可能である。気温は 長期にわたり、かつ正確に観測していかねばならない。それができるのは、長年に わたり観測精神が培われてきた気象庁である。「地球温暖化観測所」の設立が実現 されるよう、気象庁を応援しよう。

観測露場の環境悪化は日本だけではない。筆者は世界の気象観測所を見て歩いた わけではないが、観測露場の環境悪化を思わせる論文も出ている(近藤、2021)。 それゆえ、世界の気象観測所の数%の測風塔に気温計を設置し、気候変動を監視する 地球温暖化観測所とすれば、世界の地球温暖化量が正しくわかり、気候変動対策に 役立つことになる。この観測を気象庁が世界に先駆けて開始しよう。

次節はその目的のための講演(動画)である。

備考1(内容の詳細):なお、次節(動画)の内容の詳細は 「K215.水と時代、私の研究と方法―地球温暖化観測所の設立に向けて」「K216.水と時代、私の研究と方法(Q&A)」 に掲載してある。


217.2 講演(動画YouTube:約1時間)

● 動画の前編(32分間)
次をクリックして視聴してください。前編では、自然を正しく 理解することが研究の喜びであり、それが私たちの生活に役立つことを理解する。
CIGSエネルギー環境セミナー (オンライン)「地球温暖化観測所の設立に向けてー正しく知ることの重要性ー前編

● 動画の後編(27分間)
次をクリックして視聴してください。後編では、長期の地上 気温の上昇率(地球温暖化量)を正しく評価することは、簡単なようで難しい。気温観測 では、観測環境のほか測器・統計方法が時代とともに変更されてきたからだ。それら による誤差を補正して、はじめて正しい気温の長期変化がわかることを理解する。
CIGSエネルギー環境セミナー (オンライン)「地球温暖化観測所の設立に向けてー正しく知ることの重要性ー後編


備考2(内容の訂正):動画の後半の終わりに近い部分に発声の間違いがあります。
スライド㉙ページ:グラフ縦軸を「初期時刻の38%・・・・」と説明しましたが、 正しくは資料のとおり「初期時刻の37%・・・」です。
スライド㉛ページ:グラフ下の結果を「昇温率は60%の違い」と説明しましたが、 正しくは資料のとおり「昇温率は6%の違い」です。


217.3 資料(提案書)


「地球温暖化観測所」設置の提案

東北大学名誉教授 近藤純正

要約
 地球温暖化の速度は、過去100年間につき約0.7℃である。これまで、気温は地上 1.5mの高さで観測所されてきたが、都市化やごく近傍の環境変化によるノイズが 大きく、正確な地球温暖化の観測となっていなかった。そこで、地物の直接的な 影響を受けない観測塔の上において気温を観測する「地球温暖化観測所」の設置を 提案する。観測塔の候補として、データ記録の信頼性と費用低減のために、風速が 観測されている既存の気象観測所15箇所の測風塔を利用する。

1 気温観測の意義
 気象観測所(測候所)は、人々の生活や海上運輸、農業等の産業活動に貢献して きた。全国に展開されている気象観測所は、このような目的のためには十分であり、 観測精度の許容誤差は±0.5℃程度とされてきた。

実際には、気象観測所で観測される気温は、地域を代表する気温と系統的に大きく 外れることもある。その理由は、都市化の影響や観測所のごく近傍の環境状態 (例:樹木の繁茂による日だまりができる)によるものである。しかしながら、 通常の生活に利用する限りにおいては、こうした外れは深刻な問題ではなかった。

2 地球温暖化量評価の問題点
 しかしながら、これら既存の気象観測所を地球温暖化の評価に転用することには、 問題である。もともと、±0.5℃程度の誤差を許容するものだったため、100年間当 たり0.7℃程度という僅かな地球温暖化の傾向を検出するには無理がある。 加えて、都市化の影響は100年で1.5℃(横浜や名古屋など)から2℃(東京)、 地方の中小都市では0.5℃前後もある(近藤、2012:日本の都市における熱汚染量 の経年変化.気象研究ノート、224号、25-56)。

観測所のごく近傍の環境状態による気温観測のノイズ(日だまり効果)もある。 このノイズは長期的に大きく変わる。気温観測の露場に設置されている気温計から 周辺地物までの距離をXとし、周辺地物(樹木や建物)の高さを h とすると、 少なくともXはhの30倍以上なければ、h の変化による気温観測へのノイズは 大きくなる。図1は露場の広さ(空間広さ)を説明したものである。

空間広さの模式図
図1 気温観測の露場の広さの説明図。観測点における気温は、理想的な広い 空間(X/h>30)で観測される気温から外れる。その外れの大きさは X/h の関数 で表わされる(「K121.空間広さと気温―“日だまり効果” のまとめ」の図121.2に同じ)。


現実には、日本の気象観測所の露場は狭く、周囲に樹木が繁茂していたり、 建築物があったりして、X/h>30の条件を満たしている理想的な観測所はほとんど 存在しない。図2は東京の北の丸公園に設置されている北の丸露場の写真であり、 X/h が狭い代表的な露場の例である。

東京の新露場全景
図2 東京の北の丸露場。露場は土盛りして一段高くなったところ、中央のやや 左よりの黒い箱は「現在の気象」を表示する施設である(露場の南南東方向から 北北西を撮影、2011年7月22日)(「写真の記録」の 「93.東京の新露場」の図93.2に同じ)。 東京の気温などの正式観測地点は2014年12月2日に大手町露場から北の丸露場に 移転した。


日だまり効果例、北の丸
図3 晴天日中の日だまり効果の例。北の丸露場の気温はビル街の大手町露場に 比べて1℃ほど高温に観測される(「K59.露場の風速と周辺環境 の管理―指針」の表59.1より抜粋)。


さらに、長期にわたる気温観測データには統計上の問題がある。現在では、毎正時 の24回観測の平均値を日平均気温としているが、昔は1日に3回、あるいは4回、6回、 8回の観測があり、時代と観測所によって異なっていた。また、測器も時代によって 変更されてきた。以前は百葉箱の中に置かれた水銀温度計で気温を測り、微風晴天 日中の気温は約1℃ほど高温に記録されていた。1970年代からファンモータで外気を 吸引する通風筒内に取り付けられた白金抵抗温度計で気温を測るようになった。

都市化影響、日だまり効果、観測・統計方法の時代による変更による誤差を補正 して求めた日本平均の気温の長期変化を図4に示した。図中の破線は気温の長期変化 を1次式で表わし、100年当たりの上昇率は0.77℃/100y である。各種の補正をして いない気象庁発表値(1.2℃/100y)の約60%であり、気象庁発表値は過大評価に なっている。

気温の長期変化
図4 日本平均の気温の長期変化(34地点平均)。都市化や日だまり効果を 含まない気温である(近藤、2021:観測の誤差から真実を見る-地球温暖化観測所 の設立に向けて.天気,68,37-44)、(「K203.日本 の地球温暖化量、再評価2020」の図203.2に同じ)。


3 「地球温暖化観測所」の提案
 提案:地球温暖化の観測を目的として、全国15か所の気象観測所の測風塔に 通風式気温計を設置し、気温の観測を常時行う。

この提案の詳細は以下の通りである。
(a) 地球温暖化の観測を目的とする場合、地球温暖化の影響や十年規模変動 など自然変動には地域差(緯度依存性)があることから、その地域分布を把握する ために、全国15か所の気象観測所で観測する。これら既存の施設を使うことで、 経費を抑えることができ、また管理上の利点がある。

(b) 15か所として、寿都、室蘭、浦河、深浦、宮古、大船渡、奥日光、石廊崎、 相川、浜田、津山、室戸岬、屋久島、南大東島、与那国島が候補にあげられる。

(c) これらの「地球温暖化観測所」における観測気温を用いて、図4に示した地上 1.5m高度で測る34地点の地上観測気温の日だまり効果による誤差のチェックも行い、 より正確な地球温暖化および自然変動の見積もりができる。

(d) 「地球温暖化観測所」および34地点の地上観測所は長期にわたり周辺環境 の変化による気温観測に及ぼす影響が生じる可能性がある。そのため約5年ごとに、 相互比較によってデータを接続できる観測所を見いだす作業を行うこととする。

(備考)気候変化(気温、湿度、風速、降水量)のうち、気温が基本であり 正確に求めやすい。各種気象要素は測器・観測方法・統計方法が時代によって 変更されてきたため、降水量や風速などの長期変化を求めることは気温以上に難しい。 特に降水量は変動が激しい。温暖化対策上、行うべき多くの観測要素・研究課題の 中で気温の正しい観測が基本であり、他に比べて少額の予算で可能である。



文 献(講演の図表スライドに引用した文献)

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.

近藤純正、1987a: 夢氷山-氷山を日本に運ぶプロジェクト.東北大学生活協同組合、 pp.146.

近藤純正、1987b:身近な気象の科学-熱エネルギーの流れ.東京大学出版会、 pp.189.

近藤純正、1989:大砂時計-世界初への挑戦の記録.東北大学生活協同組合、 pp.154.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学―地表面の水収支・熱収支.朝倉書店、 pp.350.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学-理解と応用.東京大学出版会、pp.324.

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、 224号、 25-56.

近藤純正、2021:観測の誤差から真実を見る―地球温暖化観測所の設立に向けて. 天気、68、37-44.

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