山荘生活のイロハ
別荘地選び、設計打ち合わせ、工事の立ち合いと数十回に亘って現地を訪れいろいろな方と懇意になった。この過程で山荘生活に関する知恵もずいぶん仕入れたが、それでも知らなかったこと、知っていたらばということも多い。
生活のリズム
山荘に来たら、早寝早起き、健康的な生活を心がけるべし。
朝早く庭先のポストに新聞が届き、野鳥がバードフィーダーの餌を食べにくる。朝食は、大きく切った窓脇の食卓かベランダで。広葉樹林を通った涼しい風をほおに感じながらの朝のコーヒー一杯は千金に値する。朝食がすんだら小一時間ほど周辺を散策しよう。山荘が両側に並ぶ横道は砂利道。滑って足をくじかないようクルブシまでのウォーキングシューズが必要だ。流行のウォーキングスティックがあると全身運動になる。路傍にさまざまな山野草が花をつける。小形の山野草図鑑とカメラは散策の必需品だ。山菜の時期ならビニール袋をポケットに入れる。切り通しまで来ると、車山の向こうに乗鞍から甲斐駒までアルプスの山々が一望できる。
今日は庭の笹を刈る。たまにしかやらない慣れない仕事なので、ヘルメット、フェースカバー、防御チャップス、スパイク付安全ブーツ、防振手袋をつけて安全を期す。傾斜地が多いのでループハンドル式の刈払機を使う。仕事が終わった後の整備を欠かさないので調子は上々だ。昨年春に刈ったところも5センチくらいに伸びている。熊手で刈った笹を集めて庭の隅に積み上げる。蓼科は湿度が低いので汗は流れないが、定番のアミノバリューを30分おきに飲む。給水と疲労回復だ。昼食は庭先の手作りテーブルでサンドイッチとコーヒーで済ませ、木陰で昼寝。
午後は早々に庭仕事を切り上げて近くの蓼科温泉で汗を流す。11回で3,000円の回数券だから、風呂を沸かすより手軽だ。ベランダでバーベキューコンロの炭に火をつける。キャンプ用のトーチが便利だ。粗末な食材でもバーベキューは楽しい。ビールが美味しい。頻繁に来る予期せぬ夕立ちを避けてバーベキューが続行できるよう、ベランダにはテントが張れる。夕日で空が赤く染まるころに内側に入る。
メールをチェックする。無線LANは遅いが場所を選ばず便利だ。今日撮った花の写真をパソコンに移す。テレビを見ていると疲れが出て眠くなる。
山荘のメンテナンスに必要な道具
もっとも重宝な道具は四輪駆動のSUV。後部の座席を倒せば1メートル80センチの長モノが積めるとよい。山荘を入手して次の買い替え時に四輪駆動のSUVに変える方が多い。ここではスバルのフォレスターが標準だ。玉切りした木、コンパネ、補修用木材など何でも運べる。
チェーンソー、刈払機:敷地内の倒木の整理や薪つくりにチェーンソー、庭の笹刈りに刈払機は欠かせない。慣れない危険な道具なので、少し高めだが、地元の農機具店で買うことを勧める。使い方の指導、不調な時の手入れなどが期待できる。永く気持ちよく使いたいのでしっかりしたものを買う。この両者だけは安物買いは絶対にダメ。一緒に、ヘルメット、フェースカバー、防御チャップス、スパイク付安全ブーツ、防振手袋などの安全具、やすりなどの手入れ道具を購入する。
雪かき道具:冬季に山荘を訪れるつもりなら雪かき道具は必需品。雪かきシャベル二種(しっかりした金属製のものと軽くて大きなプラスチックのもの)と、手押し式雪運び。さらに、暖かい帽子、ダウンジャケット、滑り止め付長靴、防水手袋など。地元のホームセンターで買うこと。東京で売っているものがオモチャだということがわかる。
手道具一式:人里離れたところに居住するのだから何かあった時の用意、ナタ、ノコギリ、シャベル、スコップなどのいわゆる手道具、ねじ回し一式、カッター、ニッパー、ペンチ、電気ドリルなどの大工道具は欠かせない。ざっと揃えて後は必要のつど買い増す。
停電対策:東京ではありえないことだが、ここでは、倒木が電線に懸ったり、カミナリが落ちたりして年に一、二度は停電になる。短時間とはいえ、電気、ガス、水道のインフラがすべて動かなくなり、不安だ。使うことはあまりないが、安心のため、非常灯、電気を使わないガスボンベ式のコンロ、昔流の石油ストーブを備える。
その他に、いずれ、急な雨から何かをカバーするビニールシート、玄関先の掃除に竹ぼうきと熊手、樹木の手入れのために折梯子と高バサミなども揃えることになろう。いずれも地元で購入することを勧める。
気候と四季の衣類
蓼科の標高1,600メートルの冬は厳しい。積雪は最大50センチ程度も、気温は最低で零下15度に下がり、昼でも零度以上にならない日が続く。雪はパウダースノーで雪玉にならない。巨大なツララができる。24時間全館暖房。室内は快適も乾燥するので大型の加湿器が必須。外出には頭から足の先まで完全防御。車はカバーをかけておかないとガラスに氷が張って前が見えない。朝、必死の覚悟で新聞を取りに行く。配達はもっと大変だ。
4月に入ると雪は融けるが、梅雨が終わるまでは、朝夕の暖房を欠かせない。梅雨はなぜか東京ほど鬱陶しくないが、ひんやりした日が続く。夏は涼しくまことに過ごしやすい。真昼でも20度を超える日は数えるほどしかない。夜は寒いくらいで冬用の羽毛布団で過ごす。夏用の掛け布団はいらない。10月に入ると夜は零下に落ちる。暖房をつけ、水道の断熱帯ヒータを入れる。
山岳気候で一日の天気の変化が激しい。晴れていてもあっという間に雨が降る。5月に入っても雪に見舞われることがある。一瞬のうちに真っ白になり、あっという間に消える。テレビで天気予報を見る。無線を使った外気温のモニターを見る。これも毎朝の小さな楽しみ。
地元で買えるものと買えないもの
車で30分の茅野市内でほとんどのものが買えるが、食の傾向が東京とやや異なる。豚肉は豊富だが、牛肉は種類が限られる。最近はおいてある店もあるがチクワブを地元の人は知らない。海魚は日本海側から来るようで種類が少し異なる。私たちが東京から持参するのは、外がパリッとしたフランスパンと炒りたてのコーヒー豆。地元の方はこの好みがないらしい。
野菜は新鮮で美味しい。シーズン中はメルヘン街道沿いの宮坂農園で買う。ここでよく近くのレストランのシェフに会う。地元では有名らしい。トマトとトウモロコシは絶品。枝豆も美味い。キャベツとレタスは虫付だ。果物はモモ、リンゴ、ブドウが安くて美味しい。川魚店で新鮮なニジマスとヤマメが手に入る。長野は養殖が盛んなようだ。燻製やバーベキューにうれしい。日本酒は真澄が美味しい。
近傍にエスポアールなど著名なレストランが多く、蓼科に来たら炊飯はしないという方も多い。名物の信州そばの店は掃いて捨てるほどあるが、美味しいのは、目玉が飛び出るほど高価で極少盛りの店と蓼科温泉前の小さな黙坊の二か所だけ。渡邊製麺の生そばも食べられる。