K210.温暖化の気温上昇率は季節により違うか? (平均気温)


著者:近藤純正
長期の気温上昇率は自然昇温率(おもに地球温暖化量)と都市化昇温率の和で 表されるとして解析した結果、気温上昇率の季節依存性は明確でなく、明らかな 違いは見いだせなかった。ここに、自然昇温率は都市化・日だまり効果の影響 を除去した年平均気温の昇温率の全国34地点平均値、都市化昇温率は年平均気温 から評価した各観測所の値である。

長期の気温上昇量に比べて月平均・年平均気温の年々変動が大きく、統計に 用いる観測所数が少数のときゃ、短期間の場合は気温上昇率の評価値には 大きな誤差を含む。そのため、年平均気温の上昇率に比べて、例えば冬・春 の気温上昇率は大きく評価される場合もあれば、あるいは逆に小さく評価 される場合もあり、明確な季節依存性が見いだせない。したがって、多数地点 を全体として見るとき、各季節の長期間の気温上昇率は自然昇温率と都市化 昇温量の和で表されるとしてよい。これは全体としての近似的関係であり、 続報において都市と田舎を区別した結果を示したい。 (完成:2020年10月24日)

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更新の記録
2020年10月24日:素案の作成

    目次
        210.1 はじめに  
        210.2  用語の定義と資料
        210.3  気温変動の特徴と解析方法
        210.4 気温上昇率の季節ごとの比較
      1971~2020年(50年間)
      1920~2019年(100年間)
      1994~2019年(25年間)
        210.5 最低気温の都市化昇温との関係(考察)
        まとめ
        文献
        付録 気温上昇率の一覧表       


210.1 はじめに

温暖化に伴う長期的な気温上昇率が季節によって違うか否かについては明らか ではない。長期的な気温上昇には地球温暖化と都市のヒートアイランド現象 が考えられているが、それらについて定量的・系統的な評価は行われていない。

筆者は日だまり効果や都市化による気温上昇の補正を各観測所について行い、 はじめて正しい日本平均の地球温暖化量を評価した。さらに、それを基にして 都市化による気温上昇量を91地点、あるいは43地点について評価した (近藤、2012; 「K48.日本の都市における熱汚染量の経年変化」「K173.日本の地球温暖化量、再評価2018」「K174.都市化による都市の昇温量、再評価2018」「K203.日本の地球温暖化量再評価、2020」 )。

こうした基礎的な研究ができたので、本研究では、長期的な気温上昇率が季節 によって違うかどうかについて調べることにした。これは今後の気候変化に よって生じる熱中症など健康障害や農作物の高温・低温障害の予測を行う 準備研究となる。


210.2 用語の定義と資料

都市化・日だまり効果の影響を除去した長期的な気温上昇の日本平均値は、 おもに温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化からなり、その他も含まれる。 これを「日本平均の自然昇温量」(G:global warming)と呼ぶことに すれば、多くの観測所における年平均気温の上昇は(G)と「都市化昇温量」 (U: urban warming)の和の関数として表される。

一般に、「日本平均の自然昇温量」は「地球温暖化量」と言われている。 以下では「日本平均の自然昇温量」は略して「自然昇温量」と呼ぶことにする。

「都市化昇温量」は各観測所の年平均気温から評価した各観測所の昇温量である。 資料は近藤、2012;「K48.日本の都市における熱汚染量 の経年変化」「K174.都市化による都市の昇温量、 再評価2018」を用いる。

「自然昇温量」は都市化影響の少ない観測所34地点について都市化・日だまり 効果を除去した年平均気温から評価した日本平均の昇温量である。 「K203.日本の地球温暖化量再評価、2020」 の結果を用いる(後掲の図210.2)。

都市化昇温量と自然昇温量は月ごとの評価値ではなく、年平気温を基に評価 したのは精度を上げるためである。各月ごとの都市化昇温量と自然昇温量に 大きな誤差が含まれる理由は、各月の気温の年々変動の幅が年平均気温の 年々変動の幅に比べて大きいことによる。

月平均・年平均気温の観測値
月平均・年平均気温の観測値は気象庁ホームページの「各種データ・資料」の 「過去の気象データ検索」による公表値を利用する。

解析する43地点
観測露場の移転などによって気温が大きくプラスまたはマイナス側に不連続に なった地点などは除外し、43地点について解析する。移転時の気温不連続の 値が小さい観測所は43地点に含まれている。東京の観測露場は大手町から 森林公園内の北の丸に2014年12月3日に移転し、年平気温は0.62℃低下したが、 その分は補正して解析することとし、43地点に含める。地点名の「東京」は 東京大手町を指す。

東京大手町の2015年以後の平均気温は次式によって補正する (「K54.日だまり効果と気温:東京新露場」を参照)。

1~3月:北の丸平均気温+0.70℃
4~6月:北の丸平均気温+0.59℃
7~9月:北の丸平均気温+0.55℃
10~12月:北の丸平均気温+0.92℃

観測値は未補正のまま公表値を用いる
気温計・観測回数・統計方法は時代とともに変更されており、気温の観測値は 均質でなく誤差を含むが、本論では未補正のままの気象庁の公表値を用いる。 すなわち、後掲の図210.3~4の縦軸は観測値から求めた気温の上昇率である。

ただし、自然昇温率(量)と都市化昇温率(量)は、前記のように、統計方法 などの時代による変更による誤差は補正した年平均気温から評価された値である。


210.3 気温変動の特徴と解析方法

図210.1に示すように、気温は数十年以上の長期間では上昇傾向にあるが、 数年、約11年、40~50年の周期的な変化が含まれる。それゆえ、短期間では 期間の選び方によって、非常に大きな上昇率や下降率を示す場合がある。 また、地域によっても傾向は異なる。気温が下降傾向から急激にジャンプ する現象もある。ジャンプの変化幅と、太陽黒点周期と同じ約11年周期の 変化幅は高緯度ほど大きい(近藤、2012; 「K48.日本の都市における熱汚染量の経年変化」)。

北海道と西日本の比較
図210.1 北海道と西日本の自然昇温量の経年変化の比較 (「K173.日本の地球温暖化量、再解析2018」 の図173.3に同じ)。
上:北海道6地点平均の5年移動平均
下:西日本15地点平均の5年移動平均



この図210.1は年平均気温についてであり、月単位では地域や期間による違いが さらに大きくなり複雑である。

注意すべきは、長期の年平均気温の上昇率には自然昇温率と都市化昇温率が 含まれていることである。これを考慮しない場合、都市化による影響が時代と ともに大きくなっているとき、仮に自然昇温量がゼロであっても気温は上昇 することから地球温暖化が進んでいると間違った判断をしてはならない。

気温は1~3月、4~6月、7~9月、10~12月の4季節について比較する。各3ヶ月 平均気温の上昇率と「自然昇温率+都市化昇温率」の関係について調べる。 前述したように、「自然昇温率」は年平均気温から評価した日本の平均値であり、 都市化昇温率は年平均気温から評価した各観測所の値で、季節によらない。


210.4 気温上昇率の季節ごとの比較

これまでに測器と観測・統計方法の変更は何度も行われてきた。特に1970年代 には、百葉箱から通風筒に、観測回数が毎正時24回観測に、大きく変更された。 それゆえ最初に、この期間について解析してみよう。この50年間(1970~2019年) は気温上昇率が大きい時代である。図210.2は1881~2019年(139年間)の日本 平均の気温の経年変化である。

気温変化
図210.2 日本平均の気温の長期変化(34地点平均)、都市化や日だまり効果 を含まない気温である(「K209.猛暑日・熱帯夜と都市化・ 地球温暖化との関係」の図209.1に同じ)。


1971~2020年(50年間)
1971~2020年(または1971~2019年)の43地点について解析した。図210.3の 縦軸は平均気温の上昇率の観測値、横軸は「自然昇温率+都市化昇温率」である。 4~6月を除けば、プロットは1対1の関係を示す破線の両側にあるが、4~6月期に ついては縦軸の観測値が小さめに出ている。つまり、4~6月期の気温上昇は 年平均の気温上昇に比べて小さいことになる。

4~6月を1ヶ月ごとに調べてみると(図は省略)、縦軸の観測値が横軸に比べて 小さいのは4月であり、それが4~6月の図に現れている。

気温上昇率1971-2019
図210.3 平均気温の上昇率と「自然昇温率+都市化昇温率」の関係(3か月 ごとの平均)、1971~2020年(50年間)。横軸は年平均気温から評価した昇温率 であり季節によらない値である。


図示した1971~2020年期間を他の期間に変えて調べてみると、4~6月期の 観測値が特に小さく現れるということはない。すなわち、気温の年々変動が 長期の上昇率の大きさに比べて非常に大きいため、選ぶ期間によって3ヶ月 平均気温観測値の上昇率に大きな誤差を含むことである。

1920~2019年(100年間)
図210.4は1920~2019年(100年間)についての比較である。1~3月期は観測値 (縦軸)がやや大きめ、逆に7~9月期はやや小さめになっている。このことから、 昇温率に季節によって異なり、「冬に大きく、夏に小さい」と断言してはなら ない。

気温上昇率1920-2019
図210.4 平均気温の上昇率と「自然昇温率+都市化昇温率」の関係(3か月 ごとの平均)、1920~2019年(100年間)。横軸は年平均気温から評価した昇温率 であり季節によらない値である。


1994~2019年(25年間)
念のために、統計・観測法の大きな変更がない時代で、しかも大きな低温年 を含まない最近の1994~2019年の25年間について調べてみた。

図210.5に示すように、期間が短いために地点ごとのバラツキが大きいが プロットは全体として1対1を表す破線の両側に分布している。

気温上昇率1994-2019
図210.5 平均気温の上昇率と「自然昇温率+都市化昇温率」の関係(3か月 ごとの平均)、1994~2019年(25年間)。横軸は年平均気温から評価した昇温率 であり季節によらない値である。


図210.3~210.5で示したように、各3か月の平均気温の上昇率は期間の選び方に よって異なり、季節による明確な違いは見いだせない。


210.5 最低気温の都市化昇温との関係(考察)

最高気温に比べて最低気温の上昇が大きい。
正式の気象観測所(気象官署)において観測された日本一の最低気温は北海道 の旭川における1902(明治35)年1月25日の-41℃である。旭川ではこの時代の 年最低気温は-30~-35℃であったが、近年の年最低気温はそれより約10℃も 上昇している。ただし、観測所の場所は何度も移転していることに注意すること (「写真の記録」の「33.旭川の都市化と気温 上昇」)。

東京でも同様に1900年ころは-6℃前後であったが、最近は -2~0℃となり100年間に5℃ほど上昇している。しかし、都市化されていない 旭川の周辺にある江丹別アメダスや高知県の室戸岬などでは、そのような上昇 傾向は見えない(「身近な気象」の 「8.都市化と放射冷却」)。

15都市(札幌、帯広、仙台、宇都宮、東京、横浜、甲府、名古屋、岐阜、金沢、 京都、大阪、福岡、大分、熊本)について、1950~2000年の50年間における 都市化による年平均気温の上昇は次の通りである、ただし自然昇温量(0.5℃) は含まない(「M59.都市気候」 の表59.1)。

 最高気温の上昇量:0.50℃(0.010℃/y)
 最低気温の上昇量:1.60℃(0.033℃/y)
 平均気温の上昇量:1.04℃(0.021℃/y)

 最低気温の上昇量-最高気温の上昇量=1.10℃(0.022℃/y)

このうち平均気温の昇温率(0.021℃/y)の影響は図210.3~図210.5のプロットの 一部に含まれている。

年最低気温の上昇
年最低気温の上昇率と年平均気温の上昇率を比べると、都市化されていない 石廊崎や室戸岬などではほとんど変わっていないが、都市化された観測所では 年最低気温の上昇率は年平均気温に比べて1倍以上となり、特に積雪地域では 4~6倍にもなる(「K10.都市化の判定基準」 の図10.17)。

積雪地域で大きいのは、放射冷却が積雪期に特に大きくなることである。 それゆえ、図210.3~図210.5の1~3月期のプロットにこの特徴が見えてもよい はずである。ところが図210.4では見えるが図210.3と図210.5では現れていなく、 全体としては明確ではない。

年最低気温は晴天の微風夜の放射冷却が大きくなる日に、たまたま起きる現象 であり、これが全体の結果に明瞭に現れ難いのかも知れない。それゆえ、 続報では最高・最低気温について調べることにしよう。日本全体で見た場合、 放射冷却が大きくなる晴天夜は晩秋に多いことから、季節による違いは晩秋 を中心に見いだされる可能性もある。


まとめ

本論では、観測環境が比較的によい43か所についての解析であり、一般 アメダス地点は地域を代表しない地点が多いので対象外とした。

都市化・日だまり効果の影響を除去した長期的な気温上昇の日本平均値は、 おもに温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化からなり、その他も含まれる。 これを日本平均の自然昇温量(G:global warming)、略して自然昇温量と 呼ぶことにすれば、多くの観測所における気温上昇は近似的に(G)と都市化 昇温量(U: urban warming)の和で表すことができる。これは、全体としての 近似的な関係である。

ここに(U)は各観測所の年平均気温から評価した各観測所の都市化による 昇温量、(G)は都市化影響の少ない観測所について都市化・日だまり効果を 除去した年平均気温から評価した日本平均の昇温量であり、季節によらない 値である。

長期の気温上昇量に比べて月平均・年平均気温の年々変動は大きく、統計に 用いる観測所数が少数のときゃ、期間が短い場合は気温上昇率の評価値には 大きな誤差を含む。そのため、年平均気温の上昇率に比べて、例えば冬・春の 気温上昇率は大きく評価される場合もあれば、あるいは逆に小さく評価される 場合もあり、明確な季節依存性が見いだせない。

したがって、多数地点を全体として見るとき、各季節の長期間の気温上昇率は 近似的に自然昇温率と都市化昇温量の和で表されるとしてよい。

本論では3か月ごと(1~3月、4~6月、7~9月、10~12月)の平均気温の上昇率 について明確な季節依存性は見いだせなかった。一部で言われてきた 「気温上昇率は冬に大きい」という特徴は、測器・統計方法が大きく変わり 百葉箱から通風筒に、観測回数が毎正時24回観測に変更された1970年代以後には 見いだせない。

続報では、より詳細を知るために、都市と田舎を区別して最高・最低気温に ついて調べることにしよう。


文 献

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、 224号、25-56.



付録 気温上昇率の一覧表

図210.3,210.4,210.5に示した3期間(1970~2019年、1920~2019年、 1994~2019年)の昇温率一覧表を以下の3つの表に示す。

表210.1 1970~2019年(50年間)の昇温率一覧表
昇温率1970-2019


表210.2 1270~2019年(100年間)の昇温率一覧表
昇温率1920-2019


表210.3 1970~2019年(25年間)の昇温率一覧表
昇温率1994-2019




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