「草野球の窓」

第73章
「高校野球“知ったか”オヤジ達」

 今年もまたチャリンコに乗って、近くの市営球場に高校野球の地方予選を見に行った。妻は「お父さんも好きネー。何が面白いの」と言う。だが、地方予選の面白さは色々ある。試合そのものの面白さ。特に地元高校の場合には期待もあるから尚更である。それともう一つは、決してテレビでは見ることのできない面白さがある。それはネット裏に陣取っている、缶ビールを片手に観戦している何十人もの高校野球“知ったか”オヤジ達である。かく言う私も、そのネット裏の映像に完全に溶け込んでしまっている一人なのだが…。この“知ったか”オヤジ達は、野球をよく知っていて、非常にするどい野次を飛ばすのだ。この野次が聞いていて参考になる。

 私が観戦した試合は、地元A高校対B高校の試合であった。先行のB高校がヒット2本で1点を先制し、その裏A高校は相手失策で2点を取った。さらに、2回表B高校は適時打で1点を取り返し、両者互角の戦いを進め、緊迫した試合展開が期待された。この序盤戦のうちは、オヤジ達は「いい試合だ」と静かな野次を飛ばしていたが、缶ビールが2本目にはいった中盤から俄然野次が鋭くなった。B高校のある打者のバッティングを見て、

 「ダメだ。そんな振りでは。もっと、手首を軟らかく使え!」

 その打者は一死満塁で外角球を引っかけ、投手ゴロ、ホームゲッツーに終わったのだ。確かに、インパクトの時にすでに手首が返っているため、インコースはいい当たりのファールにしかならない。勝負球に外角スライダーをもってこられたら、ボテボテのゴロだなと私も見ていたのだ。

 そしてオヤジ達の缶ビールが3本目になった頃、野次はさらにエスカレートし、ハイレベルなプレーを要求しだしたのだ。B高校は再び満塁のチャンスを迎え、先程ホームゲッツーとなった打者が打席に入った。当然、A高校としては今度もまたインコースをファールさせてカウントを稼ぎ、最後はスライダーで勝負かと思っていたら、真ん中少し高め、外角寄りの直球をものの見事にセンターオーバーされたのだ。
 これに対し、オヤジ達の野次は、

 「コラーッ、何チュウ攻め方をしとるのだ! 頭を使え! 頭を!」

となる。恐らく、A高校バッテリーはもう1球外角高めにはずした後、スライダーを投げるつもりだったのだろう。だが、はずす球が中途半端だった。もっと打者に集中して投げるべきではあった。

 “知ったか”オヤジ達はきっと昔、野球の練習が非科学的で、根性至上主義だった頃の元球児達に違いない。我々草野球人も是非一度は観戦し、この愛すべきオヤジ達の野次に耳を傾けてはどうか。必ず、何か得るものがある。

これ、ゆめゆめ忘れることなかれ。  (平成10年8月30日掲載)


【幹事補足】
 “知ったか”オヤジ達がどういう環境で野球生活を過ごしてきたかは、あまり問題ではないとは思いますが、我々草野球人にとっても確かに「愛すべき」方々であることは間違いなさそうです。その“知ったか”オヤジ達の蓄積された野球ノウハウを是非吸収したいものです。
 師は自ら明かしておられませんが、実は師もかつて高校球児でありました。非科学的で根性至上主義だったかどうかは定かではありませんが、要するに、この「まるドの目」は“知ったか”オヤジの「文章による野次」と言えます。



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