燻製を作る
蓼科は、盛夏でも木陰なら気温が20度を超える日が少なく、湿度も低く、過ごしやすい。燻製には、熱燻、温燻、冷燻とあるが、さすがに夏は冷燻は無理としても、燻製で最もポピュラーなスモークチーズやニジマスなど川魚の燻製に適する温燻は、一年中いつでも可能だ。
諏訪湖に近く、魚屋と言えば川魚店というほど、一年中、生きたニジマスやヤマメ、さらには生きの良い信州サーモン(信州で養殖するトラウトサーモンのブランド名)が手に入る。燻製作りにはうれしい。秋から春先までは冷燻が可能で、美味しいスモークサーモンが作れる。
燻製の道具を揃える
燻製の作るにはまずスモーカーが必要。これは自作(右、クリックで拡大)をお勧めする。一斗缶2個、半斗缶1個、1メートル程度の長さの排気用パイプ1本、30センチ角程度の工作用ブリキ板1枚を最寄りのホームセンターで揃える。5000円もかかるまい。2斗缶の底を抜いて縦にハンダ付けで繋ぎ、若干のブリキ細工で半斗缶とパイプで繋げる。2個つないだ一斗缶の上部に鉄棒を横に3本並べ、その上に網を載せて燻製の材料を置くか、鉄棒からフックでぶら下げる。温燻か冷燻かにより、一斗缶の下、または半斗缶の下から、スモークチップを電熱器で熱して燻煙を立てる。
燻製器が大きすぎては燻煙が十分に回らず、小さすぎると温度が上がりすぎる。加熱の方式と一度に作る量により燻製器の大きさを決める。これが自作をお勧めする理由だ。このブリキ缶燻製器はスモークチーズとニジマス10匹程度を温燻するのに丁度よい大きさだ。
燻製作りを楽しむ
スモークチーズ(右、クリックで拡大):手作り燻製の美味しさを手軽に味わえるのがスモークチーズだ。材料のチーズは今では希少になった「切れていないチーズ」。4つに切って網の上に並べ、ヒッコリーのスモークウッドを半分に切り、その両側に火をつけて2段缶の下から燻煙する。電熱器は使用しない。スモークウッドが燃え尽きる2時間から3時間で、丁度良い具合に燻製ができ上がる。ラップに包んで冷蔵庫に2日放置する。味がなじんで角が取れた上品な燻製の香りになる。ビールのつまみに絶品、誰に上げても喜ばれる。
スモークチーズを作る一寸したコツ:冷蔵庫から出した直後のチーズを燻煙すると汗をかいて拭うのが大変。一時間ほど外気に当ててから燻煙すると汗もかかずきれいな燻製ができる。
ニジマスとイワナの燻製:温燻の代表は川魚の燻製だ。天然ものが釣れれば最高だろうが、いつもそうはいかない。だが、養殖ものでも新鮮なら天然ものに負けない美味しい燻製になる。
川魚の燻製は、「魚の仕入れ」、「塩漬け/塩抜き」、「乾燥>」、「燻製」の4段階を経て進む。「魚の仕入れ」は、ビーナスライン沿いの川口川魚店で、予め燻製用にと電話しておくと、大きさのそろった魚を、内臓を抜いて用意してくれる。ニジマス、ヤマメ、アマゴが手に入る。「塩漬け/塩抜き」は、粗塩の飽和ソミュール液に一晩漬け、塩味を強くしたいときは1時間半、薄くしたいときは2時間半ほど流水で塩抜きする。香料はホールスパイス、粒こしょう、ローレルを使う。
燻製のでき具合を決めるのが「乾燥」だ。天気予報で明日の天気を確認して材料を仕入れる。これを誤ると3、4日、朝晩、焼き魚が続くことになる。
ネットに入れて日陰で3時間程度干す(右上、クリックで拡大)。表面にぬめり感がなくなったら終了。「燻製」は2段缶側だけを使う。共にヒッコリーのスモークウッドで2時間/30度(この段階でスモークチーズも一緒に作れる)、スモークチップで1時間/50度、30分/60度、30分/70度。ここで熱源を切って放置。冷えたら霧吹きで軽く日本酒をかけて完成(右下、クリックで拡大)。塩漬けを前夜の8時に開始して、翌日夕には美味しい燻製が完成する。
燻製作りは、作るのも楽しいが、できてからも楽しめる。友人を招いてのバーベキュー・パーティーではオードブルの主役として喜ばれるし、何よりも話題作りになる。家庭用の真空パック器で2匹づつパックし、パソコンで作ったシールを貼れば、蓼科の手土産としてこれに勝るものはない。燻製はそのままで一週間、真空パックして3週間を賞味の目安にしている。
秋から真冬にかけては何と言ってもスモークサーモン。作るのに10日以上かかるので辛抱が必要だが、美味しくでき上がった時の達成感は比類ない。作り方は省略するが、手作りブリキ缶燻製器で半斗缶側から燻煙を送れば、2段缶上部の温度は冬季には5度程度しか上がらず、冷燻に最適だ。温度調節器を安全器として使用すれば、スモークチップが燃え尽きるまで放っておけるので、思ったほど労は要しない。
参考
山と渓谷/鈴木アキラ「燻製&保存食つくり入門」:燻製つくりの基礎を網羅している。但し、温度や時間の管理が感覚的にしかとらえられていない点が残念。
アウトドア選書/片山三彦「燻製作り入門」:読者には興味がない著者の昔話を得意げにコラムで記述するとか、酒類を多用する味付けなどは自己満足形だが、温度や時間の管理は定量的で参考になる。上述の著と合わせるとバランスが取れる。