ナビゲーションを読み飛ばす
がんを明るく生きる-前立腺癌の末期から生還した伊藤勇のサイトのホーム

末期癌より生還した伊藤勇への相談の手紙とその返信

その27
母が胃がんで余命一ヶ月、不安神経症の私はどうしたらいいですか?

Mさんより
こんにちわ。私の母は昨年夏体のだるさを訴えていましたが、年末から悪くなり、2月に胃ガン末期と余命1ヶ月を宣告されました。貧血で増血剤を飲んでから吐き気に苦しみ、今も生きてくれてますが、食欲なくかなりやせました。

はじめは泣いてた姉も、最近何時までこんな思いを、とか、母の点滴もいい顔せず嫌がらせもして、とても悩んでいます。私も不安神経症で一人で出れず、私の相手もうつ病で休まる時がありません。どうしたらいいでしょうか?

その27
伊藤勇 より

Mさんへ
お便り拝見しました。お母様はじめご家族に心からお見舞い申し上げます。
お母さんの末期の胃癌、それも余命一ヶ月と知らされたMさん、ご主人、またお姉さんは、さぞ吃驚されたことでしょう。お便りからも充分感じられ、お気持ちの動揺は如何ばかりとお察し致します。

しかしながら、私はあえて苦言を呈したいと思います。
文面から受けるご一家のご様子は、お母さんどころか、みんながすっかり落ち込んで、半病人。これでは共倒れになってしまいます。今、一番大変なのは、命の瀬戸際で苦しんでおられるのはお母さんのことなのです。お母さんには時間がありません。

ここは早急に気持ちを切り替えて下さい。
一ヶ月しかないお母さんの命なんです。
皆さんでまず自分のことは捨てて、献身的にお母さんに尽くすことをやってみて下さい。点滴など、お母さんの治療面では主治医とお話をされ、苦しみのない方法を最優先し、お母さんが安定される状態の中で、ここは明るい笑顔で普通の会話をたくさんされることの方が、どんなにかお母さんのお気持ちも落ち着かれることかと思います。

私の経験上申し上げたのですが、実際そばで一緒になって暗い顔をされて沈んでおられたんでは、かえっていたたまれない心境になります。

私は、HPにも書きましたが、昨年、牛の心臓を生体移植するという大手術をしました。その後、当然のごとく拒絶反応がでまして、2月に緊急入院しました。「この春は、もうサクラは見れんな」と覚悟しながらの入院生活。高熱、食欲不振、浮腫み、免疫力低下のため余病併発、牛さんの心臓の弁は所詮は異物ですので拒絶反応は当たり前なのです。

まずい病院食は余計に食欲不振になります。そんな時、娘が「なにか食べたいものある?」と聞いて来ましたので、寿司を買って来てもらいました。もちろんそんなに食べられる訳はありません。マグロをほんの一口食べました。また、ある時はお蕎麦が食べたいと言って、買って来てくれたお蕎麦を一口だけでしたが食べました。食べたいと思ったものを一口でも食べられたことは、たった一口でも満足感で一杯でした。量ではないのです。

現在も予断を許さない重篤の状態ですが、毎日電話相談を受けたり、メールでの相談に親身になって一生懸命考えてお答えさせて頂いていることに無常の喜びを感じ、大切な一日を大事に過ごしています。

以上ちょっと私事をお話ししてみましたが、お母さんにおいても、お母さんにとって今何が必要か、何をして欲しいか良く聞いてあげて下さい。お母さんは、本当のことはご存じないかも知れませんが、でも大体ご自分の状態で気付いてはおられると私は思います。

病院では、食事も制限されている状態だとは思いますが、そんな中で食べたいと思うものを例えほんの一口でも食べただけでも腹いっぱい食べたほどの満足感が味わえるものだと言うことは、私が実際に体験したことですから、確信を持って申し上げておる訳です。

参考になれば幸いですが、短い余命を懸命に看病され、悔いない気持ちでお母さんを送ることにお気持ちを転換されることをお勧めいたします。

ご本人や周囲の人の気持ちの持ちようで、療養生活が明るくもなり、それが延命につながることもあるのですから、悲観的に考えずに、しかし事実は事実ですから否定せずに素直に受け入れて、今お母さんにとってどうすれば良いかを一体となって取り組むことが何よりの親孝行かと思います。

宣告された余命が延びたら素直に皆で喜び、一日一日を精一杯暮らして下さい。
何のアドバイスにもならなかったかも知れませんが、私は私の思うことを素直にそのまま出してみました。みんな元気を出して下さいね。

こうして一日一日と命をつないでいる現在の私ですが、無常の喜び、感謝の気持ちで一杯です。

往復書簡その28へ 
往復書簡の見出し一覧へ戻る