K150. 市街気温の高精度観測、仙台(2)


著者:近藤純正・近藤昌子・角谷清隆
仙台市街で4月~7月、正午前後の気温を観測した。
仙台管区気象台の気温は、観測露場の南側にある街路樹が繁茂し、 南寄りの風のとき晴天日中は「日だまり効果」によって平均的に0.37℃~0.40℃ほど 高温になる。

気象台と榴岡公園は、南寄りの風(SE、SSE)のとき岡の上に相当し、岡地形の効果 によって日中の気温はやや低温となる。榴岡公園では西寄り の風のときに比べて1.05℃の低温、気象台は0.68℃の低温となる。

中央通りのアーケード街「クリスロード」は風が入り難く、日中の気温は気象台に 比べて2℃ほど高温であるが、気温が高い日は商店街のエアコンによって冷房されて、 気象台の気温より低くなる傾向がある。

「定禅寺通」のケヤキ並木は4月下旬~5月中旬に着葉が急速に進み、気温上昇は 他の街路に比べて小さく、広域を代表する広い芝地の気温より0.29℃ 低温で、見通し(風通し)のよい森林内の特徴と同じである。

南寄りの風が吹く晴天日中の気温は、広い芝地の気温を基準のゼロとしたとき、 定禅寺通ではー0.29℃、青葉通と広瀬通でも約ー0.3℃、東二番丁通では+0.20℃、 晩翠通では+0.28℃である。いっぽう、樹木の影響がほぼ無視できる作並街道では +0.71℃である。
つまり、並木の影響がほぼ無視できる作並街道に比べて、定禅寺通や青葉通、広瀬通 の並木は日中の気温を1.0℃ほど低くする効果がある。 (完成:2017年8月4日予定)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2017年5月31日:作成開始、5月23日の観測まで
2017年6月28日:6月19日~23日の観測を追加
2017年7月3日:付録2を追加
2017年8月2日:7月24日~28日の観測を追加、付録3を追加

    目次
        150.1 はじめに
        150.2 観測
        150.3 気象台露場の日だまり効果
        150.4  アーケード街「クリスロード」の気温
        150.5 並木の「定禅寺通」の気温
        150.6  連続記録の気温の比較
        まとめ

        付録1  気温計の相互比較
        付録2  丘の上・下の気温差の観測
        付録3  気象台露場の空間広さ
        参考文献                      


観測協力者・機関(敬称略)
近 将史・成田裕幸
小野恵美子
高橋京子
向井幸雄
竹中工務店仙台支店(佐藤正一郎)

研究協力者・機関(敬称略)
東北大学理学研究科:山崎 剛 准教授
東北大学工学研究科:風間 聡 教授・小森大輔 准教授
仙台管区気象台
仙台市青葉区役所
仙台市宮城野区役所
クリスロード商店街振興組合

気温観測データ
仙台管区気象台の1分毎気温データは気象庁観測部提供によるものである。


150.1 はじめに

本研究は日本の地球温暖化量を正しく評価する目的から始まったものであり、 観測所の環境が悪化すると「日だまり効果」によって平均気温が上昇すること など、観測環境と風速・気温の関係を調べてきた。その結果、平均気温は観測 地点の「空間広さ」に大きく依存することがわかった (「K121.空間広さと気温ー”日だまり効果”のまとめ」 )。

大都市の観測所の環境が極端に変化した場合、例えばアーケード街、繁茂 した並木や高層ビル等による大気の加熱効果・日陰が広範囲に及ぶような場合、 気温の観測値がどのように変化していくか、これを定量的に明らかにする目的で 新しいシリーズ研究が始まった。本研究は、 「K149.市街気温の高精度観測、仙台(1)」の続報であり、近年深刻化した 熱中症対策や快適な都市設計にも役立つものである。

都市気候は今後、地球温暖化と都市化による昇温が加わり、高温化していく。 とくに夏期の昇温を緩和する都市環境が求められる。晴天日中を想定したとき、 樹木が吸収した太陽熱の一部は蒸散のエネルギーになるが、残りは風下の大気 を加熱する。また、密な樹木は風通しを悪化させ「日だまり効果」により気温が 上昇する(「K121.空間広さと気温ー”日だまり効果”の まとめ」)。

これらの研究結果が並木道や公園の整備・管理に役立てられよう。

仙台市内には特徴ある通りがある。道幅46mの定禅寺通は並木の大路であり、 その中央分離帯には並木の遊歩道があり気温観測を行うのに適している。 また、有名な七夕の飾りのできる天井が高くて長いアーケード街(中央通 のクリスロード)もある。さらに、歩道が広い晩翠通や東二番丁通などもある。

この第2報では、気象台の気温計と市街地気温の観測に用いる高精度通風式気温計に ついて比較観測する。その結果に基づいて気象台の気温計に及ぼす放射影響の誤差を 補正して解析する。補正式は日射量(日照率)の関数として表す。


150.2 観測

最近、気温観測用の高精度通風筒が市販化された (「K126.高精度通風式気温計の市販化」; 「K146.高精度気温観測用の横型通風筒」)。 本観測では、その原型となった軽量の手製品を用いる。

気温観測の方法
「K148.市街気温の高精度観測ー平塚」」で 示したように、高精度の通風式気温計を自転車のハンドルの軸に固定した伸縮棒 の先端に取り付ける。自転車を押しながら観測区間をゆっくり歩き、2~4時間 かけて10~20往復する。地上高度1.8m程度の気温を観測する。身体からの放熱の 影響を受けないように注意する。

図150.1は観測路の地図である。観測の全範囲は東西3km、南北1.5kmの中に 含まれる。表150.1は道路の詳細であり、各観測区間の長さは100~400m である。

地図仙台市街
図150.1 仙台市内の地図、Google マップに加筆。
赤長方形:移動観測の東西道路
紫長方形:移動観測の南北道路
丸印:公園の固定観測点
四角印:仙台管区気象台

表150.1 道路の一覧表、長さは観測する距離
道路一覧表


自動車が多い道路では、両側の歩道で観測し、その平均値を平均気温とする。 歩道では車道近くを歩く、または車道を移動する。左右の歩道における気温は、 一般に右側と左側で異なるので、右側と左側でほぼ等しい歩行時間になるように 観測する。

6月以降の観測では、定禅寺通とクリスロードの2か所を新しい固定観測点(昼夜連続 観測)とした。

気温の記録
5月までの観測では、10秒間隔で記録し、30分間(180データ)ごとに平均気温を求め、 6月以後の観測では、1分間隔で記録し、60分間(60データ)ごとに平均気温を求め、 異常値など無いか確認したのち、最終的に2~4時間の平均値を1データとする。

快晴または晴天時は、観測地点の全範囲内の日射量が同じ条件と見なされ るが、雲の多いときは場所ごとに日射量が大きく異なる可能性がある。それゆえ、 厚い雲の少ない日について解析する。また、風向・風速や気温が急変するような 場合、全範囲内で同時に急変するわけではないので、解析の対象外とする。

仙台管区気象台の気温は1分間隔データから2~4時間の平均値をもとめる。

基準気温と気温差の定義
広い芝地の気温は、数kmスケールの広域を代表する気温と見なされる。 例えば、東京の北の丸公園の池端の広い芝地、新宿御苑の広い芝地、明治神宮の 境内北部の広い芝地の気温は東京都心部の気温を代表する( 「K116.東京都心部の代表気温ー大手町露場の代表性(完結報)」)。

仙台では、気象台の南側にある榴岡(つつじがおか)公園の広い芝地の気温は 広域の気温を代表する。榴岡公園を基準とした場合の気温差は次式で定義する。

◎ 気温差=気温ー榴岡気温・・・・・(広芝地基準:榴岡公園基準)

並木の有無の効果を表すときは、定禅寺通を基準として次式で定義する。

◎ 気温差=気温ー定禅寺通気温・・・・・(定禅寺通基準)

気象台の気温を基準とするときは、各観測地点の気温差を次式で定義する。

◎ 気温差=気温ー気象台補正気温・・・・・(気象台基準)

気象台補正気温とは、観測値に放射影響の誤差を補正した値である。

備考1:気象庁型気温計の放射影響による誤差
今回用いる高精度気温計に比べて気象庁型気温計用の通風筒は放射影響 を受けやすく、晴天日中は0.3~0.4℃ほど高温に観測される (「K99.通風筒の放射誤差(気象庁95型、農環研09S型」 )。

放射影響の誤差を仙台管区気象台の気温計について調べた(付録1を参照)。 その結果、正午前後の平均気温の解析では、気象台の気温観測値は次式で 補正する。N (=0~1)を日照率として、

◎ 気象台補正気温=観測値ー0.1℃ー(放射影響による誤差)・・・(式1)
放射影響による誤差(℃)=ー0.1398×N2+0.4223×N+0.0749・・・(式2)


式1の右辺第2項の0.1℃は、気象台の気温計に及ぼす放射影響による誤差とは別に、 高精度気温計に比べて相対的に0.1℃ほど高めに観測されることを意味している (付録1を参照)。

備考2:南寄りの風(SE,SSE)のときの仮想広芝地基準気温
あとで示されるように、岡地形の榴岡にある榴岡公園と気象台は、南寄りの風のときの 日中の気温は低めに観測され、市街中心部の基準とはならない。 そこで、定禅寺通の気温と榴岡公園の気温の関係が風向(南寄りと、西寄り)によって 異なることを考慮する。そうして榴岡公園基準の気温を参考にして仮想広芝地の 気温を基準値として解析する。

路面上の日射透過率
並木道「定禅寺通」とアーケード街「クリスロード」では、日射計を水平に保ち左右に 振りながら歩き、数回の往復を繰り返して日射量を観測する。その前後に域外で測った 日射量との比を日射透過率とする。

林内の日射量は強い直射光から微弱な木漏れ日まで、まだら模様で、強度は 1000~10 W/m2の広い範囲に分布する。そのため、受感部の面積が数 平方cmしかない通常の日射計で測る場合、サンプリング数を非常に多くとる必要が あり、正確な観測は難しい。

今回は、受光面積が一般の日射計の100倍ほどの面積131mm×131mmの太陽 光パネルを利用した林内用日射計を用いて観測した( 「K113.林内の日射量と木漏れ日率の測定」)。

観測一覧表
表150.2~150.4はそれぞれ榴岡公園基準、気象台基準、定禅寺通基準の気温差、 その他の観測一覧表である。第1報で示した観測データも含めてある。

表150.2 気温観測表(榴岡公園基準)
観測点が気象台の欄、 観測点気温:気象台の観測値
観測点が気象台の欄、 観測点気温補正値:式1の補正式による気象台の補正気温
気象台風向・風速:測風塔高度52.6mにおける風向・風速
榴岡基準観測表

表150.3 気温観測表(気象台基準)
基準点気温観測値:気象台の観測値
基準点気温補正値:式1の補正式による気象台の補正気温
気象台基準観測表

表150.4 気温観測表(定禅寺通基準)
気象台風向・風速:測風塔高度52.6mにおける風向・風速
定禅寺通基準観測表


市街地の状況
おもな観測地点・道路の写真は第1報で示した。図150.2~5は追加の 写真である。

晩翠通
図150.2 晩翠通り、広瀬通から北方向を撮影(2017年5月21日)。

東二番丁通
図150.3 東二番丁通、定禅寺通から南方向を撮影(2017年5月24日)。

定禅寺通
図150.4 定禅寺通、西から東方向を撮影(2017年6月22日)。 樹木の手前に見えるは白色は昼夜連続観測用の通風式気温計である。

クリスロード
図150.5 中央通のクリスロード、東から西方向を撮影(2017年6月19日)。 赤矢印は昼夜連続観測用の通風式気温計を指し示す。


150.3 気象台露場の日だまり効果

仙台管区気象台の観測露場の環境は、都市観測所としては良いほうだが、南側の 東西道路に植えられた落葉の街路樹が成長してきた。そのため、5~10月の晴天日の 卓越風向(南~南東の風)のとき、露場の風が弱められて「日だまり効果」によって、 気温が高めに観測される可能性がでてきた。

図150.6は気象台の南側にある榴岡公園の広芝地の気温を基準としたときの気象台の 気温差である。表150.2も参照すると、気温差は街路樹の着葉前の5月上旬までは ±0.1℃の範囲内にあったが、着葉した5月20日以後はいったん+0.6~+0.8℃ (平均気温=15~16℃でやや低温時)となり、その後は+0.2~+0.5℃ (平均気温=20~27℃でやや高温時)となった。

この傾向は、東京の北の丸露場の日だまり効果による気温上昇の大きさと平均気温の 関係に似ている(「K101.森林公園内の気温ー 北の丸公園と自然教育園」の図101.3の下図を参照)。

気象台気温差
図150.6 広芝地(榴岡公園)の気温を基準としたときの気象台の気温差の季節変化。


樹木の風下で生じる「日だまり効果」による昇温量は、やや低温の季節に大きく、 高温の季節に小さくなる。その理由は次のとおりである。

日射量が大きくなる4月以降について考えると、 葉面が吸収した太陽エネルギーの大部分はやや低温の季節には 顕熱に変換されて風下の大気を昇温させるが、高温の季節になると、蒸散の 潜熱に費やされる分が多くなり顕熱に変換される割合が小さく風下大気の昇温解析は 小さくなる。いわゆるボーエン比の気温依存性の原理によるのである。 「東京都心部の森林(自然教育園)における熱収支」 の図123.1と図123.9を参照。

日だまり効果による日中の昇温量は、西寄りの風のときと、南寄りの風のときに 分けて調べる必要があり、詳細は後掲の『150.5 並木の「定禅寺通」』の節でも 示される。

図150.6にプロットされた日だまり効果による昇温量を風向別にまとめると次の ようになる。

南寄りの風のとき・・・・+0.37℃
西寄りの風のとき・・・・+0.08℃

気象台の露場の空間広さと方位の関係は付録3に示されており、南南東~南東の方位の 空間広さ(X/hの平均値=(1/tanα)の平均値は気象台で約3、榴岡公園で約6.5で 1/2以下となる。一方、西北西の方位の空間広さは両者ほぼ等しく6程度であり、上記の 日だまり効果の大きさ(+0.37℃、+0.08℃)が説明できる(詳細は付録3)。


150.4 アーケード街「クリスロード」の気温

アーケード街「クリスロード」の日射量は外部の12%で小さいが、 外からの風が入りにくく、高温に保たれることは第1報で示した。

アーケードの天井の温度と地上付近(高度1~2m)の放射温度の差について第1報と 同様に比較した。天井の温度は地上付近に比べて、5月22日(快晴)の10~13時は 10.4℃の高温であった。第1報で示した5月上旬の5~6℃よりも高温である。

第1報で説明したように、天井の温度はおもに日射によって決まると見なされる。

クリスロードの気温差は日によって大きく変動する。5月中旬以後は気温が高くなる 日も多くなり、商店の冷房エアコンが作動する季節となる。冷房エアコンの効果を 見るために、図150.7には気象台の気温(横軸)と気温差(縦軸)の関係を示した。

気温が約27℃を超えるような日は、気温差はマイナスつまりアーケード街は気象台 の気温よりも低温で、涼しくなる。

クリスロード気温差
図150.7 クリスロードの気温差と気象台の気温との関係。



150.5 並木の「定禅寺通」の気温

定禅寺通のケヤキ並木は、両側の歩道にそれぞれ1列ずつ、中央分離帯の緑地には 2列、合計4列に並んでいる。中央分離帯の中央部を東西に歩いて往復し、日射の 透過率を観測した。日射透過率(=林内日射量 / 林外日射量)は太陽の南中時前後の、 太陽周辺に雲が無いとき、約10~30分間の観測からもとめた。

図150.8は日射透過率の季節変化である。4月下旬~5月上旬にかけて新緑が 着葉し、透過率は急激に低下している。

図150.9は気象台基準の気温差の季節変化である。風向が南寄りのときと西寄りの ときを記号分けして示してある。

定禅寺通の透過率
図150.8 定禅寺通の日射透過率の季節変化。

定禅寺通の気温差
図150.9 定禅寺通の気温差の季節変化。


西寄り(W、WNW)の風のとき、定禅寺通の気温差(青四角印)はー0.3℃前後 (ー0.23℃、-0.34℃、-0.39℃)、すなわち気象台より低温である。 表150.2に示したつつじが岡公園(広芝地)基準の気温差もー0.29℃である。 気温差はともにー0.3℃で、ほぼ一致している。

西寄りの風のときの気象台では、風上側が広く開けていて、日だまり効果による 気温上昇は0.1℃以下(+0.06℃、+0.10℃)である(表150.2)。

上記の気温差ー0.3℃について、これまでに得られている森林内の気温差と比較して みよう。

5月中旬以後の定禅寺通りの日射透過率=0.14は木漏れ日率=19%に相当する (「K113.林内の日射量と木漏れ日率の測定」の図113.5)。

この条件における林内の気温差は、前報の「K149.市街気温の 高精度観測、仙台(1)」の図149.1によれば、ー0.3℃(見通し良好林)と一致 し、定禅寺通りは風通しの良い(見通しの良い)林内気温の特徴を示すことがわかる。

一方、南寄り(SSE,SE)の風のときの気温差(赤三角印)は+0.5℃前後である。
このことについて考察しよう。榴岡(つつじがおか)公園は南寄りの風に対しては 岡地形をなす。

気象台の標高39m、隣接する榴岡公園の広芝地の標高38m に対し、南側には崖があり、南東側の宮城野公園とその周辺一帯の標高は16m前後、 標高差は20m前後の岡である。

岡の上にある気象台や榴岡公園広芝地では、日中の南寄りの風が吹くときは、 岡下のやや高い高度の低温空気が入り、「岡地形効果」により低温傾向になると 考えられる。 さらに、岡下は仙台中心部のビル市街よりも都市化の度合いが小さい「弱い都市化効果」 も影響していると思われる。

表150.4(定禅寺通基準の気温差の表)によれば、榴岡公園の気温差の平均値は
南寄りの風のとき:ー0.76℃
西寄りの風のとき:+0.29℃

これらの差=ー1.05℃は「岡地形効果」と「弱い都市化効果」の両方を含む。 すなわち、中心市街地のはずれにある榴岡は南寄りの風のとき1.05℃の低温 になる。

晴天日の岡地形効果について、榴岡公園(標高差≒20m)に比べて規模の小さい 標高差=3mの丘で観測した結果が付録2に示されており、丘上の気温は丘下に比べて 0.32℃ほど低温であった。標高差・規模は違うが、風は低地を迂回するか、 丘の上では気流が鉛直方向に収れんし、丘下の少し高い高度の空気が流れてきて、 低温になると考えられる。


気象台の「日だまり効果」
表150.4には定禅寺通基準の気象台の気温差も示されている。その平均値は、
南寄りの風のとき:ー0.36℃
西寄りの風のとき:+0.32℃

西寄りの風のときの+0.32℃は前記の+0.29℃とほぼ一致している。 つまり、気象台は西~北西側が開けていて西寄りの風のときの「日だまり効果」は ほとんどゼロである。しかし、南寄りの風のときの気温差ー0.36℃は前記のー0.76℃ よりも0.40℃ほど高温である。この+0.40℃が南寄りの 風のときの気象台露場における「日だまり効果」による昇温量である。

すでに示した「150.3 気象台露場の日だまり効果」の節では, 直接観測(榴岡公園と隣の気象台露場の比較観測)で決めた日だまり効果による 昇温量は南寄りの風のとき+0.37℃であり、+0.40℃ とほぼ一致しているとしてよい。


つぎに、並木の気温に及ぼす影響を見るために、図150.10は定禅寺通基準の気温差を アーケード街「クリスロード」と樹木の影響の少ない作並街道について示した。 アーケード街ではエアコンの影響が大きいので、横軸に定禅寺通りの平均気温を 選んである。

定禅寺通の気温差
図150.10 定禅寺通基準の気温差。
上:クリスロードの気温差と定禅寺通の気温との関係
下:作並街道の気温差の季節変化


上図によれば、定禅寺通に比べて、クリスロードは1~2℃も高温であるが、気温が高い 日ほど気温差は小さくなる傾向である。作並街道は概略0.5~1.5℃も高温である。 定禅寺通の気温が作並街道に比べて低いのは、樹木の日陰の効果によるものである。

つぎに、下図によれば作並街道(東西路、道幅=27m)の気温差は 4月28日には0.44℃(風向=WNW)に対し、5月20日は1.45℃、7月26日は0.69℃、 7月28日は0.86℃(いずれも風向=SE)で平均的に1.0℃(1.45℃、0.69℃、0.86℃) も高温である。後者の気温差が大きくなる理由として、

(1)市街中心部の高温域からの南寄りの風であること、
(2)東西路の作並街道は南寄りの風が入りにくく、日だまり効果が顕著になること、
(3)5月以後は太陽高度が高く路面の日陰面積が少なくなり高温になりやすいこと、

が考えられる。


150.6 連続記録の気温の比較

6月18日~23日の気温
図150.11はアーケード街「クリスロード」、並木道「定禅寺通」、および気象台に おける気温の昼夜連続記録の比較である。

上図は定禅寺通を基準とした気温差の時間変化であり、正午前後についてはつつじが岡 公園と晩翠通(23日は東二番丁通)の気温差もプロットしてある。

つつじが岡公園(緑印)については、前記したように、南寄りの風の日(19日、20日、 23日)は岡地形の影響のため、マイナス側にプロットされている。しかし、 西寄りの風の日(22日)はプラス側にプロットされており、つまり並木道「定禅寺通」 は広芝地(つつじが岡公園)より気温が低いことを意味している。

連続記録、6月18-23日
図150.11 昼夜連続記録の気温(6月18日~23日)。
横軸の6月18日の位置は18日0時、19日の位置は19日0時、・・・・を表す。
気象台のプロットは気温観測用通風筒に及ぼす放射影響の誤差は未補正である。
上:定禅寺通基準の気温差、1時間ごとの平均値
下:前後10分間(20分間)の移動平均気温


アーケード街「クリスロード」(赤印)は昼夜にかかわらず他よりも高温であるが、 例外として22日早朝は他より低温となっている。気象台のデータによれば、21日23時 30分ころから西寄りの風が強くなり気温が急上昇している。しかし、アーケード街 「クリスロード」では風が入り難く、気温上昇が遅れ、その結果として他に比べて 低温になった。

7月24日~28日の気温
図150.12は前図と同様、ただし7月24日~28日の気温の昼夜連続記録の比較である。 前図で示した結果とほぼ同じことがわかる。

連続記録、7月24-28日
図150.12 昼夜連続記録の気温(6月18日~23日)。
横軸の7月24日の位置は24日0時、25日の位置は25日0時、・・・・を表す。
気象台のプロットは気温観測用通風筒に及ぼす放射影響の誤差は未補正である。
上:定禅寺通基準の気温差、1時間ごとの平均値
下:前後10分間(20分間)の移動平均気温

クリスロードの気温差、昼夜分け、7月24-28日
図150.13 気象台気温を基準としたアーケード街「クリスロード」の気温差と気象台の 気温の関係。日中(8時~20時)と夜間(20時~翌朝8時)をそれぞれ赤と青で色分け して描いてある。ただし、気象台のプロットは気温観測用通風筒に及ぼす放射影響の 誤差は未補正である。


図150.13は気象台気温を基準としたアーケード街「クリスロード」の気温差と気象台の 気温の関係についての連続記録である。ただし気象台の気温は誤差(放射影響の 誤差)は未補正である。そのため、特に日中の気温差(縦軸)は図150.7に比べて小さく なっているが、全体的な定性的傾向は同じである。


まとめ

仙台市街の代表的な道路において、4月~7月の日中の気温を観測した。本報告 では、図150.11~図150.13以外は気象台の気温計に及ぼす放射影響の誤差を補正 した気温を用いてある。

(1)気象台露場の南側の東西道路の並木が成長し、着葉期には「日だまり効果」 によって気象台の気温は、広芝地(榴岡公園)に比べて平均として0.37℃~0.40℃ ほど高温になる。

(2)気象台と榴岡(つつじがおか)公園は、南寄り(SE、SSE)の風のとき岡の上に 相当し、岡地形の効果によって日中の気温はやや低温となる。榴岡公園では西寄りの 風のときに比べて約1.05℃の低温(表150.4)、気象台は約0.68℃の低温となる (表150.4)。

(3)アーケード街「クリスロード」の日射透過率は12%で小さいが、 風が入り難く、気温は気象台に比べて2℃ほど高温である。しかし気温が高くなる日は 商店街の冷房エアコンによって涼しく、気象台の気温より低くなる傾向となる。

(4)「定禅寺通」のケヤキ並木は4月下旬~5月中旬に着葉が急激に進み、気温上昇は 他の市街道路に比べて小さく、西寄りの風のとき広芝地(榴岡公園)の気温より 0.29℃ほど低温(気温差=-0.29℃)となり、日射透過率が同じ森林内で観測された 気温差とほぼ同じである。

(5)街路樹の着葉がほぼ完了する5月以降の高温季節の日中について、南寄りの風 の晴天日、広域を代表する広芝地(南寄りの風のときは仮想的な広芝地) の気温を基準としたときの気温差は次の通りである。

ー0.29℃・・・・・・・・定禅寺通
ー0.3℃(概略)・・・・・広瀬通、青葉通
+0.20℃・・・・・・・・東二番丁通
+0.28℃・・・・・・・・晩翠通
+0.71℃・・・・・・・・作並街道
+2.0℃~ー0.5℃・・・・クリスロード(気象台の気温=15~28℃のとき)

並木の影響がほぼ無視できる作並街道に比べて、定禅寺通や青葉通、広瀬通の並木は 日中の気温を1.0℃ほど低くする効果がある。体感的には、1℃より涼しいのは、 太陽直射光を受けないからである。1℃の低温化は森林公園で行った精密観測の結果と 矛盾しない。

従来の多くの観測によれば、森林内の気温は市街地に比べて4℃~5℃も低い結果が 報告されているが、これらは不正確な気温計、とくに放射影響による誤差の 大きな気温計により観測された結果である。


付録1 気温計の相互比較

前報の24時間の比較観測(気象台気温計と高精度気温計の比較観測)では、気象台 気温計のもつ放射影響の誤差を明確に見出すことはできなかった。 気温計の並べ方が離れ過ぎていたことがその理由と考えられた。 それゆえ、今回は晴天日中の5時間について、気象台の気温計と高精度気温計を 接近させて比較観測した。図150.14は比較観測時の露場の写真である。

     気象台露場における比較観測
図150.14 気象台露場における比較観測の写真、南東側から北西方向を撮影 (2017年5月22日)。
赤文字記号S:気象台の気温計
赤文字記号K3:高精度気温計K3


表150.5 気温計の相互比較(2017年5月22日)
 気温の差=気象台の観測気温ー高精度気温計K3による気温
 気象台の観測気温:1分ごとの気温の平均値
 気温計K3による気温:10秒ごとの気温の平均値
 標準偏差σ:気温計K3による気温変動の標準偏差(サンプリング時間=30分)

  時  刻   気温の差(℃) σ(℃)
     
 10:00-10:30    0.39         0.58
 10:30-11:00    0.48         0.42
  11:00-11:30    0.44         0.51
  11:30-12:00    0.44         0.60
  12:00-12:30    0.48         0.54
  12:30-13:00    0.56         0.63
  13:00-13:30    0.49         0.54
  13:30-14:00    0.45         0.50
  14:00-14:30    0.48         0.55
  14:30-15:00    0.45         0.47

  10-14時平均    0.46         0.54
 10-15時平均    0.46         0.53


表150.5は気温の相互比較の30分ごと平均値の差の一覧表である。30分間の サンプリング数 n は、気象台気温計では n=30個、K3気温計では n=180個である。
したがって、30分間平均気温の誤差の目安⊿=σ/n1/2

気象台気温計では ⊿=0.10℃
K3気温計では ⊿=0.04℃

気温の差における30分ごとの値の変動は、主にサンプリング数の少なさから生じた ものであるとみなされる(近藤、2010、式1.26)。

今回の市街地における気温観測では、ほとんどが10時~14時の時間帯に行われたので、 10時~14時の気温の差の平均値0.46℃を採用する。0.46℃には、放射影響 による誤差と、相対的な”ズレ”が含まれる。

前報(1)の図149.13によれば、露場内における気温の空間的な違いの小さかった 時間帯(5月8日18~24時)の気温差(k3-K4)は±0.03℃の範囲内に入っている。 この時間帯の気象台気温計による気温 S と気温計(K3,K4)の差=0.10℃、これは 相対的な”ズレ”である。

したがって、気象台気温計の放射影響の誤差は、

0.46℃ー0.10℃=0.36℃

となり、 気象台補正気温=観測値ー0.1℃ー(放射影響による昇温)

によって表される。

気象庁型の通風式気温計の放射影響は、主に吸気口の漏斗構造が受ける地面反射光と 高温地面からの長波放射(赤外放射)による( 「K99.通風筒の放射誤差(気象庁95型、農環研09S型」)。

それゆえ、放射影響の誤差は近似的に日射量に比例すると考える(より正確には、 地表面温度は風速や土壌水分などの関数でもある)。

5月22日10~14時の日射量=3.23 MJ h-1 m-2である。 この条件における放射影響の誤差=0.36℃として実験式を求めることにしよう。

日射量の観測がない他所への応用も考えて、実験式は日照率の関数で表したい。 図150.15(上)は仙台における2016年と2017年の5月の1時間ごとの日照率と日射量 の関係である。

図150.15(下)は日射量=3.23 MJ h-1 m-2のときの 放射影響の誤差=0.36℃とし、放射影響の誤差が日射量に比例するとしたときの 放射影響の誤差と日照率の関係である。下図中の丸印プロットは、上図の実験式 (曲線)の読みから計算した放射影響の誤差であり、破線は丸印プロットを近似 する実験式を表している。

日射量と日照率
図150.15 日中の日照率と日射量、および日照率と放射影響の誤差の関係
上:日照率と日射量の関係(仙台、2016年と2017年の5月)
下:日照率と放射影響の誤差


最適な実験式は次式で表すことができる。

放射影響による誤差(℃)=ー0.1398×N2+0.4223×N+0.0749 ・・・(式2)

まとめると、次の式(1)で表される。

◎ 気象台補正気温=観測値ー0.1℃ー(放射影響による誤差)・・・(式1)
放射影響による誤差(℃)=ー0.1398×N2+0.4223×N+0.0749 ・・・(式2)


なお、高精度通風式気温計(K3)は水銀の標準温度計で検定されたものであるが、 その後の狂いは無いか、次の方法により確認した。5月26~27日の24時間にわたり、 4線式Pt100センサAとBを用いた横型通風筒の中間へK3通風筒を密着させて並べ、 扇風機を回して室内空気を攪拌する条件で比較した。記録は10秒間隔で サンプリングした。その結果、気温計K3と基準器(センサA,Bの平均値)との違いは 24時間平均値で0.002℃であった。

なお、センサAとBを使った気温計は0.01℃の精度の基準器で検定されたものである (「K145.高精度気温観測用の計器・Ptセンサの検定」)。


付録2 丘の上・下の気温差の観測

神奈川県平塚市の桜が丘公園に標高差3.5mの小規模な丘がある。この丘の南側は芝地 の平坦地である。南寄りの風が吹く晴天日、2017年7月3日の10:15~12:00に 丘の下と上の気温差を観測した。気温観測高度は、ともに地表面から1.5mである。

図150.16は丘下の気温計Aと遠方に小さく見える丘上の気温計Bの位置関係を示した。 丘上の気温計は風上側にある樹木の影響を受けないように、丘の頂上より 標高差で0.5m低い場所に設置した。

気温計A,Bは横型の近藤式精密通風式気温計であり、表示温度の単位は0.01℃、 放射影響の誤差の最大値は0.02℃である (「K146.高精度気温観測用の横型通風筒」

図150.17は丘下の平らな芝地上の気温鉛直分布を観測中の写真である。2チャンネル の気温計で高度2mと0.45mの2高度の気温を12:10~13:10に観測した。

桜ヶ丘公園の丘の上下気温
図150.16 平塚市の桜ヶ丘公園における丘の上・下の気温計。
気温計A:丘下の芝地
気温計B:丘上の芝地、標高差=3m

鉛直気温差の観測写真
図150.17 芝地上の気温鉛直分布の観測。
芝地上の気温観測高度は2mと0.45m


丘の上と下の平均気温と気温差(丘下気温ー丘上気温)は次の通りで、丘上の ほうが0.23℃低温である。

時刻:10:15-12:00
丘下の気温=28.86℃
丘上の気温=28.63℃
気温差=0.23℃

この観測が終わってから丘下の2高度で測った気温は次の通りである。

時刻:12:15-13:15
高度0.45mの気温=28.99℃
高度2.0mの気温=28.52℃
気温差=0.47℃

この鉛直分布を図150.18に示した。通常の方法に従って、縦軸は地表面からの高度を 対数目盛で表し横軸に気温をとってある。晴天日中の大気が不安定時の気温鉛直分布 を考慮して最下層は対数の直線分布に、少し高度が高くなると下に凸の分布になる ように破線で示した。

気温鉛直分布
図150.18 気温鉛直分布、縦軸の高さは対数目盛。
破線は大気の不安定時を考慮したときの下に凸の曲線である。


標高差3mの丘上が0.23℃低温であることについて考察してみよう。
図150.18によれば、高度1.5mの気温よりも0.23℃ほど低温の高度は4mである。 つまり、丘下の高度4mの空気が丘上の高度1.5mに吹いてきていることに相当する。

榴岡公園の広芝地は、南寄りの風のときは西寄りの風のときに比べて1.10℃ほど低温 であり、桜ヶ丘公園で観測した0.23℃よりも低温の度合いが大きい。その理由の一つは、 榴岡公園は標高差が20mほどもある規模の大きな岡地形によるものと考えてよいだろう。


付録3 気象台露場の空間広さ

仙台管区気象台の観測露場の南側には東西道路があり、秋に落葉する街路樹が成長し、 5月から落葉期まで、南寄りの風のとき露場の風速を弱化させ、気温が高めに 観測される、いわゆる「日だまり効果」による昇温が観測される。

2012年の測定では、例えばSSE方向の仰角=21°、S方向の仰角=11°であったが (「K64.観測露場内の地物の仰角測量」の図64.3)、今回(2017年7月24日)の 測定ではそれぞれ、25°と17°であり、4~6°ほども大きくなっている (各方位の前後10°範囲の平均仰角)。これを空間広さに換算するとそれぞれ 2.6が2.1に、5.1が3.3に狭くなっている。

方位別の空間広さを図150.19(榴岡公園)と150.20(気象台)に示した。南寄りの 風向(SE~SSE)に対する空間広さ南南東~南東の方位の 空間広さ (X/hの平均値=(1/tanα)の平均値)は次の通りである。

空間広さ=6.5・・・・榴岡公園
空間広さ=3.0・・・・気象台

気温上昇量は空間広さの対数差にほぼ比例する。
log6.5=0.813、log3.0=0.477、したがって対数差=ー0.34である。 「K121.空間広さと気温ー”日だまり効果”のまとめ」 の図121.6によれば、晴天日中の日だまり効果による気温上昇は0.7℃前後(樹木 の風下)、雲のある日は0.2℃前後(樹木の風下)である。

今回の観測から得られた気温上昇量は平均として0.37℃ないし0.40℃である。 5月以後のプロットでは、0.80℃、0.62℃、0.31℃、0.05℃、0.31℃、0.48℃、 0.51℃であり、0.05℃~0.80℃の範囲に分布してていて図121.6と矛盾しない。

空間広さ、つつじが岡公園
図150.19 榴岡公園広芝地の中央(気温観測点)がら測った方位別の空間広さ (2017年7月23日測定)。

空間広さ、気象台
図150.20 仙台管区気象台の気温観測用通風筒の近くがら測った方位別の空間広さ (2017年7月24日測定)。


参考文献

近藤純正、2010:地表面に近い大気の科学ー理解と応用.東京大学出版会、pp.324.

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