K209.猛暑日・熱帯夜と都市化・地球温暖化との関係


著者:近藤純正
猛暑日(最高気温が35℃以上の日)と熱帯夜(最低気温が25℃以上の夜)の日数 が増加している。それらの増加日数と都市化昇温・地球温暖化との関係を43か所 (気象台と旧測候所)の観測データから、8月について調べた。

都市化・日だまり効果の影響を除去した長期的な気温上昇の日本平均値は、 主に温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化からなるが、その他の要因も含まれる。 これを日本平均の自然昇温量(G:global warming)と呼ぶことにすれば、 多くの観測所における気温上昇は(G)と都市化による都市化昇温量 (U: urban warming)の和で表すことができることがわかった。

(1)各地点における8月の日平均・日最高・日最低気温各々の月平均値の長期 上昇率は、近似的に「日本平均の自然昇温率」と「各地点の都市化昇温率」の 和に等しくなることがわかった。

(2)(U)が(G)より大きい観測所数の割合は、1970年には14%であったが、 50年後の2019年には40%に増加した。

(3)最大の都市化昇温量をもつ東京大手町については、(U)/(G)は1970年の 2.8から、2019年には2.1となり、相対的に減少傾向にある。しかし、10大都市 (札幌、仙台、東京大手町、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡) 平均については、(U)/(G)は1970年の1.46から2019年の1.48と、ほぼ同じ 約1.5が続いている。全43地点平均については、(U)/(G)は1970年の0.65から 2019年の0.85に大きくなり、しだいに1に近づいている。すなわち、日本全体を 見ると、1970年に比べて2019年は都市化昇温の寄与が大きくなった地点が増えた と言える。

(4)昇温量と同様に、猛暑日・熱帯夜の増加数は「都市化昇温率」と 「日本平均の自然昇温率」の和の関数で表される。猛暑日・熱帯夜の増加傾向は、 8月の日々の最高・最低気温の変動幅が大きい地点(内陸など)と小さい地点 (岬など)によって特徴が異なる。変動幅が大きい地点では月平均気温の上昇に ともない猛暑日・熱帯夜の日数は緩慢に増加して発生確率100%に漸近する のに対し、変動幅が小さい地点では急激に増加して発生確率100%に漸近していく。

(5)30年後の2050年について、最近の大きな自然昇温率0.013℃/y(1990~2019年) と同じ気温の上昇率が続き、都市化昇温量も含めた日最高気温の月平均値が日本 で最高35.3℃になると予想されるA地点では猛暑日の発生確率は約63%となる。 同様に日最低気温の月平均値が最高28.5℃と予想されるB地点では熱帯夜の発生 確率は約95%となる。これら63%と95%は約10年間の平均的な確率であり、 年々の確率はこれらの上下に分布することになる。

気温の時間変動の性質から、この特徴は熱中症などヒトの体調を決める特定気温 (日中の35℃、休眠時の25℃)に限らず、農作物にダメージを与える限界気温に ついても同じことが言える。 (完成:2020年10月10日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2020年10月7日:素案の作成
2020年10月8日:節209.3に「備考1」を追加
2020年10月10日:節209.3に「備考2」、付録2を追加

    目次
        209.1 はじめに
      研究の目的
      用語の定義    
        209.2  概要
      都市化昇温量と自然昇温量
      猛暑日・熱帯夜の経年変化
        209.3  猛暑日・熱帯夜と自然昇温率・都市化昇温率の関係
      日最高・最低気温の上昇率
      猛暑日・熱帯夜の増加
        209.4 猛暑日・熱帯夜の発生確率
      猛暑日・熱帯夜の発生確率
      発生確率の最大値(予測)
        まとめ
        文献
        付録 
      付録1 43地点における各要素の一覧表
      付録2 昇温率の8月と2月の比較           


209.1 はじめに

猛暑日と熱帯夜の日数が増加する原因として、地球温暖化と都市のヒートアイ ランド現象が考えられるが、それらについて定量的・系統的な評価は行われて いない。

筆者は日だまり効果や都市化による気温上昇の補正を各観測所について行い、 正しい日本平均の地球温暖化量を評価した。さらに、それを基にして都市化に よる気温上昇量を91地点、あるいは43地点について評価した (近藤、2012;「K48.日本の都市における熱汚染量の経年 変化」 「K173.日本の地球温暖化量、再評価2018」「K174.都市化による都市の昇温量、再評価2018」「K203.日本の地球温暖化量再評価、2020」 )。

こうした基礎的研究ができたので、猛暑日・熱帯夜と地球温暖化・都市化昇温 との関係について定量的評価が可能になった。

研究の目的
猛暑日・熱帯夜の増加をもたらす都市化と地球温暖化の寄与を観測所43地点に ついて定量的に求めることである。

用語の定義
「猛暑日」:日最高気温が35℃以上の日
「熱帯夜」:日最低気温が25℃以上の夜

都市化・日だまり効果の影響を除去した長期的な気温上昇の日本平均値は、 おもに温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化からなり、その他の要因も含まれる。 これを「日本平均の自然昇温量」(G:global warming)と呼ぶことにし、 多くの観測所における気温上昇は(G)と「都市化昇温量」(U: urban warming) の和で表されるとする。

一般に、「日本平均の自然昇温量」は「地球温暖化量」と言われている。 以下では「日本平均の自然昇温量」は略して「自然昇温量」と呼ぶことにする。

「都市化昇温量」は各観測所の年平均気温から評価した各観測所の昇温量 である。

「自然昇温量」は都市化影響の少ない観測所34地点について都市化・ 日だまり効果を除去した年平均気温から評価した日本平均の昇温量である。 「K203.日本の地球温暖化量再評価、2020」 の結果を用いる(後掲の図209.1)。

都市化昇温量と自然昇温量は月ごとに評価するのではなく、年平均気温を基に 評価したのは精度を上げるためである。各月ごとの評価値には大きな誤差を 含む理由は、各月の気温の年々変動の幅が年平均気温の年々変動の幅に比べて 大きいことによる。

「解析する43地点」:次節の図209.2と209.3では50地点を示すが、 観測露場の移転などによって気温が大きくプラスまたはマイナス側に不連続に なった7地点(新潟、金沢、神戸、岡山、広島、鳥取、宮崎)は除外し、節209.3 と節209.4では43地点について解析する。東京の観測露場は大手町から森林 公園内の北の丸露場に移転し、年平気温は0.62℃低下したが、その分は補正 して解析することとし、43地点に含める。

「10大都市」:札幌、仙台、東京大手町、横浜、名古屋、京都、大阪、 神戸、広島、福岡とする。

本論では、一般のアメダスは当初の設置目的からして、観測環境が悪く地域を 代表しない観測所が少なからず存在するので、本章ではは解析の対象としない。


209.2 概要

日々の日最高・日最低気温とそれらの月平均値は気象庁ホームページの 「各種データ・資料」の「過去の気象データ検索」による公表値を利用する。

都市化昇温量と自然昇温量
東京における都市化昇温は関東大震災(1923年9月1日)以後の震災復興に ともなって出始めたので、1920年を都市化昇温ゼロの基準とする。東京以外 では太平洋戦争終結(1945年8月15日)以後の戦災復興にともない都市化昇温が 大きくなり始めたが、便宜上、昇温ゼロの基準を東京と同じ1920年とする。 ただし、1920年に開設されておらず1940~1950年頃開設された測候所については、 1920~1940年(または1950年まで)の都市化昇温量はゼロと見なして解析する (近藤、2012;「K48.日本の都市における熱汚染量の 経年変化」 )。

図209.1は都市化の影響の少ない観測所34地点について都市化・日だまり効果を 除去した年平均気温から評価した日本平均の気温の長期変化「自然昇温量」である。

昇温率(1881~2019年)・・・・0.0077℃/y
 昇温量(1881~2019年)=0.0077℃/y×139年=1.07℃

昇温率(1920~1970年)・・・・0.0091℃/y
 昇温量(1920~1970年)=0.0091℃/y×51年=0.46℃(図209.2に利用)
昇温率(1920~2019年)・・・・0.0096℃/y
 昇温量(1920~2019年)=0.0096℃/y×100年=0.96℃(図209.3に利用)

気温変化
図209.1 日本平均の気温の長期変化(34地点平均)、都市化や日だまり効果 を含まない気温である(「K203.日本の地球温暖化量、 再評価2020」の図203.2に赤線を加筆)。


図209.2は1970年時点における50地点の自然昇温量と都市化昇温量の和を表して いる。同様に図209.3は50年後の2019年時点における関係である。各地点の気温 上昇における自然昇温量と都市化昇温量の寄与の大きさがわかる。

図中の左列の大手町(上から3番目)は東京の旧露場の大手町(市街域)に おける値である。現在の北の丸露場へ2014年12月2日に移転したことで年平均 気温は旧露場に比べて0.62℃低温となったので、そのぶんを加えて補正してある (「K174.都市化による都市の昇温量、再評価2018」 の図174.3)。

都市化と自然昇温の和、1970年時点
図209.2 1970年時点における各地の自然昇温量と都市化昇温量の和 (1920年基準)。大手町(左列の3番目)は東京の旧露場の大手町における値 である。薄緑の長さは自然昇温量、赤の長さは都市化昇温量を表し、両方の和が 実際の昇温量である。


都市化と自然昇温の和、2019年時点
図209.3 2019年時点における日本各地の自然昇温量と都市化昇温量の和(1920年基準)。 大手町(左列の3番目)は東京の旧露場の大手町における値である。


図209.2と図209.3によれば、都市化昇温量(U)が自然昇温量(G)より大きい 観測所数の割合は、1970年には14%(=7/50)であったが、50年後の2019年には 40%(=20/50)に増加した。すなわち、日本全体としては都市化昇温量が自然 昇温量に近づき、しだいに上回る方向に進んでおり、都市化の影響が大きく なっている。

図に示した50地点のうち、観測露場の移転などによって気温が大きく不連続に なった7地点(新潟、金沢、神戸、岡山、広島、鳥取、宮崎)は除外し、節209.3 と節209.4では43地点について解析する。

表209.1は都市化昇温量(U)と自然昇温量(G)、およびそれらの比(U)/(G) のまとめである。50地点平均と10大都市平均および東京大手町(旧露場)の 比較である。1920年を基準にしたときの中間年1970年に比べて50年後の2019年 には、(U)/(G)は10大都市でほとんど一定(約1.5)であるのに対し、 50地点では0.65から0.85に増加しており、やがて1に近づくか、あるいは1以上に なるのかも知れない。

東京大手町について、(U)/(G)は1970年に2.8(=1.3/℃0.46℃)であったが、 2019年には2.1(=2.0℃/0.96℃)となり、相対的に減少傾向にある。東京の 都市化昇温量がこれ以上進まず一定値(2.0℃)を保つのかも知れない (「K174.都市化による都市の昇温量、再評価2018」 の図174.3)。今後の東京都心部の都市環境の改善あるいは悪化によって変わって くる。

表209.1 都市化昇温量と自然昇温量の比較表
都市化と自然昇温量の比較表


夏の熱中症の増加を防ぐには、大災害時を想定すれば、冷房機を普及させる ことのみに力を注ぐのではなく、(1)温室効果ガスの排出量を無くして自然 昇温量を小さくすること、(2)都市の道路幅を広げ緑地広場を増やしたりして 風通しのよい都市構造にすること、(3)夏の高温期に入る前に、暑さに負け ない体力に鍛えておくこと、などが考えられる。

なお、東京都心部とは、大手町を中心とする半径約8km範囲内を指す。 この範囲内にある新宿御苑、明治神宮、代々木公園、北の丸公園の広い芝地、 および風通しのよい大手壕脇の5か所で4~9月の晴天日中に測った気温の違いは ±0.1℃以内であり、旧大手町露場の気温はこれら5か所に比べて平均的に 0.3~0.5℃ほど高温である(「K116.東京都心部の代表 気温―大手町露場の代表性(完結報)」)。 地点間の気温差は春~夏の晴天日中に最大(0.3~0.5℃)になるが、曇天と夜間 を含めると、この気温差の平均値は小さくなる。このことから、東京の旧大手町 露場における平均気温は東京の都心部を代表すると見なしてよいだろう。

猛暑日・熱帯夜の経年変化
猛暑日・熱帯夜が長期にわたって増加する特徴は8月の日々の最高気温・最低気温 の変動幅によって異なる。ここでは変動幅が大きい地点(内陸など)の代表として 宇都宮を、変動幅が小さい地点(岬など)の代表として室戸岬を比較してみよう。

室戸岬の8月の平均気温、最高気温、最低気温の平年値はそれぞれ26.1℃、28.7℃、 24.1℃(最高・最低の較差=4.6℃)、宇都宮はそれぞれ25.6℃、30.5℃、22.2℃ (最高・最低の較差=8.3℃)である(付録の表209.2)。

図209.4は猛暑日・熱帯夜の1920年以後の100年間における経年変化を示し、 上図は室戸岬、下図は宇都宮である。年々変動は非常に激しいので、11年移動 平均値のプロットを見ることにしよう。

室戸岬は海に突き出た岬の尾根の標高185mにあり、気温の変動幅が小さく、 平均気温は宇都宮より高温であるが、最高気温が35℃以上は生じず、猛暑日は ゼロである。最低気温は宇都宮より高温のため、熱帯夜は起こりやすく、 時代とともに増加している。室戸岬は都市化昇温ゼロの観測所であり、 これは自然昇温量のみによるものである。

1950~1965年に熱帯夜が5日以上となるピークが見えるのは、この頃の日本の 平均気温が高温であったことによる(図209.1)。

猛暑日・熱帯夜の経年変化
図209.4 猛暑日(赤丸印)と熱帯夜(青四角印)の1920年以後の100年間に おける経年変化、上図は室戸岬、下図は宇都宮である。大きい印は11年移動平均値 である。


下図に示す宇都宮について、1980年頃から猛暑日も熱帯夜も増加する傾向と なった。増加の速さを表す傾斜は直線ではなく、しだいに大きくなっている。 はじめは緩慢に、そしてしだいに急激に増加する特徴は後節の209.4節で示 される。また、都市における増加は都市化昇温率と自然昇温率の和に比例する ことは次節で示される。


209.3 猛暑日・熱帯夜と自然昇温率・都市化昇温率の関係

日最高・最低気温の上昇率
最初に、前掲の図209.1に赤線で示したように、自然昇温率が大きい1970年~ 2019年の50年間について調べてみよう。図209.5は全43地点における日最高気温 (上図)と日最低気温(下図)の1年当たりの上昇率と「自然昇温率+都市化 昇温率」の関係である。

プロットのバラツキは±0.01℃/y程度と大きいが、最高・最低気温の上昇率と 「自然昇温率+都市化昇温率」は近似的に等しいと見なすことにする。すなわち、 長期にわたる8月の最高・最低気温の上昇率は日本平均の年平均気温の上昇率 と各地点の都市化昇温率の和で表すことにする。

日最高・最低気温の上昇率と自然+都市
図209.5 日最高・最低気温の上昇率と「自然昇温率+都市化昇温率」の関係 (1971~2020年、8月)。上図は日最高気温、下図は日最低気温



備考1(将来予測における猛暑日・熱帯夜の発生確率の誤差)
上昇率に上記のバラツキの誤差0.01℃/yがあり、仮に30年間続いた場合、 最高・最低気温の月平均値に0.3℃の誤差が生じる。この場合、後掲の図209.11 に示す猛暑日・熱帯夜の発生確率の誤差はいくらになるか?
図209.11によれば、横軸の日最高・最低気温の月平均値の上昇にともなって 猛暑日・熱帯夜が発生する確率は0%からしだいに大きくなり50%、最後に 100%に達する。50%前後のときもっとも急激である。その付近では、横軸の 0.3℃の違いは縦軸の確率で最大5%程度の誤差となる。実際の確率の年々変動 (10日/31日=30%)に比べれば小さい。

なお、各地点における日最高・最低・平均気温の上昇率は付録の表209.4の右3列 に掲載してある。

備考2(長期の気温上昇率は季節によらずほとんど同じ)
図209.5では、8月の1か月という短期間の最高・最低気温の上昇率と 「自然昇温率+都市化昇温率」は近似的に等しいと見なすことにした。 しかし続報で示されるように、期間が3か月程度に長くなると、両者はほとんど 等しいと見なしてよいことになる。

さらに、昇温率は季節によらほとんど同じになる(付録2を参照)。


猛暑日・熱帯夜の増加
前図に示したように、最高・最低気温の上昇率が「自然昇温率+都市化昇温率」 に近似的に等しいことから、猛暑日・熱帯夜の増加は「自然昇温率+都市化昇温率」 の関数となることが予想される。以下では、それを確認しよう。

図209.6は全43地点について示した猛暑日(上図)と熱帯夜(下図)の1年 当たりの増加日数と「自然昇温率+都市化昇温率」の関係である。 1970年代(1970~1979年の10年間)に比べて2010年代(2010~2019年の10年間) の日数が1年当たりにいくら増加したかを表している。

図209.1の赤線で示したように、1年当たりの日本平均の自然昇温率=0.022℃/y (1970~2019年)であるので、横軸の最小値のプロットは0.022℃/y (寿都、宮古、室戸岬、屋久島、南大東)である(付録の表209.2または 表209.3を参照)。

猛暑日・熱帯夜の増加、1970-2019
図209.6 猛暑日(上図)と熱帯夜(下図)の1年当たりの増加日数と 「自然昇温率+都市化昇温率」の関係、ただし縦軸は1970年代(1970~1979年の 10年間)に比べて2010年代(2010~2019年の10年間)の1年当たりの増加日数。


熱帯夜の図209.6(下図)では、縦軸の値=0の前後のプロットが無いので、 参考のために、時代を30年遡った1940年代から1970年代までに増加した熱帯夜 の増加日数を図209.7に示した。

1940~1979年期間の日本平均の自然昇温率=0.003℃/yであるので、横軸の 最小値のプロットは0.003℃/y(寿都、宮古、室戸岬、屋久島、南大東)である (付録の表209.3を参照)。

図209.6の下図に赤破線で示す比例関係の係数250(次元を省略)が図209.7の 赤破線に示す係数205と同程度になっている。プロットのばらつきからして、 1940~2020年(80年間)の43地点平均の係数、つまり熱帯夜の増加する傾向は 同程度とみてよいだろう。

熱帯夜の増加、1940-1979
図209.7 熱帯夜の1年当たりの増加日数と「自然昇温率+都市化昇温率」の関係、 ただし縦軸は1940年代(1940~1949年の10年間)に比べて1970年代(1970~1979年 の10年間)の1年当たりの増加日数。


209.4 猛暑日・熱帯夜の発生確率

前節では全43地点について日本全体としての統計的な関係を調べた。これは、 ある特定の気温(35℃、25℃)を超える猛暑日・熱帯夜に関するものであり、 気候が日本と大きく異なる地域ではなく、現在の日本の8月の気候(平均気温 =21~28℃)についての関係である。

本節では、今後の気候が変わったとき、あるいは特定の地点における猛暑日・ 熱帯夜の日数が時代とともにどのように変化するかを考察することにしよう。

図209.8は気温の日変化が小さい室戸岬と大きい内陸の宇都宮を代表として 選び、1970~2020年(50年間)の8月の日々の日最高気温と日最低気温である。 上2段は室戸岬を、下2段は宇都宮を示している。

日最高・最低の経年変化
図209.8 室戸岬と宇都宮における8月の日々の最高・最低気温の50年間 (1970~2020年)の変化。上から室戸岬の最高気温と最低気温、宇都宮の最高気温 と最低気温。横軸の各目盛りの位置は毎年の8月1日を表し、右方へ2日、3日・・・ と進む。


図示しないが、他の観測所も同様に、毎年8月の日最高・最低気温の変動幅は 50年間にわたり大きく変化しているとは認められず、ほぼ一定幅を持ったまま 上昇している。室戸岬の上昇率の係数は0.025~0.020℃/yで、自然昇温率= 0.022℃/y と近似的に等しい。宇都宮の係数は0.045~0.043℃/y で、 自然昇温率と宇都宮の都市化昇温率の和=0.044℃/yに近似的に等しい (付録の表209.2の右から2列目、または表209.3の6列目を参照)。

なお、43地点について8月の日最高気温の偏差(標準偏差)は付録の表209.4の 6列目に示してある。

日々の最高・最低気温の変動幅が長期にわたってほぼ一定と見なしてよいので、 50年間平均の日最高・最低気温の頻度分布を調べてみよう。この場合、8月の 日最高・最低気温の月平均値は年によって変化するので、毎年の月平均値を 基準のゼロとしたときの50年間平均の日最高・最低気温の頻度分布を求めた。

図209.9は日最高気温の頻度分布、図209.10は日最低気温の頻度分布である。 いずれも上図は室戸岬、下図は宇都宮における頻度分布である。

頻度分布の特徴は、月平均値(横軸=0)よりプラス側に頻度のピークがある ことと、プラス側でシャープな分布形になっていることである。前図でも見た ように、内陸の宇都宮では日最高気温も日最低気温も室戸岬に比べて横軸の プラス値・マイナス値の大きい範囲まで広がっている。

こうした特徴の違いが猛暑日・熱帯夜の経年変化に現れることになる。

頻度分布、最高
図209.9 1970~2020年(50年間)平均の8月の日最高気温の頻度分布、 上図は室戸岬、下図は宇都宮。図のプロット(横線)の上側の数値はプロット の示す頻度(%)であり、それらの合計=100%になる。


頻度分布、最低
図209.10 図209.9に同じ、ただし日最低気温の頻度分布。


猛暑日・熱帯夜の発生確率
図209.5で示したように、各地点における8月の日最高・最低気温の月平均値 の上昇率は近似的に「自然昇温率+都市化昇温率」に等しいことが分かった。

そこで、各地点における日最高・最低気温の月平均値が長期的に上昇する場合、 猛暑日・熱帯夜がどのように増えていくかを見るには、頻度を積分したグラフ を作成すればよい。猛暑日については、図209.9の高温側のプラスから低温側の マイナスに向かって積分する。熱帯夜についても同様に、図209.10の高温の プラス側からマイナスに向かって積分する。

図209.11は頻度分布を積分した関係である。日最高・最低気温の月平均値が、 低温からしだいに特定温度(35℃、25℃)に近づくにしたがって猛暑日(上図) と熱帯夜(下図)が発生する確率が大きくなることを示している。

発生確率
図209.11 猛暑日の発生確率と日最高気温の月平均値の関係(上図)と、 熱帯夜の発生確率と日最低気温の月平均値の関係(下図)。各図では、気温の 日変化幅が小さい地点(室戸岬)と大きい地点(宇都宮)を比較してある。


図209.11の読み方は次の通りである。まず、上図(猛暑日)について簡単な 例として、日最高気温の月平均値が時代と共に単調に上昇する場合を考える。

気温較差の大きい地点(宇都宮)では、猛暑日は横軸の月平均値が28℃に なった年に微小な確率(0.1%)で発生する。32℃の年には13.4%、35℃の年 には57.5%、46℃の年には100%(毎日が猛暑日)になる。

これに対して、気温較差の小さい地点(室戸岬)では、猛暑日は横軸の 月平均値が32℃になってはじめて0.5%の確率で発生するようになり、35℃の 年には56.3%、43℃の年には100%になる。

このようにして求めた猛暑日の発生確率は最高気温が時代とともに単調に 上昇する場合であり、約10年の期間の平均的な発生確率であり、年々の 発生確率は平均的な発生確率の上下に分布することになる。具体的には、 付録の表209.4の6列目に示すように各地点における日最高気温は月平均値 からの偏差をもつ。この偏差を利用して各年の猛暑日・熱帯夜の発生確率の 変動幅を求めればよい。

熱帯夜の発生確率も図209.11(下図)から同様に求めることができる。

発生確率の最大値(予測)
気温が自然昇温と都市化昇温によって上昇したとき、例えば30年後の2050年頃 に猛暑日・熱帯夜の発生確率がいくらになるか、発生確率の日本最高値を予測 してみよう。

付録の表209.4の3列目に示す最高気温の8月平年値の最高は大阪の33.4℃である。 この表に含まれていない最高温のA地点があるとし、①2020年のA地点の日最高 気温の月平均値は大阪より0.6℃高温で、33.4℃+0.6℃=34℃と仮定する。

図209.1によれば、1990~2019年の自然昇温率=0.0133℃/y が今後30年間続く とすれば2050年には0.4℃の上昇、したがって②2050年8月のA地点の日最高気温 の月平均値=34.4℃となる。

付録の表209.2と209.3を参照すると、都市化昇温率の最大値は0.03℃/y であり、 この大きさが今後30年間続くとすれば、0.9℃の昇温となり、③2050年8月の A地点の日最高気温の月平均値=35.3℃となる。昇温量の合計=0.6+0.4+0.9= 1.9℃と仮定した場合を想定する。

図209.11上図の破線から読み取れば猛暑日の確率は約63%である。この63%は 約10年間の平均的な確率であり、年々値はこの上下に分布することになる。

熱帯夜について、付録の表209.4の4列目に示す最低気温の8月平年値の最高は 那覇の26.6℃である。付録の表209.4に含まれていない那覇より高温のB地点が あるとし、上記と同じく30年後の昇温量が1.9℃ とすれば、2050年8月のB地点の日最低気温の月平均値=28.5℃と推定できる。

B地点の日最低気温の月平均値=28.5℃になるとして、図209.11下図の破線から 読み取ると、熱帯夜の確率は約95%である。この95%は約10年間の平均的な 確率で、年々の値はこの上下に分布することになる。

本論では、熱中症などヒトの体調を決める特定気温(日中の35℃、休眠時の25℃) について考察したが、農作物にダメージを与える限界気温についても同じ手法で 解析することができる。その場合、図209.11の横軸の特定温度(35℃、25℃) を農作物に対する限界温度にずらせばよい。そうした解析結果から、栽培する 農作物の品種変更あるいは耕地を気候の違う他所への変更することが温暖化対策 である。

これらは、通常、経験にもとづいて行われてきた。自然昇温率は以前 (1881~1990年)には0.0049℃/y(100年間に0.49℃の昇温) で小さく、 対応は急いで考える必要はなかった。しかし、最近(1990~2019年)の自然 昇温率は3倍近くも大きくなり、大きい昇温率で続く可能性もあるので対応策 を検討しておかねばならない。


まとめ

猛暑日(最高気温が35℃以上の日)と熱帯夜(最低気温が25℃以上の夜)の 日数が増加している。それら増加日数と都市化昇温・地球温暖化との関係を 気象官署43か所(気象台と旧測候所)の観測データから8月について調べた。 これは、温暖化対策の一環としての研究である。

本論では、観測環境が比較的によい43か所についての解析である。一般アメダス は当初の設置目的が旧測候所と異なることから地域を十分に代表しない地点が 多いので対象外とした。対象外とは、例えば温室に近いような風通しの悪い 場所に設置されている観測所もある。

都市化・日だまり効果の影響を除去した長期的な気温上昇の日本平均値は、 おもに温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化からなるが、その他の要因も 含まれる。これを日本平均の自然昇温量(G:global warming)、略して 自然昇温量と呼ぶことにすれば、多くの観測所における気温上昇は自然 昇温量(G)と都市化昇温量(U: urban warming)の和で表されることが、 解析より示された。

ここで(U)は各観測所の年平均気温から評価した各観測所の都市化による 昇温量、(G)は都市化影響の少ない観測所について都市化・日だまり効果を 除去した年平均気温から評価した日本平均の昇温量である。

(1)各地点における8月の日平均気温、日最高気温、日最低気温の各々の 月平均値の長期間上昇率は、近似的に「自然昇温率」と「各地点の都市化 昇温率」の和に等しくなることがわかった。

(2)(U)が(G)より大きい観測所数の割合は、1970年には14%であったが、 50年後の2019年には40%に増加した。

(3)最大の都市化昇温量をもつ東京大手町については、(U)/(G)は 1970年の2.8から、2019年には2.1となり、相対的に減少傾向にある。しかし、 10大都市(札幌、仙台、東京大手町、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、 広島、福岡)平均については、(U)/(G)は1970年の1.46から2019年の 1.48と、ほぼ同じ約1.5が続いている。全43地点平均については、(U)/(G) は1970年の0.65から2019年の0.85に大きくなり、しだいに1に近づいている。 すなわち、日本全体を見ると、1970年に比べて2019年は都市化された地点が 増えたと言える。

(4)昇温量と同様に、猛暑日・熱帯夜の増加数は「都市化昇温率」と 「日本平均の自然昇温率」の和の関数で表される。猛暑日・熱帯夜の増加 傾向は、8月の日々の最高気温・最低気温の変動幅が大きい地点(内陸など) と小さい地点(岬など)によって特徴が異なる。変動幅が大きい地点では 月平均気温の上昇にともない猛暑日・熱帯夜の日数は緩慢に増加して発生 確率100%に漸近するのに対し、変動幅が小さい地点では急激に増加して 発生確率100%に漸近していく。

(5)今後の30年間、1990~2019年の自然昇温率=0.0133℃/yと同じ大きな上昇率 が続いたとし、2050年における都市化昇温量とその他を含めた日最高気温の 月平均値が最高35.3℃になると予想されるA地点では猛暑日の発生確率は 約63%となる。同様に日最低気温の月平均値が最大高28.5℃と予想される B地点では熱帯夜の発生確率は約95%となる。これら63%と95%は約10年間の 平均的な確率であり、年々の確率はこれらの上下に分布することになる。

夏の熱中症の増加を防ぐには、大災害時の停電を想定すれば、冷房機を普及 させることのみに力を注ぐのではなく、(1)温室効果ガスの排出量を無くして 自然昇温量を小さくすること、(2)都市の再開発を行うようなとき、道路幅を 広げ緑地広場を増やしたりして風通しのよい都市構造にすること、 (3)夏の高温期に入る前に、暑さに負けない体力に鍛えておくこと、などが 考えられる。

都市再開発の例として、仙台市のJR仙台駅の東側、仙台管区気象台に至る途中の 二十人町は細い道路であったが、再開発により道路の幅員約50mに拡幅された。 さらに道路脇には駐車場などがあり、実質的な幅は非常に広く、風通しはよい。 都市のヒートアイランドは同心円状の分布形ではなく、幅員が広ければ晴天日中 の気温は相対的に低温となり、狭ければ高温になる( 「K157.日だまり効果、アーケード街と並木道の気温(まとめ)」の 図157.4を参照)。

(6)気温の時間変動の性質から、本研究で得た猛暑日・熱帯夜の発生確率など の特徴は熱中症などヒトの体調を決める特定気温(日中の35℃、休眠時の25℃) に限らず、農作物にダメージを与える限界気温についても同じことが言える。

ある季節(月)に起きる高温障害の場合は、その限界温度をゼロとした その季節(月)の最高気温の頻度分布を図209.9と同様に作成する。 そして高温側のプラス側から低温側のマイナスに向かって積分し、 図209.11(上図)と同様の確率の図を作成すればよい。

低温障害の場合は、最低気温の頻度分布については逆に低温側のマイナス側 から高温側のプラスに向かって積分する。出来上がる確率の図は図209.11の 左右が逆になった曲線となる。つまり、低温になるにしたがって作物障害の 確率が大きくなるように表された図になる。

例として、つくば市内の畑における3月、ビニルトンネル内のトウモロコシは 最低気温が-2℃以下(葉面温度<-3.4℃)の夜、凍霜害を受ける (「K186.凍霜害予測(11)ビニルトンネル内の野菜」)。 この場合の最低気温の最低値(限界温度)は-2℃となる。-2℃を基準の ゼロとした最低気温の頻度分布を作り、低温側のマイナス側から高温側の プラスに向かって積分すれば、低温障害が発生する確率の曲線が出来上がる。

本章によって、解析方法が出来上がったので、今後はより具体的にある地点の 猛暑日・熱帯夜の将来の増加傾向や、農作物の高温・低温障害の確率を予測し、 温暖化対策に役立てることが可能になった。


文 献

近藤純正、1982:大気境界層の科学-大気と地球表面の対話.東京堂出版、 pp.219.

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、 224号、25-56.



付録

付録1 43地点における各要素の一覧表

表209.2 8月平年気温、8月の1970年代と2010年代の猛暑日数など
8月平均気温、ほか

表209.3 8月の1940年代、1970年代、2010年代の熱帯夜数など
8月の熱帯夜数、ほか

表209.4 1970年と2019年の都市化昇温量、日平均・最高・最低気温の上昇率など
1970、2019年の都市化昇温率ほか


付録2 昇温率の8月と2月の比較

図209.5では、8月の1か月という短期間の最高・最低気温の上昇率と 「自然昇温率+都市化昇温率」は近似的に等しいと見なすことにした。 しかし続報で示されるように、期間が3か月程度に長くなると、両者はほとんど 等しいと見なしてよいことになる。

さらに、昇温率は季節によらず、ほとんど同じになる。
図209.12は8月と2月の各1か月という短期間の比較であり、切片=0とした場合の R2値は0.92(上図)または0.89(下図)でばらつきは大きいが、 続報で示すように期間が3か月になるとバラツキは小さくなり、昇温率は 季節によらずほとんど同じになる。
なお、この図に関する一覧表は表209.5である。

昇温率8月対2月
図209.12 昇温率の8月と2月の比較。(上)日最高気温、(下)最低気温


表209.5 1970年と2019年の都市化昇温量と、日最高・最低気温の上昇率 の8月と2月の比較表。
1970、2019年の都市化昇温率ほか



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