山荘を手に入れる
「別荘なんて夢のまた夢」とお考えの方は多いと思います。
これまで多くの別荘地が「社員の福利厚生施設としての別荘」を保有する会社に支えられてきたことは別荘地内を歩いてみればすぐわかります。リーマンショック以降、これらの別荘を手放すことが企業経営の一つの流れのようになり、その結果、別荘地や中古の別荘の値段が総崩れになりました。今や別荘は完全な買い手市場です。蓼科に山荘を構えるのがもう少し遅ければ、私もこの値崩れを享受できたのですが。
それでも、ここに来てやや明るさが見えてきたようで、金銭的には今が底、別荘の入手しどきです。数千万円はかかったろう立派な別荘が交渉次第では500万円程度で入手できるとのことですから、定年退職した普通の会社員だけでなく、子供も小さい若い夫婦が家族で自然を楽しむ第二の家として入手する例も増えるはずです。
そうはいっても、別荘地の選定から引っ越しまでの流れは同じです。皆さんの参考に、自分では成功例と信じている、私の経験を紹介しましょう。
別荘地を蓼科に絞る
伊豆や房総など海に近い温暖な地か、軽井沢や蓼科など山が近い避暑地か。誰でも第一に考えるスタート点でしょう。夫婦でカナダ・ロッキー、ノルウエー、スイス、ニュージーランドなどでトレッキングを楽しんできた私たち夫婦には初めから後者の選択しかありません。軽井沢と蓼科の別荘地をいくつか訪ねたり、試験的に別荘に泊まったりして解ったのは、「整備された、歴史を感じる、冷湿な軽井沢」か、「明るく、乾燥し、自然につつまれた蓼科」かということでした。
蓼科の別荘地の多くは「八ヶ岳中信高原国定公園」内にあるため開発が規制され、自然が色濃く残っています。それでも別荘地ごとに雰囲気は大きく異なります。大企業の保養所群の傍らに個人の別荘が散在するT別荘地、庭の草刈りまでこうすべきと管理するM別荘地、急峻な斜面に個々の別荘がへばりつくK別荘地、自然を残した(悪く言えば荒れたままの)森の中に別荘が点在するB別荘地。
それぞれを週一か所のペースで、さらに夏と冬に訪問し、その結果、自然派の私たちが蓼科のB別荘地、すなわち「蓼科ビレッジ」を選択したのは自然な帰結でした。もちろん八王子市の自宅からドアツードアで3時間という地の利や案内してくれた営業の人柄も後を押しました。別荘が完成して数年後の今考えても、別荘までの移動時間と管理会社の方々との付き合いの重要性を強調しすぎることはありません。
予算を決める
私たち夫婦の時折の山歩きの拠点にと、中古の小さな別荘を1500万円を目途に探す。物件は沢山ありましたが、私どもの趣向が偏っているのか、なかなかこれといったものがありません。内部を細かく区切らない、ベランダが広く開放的、冬も滞在できる断熱性、四季の変化が美しい広葉樹の森、こういったありふれた好みですが、これがなかなかありません。多くの人が遊びに来る→部屋数を多く、ベランダが広い→ペンキ塗りが大変、夏の避暑のための別荘→冬のための断熱性は不要、蓼科の森は多くがカラマツ林→広葉樹の森は少ない、といったところなのでしょうか。
営業の勧めもあり、新築も検討することにした。好みに近い別荘をいくつか見学させていただく。その中で、オーナーHさんの奥さんが設計したという山荘がすっかり気に入る。やはり、新築でないと、自分の好みを生かすのはやはり無理か。予算の心づもりを倍増する。並行して土地の選定を進める。数本の白樺がアクセントになっている1500平方メートルの広葉樹林の区画を権利金900万円で契約する。契約は借地方式。借地料は坪300円/年。権利は無料で永遠に更新、継承できる。
Hさんの山荘をベースにこちらの希望を述べて建物の見積もりをいただく。1800万円。後に薪ストーブと集中浄化槽(工務店の手配りで茅野市から補助金をいただいた)の追加を合わせて結果的に2000万円弱。こちらの希望に沿った工務店のラフな設計に、夫婦の仕事場を2階に追加、階段の位置変更、唯一のクローズな和室を6畳から8畳に拡大などの変更を快く受け入れていただく。雪を滑らせる屋根の傾斜、階段の適切な角度、薪ストーブのための安全基準などを学ぶ。
着工から完成まで
夏を過ぎていよいよ着工。最初は縄張り。地形に合わせて思い切り西に向けてもらう。結果的に成功。夏の夕にベランダで中央アルプスに沈む夕日を正面に見ながらバーベキューなどやはり別荘は西向きが正解。工務店からは、工事の進展に合わせて写真を送るが、できるだけ現地に見に来ていろいろ意見を言ってくれれば張り合いになるとのこと。仕事はあるが、暇さえあれば工事の進展を見にいく。この地は冬の凍結が厳しいので、少なくとも地下に1メートル以上を掘り下げて布引の土台を作ることを学ぶ。これを知らない東京の業者が造って、不等沈下で傾いた別荘が近くにある。
棟梁が神主の代わりをして棟上げ式。日本酒を3本持参。後は工務店が準備。ここから先はどんどん進む。窓の寸法を採ってもらって、カーテンやスクリーンを手配。自慢の日曜大工でダイニングテーブルを作り、椅子を用意する。工務店から約束通り年内に引っ越しができるよう完成させる旨の連絡が入る。
完成、引っ越し
年末ギリギリの12月30日に引っ越し。蓼科の現地は大雪。工務店と蓼科ビレッジの関係者がそろって引っ越しを手伝ってくれてあっという間に八王子から運んできた荷物が新しい別荘に運び込まれる。独立している子供たち3人もやってくる。雪の中の新しい別荘で家族水入らずの正月は実に新鮮。薪ストーブ、クリーンヒーター、床暖、二重ガラスの防寒窓、たっぷり入った断熱材のおかげで心地よい暖かさを享受する。
山荘のインフラ
暖房と給湯はプロパンガスを使わず灯油で、台所は電気式。IHキッチンは初めても使い勝手良し。灯油は電話一本で運んでくれる。テレビ、電話、インターネットはCATVで統一。電話は後に携帯だけにした。蓼科ビレッジとは山荘の管理契約を締結。定期的に見回り、異常があれば連絡してくれる。水道は年間定量契約。水は硬水も美味しい。ごみはごみステーションまで運べば市が収集してくれる。分別は、燃えるか、燃えないかだけ。集中浄化槽は清掃協会が契約により定期的に点検し必要なら薬注もしてくれる。水道管は冬季は凍結防止のための断熱が必要だが、これも蓼科ビレッジが一切面倒を見てくれる。
これらインフラ維持に借地代を合わせて年間で30万円を払えば標高1600メートルの高地で東京と同じ文化的な生活ができる。さて、安いか高いか。